12月25日を待つ子どものように、まだかまだかと連絡を待って三日、もしかすると、あの時訪ねてきた黒服の女性は幻覚だったのかと思い初めて四日が経つ。いつものように、起床後、トーストを食べてから制服に着替え、時間に余裕を持ってトチノキ荘を出発する。ポケットからメロディが聞こえてくる。画面には担当者の三文字。受話器のアイコンをタップして耳に当てる。
『朝から申し訳ないのですがゲームのお誘いが来ています。学業があるのは承知の上ですが駅の方まで来ていただきたいのですが。もちろん断っていただいても結構です。ペナルティなどはございません。』
やっとだ。ドクンと心臓が鼓動し、前世も含めた30余年の人生において感じたことの無い強烈な興奮が一週間ぶりに神経を駆け巡る。
「はい。はい、勿論行かせてもらいます。着いたらこっちから電話するのでよろしくお願いします。」
歩きながら学校へ欠席の連絡をしてから駅に向かう。
走らずにはいられない。弥生は高揚しながら駅へ向かう。
薄暗いコンクリートに囲まれた空間。
横に細長く出入り口らしき階段には有刺鉄線が張り巡らされていて真っ黄色な警告標識の図形から電流が流れているだろうことが予想できた。
正面には幅が広く目測1メートルほどの溝があり、底にはレールが敷かれていた。
要するにここは地下鉄ということだ。
服装はパジャマ。
淡いピンク色で星だのハートだの高校生の弥生が着用するには趣味が悪いと言わざるを得ない。
周囲を見渡せば同じように趣味の悪いパジャマを着た女性たちが近づいてきていた。
「早速だけど、お名前を聞かせてもらっていいかしら?」
彼女たちの中で一際美しく、髪の長い女が口を開く。
これから殺し合う可能性もあるというのに柔和な微笑みを浮かべているため、要注意人物として頭の中に留めておくことにした。
纏う雰囲気からして彼女は恐らく経験者。
弥生は目覚めるのが特に遅かったため、周りの女たちのように取り巻きとしての地位を確立し損ねた。
相手の気を損ねさせるのは死活問題だろう。にこりと笑みを浮かべて自己紹介をする。
「夜酔って言います。」
きっと変な顔をしてるだろう。表情筋が引き攣っている。
「もしかして初めての参加かな?私は鈴々。16回目だよ。」
予想通り経験者だったが、予想以上に場数を踏んでいた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。
このゲームは恐らく協力前提の脱出型だから。」
対戦型よりも多少平和だ。
そう続ける女…鈴々の言葉に夜酔はほんの少し安心した。
自己紹介をするのは自然の流れだろう。
鈴々の取り巻きは5人。明石、聖火、阿弥、成無、百合という名前で2回目から10回目ほどの経験者で、参加理由は借金返済や単純な報酬目的だ。
夜酔は禄でもないなと自らを棚に上げて黄昏る。
そうこうしているうちにホーム内に轟音が響いてくる。電車が来たのだ。
徐々に徐々に減速したのちさらにフォークを皿に突き立てた時のようなブレーキ音を響かせ目の前に停車した。
自動で開いたドアをくぐり抜ける女達。それが金と愉悦のために命を賭ける気狂い達の蹴落としあいが始まる瞬間だった。