【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常 作:ていん?が〜
アビドス自治区が復興し、かつての砂漠地帯が「高密度の富」を生む黄金郷として潤いを見せる中、その圧倒的な「質量」を物理的なエネルギー源として利用しようと企む不届き者が現れた。
カイザーコーポレーションの理不尽な重役たちである。
彼らは、100トンのホシノを拉致し、巨大な発電タービンを回すための「生体永久機関」として電力生成に転用するという、正気の沙汰とは思えない「100トン捕獲作戦」を秘密裏に開始したのである。
「うへ〜、今日は風が涼しくてお昼寝に最適だねぇ……」
アビドスの抜けるような青空の下、ホシノは校庭の中央に設置された特製強化ベンチに横たわっていた。そのベンチは、彼女の自重で地面に沈まないよう、地下50メートルまで強固な杭打ちが施された純チタン合金製である。
「はい、ホシノ先輩。お昼寝用の特注遮音ヘルメットです〜☆ 外部の騒音を完全にシャットアウトして、安眠をお届けしますね」
副会長の十六夜ノノミが、潜水服の兜のような重厚なヘルメットをホシノに手渡す。それを受け取ったホシノは「恩に着るよ〜」と、ヘルメットを被り、目を閉じた。
「ん、ホシノ先輩。……不審な重機、多数接近中。砂漠の向こうから、超大型クレーン車が50台、それと磁力牽引車が20台。ん、全てカイザーの刻印入り」
副会長の砂狼シロコが双眼鏡を覗きながら、淡々と、しかし警戒を込めた声で報告した。
彼女はホシノの「質量」による突発的な引力変動を避けるため、校舎の補強された柱の影に陣取っている。
「えぇっ!? またカイザーなの!? 懲りない連中ね! アヤネちゃん、迎撃の準備を! って、なんでこんな時に寝てるのよ、ホシノ先輩!」
会計の黒見セリカが怒鳴る。その隣で、書記の奥空アヤネが端末の数値を読み取り、顔を真っ青にしていた。
「セリカちゃん、落ち着いて。……でも、あのクレーン、どれも1000トン級の吊り上げ能力がある最新型だよ。ワイヤーの一本一本が、ビル一棟を支えられるほどの強度を持ってる。本気でホシノ先輩を『資源』として持ち去るつもりだね」
アヤネの分析をよそに、ホシノはヘルメットの中で「ふぁあ〜……」と大きなあくびを一つ。
「おじさんを吊るなんて、ワイヤーが可哀想だよ。いいよ、おじさんは寝てるから、みんなは適当に遊んでなよ……ムニャ……」
ホシノが本格的に夢の住人となった瞬間、カイザーの重機部隊が怒涛の勢いで校庭を包囲した。
「ハハハ! 小鳥遊ホシノ! 貴様のその密度、我が社の新エネルギー事業の礎となってもらうぞ! 総員、超強化カーボンワイヤーを固定せよ! 逃がすな!」
重役の号令と共に、50本の極太ワイヤーがホシノの体――正確には彼女を包む空気の層さえも逃さぬよう、複雑な編み込みで巻き付けられた。
そして、50台のクレーンが一斉に、耳を劈くようなエンジン音を全開にする。
ギギギ……ギチィィィィィン!!
「上げろ! 最大出力だ! 地球ごと持ち上げるつもりで引けぇぇ!!」
凄まじい轟音が響き、ワイヤーが極限まで張り詰め、高熱で発光し始める。しかし、ホシノはピクリとも動かない。
それどころか、彼女が横たわっているチタン合金製ベンチが、上方へ引き上げるクレーンの凄まじい力と、下方へと根を張るホシノの100トンの体重に挟まれ、プレス機にかけられたようにミシミシとひしゃげ始めた。
「な……なぜ上がらん!? 出力をさらに最大にしろ!! 補助リミッターを解除しろ!!」
「無意味ですよ。ホシノ先輩、眠ると意識の制御が外れて、重力への定着力がさらに増すんです。今、先輩の周囲だけ局所的に引力が数十倍以上になってますよ」
アヤネが冷めた目で端末を眺めながら解説する。セリカは「寝てるだけで物理法則を味方につけないでよ!」と呆れ果てていた。
ボォォォォン!!
次の瞬間、無理な負荷に耐えきれなくなった一台目のクレーン車のエンジンが、火を噴いて爆発した。それを皮切りに、二台、三台と、連鎖的に重機たちが自壊を始める。
「ん、ワイヤーが切れる。……皆、さらに後退して。跳ねたワイヤーが校舎を削る」
シロコが指摘した通り、超強化ワイヤーがホシノの「肌の密度」に負けて、逆にヤスリで削られたように細くなり、次々と凄まじい速度で弾け飛んだ。その一本がカイザーの司令車両を真っ二つに叩き斬る。
「あわわわ! せっかく綺麗にした校庭が、クレーンの残骸とオイルでいっぱいです〜! お掃除が大変ですね」
ノノミが困ったように微笑みながら、優雅に耳を塞ぐ。
「そんな……バカな……! 5万トンの総吊り上げ荷重が、たった100トンの少女一人に負けるというのか!? 物理学はどうなっているんだ!」
絶叫する重役に対し、セリカが勝ち誇ったように腰に手を当てて言い放った。
「あ、重役さん。一つ言い忘れてたけど、ホシノ先輩はね、寝てる時が一番静かだけど、一番危ないのよ。……特に、寝返りを打つ時は、もっとヤバいんだから! ね、アヤネちゃん!」
「そうだね、セリカちゃん。……全校生徒の皆さん! 直ちに足元を固定し、耐震姿勢を取ってください! 衝撃波が来ます!!」
アヤネの号令がスピーカーから響き渡る。その直後、ホシノが夢の中で「うへへ……特盛りのエビフライ……」と幸せそうに呟きながら、わずかに、本当にわずかに右側へ体を傾けた。
ドドドドドドォォォォォン!!!!!
それは客観的に見れば、ただの愛らしい少女の「寝返り」であった。
しかし、100トンの質量が移動した際の慣性エネルギーと位置エネルギーの変換は、アビドス自治区全域を襲う局地的な巨大地震を発生させた。
地面に深い亀裂が走り、残っていたクレーン車たちは地割れの中に吸い込まれるように飲み込まれていく。
移動に伴う衝撃波だけで、カイザーの兵士たちは砂漠の彼方まで「ポーン」と、重力の束縛を逃れたかのように弾き飛ばされていった。
「う……うへ? 何か外で大きな音がしたような……。誰かお皿でも割ったかな?」
ホシノが薄目を開け、遮音ヘルメットを外して起き上がる。彼女が「よいしょ」と地面に手をついた瞬間、そこを中心に地面がさらに50センチほど、円形に沈み込んだ。
「あ、おはよ、ホシノ先輩。……カイザー、全滅。先輩の寝返り一発で、戦術的勝利を収めた。ん、いい戦いだった」
シロコが校庭の惨状を見渡しながら、親指を立てる。
「えぇ〜、またおじさん何か壊しちゃった? 困ったなぁ。ユメ先輩に、また道路をデコボコにしたって怒られちゃうよ」
「怒らないよ〜! ホシノちゃんの寝顔、とっても平和で素敵だったもん! 芸術的ですらあったよ!」
どこからともなく、ホウキを手にしたユメが現れ、ホシノに新しい毛布をふわりとかける。
「それよりホシノちゃん、安心して! 今のは『アビドス流の緊急地盤改良工事』って名目で、黒服さんに清掃費用とスクラップの処分代、それと迷惑料を全額請求しといたから! すっごくいいお値段になったよ!」
「ユメ先輩、相変わらず事務処理と交渉のスピードだけは光速ですね……」
アヤネが感心したように、あるいは少し呆れたように呟く。
「もう、ホントに人騒がせなんだから、ホシノ先輩は! でも……まあ、おかげで邪魔者がいなくなって、午後の練習時間はたっぷりと確保できたわね、アヤネちゃん」
「そうだね、セリカちゃん。……あ、でも校庭の中央に開いたこの巨大なクレーター、どうしようか」
「ん、埋め立ては簡単。……転がっているカイザーの重機をそのまま穴に詰め込めばいい。ん、鉄分豊富な、ちょうどいい充填剤になる。仕上げにノノミが砂をかければ完璧」
シロコのあまりに過激で合理的な提案に、アビドス生徒会の一同は乾いた笑いを漏らすのだった。
100トンの少女がただ横になっているだけで、軍隊が壊滅し、地形が書き換えられる。
アビドスの平和は、今日もこの圧倒的な質量の安定感と、どこかズレた彼女たちの絆によって、ドッシリと保たれているのである。
【おじさんの「重い」お悩み相談】
うへ〜、読み進めてくれてありがとう。おじさん、嬉しいよ。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。
「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?
全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。
あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。
みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。