竜狩りと辺境の街   作:もいもい130

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第22話

古戦場跡の中央、深淵の泥を継ぎ接ぎした異形が、地響きと共にその巨躯を震わせた。胸に埋め込まれた巨人兵の破片が、脈動するたびに赤黒い光を放ち、周囲の小鬼たちの死骸から漏れ出した闇を吸い上げていく。異形は、肥大化した腕で大地に突き刺さっていた巨大な石柱を一本引き抜くと、それを棍棒のように振り回し、オーンスタインへと咆哮を上げた。

 

「……死してなお、その魂を弄ばれるか。我が部下であった者よ、無念であったな」

 

オーンスタインの声は、荒野を吹き抜ける風よりも冷たく響いた。彼は十字槍を低く構え、その切っ先を異形の核へと向けた。周囲を囲んでいた小鬼たちは、騎士から放たれる圧倒的な神威に圧され、もはや近づくことさえできずに遠巻きに震えている。

異形が動いた。その巨体からは想像もつかぬ速さで石柱を振り下ろす。爆鳴と共に大地が陥没し、土煙が舞い上がる。だが、オーンスタインはその一撃が着弾する直前、雷光を纏った瞬速の踏み込みで、最小限の動きで回避していた。

 

「――遅い」

 

一喝。オーンスタインは回避の勢いのまま、異形の懐へと潜り込んだ。十字槍が螺旋を描きながら突き出される。狙うは関節の隙間、泥と肉が結合している脆弱な部分だ。槍の穂先が肉を裂き、内側に溜まっていた人間性の煤が、黄金の雷光によって一瞬で蒸発させられていく。

 

「ギガァァァァッ!!」

 

異形が苦悶の声を上げ、左腕を力任せに振り回した。オーンスタインはそれを槍の柄で受け止め、重圧を逃がしながら後方へと跳躍する。着地と同時に、彼は槍を背後に引き絞り、全身のバネを穂先に集中させた。

 

「……貴公を動かしているのは、もはや騎士の意志ではない。ただの泥の飢えだ」

 

オーンスタインの甲冑から、黄金の放電が激しく迸る。彼は再び地を蹴った。

 

「突撃」。

 

光の筋と化したオーンスタインが、異形の正面から肉薄する。異形は大盾代わりの石柱でそれを防ごうとしたが、神代の雷を宿した十字槍の貫通力は、岩石など紙同然に扱った。石柱を粉砕し、槍の穂先が異形の胸部――巨人兵の破片へと真っ向から突き立てられた。

 

ガキィィィィン!!

 

硬質な音と共に、破片に蓄積されていた闇の力が、黄金の雷と激突した。赤黒い衝撃波が古戦場を駆け抜け、周囲の小鬼たちが一瞬で消し飛ばされる。オーンスタインは、押し返そうとする闇の圧力に抗い、槍の柄をさらに深く握り込んだ。

 

「……王より授かりしこの雷、不浄なる泥に屈することは断じてない! 眠れ、王の番人よ!」

 

彼は槍の石突を右の掌で強く叩きつけた。

 

「雷の杭」――。

 

至近距離で放たれた雷の衝撃が、異形の体内を駆け巡り、人間性の塊を内側から焼き尽くしていく。異形の全身の隙間から眩いばかりの光が溢れ出し、煤けた肉が灰となって崩れ落ちていく。胸に埋め込まれていた巨人兵の破片が、浄化の光に照らされて本来の真鍮の輝きを一瞬だけ取り戻し、カラン、と乾いた音を立てて石畳に落ちた。

 

異形は、崩れゆく中で最後に一度だけ、虚空を掴むように手を伸ばした。それは、かつてアノール・ロンドの門を仰ぎ見ていた時と同じ、静かな守護者の仕草に見えた。

 

巨躯が完全に霧散すると、古戦場の中央に開いていた「穴」もまた、根源を断たれたことで急速に収縮を始めた。立ち昇っていた黒い煤は、冬の澄んだ空気の中に溶け込み、荒野には再び、朝日が照らす静寂が戻ってきた。

オーンスタインは、荒い息を整えながら、地面に落ちた破片を拾い上げた。かつて闇に汚れていたそれは、今はただの、冷たくも誇り高い戦士の遺品へと戻っていた。彼はそれを、今度は丁寧に、敬意を込めて懐へと収めた。

 

「……終わったか」

 

背後で、枯れ草を踏む音がした。振り返るまでもない。鉄兜の奥で、無機質な視線がこの戦いの結末を見届けていた。

 

「……狩人よ。貴公、なぜここにいる」

 

「……この辺りの小鬼が、一斉にこの場所へ向かっていた。……何かをしていたようだが、もう終わったようだな」

 

ゴブリンスレイヤーは、壊滅した小鬼の残骸を見渡し、淡々と言った。彼はオーンスタインの超常的な戦いについても、その正体についても、深く問い詰めることはしない。ただ、「小鬼が死んだ」という事実だけを確認し、腰の短剣を鞘に収めた。

 

「……ああ。この地の淀みは、一先ず消えた。だが、これはまだ端緒に過ぎぬ」

 

オーンスタインは、十字槍を背負い直した。槍の穂先は、戦いの余熱を帯び、微かな放電を繰り返している。

 

「……お前の槍。……また、光が強くなったな」

 

「……そう見えるか。……ならば、これより先に出会う闇は、さらに深いということだろう」

 

二人の戦士は、朝日が照らし始めた古戦場跡を後にし、街へと続く街道へと歩み出した。協力はしない。馴れ合いもしない。だが、この世界の理を汚す「深淵」と、それに群がる「小鬼」という二つの災厄が続く限り、彼らの足跡は、再びどこかで交差することになるだろう。

 

オーンスタインの行く先には、未だ解けぬ深淵の謎と、失われた理を求める過酷な旅路が続いている。黄金の騎士は、一歩一歩と大地を踏み締め、自らの使命を果たすべく、荒野の霧の向こうへとその姿を消していった。

 

その内白霊とかも出すかどうか

  • 出せ
  • 出すな
  • 闇霊なら許す
  • 白も闇も出せ
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