【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常 作:ていん?が〜
アビドス高等学校の復興と、そこに鎮座する「100トンの魔王」こと小鳥遊ホシノの噂は、ゲヘナ学園・風紀委員会の耳にも届いていた。
キヴォトスの秩序を重んじる風紀委員長、空崎ヒナは、連日アビドス周辺で観測される異常な震動報告と、気象局が「正体不明の局地的な突風」と定義した現象の正体を確認すべく、重い腰を上げたのである。
「……小鳥遊ホシノ。彼女が歩くだけで、ゲヘナの精密地震計がレッドゾーンを指すなんて。このまま放置すれば、キヴォトスの地軸そのものが歪みかねないわ」
ヒナは小さく溜息をつき、書類を閉じた。その隣では、行政官の天雨アコが「あのアビドスの野蛮な質量兵器、この際ゲヘナの管理下に置き、徹底的にその構造を分解・調査すべきです!」と、青筋を立てて鼻息を荒くしている。
「うへ〜、今日はなんだか空気がピリピリしてるねぇ。おじさん、静電気体質なのかな? 」
アビドス生徒会室。ホシノは特注の「100トン対応・超耐荷重寝袋」に包まりながら、床に寝そべって芋けんぴを齧っていた。
ガリリ、ボリリ、と彼女が咀嚼し、その振動が顎から床へ伝わるたびに、部屋の壁が太鼓のように共鳴し、窓ガラスが微かに悲鳴を上げる。
「ホシノ先輩、ゲヘナの風紀委員会が校門前に到着したそうです。……あ、でも今回は美食研究会みたいな爆破を伴う強行軍ではなく、正式な『合同治安視察依頼』という形になっていますよ」
書記の奥空アヤネが、振動で揺れるタブレットを両手でしっかりと保持しながら報告する。
「ゲヘナの風紀委員長……。ん、強いって噂。ホシノ先輩とどっちが重いか、興味ある。……物理的な意味でも、実力的な意味でも」
副会長の砂狼シロコが、ホシノから二メートルの安全距離を保ちつつ、少しだけ目を細めて窓の外を窺った。
「シロコ先輩、乙女を捕まえて重さで比べちゃダメでしょ! 乙女心の問題なんだから! ね、アヤネちゃん!」
「あはは、セリカちゃん。ホシノ先輩に限っては、乙女心より物理法則の問題な気がするけど……」
会計の黒見セリカとアヤネがそんなやり取りをしていると、生徒会室の重厚な扉が静かに開いた。
「失礼するわ。……私が、ゲヘナ風紀委員長の空崎ヒナよ」
現れたのは、圧倒的なカリスマと、死線を幾度も越えてきた者だけが纏うプレッシャーを背負った少女だった。
だが、そんな彼女も、ホシノの前に立った瞬間に、本能的な防衛反応で足を止めた。ヒナの鋭い感性が、ホシノの周囲数メートルに渦巻く、光さえも歪ませかねない「超重力」を察知したのだ。
「うへ〜、君がヒナちゃんか。おじさんのところまでわざわざご苦労様。座りなよ……って言いたいけど、このソファ、おじさん専用だから君が座ると反動でお空まで跳ね飛ばされちゃうかも」
「……お気遣いなく。今日は、あなたという『存在』を確認しに来ただけよ。小鳥遊ホシノ、あなたの体重が100トンだという報告……これ、冗談ではないのよね?」
「んー、今朝測ったら、ちょうどそれくらいだったかな。おじさん、最近は成長が止まらなくて困っちゃうよ」
ホシノがのんびりと笑い、寝袋から這い出そうと床に手をついた。
ドォォォォォン!!
一瞬、アビドス校舎全体が上下に激しく揺れた。ヒナの護衛で後ろに控えていたアコが、「ひゃうんっ!?」と情けない声を上げて尻餅をつく。
「な、なんなんですか今の!? 震度5!? ゲリラによる地下爆破テロ!?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと力が入っちゃった。おじさん、起き上がるだけで一苦労なんだよねぇ」
ヒナは冷や汗を流しながらも、毅然とした態度を崩さず、真っ直ぐにホシノを見据えた。
「……なるほど。噂以上ね。あなたが本気で暴れれば、一つの自治区を文字通り『重み』だけで押し潰すことができる。なぜ、それほどの質量兵器に等しい力を持っていて、これほどまでに無気力なの?」
「うへ〜、力なんて持ってるだけで疲れちゃうよ。おじさんは、こうして後輩たちとダラダラ過ごせればそれで十分なんだ。ね、ユメ先輩?」
「そうだよ〜! ホシノちゃんは世界一優しい100トンなんだから!」
いつの間にかヒナの背後に立っていたOGのユメが、親しげにヒナの肩を叩こうとした。
「……っ!」
ヒナは反射的に、雷光のような速度で身をかわした。ユメの動きに悪意は微塵もなかったが、ユメが動くたびに、その背後にいるホシノの「超質量」が引き起こす慣性ドラッグが周囲の空気を歪め、ヒナの空間把握能力を狂わせていたのだ。
「……いいわ。あなたが平和を望むなら、風紀委員会が不当に干渉することはない。けれど……」
ヒナが腰のマシンガン「終幕:デストロイヤー」に手をかけた。その瞳に鋭い戦士の光が宿る。
「その質量がもたらす力が本物かどうか、少しだけ試させてもらってもいいかしら? 風紀委員長として、不測の事態――あなたがもし『転んだ』だけで発生する災害規模を、把握しておきたいの」
「えぇ〜、おじさんと喧嘩? 疲れるから嫌だなぁ……」
「ん、ホシノ先輩。これを受けないと、風気委員長は納得して帰ってくれない。……先輩、一瞬で終わらせて。……掃除が大変になる前に」
シロコがホシノの背中(というか、戦艦の装甲板のような肉体)を軽く、そして反動が来ないギリギリを計算した上で指先で押した。
校庭に移動した二人。アビドスの生徒たちは五メートルの安全圏へ退避し、アコは「委員長、粉砕してあげてください!」と遠巻きに叫んでいる。
ヒナは機関銃を構え、ホシノは相変わらず手ぶらで、眠たげに立ち尽くしている。
「行くわよ!」
ヒナが引き金を引き、圧倒的な弾幕が形成される。天才的な射撃精度によって放たれた銃弾は、一点の狂いもなくホシノの眉間に集中した。だが。
キィィィィィィィン!!
銃弾はホシノの肌に触れた瞬間、火花すら散らさず、まるで「硬すぎる壁にぶつかった豆腐」のように瞬時に粉砕され、ただの鉄の粉末となって足元に降り積もった。ホシノは目も瞑っていない。
「……信じられない。私の弾丸が、貫通どころか、表面を凹ませることすらできないなんて。あなたの密度は、もはやこの世界の金属の定義を超えているわ」
「うへ〜、ちょっとおでこがムズムズするね。ヒナちゃん、いい腕してるなぁ。おじさん、洗顔したての気分だよ」
ホシノがゆっくりと、一歩前へ踏み出した。
ズゥゥゥゥゥゥゥン!!
その一歩だけで、ヒナの立っている地面が、物理法則を無視して数センチ跳ね上がった。
ホシノがただ「歩いてくる」だけで、津波のような圧迫感と、大気を圧壊させるような重圧が周囲を襲う。
「……はぁ。じゃあ、おじさんもちょっとだけ『お返し』ね。危ないから、しっかり踏ん張っててね?」
ホシノが、右手を軽く――本当に、目の前の羽虫を払うような、なんの気負いもない動作で――横に振った。
ゴォォォォォォォォォ!!
凄まじい風圧。いや、それはもはや風と呼べるものではなかった。ホシノの100トンの腕が空気を圧縮し、一時的な真空状態と乱気流の塊を作り出したのだ。
真空の刃となった衝撃波が、ヒナのわずか数センチ横を通り抜ける。
その先にあった、演習用の巨大な岩山が、音もなく粉々に粉砕され、ただの細かな砂丘へと姿を変えた。地形が、一瞬にして書き換えられたのだ。
「…………」
ヒナは静かに銃を下げ、深く息を吐いた。彼女の髪が、遅れてやってきた突風になびく。
「……私の負けね。戦う以前の問題だわ。あなたは……物理現象そのものなのね。剣を振るう相手ではなく、嵐をやり過ごすのを待つような絶望感だわ」
「あはは、ヒナちゃんにそう言ってもらえると、おじさん照れちゃうなぁ。さて、お詫びにおじさんの特等席でお昼寝していく?」
「……遠慮しておくわ。あなたの隣にいたら、あなたの質量が引き起こす潮汐力で、私の胃が潰されそうだから」
ヒナは少しだけ、憑き物が落ちたように口角を上げると、腰が抜けて気絶しているアコを引きずりながら、ゲヘナの装甲車両へと戻っていった。
「あーあ、行っちゃったわね。アヤネちゃん、今の岩山の修理費……は、いらないか。ただの砂になったし、むしろ整地されたってことで」
セリカが呆れたように、砂丘となった場所を見つめる。
「そうだね、セリカちゃん。……でも、これでまたホシノ先輩の『不敗伝説』に、物理学を無視した新しいページが増えちゃいましたよ」
「うへ〜、おじさんは伝説なんていらないよ。エビフライと、暖かいお布団があればそれで……。あ、ユメ先輩、おじさんもう動けません。運んでください〜」
「はいはい、ホシノちゃん。よーっし、……うぐぐ、やっぱり重いねぇ! 地面に足がめり込むよ! でも頑張るよ!」
100トンの少女を背負おうとするOGと、それを「また始まった」という顔で支える後輩たち。アビドスの夕暮れは、今日も重厚な幸せと、どこか安らぐ地響きと共に過ぎていく。
【おじさんの「重い」お悩み相談】
うへ〜、読み進めてくれてありがとう。おじさん、嬉しいよ。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。
「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?
全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。
あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。
みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。