【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常 作:ていん?が〜
アビドス高等学校の正門前に、ミレニアムサイエンススクールの最新鋭装甲車両が、砂塵を巻き上げながら横付けされた。
重厚なハッチが開き、車内から現れたのは、ミレニアムの頭脳と法を司る生徒会「セミナー」の面々である。
「……信じられないわ。アビドス全域から観測される異常な重力波の震源地が、本当にたった一人の生徒だなんて。ノア、記録に間違いはないでしょうね?」
セミナーの会計、早瀬ユウカが眉間に深い皺を寄せ、手元の超高性能計算機を睨みつけながら問いかける。
液晶画面には、アビドスの地面にかかる一平方センチメートルあたりの荷重データが、既存の建築基準法を嘲笑うかのような異常な数値を弾き出していた。
「ええ、ユウカちゃん。私の記録(メモリー)に間違いはありません。彼女が校庭を一歩歩くたびに、局所的な地殻変動と微細な引力歪みが発生しています。これはもはや物理学への公然たる挑戦ですよ」
書記の生塩ノアが、いつもの穏やかな笑みを浮かべながら、膨大なデータが書き込まれた手帳を開く。
その後ろでは、暗号仕掛けのコユキが「わーっ! アビドスって今、こんなに豪華なんですかぁ!? 金塊とか埋まってそう!」と、黒服の莫大な投資によって再建された白亜の校舎を見て、能天気に跳ね回っていた。
「コユキ、あまりはしゃぎ回らないの。ここは他校の敷地よ。……それにしても、この数値、何度見ても非合理的だわ」
ユウカは溜息を吐き、足元の地面を軽く踏みつけた。その直下数メートルには、ホシノの自重を支えるための超強化コンクリート層が存在している。
「うへ〜、また新しいお客さん? おじさん、今日はもうお昼寝の予約でスケジュールがいっぱいなんだけどなぁ」
生徒会室の特注チタン合金製デスクに肘をつき、ホシノが眠たげなあくびを漏らす。
彼女がわずかに身を乗り出し、デスクに体重を預けるたびに、戦車の装甲板を重ねたようなデスクの脚が「ミキ……ミキ……」と、金属疲労の前兆のような悲鳴を上げていた。
「失礼します、アビドスの皆さん。ミレニアム生徒会『セミナー』の早瀬ユウカです。本日は公式な調査のために伺いました」
ユウカが部屋に入った瞬間、彼女のベルトに装着されたポータブル重力センサーが、狂ったように警告音を鳴らし始めた。
「な……100トン!? ちょっと待ちなさい、小鳥遊ホシノさん! その華奢な見た目のどこに、主力戦車三両分を上回る質量が詰まっているというのですか! 表面積と体積の比率が完全に崩壊しているわ! あなたの細胞は中性子星の核か何かで構成されているんですか!?」
「あはは、ユウカさん。おじさんを星扱いなんて、なんだかロマンチックだねぇ。でもほら、触ってみる? 意外と柔らかいよ(物理的に弾き飛ばされない保証はない)」
「ユウカちゃん、落ち着いてください。バイタルデータが乱れていますよ。……はじめまして、ホシノ先輩。そしてアビドス生徒会の皆さん。書記のノアです」
ノアが丁重に、それでいて隙のない所作で挨拶をする。それに応じるように、副会長のシロコとノノミ、会計のセリカ、書記のアヤネもそれぞれの位置から会釈した。
「ん、ミレニアムの会計。……計算高い人。うちのセリカと気が合うかも」
「ちょっとシロコ先輩! 私はあんなにヒステリックじゃないわよ、アヤネちゃん!」
「あはは……セリカちゃん、声が大きいよ……」
ユウカは咳払いをして、本題を切り出した。
「小鳥遊ホシノさん。単刀直入に申し上げます。あなたの存在はキヴォトスの物理定数を著しく乱しており、ミレニアムとしてはこの『特異点』を座視するわけにはいきません。今日は最新鋭の計測機器を用いて、あなたの正確な質量、およびその質量を支える骨格構造を徹底的に解明させてもらいます!」
「解明〜? 構わないけど、おじさんの体重計、特注のじゃないと一瞬で鉄屑になっちゃうよ?」
校庭には、ミレニアムのエンジニア部と共同開発したという「超高精度・極限荷重式デジタル重量測定ユニット」が設置された。
それは巨大なプレス機の土台をひっくり返したような、無骨な鋼鉄の塊だった。
「さあ、乗ってください! これであなたの正体を、数式という名の真実で暴いて見せますわ!」
ユウカが自信満々に宣言する。ホシノは「よっこいしょ」と重い腰を上げ、測定ユニットの上に片足を乗せた。
その瞬間。
ピシィィィィン!!
「え?」とユウカが声を漏らす間もなく、測定器の超大型液晶パネルが「999,999,999...」とカンスト表示を叩き出し、次の瞬間には内部の強化油圧シリンダーが限界を超えて破裂。
四方八方に高温のオイルをぶちまけながら、鋼鉄の土台がホシノの足の形にひしゃげて爆発した。
「わわわっ! 爆発しましたぁ!」
コユキが逃げ惑う。
「……計測不能。測定ユニットの最大許容荷重は、余裕を見て1000トンに設定していたはずですが……。それを足先を乗せた衝撃だけで超えるというのですか……?」
ノアが驚愕に目を見開き、手帳を持つ手がかすかに震える。
「あちゃー。だから言ったのに。おじさん、足に力が入ると重力が一点に集中しちゃうんだよねぇ。おじさんの『踏ん張り』は、ちょっとだけ地面に厳しいんだよ」
「納得いかないわ……! 私の計算機が、エンジニア部の自信作が、たった一人の女子高生に否定されるなんて! こうなったら直接、身体組成のスキャンを――」
ユウカが、なりふり構わずポータブルスキャナーを手に詰め寄ろうとしたその時。ホシノの影からひょっこりと、ユメが顔を出した。
「あ、ミレニアムの子たちだ! いらっしゃい! ホシノちゃんの検査なら、私が手伝おうか? ほら、ホシノちゃん、背筋伸ばして〜」
「ユメ先輩……。おじさん、もう疲れちゃったよ……」
ユメがホシノの背中を「ポン」と叩く。
ホシノの足元から全方位に向かって、円形の衝撃波が地面を伝わった。
「きゃああっ!?」
ユウカ、ノア、コユキの三人は、地面からの突き上げるような衝撃に足元を掬われ、派手に尻餅をついた。校庭の砂が津波のように舞い上がる。
「ちょっと……今、背中を叩いただけよね!? なんで局地的な直下型地震が発生しているのよ!」
「あはは! ホシノちゃんはね、生きてるだけで『アビドスの地鎮祭』みたいなものだから!」
ユウカは計算機を連打するが、出てくる答えは常に「ERROR」。
「無理よ……私の数式が、彼女の前では単なる落書きに成り下がっているわ……。100トンの女子高生が存在し、なおかつ歩行が可能で、地面に埋没しない。この矛盾した事象を成立させる物理法則なんて、この世界にあるはずがないのに!」
「ん、それはたぶん……『気合い』だと思う」
シロコが、あさっての方向を向きながら適当なことを言う。
「そんな根性論で納得できるわけないでしょう!!」
「うへ〜、ユウカちゃん。そんなに難しい顔してると、せっかくの可愛いお顔にシワが増えちゃうよ? ほら、ノノミちゃんが焼いてくれた『高圧・特殊圧縮クッキー』でも食べて落ち着きなよ。これ、おじさんの大好物なんだ」
ホシノが差し出したクッキーを、ユウカは半ば放心状態で受け取った。
「…………重っ」
それは手のひらサイズの一枚でありながら、ずっしりと数キログラムの重量を感じさせる、恐ろしく密度の高い代物だった。一口かじれば、歯が火花を散らすような手応え。
「……もういいわ、今日は負けを認める。でも、これだけは覚えておきなさい! 次に来る時は、重力制御装置を積んだ移動要塞と一緒に、あなたの正体を必ず数式で証明して見せるんだから!」
捨て台詞を残し、ひしゃげた測定器の残骸を牽引しながら去っていくユウカを見送り、アヤネが深いため息をついた。
「セリカちゃん、あっちの会計さんも苦労してそうですね……」
「そうね、アヤネちゃん。でも、うちの会長よりはマシだと思うわよ。あんなの、計算するだけ無駄だし」
「うへ〜、おじさんは今日も平和で嬉しいよ。さて、ユメ先輩、肩揉んでくださいよ。おじさん、自分の肩が重くて凝っちゃって」
「いいよ〜、ホシノちゃん! でも私の指が折れないように、筋肉緩めてね!」
アビドスの大地は、今日も100トンの少女のわがままを、ドッシリと受け止めているのだった。
【おじさんの「重い」お悩み相談】
うへ〜、読み進めてくれてありがとう。おじさん、嬉しいよ。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。
「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?
全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。
あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。
みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。