摩天楼に沈みゆく夕闇が宵闇へと変わりゆく分水嶺、その狭間に佇む2人の生徒と1人の大人
龍の刺繍が施されたスカジャンを着たメイド服の少女は自身と同じ体躯の少女に
鋭い視線を向けると同時に顎を引いた。メイドにして勝利の象徴、C&Cコールサイン00
美甘ネルと後ろにいる"大人"シャーレの先生、2人の首下に目の前の少女から伸びる影がナイフのように突き立てられるのを肌で感じていた。普段の彼女からは信じられない、目を反らしてはいけないような静かで無邪気な笑みを……
"ユズ……どうして君が此処に?"
先生とネルは近頃ミレニアムで騒がれている二つの噂を追っていた。
1つは研究成果を強奪する雇われの傭兵たちとその大元について、もう1つは不良、傭兵関係なく争いごとに現れては何もかも、全てを薙ぎ倒す謎の人物がいると、その名は───
「UZQueen……コントローラーを駆った先にある表の私。
で、でも、銃弾を交わした駆け引きの先に面白い景色があるんです
宵の明星、夜空に浮かぶ一等星……それが、私……
そういえば、ネル先輩と1対1でやるのは初めてかもしれないです……
退屈させないでくださいね」
「へぇ、言うじゃねぇかおでこ!あたしを楽しませてみな!!」
先に仕掛けたのはユズだった。
セミオートのバトルライフルをネルに放ち、広いとも言えない路地をジグザグに動きながら接近する。ネルは放たれる銃弾が動揺を誘うブラフであることを即座に見抜き、腰を落として姿勢を低くし地面を蹴る。弾丸のように正面を突っ切るネルにユズの口角は本人も気づかず上がっていた。普段の白いミレニアムのジャケットとは違うゆったりとした青いジャケットが急制動により広がるようにはためく……身を捻りながら瞬時に動きを止めたユズに身構え、バックステップで距離をとりながらネルはツイン・ドラゴンを構える。
ネルがトリガーに指をかける瞬間、ユズは地面を蹴り上に飛翔する。濁流のごとく放たれた銃弾は虚しく空を切った。飛び上がったユズは体を正面に向けるとバックパックに接続していた自身の得物、にゃん's ダッシュの銃口から4つに別れた小型の榴弾がネルを襲う。轟音と共に黒い爆風が周囲を覆った。咳き込みながら煙から勢いよく離脱する小さな影、ネルはそのまま下がるはずだったのを止めて横に飛ぶ。予定通りなら、彼女が地に足を着ける場所には弾痕が刻まれていた
煙で視界を潰した瞬間にユズが放った機銃付きの小型ドローン。コールサインダブルオーなら散弾式の榴弾の隙間を縫うことくらい出来るだろうと……その予感が今まさに目の前で起きていることに、ユズは歓喜に身震いすると同時に新たな知見を得た子供のように瞳を輝かせた。
彼女は腕に付けたウェアラブルコンピュータで適時操作しながらネルの視線を誘導する
……殺気はここだと。
不規則に放たれるドローンの射撃を回避しながらも、ネルの目は全体を捉えていた。
ユズは壁を斜め上に蹴りトップアタックを仕掛けながら距離を詰める。ドローンが照準調整で動きを止める一瞬、ネルがそれを見逃すはずがなくドローンに狙いを定めた。だが、隙を見逃さなかったのはユズも同じ……彼女の視線がドローンに向いた瞬間、さらに壁を強く蹴り瞬時に地面に降りるともう一度地面を蹴ってネルの背後にスライドする。ユズの左手の袖から鈍く輝く撓る軟鞭、伸縮式の特殊警棒がネルの胴に叩き込まれる……筈であった。
金属が引きちぎられた爆音に似た異音が木霊する……渾身の力で振るわれた警棒はブービートラップの如く彼女の両の手で垂直に張られていたツインドラゴンの鎖で防がれていた。驚愕に目を丸くするのも束の間、両者はニヤリと不敵に笑みを浮かべる。
「なるほど、そういう動きもあるんですね……面白い」
お互い後ろに下がり仕切り直すネルとユズ、いつ第二ラウンドの火蓋が切られてもおかしくない緊張下の中……規則正しいアラーム音が張り詰めた空気を破壊する。
"えっ?"
「あ、あわわ……」
先程の無邪気で危なげな様子はどこへやら、先生とネルがよく知るユズの表情を見せた彼女はあたふたしながら音の発生源であるスマホを取り出す。
先生とネルはどうする?と一度顔を見合わした。
「あー……とりあえず、出ていいぞ」
「す、すいません……はい、はい……お、終わってます。つ、次の現場です……よね?
い、今行きますから……!?」
通話を切り慌てながら、スマホと銃を仕舞うユズにネルは銃口を向ける。
「あのなぁ……はい、そうですか。って行かせると思うか?」
「ご、ごめんなさい!」
言うや否や、ユズはすぐさま後ろに飛びのきバックパックのグレネードから再び榴弾を発射する。ネルは先生を庇おうと前に躍り出るが、爆発の代わりに煙が辺りに立ち込めた。煙幕と気づいた時にはユズは戦闘領域から離脱していく……先生は遠くなるユズの影に叫んだ。
"ユズ!なんで君が……!?"
「ご、ごめんなさい!で、でも次のタ〇ミーがあるので……!!」
「あ、タ〇ミー……?」
"タ〇ミー!?"
煙が晴れた後には、あまりにも状況とかけ離れた背景に翻弄され呆然とした2人が宵闇の中に佇んでいた。