碇シンジと最上イズモ 他人を演じるということ   作:最上 イズモ

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不審な少年

海は穏やかだった。

 

穏やかすぎる、と加持リョウジは思った。

 

艦の縁に肘を置き、薄く煙草をくゆらせながら、彼は水平線の向こうを眺めていた。輸送任務。セカンドチルドレンの来日。エヴァ弐号機の移送。表向きの仕事は華やかだ。だが、華やかな任務ほど裏では神経を使う。人も物も政治も乗っているからだ。

 

その神経の真ん中に、あの少年がいた。

 

碇シンジ。

 

資料の上ではそうなっている。

顔も年齢も、見た目だけならただの線の細い中学生だ。だが、NERV内で耳に入る評価が妙に揃っていない。

 

戦闘で妙に落ち着いている。

被害の切り方が嫌に具体的だ。

言い方は強くないのに、時々ひどく冷える。

そして、何より、JAの一件。

 

加持は煙草を指先で軽く回す。

 

使徒相手に、有人都市圏で、原子炉搭載機を特攻同然で使う運用ですか。

 

あの披露会の映像は、表に出ていない部分までこっそり流れてきた。止めに入るべき大人たちを差し置いて、少年の側が一番先に最悪を見ていた。ああいう光景は、嫌いじゃない。嫌いじゃないが、面倒だ。面倒な匂いのする人間は、たいてい放っておけない。

 

甲板の反対側に、その少年がいた。

 

一人で立っている。

別に隠れているわけじゃない。堂々としているとも少し違う。人目を避けているようでいて、見られること自体には慣れている立ち方。周囲の気配を切るのではなく、必要な距離だけ置いてそこにいる。

 

加持は煙草を消し、歩き出した。

 

近づいても、碇シンジはすぐには振り向かなかった。

海を見たまま、数歩分だけこちらの接近を待って、それからようやく顔を向ける。

 

碇シンジ「加持さん」

 

加持リョウジ「おや、俺のことは知ってるんだ」

 

碇シンジ「顔と名前くらいは」

 

その返しで、加持は少しだけ口元を緩めた。

 

顔と名前くらい。

中学生の言い方ではない。知らない大人への警戒と礼儀の配分が妙に上手い。こういう子は、たいてい子どもらしくない環境を通っている。

 

加持リョウジ「君の噂、最近よく聞くよ」

 

碇シンジ「良い方ですか」

 

加持リョウジ「面白い方かな」

 

少年はそこでほんの少しだけ視線を海へ戻した。

逃げたわけではない。ただ、真正面から受けるほどでもないという顔だ。

 

碇シンジ「それは困りますね」

 

加持リョウジ「そうかい?」

加持リョウジ「俺は面白い方が好きだけどね」

 

加持はそのまま隣へ並ぶ。

肩が触れない距離。

海風が少し強くなり、制服の裾が揺れる。

 

しばらく二人とも海を見ていた。

 

艦上は忙しい。整備員が走り、オペレーターが声を飛ばし、どこかで金属の鳴る音がする。なのに、こういう端の方だけは妙に静かだ。大人も子どもも、何かを考える時は端へ寄る。そういうものなのだろう。

 

加持リョウジ「君、JAの時ひどかったらしいね」

 

シンジの目が、そこでわずかに動く。

 

碇シンジ「……時田さんのことですか」

 

加持リョウジ「“使徒相手に有人都市で核特攻する気ですか?”だっけ」

加持リョウジ「さすがにあれは、相手が少しかわいそうだった」

 

碇シンジ「言い方は改善の余地がありました」

 

即答だった。

 

加持は思わず小さく笑う。

 

加持リョウジ「そこは認めるんだ」

 

碇シンジ「論点まで否定する必要はないので」

 

なるほど、と思う。

 

この子は、全部を守ろうとはしない。

自分の中で守るものと切るものの順番がすでにある。だから謝るべき場所と引かない場所がはっきりしている。その手つきが、どうにも子ども離れしていた。

 

加持リョウジ「で、論点は間違ってなかったと」

 

碇シンジ「間違っていたら、あの後で止める必要もなかったはずです」

 

それもそうだ。

 

加持は斜めに少年の横顔を見た。

穏やかな声。

力まない口調。

それなのに、話している内容だけがやけに重い。戦場の話を、戦場を通った者の重さで喋る。自慢の匂いが薄い分だけ、逆に本物らしい。

 

加持リョウジ「君さ」

 

碇シンジ「はい」

 

加持リョウジ「何者?」

 

その問いは半分冗談、半分本気だった。

 

シンジは少しだけ考える。

その間が短すぎず、長すぎない。考えてから答える人間の間だ。

 

碇シンジ「……碇シンジです」

 

加持は鼻で少しだけ笑う。

 

加持リョウジ「資料上はね」

 

碇シンジ「それで困ることはあまりありません」

 

加持リョウジ「困ることは、か」

 

その言い方が引っかかった。

 

“違う”とは言わない。

“そうだ”とも言わない。

ただ、困るかどうかで切る。組織の中で名前を借りて動く人間の発想だ。加持の仕事柄、そういう言い回しには嫌でも敏感になる。

 

加持リョウジ「なるほど」

加持リョウジ「答えるのが上手いわけじゃないんだな、君」

 

碇シンジ「下手ですね」

 

今度は加持がしっかり笑った。

 

加持リョウジ「そこは素直なんだ」

 

シンジはそれには返さなかった。

返さずに海を見る。

海面の反射光が、その目の下へ薄く揺れる。

 

加持は少しだけ声を落とす。

 

加持リョウジ「君、時々、現場を見てる人の目をする」

 

碇シンジ「現場にはいます」

 

加持リョウジ「そういう意味じゃない」

加持リョウジ「もっと回数の話だよ」

 

そこで初めて、少年の表情がほんの少しだけ止まる。

 

加持リョウジ「一回二回じゃない、もっと嫌な場数を通ってきた人の目をする」

加持リョウジ「それが、この年で出来上がるのは普通じゃない」

 

加持はわざと柔らかく言った。

尋問にならないように。

でも、逃がしすぎないように。

 

シンジは数秒黙り、それから静かに返す。

 

碇シンジ「……普通の方が良かったですか」

 

意外な返しだった。

 

反論でも、誤魔化しでもない。

ほとんど逆質問に近い。

 

加持はそこで少しだけ目を細める。

 

加持リョウジ「その質問はずるいな」

 

碇シンジ「そうですか」

 

加持リョウジ「うん」

加持リョウジ「だって、普通の方が良かったに決まってる」

加持リョウジ「でも、普通じゃないから助かった人もいるんだろ?」

 

シンジは答えない。

 

答えないが、それで十分だった。

 

加持は煙草を吸いたくなるのを少し我慢する。

この会話の途中で火をつけると、少し軽くしすぎる気がしたからだ。

 

加持リョウジ「ミサトがね」

碇シンジ「はい」

加持リョウジ「君のこと、だいぶ気にしてる」

 

その言葉で、シンジの目が少しだけこちらへ戻る。

 

碇シンジ「困らせているなら」

 

加持リョウジ「そこじゃないのさ」

加持リョウジ「困るのはいつものことだよ、あの人は」

加持リョウジ「でも、君に関してはちょっと違う」

 

加持は甲板の端に手を置いた。

 

加持リョウジ「“変だから気になる”のと、“危なっかしいから見てたい”の両方だ」

加持リョウジ「たぶん後者の比率が上がってる」

 

シンジはそこで、珍しく少しだけ視線を落とした。

 

その反応を見て、加持は内心で小さく息を吐く。

この子は、本当にそういう方向の言葉に慣れていないのだ。警戒もするし、整理もする。だが、誰かが“見ている”ことそのものへは、まだ少しぎこちない。

 

加持リョウジ「心当たり、あるだろ?」

 

碇シンジ「……平時の方が危なっかしい、と言われました」

 

加持は一瞬だけ目を丸くした。

 

それからすぐに笑う。

 

加持リョウジ「言いそうだなあ、あの人」

 

碇シンジ「否定はできません」

 

加持リョウジ「戦場の方が落ち着く?」

 

シンジはすぐには答えなかった。

 

だが、その沈黙でだいたい分かる。

 

加持リョウジ「やれやれ」

加持リョウジ「厄介な癖がついてるね」

 

碇シンジ「良くないとは思っています」

 

加持リョウジ「思ってるだけ偉いよ」

加持リョウジ「思ってないと、もっとひどい」

 

海風がまた少し強くなる。

遠くで艦のサイレンが短く鳴り、すぐ収まる。

 

加持はそこで、わざと少し軽い話題へずらす。

 

加持リョウジ「ところで、今日の主役はセカンドチルドレンだ」

碇シンジ「そうですね」

加持リョウジ「彼女、手強いよ」

 

シンジの口元が、ごく僅かに動いた。

 

あれは笑いの前だ、と加持は思う。

 

碇シンジ「でしょうね」

 

加持リョウジ「……ん?」

加持リョウジ「ずいぶん含みのある相槌だな」

 

シンジはそこで初めて、少しだけしまったという顔をした。

ほんの一瞬だけだが、たしかに出た。

 

加持リョウジ「へえ」

加持リョウジ「会う前から分かるんだ」

 

碇シンジ「一般論です」

 

加持は今度こそ煙草がほしくなる。

 

一般論。

便利な言葉だ。

便利すぎて、何度も使うと逆に怪しい。

 

加持リョウジ「君さ」

碇シンジ「はい」

加持リョウジ「知らないふりはあんまり上手くないね」

 

シンジはそれには返さず、代わりに少しだけ正直な声で言う。

 

碇シンジ「必要が先に出るので」

 

加持はその言葉を頭の中で繰り返す。

 

必要が先に出る。

 

なるほど。

それはたしかに、この少年の説明としてしっくりくる。隠そうとか、演じようとか、その前に“今どうするか”が出る。だから知識の出し方で事故るし、だからこそ嘘もつききれない。

 

加持リョウジ「それ、便利そうで危ない癖だ」

碇シンジ「はい」

 

また即答だ。

 

加持は笑うしかなかった。

 

その時、甲板の向こうで人の流れが変わる。

到着の合図。

来たのだろう。

 

加持は海を見てから、ゆっくり背を離した。

 

加持リョウジ「じゃあ、そろそろ始まる」

碇シンジ「はい」

 

加持は数歩歩き出し、それから振り返る。

 

加持リョウジ「最後に一つ」

 

シンジがこちらを見る。

 

加持リョウジ「君が何者でもいいけどね」

加持リョウジ「ミサトさんにあんまり心配かけるなよ」

 

その言葉で、少年の顔に少しだけ複雑なものが走る。

言い返したいのか、否定したいのか、でもどこかで心当たりもあるのか。たぶん全部だ。

 

碇シンジ「……努力します」

 

加持はそこで、ようやく少しだけ安心する。

 

そうか。

この子は、そういう返しをするのか。

 

完璧じゃない。

得体が知れない。

何かを知りすぎている。

でも、人を切り捨てる方向へは寄っていない。

 

それだけ分かれば、今は十分だった。

 

加持リョウジ「よろしい」

 

そう言って、加持は手を軽く上げ、そのまま甲板の中央へ戻っていく。

 

背中側で、碇シンジはもう海ではなく、これから来る誰かの方向を見ている気配がした。

 

不審な少年。

 

たしかにそうだ。

だが加持リョウジは、歩きながらひとつだけ考える。

 

不審なのは知識の量や言葉の切り方だけではない。

あの年齢と顔で、“必要が先に出る”ところだ。

普通なら、自分を守るために少しは鈍る。少しは迷う。だがあの少年は、迷いがないのではなく、迷う前に手が伸びる。

 

そういう人間は、たいていろくな目に遭っていない。

 

だから面白い。

だから危うい。

そして、だから放っておけないのだろうと、加持は誰に言うでもなく内心で小さく笑った。

 

セカンドチルドレンの来日は、想像していた通り、そして想像以上に騒がしかった。

 

惣流・アスカ・ラングレーは甲板へ出た瞬間から、自分が場の中心になることを一切疑っていなかった。ああいう人間は強い。見られることを消耗ではなく推進力へ変えられる。加持リョウジは少し離れた位置でその様子を眺めながら、横目で碇シンジの反応を拾っていた。

 

妙だった。

 

初対面のはずなのに、距離の測り方が妙に滑らかだ。

馴れ馴れしいわけではない。

逆に踏み込みすぎてもいない。

ただ、相手の地雷の位置を最初からなんとなく知っている人間の動きだった。

 

「あんたがサード?」

 

あの問いに対して、シンジは落ち着きすぎていた。

 

実力者だと聞いています。

 

その返しもそうだ。

持ち上げすぎない。

媚びない。

でも、アスカの一番欲しい評価軸――能力への承認――を外さない。あれは、初見でできる受け方じゃない。少なくとも、他人との距離を取るのが得意ではないはずの碇シンジの返しではなかった。

 

加持はその違和感を、まずは“場数”として処理した。

 

実戦経験。

死線。

組織の空気。

そういうものが子どもを子どもでなくすることはある。珍しくはない。悲しいことに。

 

だが海使徒戦が始まって、それだけでは足りないと分かった。

 

魚雷を可能な限り。

 

あの一言が出た時、加持は正直、内心で笑いかけた。

だがすぐ笑えなくなった。

 

使徒を“怪物”として見ていない。

まず水中目標として捉え、通常兵器の飽和攻撃を情報取得へ使う。装甲の割れ方から内部構造を読み、コア深部を推定し、対艦火力を集中させて、最後に弐号機で刺す。

 

発想としては正しい。

だが、その正しさの組み方がエヴァの現場のものではない。

 

NERVに長くいる人間は、どうしてもエヴァを中心に考える。

エヴァをどう出すか。

エヴァでどう勝つか。

通常兵器はその前座か、囮か、せいぜい時間稼ぎだ。

 

あの少年は違った。

 

使える火力は全部ただの資源として並べ、

エヴァを特別視しすぎない。

それどころか、アスカのシンクロ率低下を嫌って、弐号機に自分が乗る選択肢を最初から切っていた。

 

その判断が、あまりにも綺麗すぎた。

 

戦場を知る人間はいる。

軍の発想をする子どもも、いないわけじゃない。

だが、“その機体はその人間が乗る方が全体最適だから、自分は後方に回る”と即座に切れる子どもは少ない。

 

あれは、自分が前へ出ることへ執着がない人間の思考だ。

もっと言えば、“自分が前へ出ない方が生き残る人数が増える”と何度も学んできた人間の切り方だった。

 

加持は艦橋脇の通路で、戦闘が終わった後の海を見ながら、ようやくその違和感へ形を与え始めていた。

 

この子は、たぶん、この世界の育ち方をしていない。

 

根拠はない。

戸籍や資料をひっくり返したわけでもない。

だが、人間にはその世界で覚える“当たり前”がある。

 

この世界でエヴァに乗ってきた子どもなら、

もう少しエヴァを中心にものを見る。

もう少し、組織に押される側の癖が残る。

もう少し、自分が乗るか乗らないかで揺れる。

 

碇シンジの顔をしたあの少年には、それが薄い。

 

代わりにあるのは、

もっと広い兵器体系の見方。

停止権限や避難導線への異常な執着。

そして、戦果より先に“どう壊れるか”を読む癖。

 

世界が違う。

 

その結論へ行くのは、加持にしても大胆すぎると思った。

未来から来たとか、別の組織の教育を受けたとか、そういう安い説明へ寄せる方がまだ現実的だ。

 

だが、現実的な説明ほど一つずつ破綻する。

 

旧米軍衛星レーザー。

原子炉搭載機の停止思想。

海使徒への飽和攻撃と対艦火力連携。

そしてアスカへの、妙に慣れた距離感。

 

どれも一個だけなら、まあ変な子だで済む。

全部並ぶと、別の文脈が必要になる。

 

加持はそこで初めて、自分があの少年へ向けていた興味の質が変わっていることに気づく。

 

最初は“不審な少年”だった。

今は違う。

 

不審なのではない。

座標がずれている。

 

この世界の人間の顔をして、

この世界の戦場には詳しくなりすぎていて、

でも、根本の“身の置き方”だけがどこか別の世界の論理で動いている。

 

加持は薄く息を吐いた。

 

そしてもう一つ、もっと嫌な確信があった。

 

あの子は、計り知れない死線を越えてきている。

 

それは技術知識の量ではない。

言葉の重さでもない。

もっと単純なものだ。

 

助かる順番と、死ぬ順番を知っている。

 

しかも、知識としてではなく、染みついた感覚で。

 

ジェットアローンの時もそうだった。

海使徒の時もそうだ。

最悪時を先に切る。

誰が死ぬかを先に数える。

被害を小さくするためなら、自分の立ち位置をすぐ変える。

 

それは英雄の顔ではない。

何度も、何度も、“一手遅れたら人が死ぬ”場所をくぐってきた人間の顔だ。

 

加持は軍人も、諜報屋も、科学者も、それなりに見てきた。

死地を越えた人間も珍しくはない。

だが、十四歳前後の顔で、あそこまで“死線の処理”が身体に入っている例は知らない。

 

普通は壊れる。

少なくとも、あんなふうに静かにはならない。

 

だからこそ怖い。

そして、だからこそ放っておけない。

 

艦の奥から、アスカの大きめの声が聞こえる。

ミサトが何か突っ込み、周囲が少し笑う。

そこへあの少年の低い返しが混ざる。

 

その音だけ聞くと、ただの少し騒がしい日常みたいだった。

 

加持は手すりに寄りかかり、ひとりで小さく苦笑する。

 

厄介だな、と思う。

 

この世界の人間ではない。

たぶんそうだ。

どこから来たのかまでは分からない。

どういう理屈でここにいるのかもまだ霧の中だ。

 

だが一つだけ、ほとんど確信に近い。

 

あの子は、“初めてエヴァに乗る少年”じゃない。

“これまで生き延びるために、何度も何かへ乗ってきた人間”の目をしている。

 

戦車かもしれない。

艦かもしれない。

別の世界のエヴァみたいな何かかもしれない。

 

そこまでは読めない。

でも、読めなくても十分だった。

 

加持リョウジは、ここでようやく本当の意味で警戒を始める。

 

敵意ではない。

排除でもない。

むしろ逆だ。

 

この少年が何者であれ、

もし本当に別の世界から来ていて、

しかも計り知れない死線を越えてきたのなら、

その経験はこの場で最も危険で、最も価値がある。

 

組織は利用したがるだろう。

大人たちは押しつけるだろう。

ミサトは放っておけないだろう。

リツコは観測したがる。

ゲンドウは、たぶんもう使い方を考えている。

 

その全部を想像した時、加持は少しだけ眉を寄せた。

 

なるほどね。

 

あの子が“必要が先に出る”のは、癖だけじゃない。

たぶん、それ以外のやり方をしている暇がなかった世界から来ている。

 

世界が違えば、守り方も違う。

だが、死ぬ時の人間の壊れ方は、たいてい似ている。

その似た壊れ方を、あの子は知りすぎている。

 

風が吹く。

海面が少しだけ光る。

 

加持はそこでようやく煙草を一本取り出し、火をつけた。

 

肺へ煙が落ちる。

それで何かが片づくわけではない。

だが、考えるには少し都合がいい。

 

不審な少年。

いや、もう違うかもしれない。

 

この世界の人間ではない何か。

それでも、人間を雑に死なせない側へ立つ少年。

 

そう整理した時、加持リョウジはひどく面倒な結論へたどり着く。

 

たぶん自分は、

あの子を嫌いにはなれない。

 

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