「噂ぁ?」
「常盤台の図書室には見えない少女がいるって噂ですよ!」
なお本人はどう考えても魔術サイドの人間なので出禁
脚注は用語の補足だから読まなくていいよ
◈????
「
「見えませんものねぇ。能力で透明とかであれば、お姉様なら感知できるのでは?」
夏休みということで普段より少し人気のなくなった図書室の中、そんな声が聞こえてきた。見えない少女を探しているというなら、きっと私のことだ。
「うーん、人間の生体電気を感知するっていうなら難しい───」
「ねぇ、私が見えるの?」
「えっ、う、うん。見える、けど……」
「えっ!?」
何の期待もなく尋ねてみたけれど、返ってきた答えは予想もしていなかったもの。綺麗な茶髪を肩の辺りまで伸ばしたボブカットの女の子は、私が見えるって答えてくれた。
「本当に?声も……聞こえているよね。嬉しい」
「一体なんなの……」
「お姉様?
けれども、もう一人のツインテールの女の子の方は見えてないみたい。見えていないし、声も聞こえていないみたいでただ困惑しているだけかも。
「誰って……えっ?
「えっ、ええ、見えていませんわ。声も聞こえませんの。その方はどのようなご様子で?」
「えっ、えーっと、青いベレー帽を被った白い長い髪で
「
「二年…?あっ、そういえば入学式のとき一度だけ見かけたことあるかも。綺麗な白い髪だなぁ、って思ったけど声は掛けなかったのよね。でも今までも何回か見掛けた気がするかも。他に白い髪の人はいないし」
そういえば、私もこの人を見たことがあるかも。結構有名な人で何回か名前を聞いたかな。確か学園都市*3で七人しかいない
「『
「
「お姉様!?」
じゃあ遠慮しないよ。なんて言っても声は届かないけど。
「それで、天織さんはなんで───」
「アマリリスって呼んで」
「……っ、アマリリスはなんで周りから見えないの?そういう能力?」
首を振る。この学園都市では所属する生徒全員が何らかの能力開発を受けているから、自分が誰からも認識されなくなる能力者もいるかも。だけど、私はそうじゃない。
「ごめんね、言えないの」
「言えない?なんで?」
「そういう役割だから。私は呪われた“御伽の姫”」
お姫様は魔法を使えないから、私は自分の能力を口にはできない。物語の役を被せられた人は、物語から逸脱したことはできなくなる。演者がアドリブを入れても、ストーリーの大筋からは外れられないみたいに。
「自分で姫って……」
「ふふっ、美琴、女の子は皆お姫様なんだよ」
私の「お姫様」は少し意味合いが違うけれど、私たちくらいの年の子ならお姫様に憧れるらしい、
「まぁいいわ。見えないアンタはここで何をしてるの」
「何って、読書だよ?図書室は本を読むところでしょ?」
「見えなくなってやること?もっとこう、あるでしょ。職員室に忍び込んでテスト問題を見るとか、コンビニで怒られずにマンガ立ち読みとか」
「こすっからいね」
「こすっ……」
せせこまし過ぎる。覗きとか言い出さないだけ良識あるのかな。それに私、テストなんて受けたことがない。マンガはちょっと読んでみたいかも。ここにはマンガがないから。
「何の話かはわかりませんが、そういう小狡い考えはよした方がよろしいですわ、お姉様」
「じゃ、アンタが透明になったら何すんのよ」
「それはもちろんお姉様を四六時中監視してシャワーの時とか一人で油断しているだらけきった姿とか───ぼへっ」
黒子、良識ないね。
「順序が逆だよ。私は透明だから図書室に来たんじゃなくて、図書室に閉じ込められたから透明なの」
床にのされた変態さんは置いておいて、説明を続ける。
「ここは大量の本とお友達の竜がいる、魔法の小部屋。お姫様を閉じ込めてるの。私は囚われのお姫様だからここから出られないし、役のない人は私を見れない。劇場にいない人は、劇を見れないんだよ」
「なんで私は見えるのよ。少なくとも白馬の王子様になった覚えはないけど?」
「お姉様が王子様…………アリ!」
なんで美琴にだけ私が見えるのか。うーん、なんでだろ。
「……あっ、そういえば聞いてなかった。あなたが、私の“騎士”様?」
囚われの姫。それが私。そんな私が見えるのは、“騎士”の役割が与えられた人間だけ。だから、美琴は私を連れ出してくれる“騎士”なのかもしれない。
「騎士?違うけど……」
「良かった」
うん、本当に良かった。もし“騎士”が迎えに来てくれたとしたら───その人は、最後には死んでしまうから。
「じゃあ美琴が私のことを見れるのは……
「
「うん、だったら大丈夫かな。……ねぇ、美琴。いつかでいいから、ここから私を連れ出して?」
物語は“御伽の姫”を“騎士”が連れ出すことで進行する。まだ“騎士”じゃない美琴が私を連れ出したら、きっと物語を破綻させられるだろう。
「連れ出すって、アンタが───」
「お姉様。もしその見えないお方をここから出そうなんて考えてるのでしたら、一度戻ってお考え直しを。どう考えても怪しいではありませんの」
黒子の言うとおりだね。自称お姫様で自分にしか見えない相手が連れて行ってなんて言ってきたら、怪しいと思うのは当然だと思う。
「うん、そうした方がいいかも。まだ卒業まで時間はあるし、ゆっくり考えて。でも、たまに遊びに来てくれると嬉しいな」
*
◈天織有栖→三人称
「なーんてことがありましたの。お姉様がわたくしの見えないお相手と仲良くお話していて……キーッ!思い出しただけでも腹立たしいですわ!!」
「へー、そーなんですかー。よかったですねー」
「よくないですのっ!!!あなた、わたくしの話を全く聞いていないではありませんか!!」
「先日の『
「それはわたくしもですの!」
「だったらなおさら仕事してくださいよ……」
「常盤台に不審者がいるのも問題でしょう。わたくしや周囲の生徒には見えていないようですし、常盤台を管轄する第〇〇三支部の
「はぁあ……それって、この人ですか?」
初春が操作するパソコンの画面には、幾つかのウィンドウが開かれている。そのうちの一つが
「天織有栖……お姉様が言っていた名前ですわね。写真の特徴もお姉様の証言と一致しますし、昨日わたくしたちが会っていたという方はこの方でしょう。能力は……
「では、やはり見えない事をいいことに白昼堂々我が校の制服を着て不法侵入した不届者、ということですわね」
「それが、正式に入学した記録がちゃんとあって……あれ、出席日数0なのに進級できてますね」
「そんなわけありませんわ!?どうにかレベルを誤魔化して入学できたとしても、出席した記録がないなら進級なんてできませんの!*11そもそも、お姉様以外に認識されないのなら、誰が成績をつけますの!!?」
「認識されないから、出席日数0なのでは?出席してても気付かれなければ欠席扱いですし」
そうして、初春は新たなウィンドウを幾つか出した。そこに映っているのは、管轄外であるはずの常盤台中学の監視カメラの映像。その中から、黒子の証言する15時頃の図書室の映像を抜き出し、黒子たちの動きを追っていく。
「ありました。……なーんだ、見えない少女っていうから監視カメラにも映らないのかと思いましたけど、しっかり映ってますね」
初春飾利の目にはしっかりと御坂美琴と会話をする白髪の少女の姿が映っていた。その姿は間違いなく先ほど確認した天織有栖のものであり、彼女と対話する御坂美琴含めておかしいところはない。キョロキョロと周りを見回す白井黒子と彼女らを奇異の目で見る周囲を除けば、だが。
「はて、わたくしの目にはお姉様が一人で喋っているように見えますの」
「えぇ?そんなわけありませんよ。ここにしっかり───」
パンッ、とモニターの画面諸共監視カメラの映像が消えた。それだけでなく第一七七支部を含めた周囲全ての電気が消え、街が暗闇へと包まれる。
「ブラックアウト……どっかで雷でも落ちたんですかね」
「そんなわけありませんの。
「じゃあどっかで強力な『
「お姉様……」
二人の知る限り、学区全域を停電させられるような雷を落とせる『
*
◈三人称→天織有栖
図書室の中というのは意外と暇なもの。読む本が絞られたら、の注釈がつくけれど。一年の時間を使って面白そうな本は粗方読み終わってしまって、あとは難しいお話ばかり。まだ読めていない本は文字や図形がびっしり書き込まれた、開いただけで眠くなる本。常盤台の授業でも扱わない、お姫様には必要ない知識。
「ねぇ、聞こえてる?」
なんとなく、近くの椅子に座って読書をしている女の子に声をかけてみる。
嘘。ホントは昨日のことがあったから少し期待していた。だけど予想通り返事はなくて、少し悲しくなる。“騎士”様が迎えに来ない方が良いと思ってるけど、寂しいという感情はそれと矛盾しないから。
「お腹空いたなぁ……」
「はい、どうぞ。少し遅れてしまってごめんなさい。
呟き声が聞こえたのか、それともたまたまタイミングが良かっただけなのか、差し出されたのはバスケットに入ったサンドウィッチ。卵やハム、レタスなど色々な具材を挟んだ一口大のサンドウィッチがいくつも並んでる。
「ううん、大丈夫。ありがとう、リリウム*13。作ってくれたんだね。おいしいよ」
「大切なアマリリスのためですから、これくらい」
サンドウィッチを作って持って来てくれたのは、常盤台中学生徒会現会長
「今日はなんだか嬉しそうですね。“騎士”が見つかりましたか?」
「
美琴のことは、きっと言わない方が良い。言ってしまえば最後、部分的にとはいえ美琴は“騎士”の役割を羽織らされる。そうなってしまえば、“竜の魔女”は“騎士”を殺しちゃう。
「最近は顔を出せなくてごめんなさい。生徒会の仕事が忙しくて。だけど、貴女の事を一度も忘れたことはないですよ」
「知ってる。たった一人の家族だから」
「………そうですね。
「宿里様、残念ながらもう戻らなくては」
「忙しすぎて嫌になりますね。ではアマリリス。夏休みが明けたら席を譲れますから、そうしたら貴女を連れ出してくれる“騎士”をゆっくりと探しましょう」
「待ってるね」
なにを言ってるんだろう。私は、ここから
名残惜しそうに去っていく一房の金の尾を見送れば、入れ違いで入ってきたのは肩までしかない茶髪の子。まさか翌日すぐに来るとは思ってもなかったな。
「美琴?」
「いつでも遊びに来てって言ったのはそっちでしょ。何よその意外そうな顔は。はいこれ、差し入れ」
今度は焼きそばパンみたい。リリウムが作ってくれたサンドウィッチほど整ってはいないけど、おいしそう。リリウムはいつもサンドウィッチとか、おにぎりとかしか持ってきてくれないから、初めて食べるなぁ、焼きそばパン。
「今はお腹いっぱいだからまた後で食べるね。ありがとう」
「お腹いっぱい?もう食べたの?」
「うん」
まだ幾つかサンドウィッチの入ったバスケットを見せつける。少ししか食べてないけど、もうお腹いっぱいになっちゃった。
「これ、バスケット……?一体誰が」
「“竜の魔女”だよ」
「竜の魔女……?」
「うん。“御伽の姫”を、部屋に閉じ込めた魔女。でも悪い魔女じゃないよ」
「待って、アンタはなんで閉じ込められてるのか知ってるの!?犯人まで知ってて、かばうっていうの!!?」
だって、リリウムは悪い魔女じゃないから。確かにちょっと押しが強いところがあるけれど、それも
「私のためだから」
「アンタの……ため?」
「見てて」
ゆっくり、ゆっくりと一歩ずつ、探るようにして図書室の入り口に向かう。まず最初は立ちくらみ。一歩進むごとに目眩がして、吐き気が、頭痛が襲い、呼吸も苦しくなってくる。そして一筋の赤い雫が垂れてきた。
「ちょっと!鼻血出てるじゃない!!ほらこれ使って───」
美琴の鼻を一筋の赤が流れていく。美琴だけじゃない。周りで読書をしてた子も、勉強をしてた子も、お喋りをしていた子たちも皆、同じように鼻血を出していた。
「“御伽の姫”は病弱なの。だから部屋から出られない。ここから一歩でも動いたら、今度は血を吐いちゃうかも。そして“御伽の姫”の傷や苦しみは周囲に伝播される」
「アンタ、さっきからなにを言って───」
「『御伽の姫と竜の魔女』っていう童話、聞いたことない?」
「……ないわね」
それは、孤児院でリリウムが読み聞かせてくれた本。リリウムのお気に入りのハッピーエンド。
「あるところに病弱で、外に出れないお姫様がいました。
王様はお姫様が寂しくないようにと、竜の魔女に本とお友達の竜がいる魔法の小部屋を作るようにお願いします。
しかしあるとき騎士が魔法の小部屋に忍びこみ───えっ?」
物語の登場人物は自分の結末を知らない。だから、メタ的な知識を持っていたとしても、役割を羽織った人は自分の物語がどんなものか他の人には伝えられないことになってる。
私は“御伽の姫”が閉じ込められてる理由しか話せないはずだった。なのに、“騎士”のところまで話せるようになっているということは、“騎士”が忍び込んだと判断されたってことになるのかな。
「美琴、リリウムに───宿里海未に何か言われた?」
「宿里……ああ、生徒会長!さっきすれ違ったとき、このあと生徒会室に来るよう言われたわね。……まさか!?」
「うん。私をここに閉じ込めたのは“竜の魔女”───リリウムだよ。生徒会室、行っちゃダメだからね」
「怪しすぎるし行かないわよ」
バンっ、と音を立てて図書室の扉が開かれる。図書室の中は基本的に静かだからその音はよく響いたし、それに
「御坂様!!!」
「あっ、ガオちゃん*15」
タイミングよく美琴に声をかけて来たのは、生徒会副会長のガオちゃん。入学式の日に声をかけてくれた良い人。でも、そのせいでリリウムに“竜”の役割を被せられてこんな大変なことをやってる。本人が楽しそうだからいいのかな。
「宿里様から伝言ですとも」
「伝言だぁ?言ってみなさいよ」
「『来れなくなったのは残念ですが、“騎士”は貴女でなくとも良い』だそうです。何のことかさっぱりわかりませんけど、確かに伝えましたとも。それでは、まだやることがありますので!」
「ガオちゃん、出口は反対側だよ」
「おっと失礼、ではまた!!!!」
相変わらずの方向音痴っぷりだね。学校の中で迷った話は
「騎士は私でなくとも良い……?」
「ねぇ美琴、黒子って今日は一緒じゃないの?」
ふと疑問に思ったことを聞いてみる。昨日は美琴の隣から絶対に離れないって感じだったけど、今日は姿を見てないのが不思議だったから。
「今日は
「黒子って
*
◈天織有栖→白井黒子
「………なんなんですの」
昨日の夜から胸の奥でつっかえているものが取れませんの。何かお姉様に伝えなきゃいけないことがあって、確か
「白井黒子さん、でしたよね。少しお時間いただけないでしょうか。すぐに終わりますので」
「宿里生徒会長……?ええ、時間ならありますの」
生徒会長に呼び出されるようなことをした覚えはありませんが……まぁ、多忙を極める生徒会長がわざわざ声を掛けてくるということは、よっぽど
「
「ないですわね」
全く聞いたことのないですの。そもそも、わたくしとお姉様との時間を奪っておいて童話の話?この場はとっとと切り上げてお姉様のところに行きますの。
「では、お話ししましょう。
昔々、あるところに。とても身体の弱い、かわいそうなお姫様がいました。
身体の弱いお姫様は、部屋から出たことがありません。いつも窓から空を見上げて、寂しそうにつぶやきます。
『わたしもいつか、色んなところに行ってみたいな』
王様はお姫様のために、竜の魔女に頼みました。お姫様が寂しくないように、魔法の小部屋を作って欲しいと。
竜の魔女は頼みを聞いて、魔法の小部屋を作ります。小部屋はお姫様の大好きな本で埋め尽くされ、遊び相手の竜もいました。
ある日、王様がお姫様に会いに行くとき、
『昼の月・夜の太陽』
合言葉を知った騎士は、魔法の小部屋に忍び込み。お姫様に向けてこう言いました。
『この部屋は、君には狭すぎる。一緒に外に出よう』
そう言うとお姫様の手を取って、外へ連れ出してしまいました。
怒った王様は、竜の魔女に命令します。お姫様を連れ戻すようにと。
竜の魔女は空を飛び、騎士に追い付きました。騎士も戦いましたが、竜の魔女には敵いません。お姫様は無事、竜の魔女の手に取り戻されました。
するとどうでしょう。お姫様の身体が、元気になっていくではありませんか。そう。お姫様の弱い身体は……騎士がかけた、呪いによるものだったのです。
姫と魔女は、お姫様の手を引いて。彼女を城へと連れ戻しました。2人はいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。
おしまい」
今まで聞いたことがないのが納得できるくらいくだらない、面白くもない童話ですの。だいたい、外に出たくて寂しがってたお姫様の願いは叶ってないじゃありませんか。最後、王様とお姫様じゃなくて魔女とお姫様が一緒に暮らしているのも唐突ですし、そもそも騎士が呪いをかけた理由も不明。総じて、童話であっても滅茶苦茶過ぎる話でしたの。
「とてもお上手でしたの。では、わたくしはこれで」
時間の無駄でしたわ。こんなところ、さっさと出てお姉様の下に───
「天織有栖という名前を聞いたことがあるはずです」
───思い出しましたの。昨日その名前を調べてるうちに、初春には認識できて
「あの子が“御伽の姫”で、私が“竜の魔女”。そしてもう一人」
目の前の彼女の能力は、条件の合った能力者を強化できる『
なので協力者が他にいて、そいつはお姉様以外の常盤台生全員に認識阻害をかけられるということは
そんな人物、一人しか思い浮かびませんわ。すなわち、『
「貴女には“騎士”になってもらいます。
*
◈白井黒子→天織有栖
「入学式の日にここに閉じ込められてから、リリウムか“竜”の人がいつもきっかりお昼の十二時に食べ物を持ってきてくれた。時間がずれ込んだのは入学式から一週間の間だけ。その間、リリウムは何をやってたんだろうね」
「生徒会長の能力がアンタの言うとおりなら、仲間を作って───いや、役者を仕立て上げていたってことになるわね。そして今日も一人、役者になった」
「うん、それが黒子。“騎士”の役割を被せられたんだと思───被せられたんだね」
ヒュンと音を立てて、扉も使わずに目の前に現れた二房に束ねられた茶色い髪の女の子。同じくらいの背丈だからしっかりと目が合ってしまったので確信できる。彼女が“騎士”だって。
「『昼の月・夜の太陽』……本当に見えるようになりますのね」
やっぱり“騎士”になっちゃったんだ。誰かは知らないけど、“王様”から合言葉を盗み聞きして、“騎士”として私を攫いに来たんだね。
「美琴、抑えて」
バチバチと、音を立てて電気が空気中を迸る。黒子に手を出されて怒るのはわかるけど、近くにいた私の髪の毛が逆立つし、服もパチパチしてきたからやめて欲しい。
「そんなことをしても意味ない。物理的な干渉じゃ解けないよ」
痛みで解けるようなものなら、私が図書室から出ようとしたときに発症する“病気”の痛みでとっくに解けてるからね。
「じゃあどうしろってのよ!!」
「声をかけて。今黒子が観測してる世界と、それまで黒子が観測していた
だけれど───
「黒子!目ぇ覚ましなさい!!アンタがアマリリスを攫う理由はないはずでしょ!攫うなら、そのぅ……アッ、アタシじゃ…ない……の……」
わぁ、美琴ってば大胆。途中で恥ずかしくなっちゃったのか声がすぼんでいってるけど、昨日の黒子のお姉様大好きっぷりをみたら十分なはず。
そう、だけれど───白井黒子ならともかく、“騎士”が美琴の話を聞く必要はないのです。なぜなら姫を攫えればいいから。そして、黒子の能力はそれをするのに都合が良く、最も効率良く攫うには周囲の一切合切を無視して姫を
「わぁ」
目を離していないのに黒子が視界から消えて、気づいたら目の前に扉。それを認識したときにはもう外に出てて、夏の差すような日差しとじんわりと湿った空気が肌を包み込む。
「出れた……?」
一年ぶりの外。本が痛まないように、かつ過ごしやすいように温度と湿度が調整された図書室と違って、汗をかくし、風で髪が崩れちゃうし、暑さと湿気で凄く不愉快。だけど、それがどうしようもなく愛おしい。
ずっと、ずっと焦がれていた空。窓から見える景色は、ずっと同じものだったから、見えるものがかわり続けるというのは心が躍る。一年前は、当たり前だったはずなのに。
「ちょっと、なんで私まで連れられてるのよ。いや狙い通りではあるんだけど……」
右手に私の、左手に美琴の手を握りしめ、
「童話から逸れなければ意外と自由が利くからね。お姫様を連れ去ったと書いてあってもそれ以外の、例えばこっそり忍び込んだ“ネズミさん”を連れ去らなかったとは書かれてないから」
「ねずっ───」
「───来た」
「来ましたの」
翼が風を切る音がする。鳥のそれとは違って、重厚な体躯が巨大な翼を用いて飛翔するその音の源は、遥か上空から豆粒のような影を落としていた。
「もう
「うん。黒子の能力で、結構な速度で
「なのにもう追いつかれるってのは、どういうことよ」
「見てればわかりますわ」
豆粒よりも小さかったその影は、獲物に近付くために急降下しどんどんと大きくなっていく。小さな鳥の影が、違和感を覚えるほどの大きさになり、そして道路を走る車ですらすっぽり覆い隠せる大きさになった。
「っ、ドラゴン!?それも二体も……」
それも当然。だって彼女は───
「迎えに来ましたよ、アマリリス」
“竜の魔女”なのだから。
「早かったね、リリウム」
「この子が教えてくれましたから」
リリウムが乗っていたオレンジ色の“竜”の頬を撫でる。“竜”は元になった人の特徴が出るけど、見覚えがないから全く知らない人かな。逆にあっちのトゲトゲした黒い“竜”はガオちゃんだ。
「っ、ドラゴンがなによ、ただ図体の大きいトカゲじゃないの!!」
「美琴、ダメッ!!!」
ポケットから取り出したメダルを弾いて、彼女の代名詞ともいえる
「……まさか、
あのオレンジ色の“竜”は、私とは面識がなくても、黒子とはあったみたい。
「その人って、確か
「うん、リリウムによって“竜”の役割を被せられて洗脳されちゃった子たち」
リリウムの能力を使われた相手は
リリウムの本当の能力は『
普段は『
ガオちゃんの能力は『
「やっぱり、元々人間なのね」
「なんて非道な……とても人間のやることとは思えませんの」
「非道?人間のやることではない?貴女達……それ、本気で言っているんですか?」
……リリウムの能力は、特定の動作を見せつけ、読み聞かせをしたら発動する。その結果、能力がかけられた人は
「もしそんなことを本気で言っているとしたら、貴女達は学園都市というものを理解していない。『
「……っ、ないわね」
「そう、それはとても幸運なことですね。
───学園都市って、
と」
───それは、人を操る手段の中で一番穏当なやり方。人に対する一番優しくて、暖かくて、怖くない方法。決して薬も電極も鎖も出てこず、暴力も刃物も無理矢理脳に流し込まれる他人の記憶も存在しない、優しい優しい支配。
「たったレベルを1上げる。それにどれだけ多くの血が流れているのか、貴女方はご存知でないのですね」
「そんなわけありませんの!お姉様は自らの努力だけで
「違うよ、黒子。個人の努力じゃない、学園都市全体の話をしてるの。モルモットに高度な芸を覚えさせるために、モルモットの頭をどんな風に切り開けばいいかこの街は試している。自分で二足歩行できるようになったモルモットの話はしてないよ」
でも、それもまた貴重なサンプルだから多くの研究者から注目されているだろうけどね。
「モルモットって……言い方ってもんが、あるでしょうが」
モルモット扱いされたら怒るよね。でも、そうなんだよ美琴。この街の子供たちは皆、大人のためのモルモットでしかない。それを見せるために、ゆっくりと袖を捲る。
「何……それ」
「自分でつけた……わけありませんわね」
夏場だというのにずっと着ていた長袖の下には、まるで年輪のように等間隔についた縫合痕がある。右手だけしか見せてないけど左手にも、通常の制服よりもずっと長いスカートで隠された脚にも同じ痕が。
「美琴たちにはまだ言ってなかったね。物語が進行したからもう言えるかな。私の能力は『
図書室で鼻血を出した時に、他の人も血を流したのはこの能力のせい。自力でONOFFできなくて、効果範囲を狭めるくらいしかできないし、それでも半径20mくらいあるからちょっと指を切っただけでも大惨事になる。
「『
「…………見えない、わよ」
「でしょう?声も目の色も髪の色も、髪の長さも身長も胸の大きさも、顔つきも癖も歩き方も違う。いくら
私もリリウムみたいにもっと背が伸びて、モデルさんみたいになりたかったな。
「この都市には子供───特に
本当に、この街の裏側には『
「私たちが見えてないだけで、この街が汚れてるってのはわかったわよ。でも、アンタはそれで良いわけ?」
「アマリリスもこのハッピーエンドには納得しています」
「アンタには聞いてない。答えて、アマリリス」
私が、どう思っているか。それは……。
「………………私も、ハッピーエンドだと思うよ」
「……帰るわよ黒子。もう付き合ってらんない」
そう言って踵を返す美琴。うん、美琴は帰れるかもしれないね。でも、黒子は違う。
「帰れませんの」
「は?アンタ何言って────」
美琴の話を遮るように、“竜”が咆哮する。自らが“騎士”の敵であることを示すように。
「ええ、白井さんは帰れません。だってここで死ぬのですから」
“御伽の姫”を連れ去った“騎士”の結末は、“竜の魔女”に殺されること。こうして連れ去ってしまった以上、あとは死ぬだけ。役を被っている以上絶対に覆せない。『
「お姉様は先に帰っていてくださいまし。私はこの頭のおかしい淫蕩女を
……それは、無理だと思う。“騎士”の役を被せられている限り、例え黒子が
「ダメだよ黒子。戦っちゃダメ。逃げよう?」
「逃げる?何処へ逃げると言うんですの。これだけ
……豚箱?さっきも
当たり前だけどどっちも『御伽の姫と竜の魔女』には出てこない。それに、事件の犯人を捕まえるのは王城に勤めてて王様の合言葉を盗み聞けるような立場の“騎士”の役目じゃない。“騎士”も盗賊を捕らえることもあるだろうから矛盾はしないけど、役的に外れた行為ではある……。
「……!美琴、黒子の口癖っていうか、決め台詞みたいなのない!?自分の立場を明確にできるの!!黒子から引き出して!」
「っ、黒子!!アンタなんで生徒会長を捕まえなきゃいけないの!!!!」
「何故って、“竜の魔女”を返り討ちにして……あ、れ?」
揺らいだ!“騎士”として自分がしなきゃいけないことと、今していることの差に気付いた!
「そうだよ黒子。返り討ちにするなら捕らえる必要はないよ。だって、生かすより殺す方がよっぽど簡単なんだもん」
“騎士”として“竜の魔女”を返り討ちにするのと白井黒子が宿里海未を捕まえるのは、その難易度が大きく異なる。どちらも結果としてはリリウムの無力化だけど“騎士”の役割───“御伽の姫”を連れ去る役を遂行するなら、“竜の魔女”を殺してしまった方がいい。追っ手が居なくなるし、黒子なら『
だけど黒子はそれをしない。黒子の立場がそれを許さない。
「「
「わたっ…くしは……」
“騎士”としての役目と黒子の立場によって生じた、殺害という最善手と捕縛という緩手の僅かな差が、『
「黒子がリリウムを捕まえるのは私の“騎士”だから?違うよね」
「黒子!事件に首突っ込むなら、一般人を安心させるために自分が何者なのかハッキリさせとく必要があんでしょ!!アンタは何!!?」
だって黒子は────
「っ、
“騎士”じゃない。
「能力の不正使用の現行犯、及び拉致監禁その他幾つかの容疑で連行させていただきますの!!」
「……驚きました。まさか役を跳ね除けられるなんて」
自らが姫を守る剣でなく、市民を守る盾であることを示す
「えっ?」
“竜”は厄介だと思う。大きな体で立ち塞がれたらリリウムが見えなくなるし、炎を吐かれたひとたまりもない。その大きな翼で風を起こしたらきっと立ってられないだろう。そんな“竜”は美琴が抑えてくれるし、黒子は『
「確保、ですの」
だから、だから十分勝機はあったはずなのに。
「黒子っ、アンタ何して……」
「うるさいですのよお姉様。大人しく捕まって一晩反省してくださいまし」
美琴の左手を捻り上げ、その背中を地面に縫い付けるように脚で踏みつける黒子の目は、お星さまみたいな十字のきらめきが宿っていた。明らかに普通じゃない、キラキラと澄んでいるのに正気を失った目。
「……っ!!この感覚、食蜂のっ」
「話には聞いていましたが、やはり効きませんか。漏れ出る微弱な電磁波が『
「アマリリス!どういうこと!!?」
「し、知らない……わかんない!」
「……酷いね、リリウム。
「おいたする悪い子に隠してることがあったように、私にも家族にすら隠してることがあるんですよ」
ああ、なんで気付かなかったんだろう。黒子が“騎士”の役という
でもどうやって?
「……っ、何!?」
思考をかき乱すように、電話が鳴り響く。私のでもリリウムのでもない着信音は、美琴の腰の辺りから響いていた。
「どうぞ」
リリウムに促されるまま、黒子が美琴のポケットをまさぐる。取り出されたのは可愛いカエルのキャラクターを模した携帯電話。着信音と共に震えているのが見て取れた。美琴の腕を捻り上げたままの黒子が、片手で器用に携帯を開き美琴の耳に当てる。
「……っ、初春さん?悪いんだけど今取り込み中で────佐天さんが倒れた?それは……わかった。こっち片付けてすぐ行く」
「おや、どうやらそちらは急用ができてしまったようですね。“騎士”もいなくなってしまったことですし、今日はお開きにしましょうか」
頭の中の“御伽の姫”が“竜の魔女”へ助けてって叫びたがってる。外は夢見ていたよりも暑くて、寂しくて、そして怖いと。ここで全部終わらせて欲しいと。
でも、
「リリウムッ────」
だから、名前を呼ぶことしかできない。それが、私のできた精一杯の抵抗。
「
「……っ、わかった……戻るよ」
差し出されたオレンジ色の“竜”の腕に乗って、リリウムがいる黒い“竜”の背に乗る。悔しそうな、焦ったような表情を浮かべる美琴と無感情な黒子を置いて、“竜”は飛び立った。
「ああ、言い忘れてました。目撃者の記憶はこちらで処理しておきます。白井さんは……今日一日の出来事は忘れてしまうでしょうね」
*
◈天織有栖→御坂美琴
暗闇に包まれている。何も陽がとっくに落ちきってしまった、街灯もない河原にいるからというだけじゃない。身体が夜闇に包まれているように、心も真っ黒な暗闇に呑まれてしまっているような気分。
「なんで……」
佐天さんが倒れたとき、学園都市中で人が倒れたそうだ。その原因は『
多分、私が追い詰めてしまった。佐天さんが
「なんでっ!」
せっかくアマリリスを外に連れ出して、黒幕に手が届いたところで取り逃してしまった。終始翻弄されて、戦えてすらなかった。目撃者の記憶も監視カメラの映像も差し換えられて証拠は一つも残らず、結局アマリリスが───友達が再び連れ去られて閉じ込められてしまった。
「荒れてますね。ですが門限破りは感心しませんよ」
「……アンタもでしょ」
「生徒会長ですから、ある程度の融通は利くんです」
穏やかな笑みを浮かべたソイツは、まるで友人に語り掛けるような態度でにこやかに述べる。今のところアマリリスを閉じ込めている黒幕で、佐天さんを昏睡させている可能性のあるソイツ。
「言葉を間違えたわ。なんでアンタが、ここにいるのよ!!」
雷が迸る。文字通り光の速さで空気中を駆けた閃光は、しかし狙いの相手を貫き、焼き焦がすことはなかった。
「ふふっ、実のところ私も寮監の許可を取らずに抜け出してきているんです。お互い、バレる前に戻らないといけないですね」
「アタシはもうバレて怒られるのが確定してるから、いくらでも時間をかけてやるわっ!!!!」
全周囲に向けた大規模放電。一瞬昼間になったのかと思うほどの光と共に四方八方雷が飛び散ったのに、これもまたアイツを焼くことはない。
「空がなぜ青いのか。それは空気が太陽光を散乱して、青い光だけが残るから。そして日が沈んだあとも空気は残る。だから夜中でも強い光があれば空は青く見えるっていうの、本当だったんですね。一緒だけ、綺麗な青空が見えましたよ」
「さっきからぴょんぴょんぴょんぴょんと!『
さっきから繰り出す攻撃の全てが
「正しくは『
「じゃあ攫われる前に一つ答えて。今巷で噂の『
「いいえ?確かに私の能力は対外的には『
違うの!?あまりにタイミングが良かったし、類似する能力だったからコイツが犯人だと思ってたのに!
「なら犯人を知ってる、のっ!!」
砂鉄によって作られた剣撃。完全に死角からの一撃だったはずなのに、気付けば砂鉄の剣の後ろにいた。まるですり抜けるような、ギリギリのタイミングでの
「ええ、一応は。ですがきっと、ご自身で確かめた方が良いですよ?私が教えてしまったら、犯人がなぜこんなことをしたのかを知る機会がなくなってしまいますから」
「それ知ってどうしろってのよ」
「さぁ?それは貴女次第ですが、知らないままでは必ず後悔しますよ」
後悔?友達を傷付けられて、その犯人に同情できるっての?確かに私は甘いところがあるかもしれないけれど、それでも到底許すことはできない。どんな理由があっても、多くの人を昏睡させて良い訳じゃない。
「そう怖い顔をしないでください」
「そんなあからさまな殺気向けられといて怒るなって方が無理よ」
「あら、バレてましたか。ええ、貴女にはここで死んでもらいます。今際の際ですし、まだ聞きたいことがあるならもう少しお付き合いしますよ。そうですね……二問くらいなら答えましょう」
ずいぶんと余裕があるじゃない。ま、確かに私の攻撃は当たらないし、あっちは私の心臓にナイフでも
「……んなわけ、ないでしょうが!!!」
自爆に等しい広範囲落雷。昨夜のように周囲の電源全てが落ち、再び街は暗闇に包まれる。
自分でも周りが見えなくなるくらいの巨大な雷を落としたけど、正直当たってる気はしないというか、確実に当たってない。さっき青空がどうとか言ってたから、光が散乱しきる距離までは一瞬で跳べるっぽいし。でも、そこまでの距離跳ばせたら十分!
「あら、してやられましたね。こんなに真っ暗だとどれが御坂さんかわかりません」
砂鉄を固めて作った人形。平時ならともかく、巨大な落雷という鮮烈な光を浴びた直後のブラックアウト下ではまず見分けられないはず。
「ずっと考えてたのよ。なんでさっきアンタは『
私が今砂鉄を操ってるみたいに、一つの能力で複数の事象を起こせることもあるけど、それも結局元の能力の延長。私だって『
じゃあなぜ能力が二つ使えたのか。それは簡単な答え。彼女の能力を知ってるんだったら予測し得る話だった。
「自分に『
例えば薬かなんかで身体の自由を奪われたとき、私ならやろうと思えば自分の生体電気を操って無理矢理動くこともできる。やったことはないし、絶対やりたくもないんだけど、自分自身に対しても能力を行使することは可能だ。食蜂だって『
「……っ」
「今、初めて動揺したわね」
これまでずっと優雅さを保ち続けていたその人影が、一瞬だけその雰囲気を崩す。すぐにまた元の余裕ぶった姿勢に戻るけれど、その一瞬の揺らぎを見逃すほど甘くはない。
「そんでアマリリスはアンタの能力『
上書きっていったら、DVDに入った番組を消去して新しい番組を書き加えるようなこと。仮に新しい番組を消去しても元の番組は戻ってこない。でも、黒子は戻ってきた。“騎士”の
それはきっと、
「でも自分に対しては別。自分自身の能力である以上、自分の
他人の部屋を見ないで模様替えするのは難しいが、自分の部屋ならできる。能力が
「考えられるのは一定回数使うか一定時間経過すると『
「ふふっ、正解です。ですが、それがどうしました?この人影全部の頭に石でも
「簡単な話よ。そう長い時間ではないだろうし……時間が来るまで逃げる!!さすがに不規則な動きをする人形全ての頭に同時に
足止めのため何体かは突っ込ませて、残りは全員別方向へと走らせる。砂鉄の人形はそんなに耐久力はないけど、走るだけならそんなモンなくても!!!
「同じ動きの人影の中に、一つだけ動きが機敏なのがいますね。そう、わざわざ川の方へ逃げている貴女」
川の方へと走らせた人影の頭が弾け飛ぶ。でも残念、それじゃない。敢えて一体だけ動きに差をつければ、それを狙うと思ったから。
「ではこちらの、妙に遅れている方?」
土手を駆け上がっていた一体の身体が弾け飛ぶ。だけどそれも違う。そいつは単に操作範囲ギリギリにいたから操作し辛くなっただけ。正解は────
「ここよ!!!」
「あああああああああっ!!!!!?」
纏った砂鉄を振り払い、生徒会長の腕を掴んで流せるだけの電流を流す。雷に打たれたに等しい電流を浴びてさすがの生徒会長も耐えられなかったのか、ぐったりと倒れ伏した。
「死んでない、わよね。気を失ってるだけ……ってこれ
一瞬で逃げられちゃうから手加減なしの全力ブッパだったけど、逆に手加減してたら倒せなかったわねこれ。相手がハッキリしてるなら事前に対策を立てるくらいするって、それぐらいわかったはずなのに。考える余裕がなかったから結果的に勝てただけで、もし反射的に手加減してしまっていたら……さっきの砂鉄の人形みたいになってたってことよね。
「……うぅ、っ……砂鉄を纏って、他の人形と同化していたとは。さらに逃げるなんて言ったくせに他の人形と一緒に突っ込んでくるなんて」
「逃げて勝てるならそうするわよ。でもそうじゃないでしょ?私って結構負けず嫌いなのよね」
他の人形と完全に一致させるために顔まで覆ったから前が見えなくて大変だったわ。前に黒子が言ってた生体電気を感知するってやり方を試してみたけど二度とやりたくないわね。というか普段だとその辺の電線と混同して出来ないだろうし。
「人影が一回り大きかったのは全身を覆った砂鉄の大きさに合わせるため、というのはわかるのですが……胸を必要以上に盛ったのはなぜですか?それも巨大というほどではなく控えめに」
「うっ、うるさい!!」
もっぱつ軽めの電流を喰らえオラァ!!乙女の見栄と尊厳ってモンがあんだぞコラァ!!!
「っ、いぅ……」
あっまずい、電流流しながらガクガクさせてたら今度こそ死にそうになってる!さすがにやりすぎたから一旦安静にさせるけど、意識は失ってないし能力開発受けた人間はたまに異常な耐久力を発揮するから多分大丈夫でしょ。
「アンタ、さっき質問に二つ答えるって言ってたわよね」
「すでに幾つか質問に答えた気がしますが……はい、そうですね。何か聞きたいことがあるならお答えしましょう」
負けたんだからもっと答えろや、とは思わなくもないけれど、質問はすでに決まってる。
「私の命を狙ったのは私が『
「ええ。それだけなら見逃したのですが、貴女はアマリリスと話しましたから」
話すのすら禁止なのかよ……黒子よりヤバい変態なんじゃないのコイツ。生徒会長としての姿はちょっと尊敬できてたのに。
「じゃあ二つ目、私が“騎士”としてでなく自分の意思でアマリリスを図書室から連れ出したら、アンタは私を殺しに来る?」
「はい。“御伽の姫”を連れ出した以上は“騎士”として扱えますので“竜の魔女”が殺すことによってハッピーエンドが迎えられます」
まあさっきもそんな感じのこと言ってたしね。予想通りの回答だったわ。
「よしっ」
この回答で腹決まった。というか、聞く前から決めてたんだけど、気分的にもう一度腹を括る。
「この『
「……いいのですか」
「いいわよ。だって一回勝ってるし」
「だからとっとと話しなさい。その『御伽の姫と竜の魔女』ってヤツを」
*
◈美琴美琴→天織有栖
『あら、ここに人が入ってくるなんて珍しいですね』
打ちっぱなしのコンクリートの廊下を抜けた先、大人たちからは入っちゃダメと言われた部屋に彼女はいた。柔らかい金色の髪に、穏やかな日差しのような微笑み。窓の無い部屋だったけど、明かりに照らされて本を読む彼女の姿は、まるでそよ風に吹かれるように優雅で、絵画から抜け出て来ちゃったのかと思ったくらい。
『私は329番。貴女は……』
『私は14番です。ですがそんな名前は可愛くないでしょう。そうですね……リリウムとアマリリスなんてどうでしょうか?どちらも同じ花の別名なんです。素敵でしょう?』
そうだ。
「っ……夢?」
懐かしい夢。私たちが初めて会った時の。
あれからこっそり忍び込んではリリウムに色んな本を読んで貰った。どの童話に対しても淡白な態度を取っていたリリウムが唯一気に入ったハッピーエンドが『御伽の姫と竜の魔女』。だけど私は……
「アンタ、納得してるの?」
「……美琴?三日ぶりだね。納得って何が?」
「あの結末がハッピーエンドかどうかよ」
あの結末……きっと『御伽の姫と竜の魔女』のことかな。この話がハッピーエンドかどうか、か。
「ハッピーエンドだよ。リリウムがそう言っているから」
「……昨日、『
一呼吸おく。まるで抱きしめるようにそっと肩に乗せられた手は力なく震えていて、まっすぐこちらを見つめる目は何処となく涙ぐんでいるように思えた。
「その実験は、能力を意図的に暴走させるというもの。犠牲になった子は皆、
「……うん」
『
「確かに、この街には目を覆いたくなるような非道がある。そんな汚い部分を見せたくないから閉じ込めたくなるのも分かるわ。でもこの街はそんな汚いところだけじゃない。私が黒子に初春さん、佐天さんや貴女と出会えたように、素敵なところもいっぱいある」
肩に添えられた手が強張る。きっと美琴は無意識なのだろうけど、ギュッと握りしめられた指先が肩に食い込んでいく。
それでも、その痛みを感じさせないほどの悲痛な熱が、そこにあった。
「汚いものを見せないように小部屋に押し込めて、綺麗な景色をみる機会を奪っていい権利なんて誰も持ってない。答えて、天織有栖。生徒会長を慮らなくていい、貴女自身がこの結末に納得しているかどうか」
私が、『御伽の姫と竜の魔女』をどう思っているか。
「……違うと思う。本当のハッピーエンドは、御伽の姫も竜の魔女も騎士も皆が満足できる終わり方」
「なら、結末を変えなきゃね」
手を引かれるがままに連れてこられたのは図書室の入り口。重く閉ざされた扉をゆっくりと開ければ、窓から差し込む日差しの暑さと眩しさが飛び込んでくる。
「さ、行きなさい。最後の一歩は貴女が踏み込むの。誰に連れ出されるもなく、自分の意志で外にでなきゃ結末は変わんない」
「ダメだよ、美琴。それはできない。“御伽の姫”は魔法の小部屋から出ようとすると“病気”が発症しちゃうの。誰かに連れ出されないと、私───」
痛みが走る。皮膚が裂け、肉が断たれ、血が溢れる。幸いなことに見える範囲には誰も居なくて、怪我が伝播されることもないみたい。
美琴を除いて。
「黒子がやったみたいに、アンタも根性見せんのよ!!」
痛いはず。苦しいはず。だって私がそうだから。私が一歩下がれば治まるのに、立ち塞がる美琴はそれをさせない。
「無理だよ。だって“御伽の姫”はアマリリスなんだよ。“騎士”と違って、最初から役を被る人が決まっていた。“御伽の姫”のやることはアマリリスのやることなの」
「でもアマリリスのやることは“御伽の姫”のやることじゃないでしょ!だって貴女は役に制限されていた!!“御伽の姫”の役が、天織有栖と完全に一致してない証拠よ!!そんでその差があれば、黒子みたく役を脱ぎ捨てられる!!一歩踏み出せ!!貴女が踏み出さなきゃ、何も終わらないわよ天織有栖!!!!!!」
踏み出さなきゃ、変われない。痛みを抱えたままでしか、何かを捨てることはできない。役を捨てなきゃ、結末を変えることはできないんだ。
「美琴」
溢れる血を拭って。痛みを奥歯で噛み殺して。一歩、外へ。
「屋上に行こう。“竜の魔女”は“騎士”を殺すために、屋上で待ってるはずだよ」
リリウムと話すんだ。
「こっちよ」
駆け上がった階段の先、鍵の開いている扉を潜れば、綺麗に手入れされた植木に囲まれた屋上。幾つか設置されたパラソル付きのテーブルは生徒たちで埋まっており、そのなかの一組にリリウムとガオちゃんがいた。
「……リリウム」
「来ましたか、アマリリス。では、幸せな幕引きとしましょうか」
片手を上げれば、お茶をしていた他の生徒たちが立ち上がる。生徒会メンバー以外もいるからまさかとは思っていたけど、全員が“竜”だ。
「ちょっ……っと多いわね。十六体のドラゴンは予想してなかったかも」
「元々は普通の人だから怪我させちゃダメだよ?“竜”は頑丈だからそうそう重傷は負わないと思うけど、狙うなら翼か尻尾にして。そこは人間にはない器官だから傷付けても大丈夫なはず」
「んな無茶な……!」
流石に美琴でも十六体の、それも多様な能力を使ってくる“竜”を相手取るのは無理そうかも。でも私はリリウムと話さなきゃいけないし、そもそも私が出来ることがない。せめてもう一人戦える人が居てくれたら……。
「人間の脳には記憶を消去する機能がついていないそうですの。忘却とは記憶を想起できなくなるだけで、記憶そのものがなくなるわけではないんですのよ。脳をごっそりと削り取らない限りは」
どこからか降ってきた網が一体の“竜”を絡め取り、そのまま地上へと墜落させた。その直後に
「黒子!?なんでここに!!?」
「ドラゴンが見えたら誰だって飛んできますの。ですがわたくしがここに来たのは何時ぞやの借りを返すためですわ、宿里生徒会長」
「……『
「そんなもの、同じ『
黒子が来たことで戦える人が二人になった。それでも数の差があるから厳しいかもしれないけど、美琴たちならやってくれる。
「久しぶりに、お話ししようリリウム」
「いつもしているではないですか。ですが決着がつくまでの間の時間潰しには良いですね」
炎と雷が入り混じり、石や丸太が飛び交い“竜”を撃墜していく喧騒の中でも、リリウムはその優雅さを崩さない。揺れるテーブルの上であっても一滴も紅茶を溢さず、吹き荒れる風に呑まれても髪が乱れることがない。
「リリウム。私ね、貴女に謝らなきゃいけないことがあるの」
「“竜”が、それが敵わなければ私が、貴女を連れ出した“騎士”を打ち倒せばハッピーエンドです。なのに何を謝るというのでしょう」
「ううん、美琴は私を連れ出してないよ。私が図書室から出てきたの」
暴風に煽られ、テーブルに備え付けられたパラソルが飛んでいく。それは風に乗ってさらに高く舞い上がり、あっという間に見えなくなった。
「何を言っているのですか……?貴女は、ハッピーエンドに至りたくないと?」
「ううん、誰だって、ハッピーエンドに憧れる。皆幸せな結末を望んでいる。リリウムも私も、黒子も美琴も。ガオちゃんもあの“竜”の子たちも」
落雷が強烈な閃光を齎し、周囲が一瞬暗くなる。“竜”の咆哮が響き、何か大きなものが落ちる音がした。
「私ね、
「……アマリリス」
その声は優しくて。まるで癇癪を起こした子供を宥めるような声色で、さも当然のようなことを述べるような顔で。
「
「……え?」
「物語には描かれない者たちがいます。お城に住まう名もなき召使いのことを誰が気にするのですか?この物語の主役は私、ヒロインは貴女。描かれない者はないのと同じ、気にしなくて良いのです」
それは本心からの言葉。本心からの困惑。落ち葉を踏むことを躊躇わないように、名前もない人を気にかけない言葉。
「貴女だって、覚えていないでしょう?暴走した『
「───っ!ダメだよ。だからこそ、私たちはハッピーエンドを迎えちゃダメ」
「なぜ?幸せになってはいけない人なんていませんよ。……ああ、“騎士”に何かを吹き込まれたんですね?だとしたら、だとしたら───私、少し怒ってしまいます」
飛んできた小石が、ティーカップを割る。溢れた中身がリリウムのスカートに広がった。
「───
「……違うっ!」
違う。私は“御伽の姫”じゃなくて、黒子と美琴と───リリウムの、友達。
「私は、
「これは驚きました。『
「有栖!!」
一体の“竜”が飛来する。雷撃を掻い潜り、飛び交う礫を避け飛ぶ“竜”の振るう爪は、僅かに掠っただけで景色を一転させ、視界いっぱいに地面が広がった。
「役を拒んだとはいえ、“竜”の力は現実。意志の力だけでは、対処は不可能です」
一条の閃光がテーブルを貫く。リリウムは崩れたテーブルを無視して倒れる私に近付き、スカートの裾が汚れることも気にせずに跪いて手を差し伸べた。
「さぁ、私の下へ。もう怒っていませんから」
「……私、謝らなきゃいけないことがあるって言ったよね」
「ふふっ、だからもう怒っていませんのに」
ううん、違う。謝らなきゃいけないのは、今じゃなくてあの日のこと。リリウムが全てを始めた、あの日の嘘。打ちっぱなしのコンクリートに囲まれた、小さな部屋で『御伽の姫と竜の魔女』を初めて読んだときの小さな嘘。
『───魔女は、お姫様の手を引いて。彼女を城へと連れ戻しました。2人はいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。……ふふっ、素晴らしいハッピーエンドでしたね?』
リリウムと一緒にいたくて。リリウムに嫌われたくなくて。だから……
『
あの小さな嘘が、私の、私たちの間違いの始まりだった。だから、今日ここで、間違いの全てを正さなきゃ。
「私ね、あの童話を……ハッピーエンドだって、思ってないの」
「……え?」
「ごめんなさいリリウム。あの日のこと、ずっと謝りたかった」
差し出された手が震える。信じられないものをみるように、驚愕に震える瞳。
「嘘、嘘です。“騎士”に言わされているんでしょう?……そうだと言って。そうだと言ってください、アマリリス」
図書室で
「
「私を止める……?アマリリスが、私の敵に?───嫌。そんなの、嫌よ」
リリウムの不安に“竜”が呼応する。その数を半分以下に減らしたとはいえ、その身は強大。未だ劣らぬ脅威を示すように、あるいはリリウムの恐怖をかき消すように“竜”は声を上げた。
「……アマリリス、どうして……」
「騎士と共にお城を出た御伽の姫は、色々なところを旅しました。
外は暑くて、寒くて、苦しくて。何度も心が折れそうになります。
だけどお姫様は諦めません。騎士と共に多くの苦難を乗り越えて行きました。」
「な、に……?私の知らない物語……?」
「お姫様が諦めずにいられたのは、お城で魔女が待っていたからでした。
憧れの魔女に近付きたくて、お姫様は旅を続けられたのです。
やがて、竜の魔女は騎士たちに追い付きました。そしてお姫様は、旅の中で学んだ魔法を魔女に見せるのです。」
「……っ、“竜”の一撃を防いだ?あり得ません。そんなのは、“御伽の姫”じゃない!」
そう、今の私は“御伽の姫”じゃない。“竜の魔女”に憧れて、魔法を使えるようになった“
「
同じテーブルについて、紅茶を飲んで、同じ童話を聞いて、そして役を被せようとした。だったら、『
「ちょっと有栖、さっきから力が溢れてくるんだけどアンタ何かした?」
「能力が強化されていますの。今ならいつもより大きいものも
「うん、魔法を使ったの。正確には魔法を使える能力だね。今の私は、“騎士と共に旅する魔法使い”だから」
身が裂け血がまき散らされる。図書室から出ようとしたときに起こる“病気”と同じ。あるいは、『
でも気にしなくていい。今の私は『
「私の能力を利用して、自分自身の能力を上書きしたと?」
「うん。でも、できたのは少しだけ。やっぱりリリウムは凄いね。私には美琴たちを“竜”に変身させたりは出来なかった。できたのは、少しだけ力を強めること。私自身の
「まさか、貴女が読み上げた童話の続きは───」
「うん、私が書いてみたんだ」
リリウムが『御伽の姫と竜の魔女』を書いたみたいに。
「“御伽の姫”は“騎士”と一緒にお城を出ていくの。“竜の魔女”に憧れて、いつか彼女を超える偉大な魔女になるために。だからリリウム。あなたは、あなただけは私が止めるよ」
「……何故、何故です!何故私を拒もうとするのですか!?ずっと、ずっと一緒だったのに……!」
拒んでいるわけじゃない。むしろその逆。あの日拒めなかった私が、嘘をついてしまった。
「怖かった。全部全部、あなたと一緒が良かった。その方が、楽だった。……だけど、今なら分かるよ。私とあなたは……最初から違うものを見ていたんだね」
「……どういう、ことですか?」
「私たちは
「…………」
「リリウムは、この世界が嫌いなんだね。この世界が嫌いだから、世界に“竜”や“村人”の役を与えて、私とあなただけのハッピーエンドを目指した」
沈黙。長い長い沈黙。轟く雷鳴と降り注ぐ石の雨音に包まれた静寂は、今までの二人の間になかったもの。これからの二人を表すもの。
「……何を、何を知った風に!!」
「私ね、学園都市に来て良かった。黒子に会えて、美琴に会えて───あなたに会えた。もし顔も覚えていない実の親が、もう少しだけ愛があったとして、もしあの時『
何かが違う形でやり直す機会があったとして、それは何の意味も持たないでしょう。だって私は、何回でも同じ選択をするのだから。
「私は、この世界が好き!リリウムに会えたこの世界に生きることが幸せだって思ってる!!もう一度があっても、私は今のまま
───
「そう、そうですか。結局貴女も、私の姫ではなかったんですね」
「……っ!?」
「もういいです。構いません。誰にも私の孤独は理解できない」
いつしか周囲の喧騒は止んでいた。残る“竜”は僅か二体。何時ぞやのように黒とオレンジの“竜”を、美琴と黒子が相手取る。
「私の親は、望んで私を『
「リリウム…っ!」
「私はあの孤児院が嫌い。この世界が大嫌い!……それでも、生きるためにあの童話を選んだんです。“御伽の姫”は、貴女じゃなくてもいい。だから───お前なんて消えてしまえ!!!!」
それは悲痛な叫び。やっと出てきた、リリウムの本音。世界が嫌い。だから、童話で世界を塗り潰してしまいたい。それが、リリウムの本当。だけど───
「まだ、リリウムは嘘つきだ。私じゃなくてもいいなんて嘘。あなたには私じゃないと、私には、あなたじゃないとダメなんだ」
拾い上げたティーカップの破片を喉に突き立てる。肌を破いて、肉に食い込んだ陶器の破片から伝う血が地面に滴って。
「───っ!何をしているのですか!?」
そして、優しい手が強く握り止めた。
『ねぇ、アマリリス。わたしたち、ずっとずっと一緒です。わたしが守ってあげます。あなたを、幸せにしてあげますから』
『うん、約束だよっ、リリウム。リリウムとわたし───二人で幸せになろうね!』
それは、幼い日の約束。未来も過去もない孤児院のなかでの、未来を誓った約束。
「アマリリスっ!」
魔法の時間はもう終わり。『
「そしてお姫様は騎士と共に、また旅に出ました。
ですがお姫様はもう怖くありません。だって、お城にはとても素敵な竜の魔女が待っているのですから。
私が、あなたがこの世界を好きでいられるように、ずっと私の帰る場所で居てね。好きだよ、リリウム……。家族と…して……」
「……ええ、好きですよアマリリス。
*
◈天織有栖→御坂美琴
「有栖……?」
「近付かないでください」
ドラゴンが皆元に戻ったから、決着がついたのだろうと屋上に駆けつけてみれば、誰かを介抱する宿里生徒会長が。介抱されている人物は影になって見えないけど、多分有栖だ。
「『
「何か手伝えること……って、アンタもボロボロじゃない!!」
「後で能力を『
大きな布……カーテン!それくらいならすぐに取ってこれる!!
「待ってて、すぐ取ってくる!!」
階段を駆け下り、目についた教室へ。フックをいちいち外している時間はないから、電撃でカーテンレールをへし折って回収する。
「これどうやって渡そう」
見たらダメってことは近付けないし、生徒会長に取りに来てもらうのもダメよね。投げて渡すのもあれだし……
「お姉様、一体何をなさって?流石に今回の件とは無関係な校舎の破壊は庇いきれませんわよ」
「黒子!いいところに来たわね。人命救助よ人命救助。ついてきなさい」
「ちょっ、お姉様!?」
さっき屋上の入り口からは有栖の身体が見えなかった。そこからなら黒子の
「取ってきたわよ」
「……ええ、これであれば十分です。できれば綺麗な包帯が欲しいので白井さん、保健室から取ってきて頂けませんか。道中の負傷者の救護もお願いします」
「……わかりましたわ。ただし、全て終われば
黒子が『
「右脚の傷が一番深いです。まずはそこから。『
「脱がなくていいから傷の位置だけ説明しなさい!!止血するから!!」
生徒会長の指示する通りの位置に余ったカーテンを引き裂いて作った簡易的な包帯を結び止血をする。本来は綺麗な包帯の方がいいんだけど、黒子が持ってきてくれるまでの応急処置的に。
「てか、アンタの能力で止められないわけ。図書室から出たときは止まってたわよ」
「無理です。『
「はぁ?どういうことよ!?」
生徒会長についた傷は有栖が図書室から出ようとしたときに発症する“病気”と同じ……というか、浅いけれど似たような傷が有栖を図書室から引っ張り出すときに私にもついた。だったらこの怪我は『
「“御伽の姫”はアマリリスです。役を強固に結びつけるために“御伽の姫”の設定とアマリリスの境遇を近付ける必要がありました。私だって、“御伽の姫”を病気になどしたくなかった。ですが仕方ないでしょう。彼女は生まれついての病弱だったのですから。これは、彼女の元々の持病です」
「ざっくり斬られたみたいに身体が裂ける病気なんて聞いたことないけど」
「ええ、私もそう思っていました。病気と言ったら熱や咳が出て、寝たきりになってしまうようなものだと。だから『
能力を用いた治療。すでに結構研究されており、それは『
「
黒子が『
「じゃあ、物語が完遂していたら……?」
もちろん誰かが死んでいいわけないし、有栖だってそれを望んでなかった。私だって全力で止めるだろうし、その結果が今の状況だ。
「“騎士”を殺して図書室に連れ戻せていたのなら、おそらく『
「それ早く言いなさいよ!!?」
それをきちんと言ってくれてたらもっと別の、話し合うとかの方法で……あれ?有栖が前に閉じ込められた理由について「私のため」って言ってた気が……。まさか、
「まあ目的の一割程度でしたし、仮に解決しなかったのなら死ぬ気で解決策を見つけますよ。それこそ、誰を犠牲にしてでも」
「残り九割は……?」
絶対ろくなものじゃないけど、怖いもの見たさの好奇心というのは抑えきれないもので。
「アマリリスと
「もういいもういい、聞いた私がバカだった」
猫が殺された。思ってた通り、黒子みたいな変態だったわけね。いや、黒子とは少しベクトルが違うけど、黒子以上の変態かもしれない。どのみち
「これで粗方血は止まりましたね。あとは病院等の医療機関で傷を縫合してもらうしかないのですが……」
「『
どんな腕のいい医者も人間だ。痛みで針が鈍ることもあるし、何より医者が傷付き続けたらやがて有栖の治療ができるものがいなくなってしまう。
『
「一人、心当たりがあるわ」
「その方は……?」
「さぁ、素性は知らないわよ。でも───」
思い起こされるのはツンツン頭の男子高校生*32。今何処で何をしているのか、どこに住んでいるのかは不明、なんなら名前も知らないけど、会うのは簡単。
「───アイツは困ってる人が居ればどこからともなく現れるわ。頼んでないのにね」
*
◈御坂美琴→三人称
「久しいな。計画は順調か」
「なんのことかね」
「とぼけるな」
「ああ、誤解があるようだね。この国の言語は全く同じ言葉でも複数の意味を持つから誤解しやすい。特にまだ慣れていない君であればなおさら。正しく言い直させてもらおう。
その言葉を聞いて男は確信する。
「やはり、貴様には及ばないようだ」
「そうでもない。死体を弄ぶことに関して君は私以上だ『屍術王』───いや、『
「だが生者を弄ぶことに関しては貴様の方が上だ。だから今日訪ねて来たのだ」
「最強の
コルネリウスの手元に一枚の書類が現れる。そこにはある女性の顔と名前、そして短く彼女の所業が一つだけ書かれている。たった一行のその短い文は、それだけでコルネリウスが満足するものだった。
「先の問いに答えるのは簡単だ。今一番強い
「……自らの神にも等しい樹を呑んだドルイデスとはな。なるほど最強の兵器になりうるだろう。一つ聞かせてくれ『学園都市統括理事長』アレイスター=クロウリー*34。これも貴様の計画の一つか」
「いいや純粋な礼だとも。彼女自身は、ね」
*
◈三人称
「
イギリスの辺境、地図にも載らないような小さな小さな村の外れにある古びた石造りの小屋。その真ん前に、白い修道服を着た銀髪のシスターが生き倒れていた。
「なんで今更……私のことなんて覚えてないだろうに」
「っ、うぅ……」
生き倒れ少女がうめき声を上げる。死にゆく者が最期の言葉を残すように細く、掠れた声が目の前に現れた彼女に伝えたのは────
「お腹、空いたんだよ」
空腹を伝える言葉であった。
「………っ、はぁ。待ってろ。今食えるもの持って来てやる」
三年前の記憶にあるものと全く変わらない少女の言動にため息をつきつつ、小屋の中からパンと水の入ったコップを差し出す。
「ありがとう親切な人!私は
彼女の手から目にも止まらぬ速度でパンを引ったくり、その半分を口の中に収めた少女は呑気に自己紹介を始める。器用なことに喋る合間にどんどんとパンの体積を小さくしていき、そして全部食べきった後に大きくお腹を鳴らした。
「おかわりもらっていい?」
「好きなだけ食っていい。どうせ明後日には引き払うから食い物はなくしとかなきゃならん。悪人程度なら追い払えるからゆっくりしてけ」
「ありがとう、えーっと……」
「ベルディリア*36だ。リアとでも呼んでくれ」
「ありがとう、リア。ところでリアって魔術師だよね。私のこと知ってた?」
その一言で、二人の間に緊張が走る。こういう時の癖なのか、ベルディリアは緑のメッシュごとその長い黒髪をかき上げた。
「10万3000冊の魔導書を記憶してる魔導図書館だろ。そこそこ有名だぞ、お前。まぁ私は興味ないが。そっちこそ、よく魔術師だってわかったな」
「確かに、ぱっと見では服装も生活様式も魔術的意味が見いだせないんだよ。でも無宗派の人でも食前には神に感謝を捧げるように、そういった宗教様式は生活と深く結びついてる。隠すことに固執するあまり消しすぎたね」
「そうか。参考にさせてもらうよ。ところで、これから日本の学園都市に行くんだ。
「……行く」
これは科学と魔術が交差するおよそ半年前の会話である。
導入に使われたのにこのあと出番ない
本作では天織有栖という名前になってる
在籍する学生に対して科学技術による能力開発がされている
キヴォトスじゃないよ
学園都市最強の『
異常者の多い
美琴をお姉様と呼び慕い、日常的にセクハラスキンシップをとる
ただ全肯定というわけではなく、美琴が間違っていたら対立してでも止めようとする
犯人は本来のレベル以上のパフォーマンスを見せたため不可解な点が多い
能力者が学生のみであることから学生のみで構成される
逆に大人のみで構成される治安維持組織として
佐天涙子と同じ学校でよく彼女にスカートを捲くられている
凄腕のハッカーだがこのあとの出番はない
未来予測すら可能な性能であり、多くの実験に使われる
月に一度地球上の量子全ての動きを演算するという荒業で学園都市の天気を正確に予報する
本作では宿里海未という名前になってる
原作よりだいぶマイルド
要するに捨て子
レベル不明の『
現生徒会副会長であり、夏休み明けの生徒会選挙では生徒会長の座を狙う
御坂美琴と同じ
こんな重要な位置にいるキャラなのに口調が難しいという理由で出番ない
薬物等でこいつを実際の現実とごっちゃにすることで
ガチで説明が面倒くさい概念
男性でも招待された場合は入れる
Shadowverseにおいて学園国家ランカスターとアマリリスたちがいた孤児院のつながりはなかったが、本作においてはアマリリスたちが能力開発を受けた孤児院の名前をランカスターとする
特に関わってこないので忘れていい
ある人物のクローンを作ったり、実際に
ほとんど乗っ取られてて関わってこないから忘れていい
クローンは元になった人物の1%に満たない能力しか使えないことが判明して取りやめになったので忘れていい
最終的に半分死んでる
現時点だと多分9000体くらいしか殺れてない
教員がボランティアでやっているため能力を持たない大人のみで構成される
逆に子供のみで構成される治安維持組織として
絶縁チョッキがあるかどうかは不明だがあるという体で進める
ある実験のために
『
が、食蜂と美琴は仲悪い
今回は美琴の不利益にならない範囲で一度だけお願いを聞くという条件で黒子にかかってた洗脳全てを解除してもらった
どんな超常も打ち消す右手『
とある魔術の
美琴が一方的にライバル視している
才気学園編の舞台となる学園国家ランカスターの学園長で、生徒は皆我が子とか言ってる
まあ実の子であろうと強者を生み出すための道具でしかないとも言ってたりする
本作ではアマリリスたちが元いた孤児院の院長という設定
こちらでも原作と変わらずネクロマンシー系の魔術師
なので正しくは『初代学園都市統括理事長』
学園都市ができたのは戦後すぐなので百年は生きてることになる
まあもっと長生きだけど
完全記憶能力の持ち主で魔導書に脳領域の85%が圧迫されているため年に一度記憶を消さなければならない
ホントかなぁ〜?
『巡りの神樹』を体内に取り込んだとか『神殺し』とか色々言われてるのに過去の描写があんまりない
管理者(Shadowverseにおける上位存在)の器となれる妹がいる
本作ではドルイド系の魔術師という設定
なんで今更とあるなんだよ
とあるは超電磁砲が4期やるから令和最新コンテンツなんだよ
とか言おうと思ってたら超電磁砲完結するらしくて草
ゆっくり書いて4月に投稿しようと思ってたのに完結前に投稿するために一ヶ月も早まっちまった
『妹達』編への前振りなのに特大の設定ミスを見つけたから続編ないよ
具体的にはアマリリスがコルネリウスによる身体改造によって常時魂と肉体を照応させる魔術を発動し続ける、いわば生きた魔術礼装になってるから上条さんが触れると『歩く教会』みたいになる