【完結】100トンホシノ先輩の規格外な日常   作:ていん?が〜

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第7話:おじさんの質量は、エリートの計算違い

 アビドスの砂漠、その境界線付近の緩やかな砂丘の陰に、周囲の風景から浮き上がった不自然な「ゴミ箱」が置かれていた。

 

 それはSRT特殊学院、RABBIT小隊の秘密拠点である。彼女たちは連邦生徒会からの極秘指令を受け、キヴォトスの物理的・軍事的パワーバランスを根底から覆しかねない「100トンの歩く質量兵器」こと小鳥遊ホシノを、24時間体制で監視・調査するために派遣されていた。

 

 「サキ、モエ、状況はどう?ターゲットに動きは?」

 

 リーダーの月雪ミヤコが、ゴミ箱の蓋の隙間から高性能双眼鏡を覗き、感情を排した冷徹な声で問いかける。

 

「……現在、ターゲットは生徒会室のソファで硬直中。あんなのが本当に100トンもあるなんて、物理法則のバグじゃないの」

 

 空井サキが苛立ちを紛らわせるようにガムを噛みながら、不機嫌そうに無線に応じる。

 彼女の足元にある震度計は、ホシノが呼吸を繰り返すたびに、微弱な、しかし確実な脈動を記録し続けていた。

 

「くひひ、面白いねぇ。あの高密度の肉体が爆発したら、どんな火柱が上がるのか…。計算するだけでワクワクするよ」

 

 風倉モエが、暗闇の中でタブレットの青白い光に顔を照らされながら、危うい笑みを浮かべる。

 彼女がモニターしているのはホシノ周辺の重力歪み係数だ。ホシノが座っている地点を中心に、空間がわずかにレンズ状に歪んでいるのがデータとして現れていた。

 

 「……あの、ミヤコちゃん。あのアビドスの会長さん、さっきから1ミリも動いてないよ。……本当に、人間なのかな。実は、精巧に作られた銅像なんじゃない……?」

 

 霞沢ミユが、拠点の隅に置かれた段ボールの中から、今にも消え入りそうな震える声で呟いた。

 彼女の「存在感の薄さ」をもってしても、ホシノから放たれる圧倒的な「存在の重圧」には、本能的な恐怖を感じずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

「うへ〜、なんだか最近、砂漠の方から視線を感じるんだよねぇ。おじさん、そんなに有名人かな?」

 

 アビドス生徒会室。ホシノは、自身の重みで既に床のタイルを数ミリ沈み込ませている特製ソファに座り、特注の「100トン対応・安眠枕」に頭を預けていた。

 

 「ホシノ先輩、また自意識過剰。……でも、確かに砂漠の12時方向に不自然なゴミ箱。ん、偵察ユニットと断定。強奪して中身を確認すべき。……ついでに、ゴミ箱の素材も再利用できる」

 

 副会長の砂狼シロコが、既に愛銃を点検し、覆面マスクを装着しながら合理的な提案をする。

 

 「シロコ先輩、いきなり強奪はダメだってば! アビドスの評判がまた怪しくなっちゃう! アヤネちゃんも何か言って!」

 

 「あはは、セリカちゃん。でも、あのゴミ箱……よく見るとSRT仕様の最新ステルスコーティングが施されていますね。おそらくRABBIT小隊……偵察に来るということは、ホシノ先輩の『存在』が連邦生徒会に危険視されている証拠ですよ」

 

 会計の黒見セリカと書記の奥空アヤネが窓越しに砂漠を眺めていると、ホシノが「よっこいしょ」と重い腰を上げて立ち上がった。

 

 

 ドォォォォォン!!

 

 

 「わわわっ! また地震!?」

 

 アヤネが悲鳴を上げ、棚の書類が散乱する。ただホシノが直立しただけで、彼女の足元にかかる荷重が点から面へと分散し、その際の圧力変化がアビドス全域を襲う「起立震動」を引き起こしたのだ。

 

 

 砂漠のゴミ箱の中にいたRABBIT小隊の面々も、地面からの急激な突き上げに、ゴミ箱ごと数センチ跳ね上げられた。

 

 「くっ……! ただの起立でこの震動波! 隠密行動は限界です。総員、突入。ターゲットの危険性を物理的に評価し、必要であれば無力化を試みます!」

 

 ミヤコの鋭い号令と共に、ゴミ箱と段ボールから飛び出した四人が、砂煙を上げて校舎へ向かって一直線に駆け出した。

 

 

 

 

 

 「動かないでください! SRT特殊学院、RABBIT小隊です! 小鳥遊ホシノ、あなたの存在がキヴォトスの公共の安全、および物理的なインフラを著しく脅かしている疑いがあります!」

 

 ミヤコが訓練された無駄のない動作で扉を蹴り開け、生徒会室に踏み込む。

 その後ろからサキ、ミユ、そして特殊爆薬を抱えたモエが展開し、ホシノを四方から包囲した。

 

 「うへ〜、元気な子たちだねぇ。おじさんのことは気にしなくていいよ。……お近づきの印に、お茶でも飲む? ちょうどノノミちゃんが淹れてくれたところなんだ」

 

 ホシノは動じない。そもそも動くのが面倒なのである。

 

「……ミヤコ、見て。ターゲットの足元、床が物理的に『圧縮』されてる」

 

 サキが冷や汗を流しながら、ホシノの足元を指差した。ホシノが立っている場所だけ、厚さ50センチの超強化コンクリートが数ミリ沈み込み、そこを中心として蜘蛛の巣状の深い亀裂が、メキメキと音を立てて部屋中に広がっていた。ただ立っているだけで、建物が「負けて」いる。

 

「……うう、私が、あんな怪物みたいな人と戦うの……? 隠れたい、今すぐ地面に潜りたいよ……」

 

 ミユが震えながら段ボールを抱きしめる。

 

「くひひ…いいじゃん。あの密度を無力化するには、どれだけの火薬が必要なんだろねぇ。試していいでしょ?」

 

 狂気を湛えた目でリモコンのスイッチに指をかけようとするが、ミヤコがそれを制した。

 

「待ちなさい、モエ。……まずは警告射撃。……ミユ、狙撃しなさい。非殺傷の範囲で、彼女の『硬度』を確認します」

 

「……え、あ、はい。……えい」

 

ミユが震える指で引き金を引いた。放たれたスナイパーライフルの弾丸は、空気の壁を切り裂き、正確にホシノの額中央を捉えた。

 

 

 キィィィィィィン!!

 

 

 放たれた衝撃は、およそ肉体に当たった音ではなかった。

 

 銃弾はホシノの肌に触れた瞬間、火花すら散らさず、まるで「硬すぎる壁にぶつかった豆腐」のように瞬時に粉々に砕け散り、ただの鉄の粉末となって床に降り積もった。

 

 「……え。あ、あの……私の弾が、ひしゃげるどころか……消えちゃった」

 

 ミユが絶望的な声を上げ、その場に膝をつく。

 

 「ん、ホシノ先輩に飛び道具は無意味。……もっと重力的に、物理的に攻めないと、彼女は微動だにしない」

 

 シロコがホシノの横で、興味深そうにRABBIT小隊の戦術を観察している。ホシノは「うへ〜、ちょっとおでこがムズムズしたねぇ」とのんびり笑うと、ゆっくりと一歩、ミヤコたちの方向へ足を踏み出した。

 

 

 ズゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 「きゃっ!?」

 

 

 ただの一歩。しかし、100トンの質量が移動し、地面を叩いた際に発生した指向性衝撃波は、室内の気圧を一変させた。

 ミヤコ、サキ、モエ、ミユの四人は、地面から突き上げる強烈な縦揺れに翻弄され、まるで木の葉のように空中に跳ね上げられ、派手に尻餅をついた。

 

「あーあ、危ないよ。おじさん、歩くだけで周囲にとっては局地的な災害になっちゃうから。ほら、お近づきの印にアビドス名物のお菓子あげるから、落ち着きなよ」

 

 ホシノが差し出したのは、ノノミが特別に用意した「アビドス特製・超重圧羊羹」だった。一つで数十キログラムの重量がある、極限まで密度を高めた甘味である。

 

「っ…!お、重っ…!?何これ、砲弾!?」

 

 サキが受け取ろうとするが、羊羹が手のひらに乗った瞬間、あまりの重さに彼女の腕がガクンと沈み込む。

 そして彼女の手から滑り落ちた羊羹はドスゥン…と、およそ菓子類から出るはずのない鈍い音を立ててそのまま床へと吸い込まれた。

 

 「あはは! ホシノちゃん、また新しいお友達をいじめてるの?」

 

 そこへ、お盆に冷たい麦茶を乗せたユメが、鼻歌混じりにやってきた。

 

「いいじゃない! SRTの子たちも、アビドスの復興を手伝ってくれるなら歓迎だよ! ほら、ホシノちゃんの100トンの体を使って、一緒に地盤強度のテストをしよう!」

 

「ユメ先輩、それはテストじゃなくて地形破壊になりますよ……」

 

 アヤネが苦笑する。

 

 結局、ミヤコは「100トンのホシノに勝つのは、地球そのものと相撲を取るようなものだ」という結論を出し、調査報告書に『測定不能:物理的接触を推奨せず』と書き込んで、お土産の重すぎる羊羹を四人で(文字通り必死に担いで)抱えて帰っていった。

 

「うへ〜、おじさん、また勝っちゃった。戦ってないんだけどなぁ」

 

「ん、ホシノ先輩。……次はSRTのゴミ拾い、手伝いに行く?」

 

「勘弁してよ、シロコちゃん。おじさんがゴミを拾おうと屈んだら、その場所が底なし沼になっちゃうよ」

 

 100トンの少女は、今日もただそこにいるだけで、エリート学校の生徒たちに物理的な絶望(重み)を教え込むのだった。




【おじさんの「重い」お悩み相談】

 うへ〜、読み進めてくれてありがとう。おじさん、嬉しいよ。
でも、まだまだおじさんの『密度』が足りないみたいなんだよねぇ。

「この子と遊んでほしい!」とか「こんな地響きが見たい!」っていうリクエスト、感想欄に置いていってくれないかな?

 全部に応えるのはちょっと肩(100トン)が凝っちゃうけど、おじさんの琴線……いや、質量に触れたものは、全力の衝撃波を乗せて形にするよ。

 あ、そうそう。評価とかお気に入りとか……そういう『応援の重み』を貰えると、おじさんの筆……じゃなくて質量がもっともっと増えて、さらに凄い地響きが書ける気がするんだ。

 みんなの『重すぎる愛(リクエストや評価)』、待ってるね〜。
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