害獣駆除業者のビザンツ   作:Woudy

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駆除業者、葬送と再会する。

「が」

 

突如、森の中を進んでいた魔族の頭部が爆ぜる。魔族はそのまま崩れるように倒れ、魔力粒子と化して塵に帰っていく。

 

その様子を、数キロ先の茂みに隠れながらジッと見詰める男。名をビザンツ。

 

「対象個体。駆除完了」

 

超長距離用の銃と、高濃度に圧縮された魔力を内側に閉じ込めたライフル弾。そして魔力で異常なまでに強化して得た千里眼。これらを組み合わせれば御覧の通り、魔族に存在すら悟らせずに仕留めてしまった。

 

「これで今日の依頼は完了。後はさっきの個体のスケッチをして、明日領主のところへ報告――む」

 

魔族を殺しても一切の警戒心を解かないまま、開いた手帳に羽ペンを走らせるビザンツ。何時ものように独り言を呟いていた口がピタッと止まる。近場に非常に高い魔力を感知したからだ。

 

「複数体……あっちの方角だな」

 

ビザンツの千里眼が、遠く離れた魔力の発生源を捉える。

 

 

 

 

 

――その頃。

 

木漏れ日が差し込む街道に、場違いなほど穏やかな声が響く。

 

「冒険者様、どうか杖を収めては頂けませんか? 我々の目的はこの先にある街での買い出し。争いは本意ではありません」

 

人の形を模した化け物が、困ったように眉を下げて微笑む。その仕草は、どこからどう見ても善良な旅人のそれだった。整った顔立ちの成人男性と少女の体躯に、とぐろを巻いた1対の角が特徴的な魔族が2体。会話を主導してるのは男型の魔族で、少女型は隣でコクコクと頷いている。

 

「買い出し……? 悪い冗談だね」

 

それをフリーレンは感情の起伏がない声で切り捨てる。

 

「お前達の体からは隠しきれない程の死臭が漂っている。やってきた方角にある村で、一体何人を()()()()()んだい?」

 

更にフリーレンは、忌々しそうに杖を持ってない手の人差し指を少女型に向ける。少し後ろに控えるフェルンとシュタルクも、湧き上がる怒りと吐き気に耐えながら睨み付けている。

 

「だいたいそっちの魔族が食べてる“それ”は何だ? そんな悍ましい様子を見せ付けておいてよく言うよ」

「ん?」

 

村で襲った人間の物だろう右腕をボリボリと貪る少女型。当然、魔族である彼女はフリーレン達が向ける敵意を理解出来ず、口周りが血だらけなままキョトンと首を傾げるのみ。食べる手を全く止めない。

 

「……やれやれ。これ程までに無害を主張しているのに、聞く耳持たずとは」

 

魔族は溜息を吐き、わざとらしく肩を落とした。その瞳には知性はあっても良心の反射が一切ない。

 

「悲しい事です。言葉が通じない相手には、相応の処置をせざるを得ない。申し訳ありませんが、貴方がたを”無力化”させて頂きますよ?」

「……言葉の使い方が下手くそだな魔族」

 

フリーレンが杖を構える。その魔力は静かに、だが絶対的な質量を持って膨れ上がった。

 

「”殺して食べる”の間違いだろ? ……フェルン、シュタルク。準備はいい?」

「はい、フリーレン様」

「おう、いつでもいけるぜ?」

 

フェルンが静かに杖を向け、その切っ先には既に高密度の魔力が集束している。シュタルクも斧を低く構え、地面を蹴る態勢になる。

 

一触即発。

 

「……もう面倒臭い、私お腹空いた。この軽食だけじゃ全然足りない」

「案ずるな、丁度餌が目の前にある。街に着くまでは十分な量だ」

 

遂に魔族が擬態を捨てて本性を現し、殺戮の魔法を編もうとした――その刹那。

 

 

 

 

数キロ先から、物理法則が音を置き去りにして飛来した。

 

 

 

「ご――」

 

男型の魔族が言葉の続きを紡ぐ事は二度となかった。突如として頭部が内側から爆ぜるように霧散したからだ。

 

「ッ!?」

 

肉の焼ける嫌な音さえ置き去りにする、超音速の衝撃。魔族の身体は糸の切れた人形のように崩れ落ち、地面に触れる前にさらさらと光り輝く魔力粒子へと変わっていく。

 

「えっ……!?」

 

フェルンが喉を鳴らし、杖を構えたまま硬直する。彼女の鋭敏な魔力探知も、その”一撃”を捉えきれなかった。魔法……だろうか? 魔力の残滓を纏ってはいるが、それはあまりにも純粋で、あまりにも暴力的な物理破壊の奔流。

 

――ドォォォォンッ!!

 

一拍遅れて届いた轟音が街道の空気を震わせる。

 

「ひ、ひぃぃっ!? な、なんだ、何が起きたんだよ!?」

 

シュタルクは情けない声を上げ、斧を振り回しながら数メートル後退した。腰が引け、ガチガチと歯を鳴らす。かつて竜を前にした時のような正体の見えない”死”の気配に、生来の臆病さが表に出る。

 

「シュタルク様、落ち着いてください!」

「落ち着けるかよ! アイツ、喋ってる途中で頭が消し飛んだんだぞ!?」

 

だが、その混乱を嘲笑うかのように二撃目が飛来しようとしていた。

 

「え、あ、なに……が?」

 

残された少女型の魔族。彼女は隣にいた同胞が消滅した理由すら理解出来ていなかった。ただ呆然と、空腹を満たす筈だった”餌”を見つめたまま――。

 

「ぶ」

 

障壁を展開する暇すら与えられない。その愛らしい少女の貌は、見えない巨人の拳に叩き潰されたかのように、木端微塵に破壊された。左目も、鼻も、口も、原型すら留めず砕けてしまう。

 

――ドォォォォンッ!!

 

第一撃と同じ轟音が再び鳴る。しかし両耳が粉砕された少女にそれを音として拾う機能は残っておらず、

 

「……―――」

 

唯一残った光の無い右目を揺らしながら、少女の身体が音もなく粒子となって風に溶けていく。後に残ったのは木漏れ日が差し込む穏やかな街道の風景と、耳の奥に残る暴力的な破裂音だけ。

 

「……フリーレン様」

「分かってる、フェルン」

 

フリーレンは杖をゆっくりと下げ、ジッと数キロ先の高台を見据えていた。その瞳は驚愕に揺れる弟子達とは対照的に、冷徹なまでに澄んでいる。

 

「”これ”は魔法であって魔法じゃない。もっと酷く現実的で、効率的な”駆除”のやり方だ」

 

彼女には心当たりがあった。合理的だが魔法を徹底して侮辱するような、もはや戦闘ですらない機械のような屠り方。他の魔法使い達から見下され、この間の一級試験でも出会った”業者”の姿が脳裏に浮かぶ。

 

「……ビザンツ。彼が助けてくれたみたいだね」

 

一方、遥か遠方の高台。ビザンツは熱を持ったライフルのボルトを引き、空の薬莢を吐き出させた。キン、と乾いた音が地面に転がる。

 

「男型および女型の計2体、駆除完了。……やはり魔族は腹を減らすと擬態の精度が落ちる。観察記録通りだな」

 

ビザンツは感情の欠片もない手付きで手帳を開き、羽ペンを走らせる。彼にとって今の光景は悲劇でも戦いでもない。

 

「全く、正面から”対話”なんて危ない真似しやがって……仮にも”伝説”と”一級”が聞いて呆れる」

 

無謀な行為に手を染めていた同僚の尻拭いでしかないのだ。

 

 

 

 

 

それから数分して――、

 

「……久しいな、フリーレン。そしてフェルン」

 

上空から音もなく現れた男、ビザンツ。その手にはまだ熱を帯びた長大なライフルが握られている。

 

「ご無沙汰しております、ビザンツ様」

「そっちは初めて見る顔だな」

「シュタルクだ。よろしくなビザンツ?」

「一級試験以来だね。君には助けられた形になったかな。一応お礼は言っておくよ」

 

杖を収め、淡々と応じるフリーレン。しかしビザンツは感謝の言葉など最初から持ち合わせていないかのように、険しい表情で一行を射抜いた。

 

「礼などいい。別に正義感で助けた訳じゃないからな……。それより君等には物申したい事がある」

「なんだい?」

「……何故魔族と遭遇したら直ぐに不意打ちで殺さなかった? 鳴いている内なら隙だらけで、もっと安全に仕留められたものを。わざわざ最後まで聞いた挙句、正面から泥臭くぶつかろうとするなんて……非効率極まる」

「再会して早々手厳しいね……」

 

ビザンツは深く、心底呆れ果てたというように溜息を吐き出す。

 

「お前達はそれでもプロなのか? いや……魔法使いの悪い癖か。奴等が口を開いた瞬間、それは”隙”であって”対話の機会”じゃない。吠えている獣に正論をぶつける程、命の安い仕事はないんだぞ」

 

その言葉にフリーレンは少しだけ眉を顰め、静かに反論を返した。

 

「ビザンツ。君の言う事は合理的だけど、魔族が何を考え、どう欺こうとするかを見極める必要があるんだ。言葉は奴等の生態そのものだからね」

「見極める? 何の為にだ」

「……次に会う時に、もっと効率的に、かつ確実に殺す為だよ。これは私が師匠(せんせい)から教わった、魔族を欺き返す為の技術だ」

 

フリーレンの言葉は、魔法使いとしての矜持と経験に基づいたものだった。しかし、ビザンツはそれを鼻で笑い、無慈悲な一言を叩き付けた。

 

「技術? 笑わせるな。フリーレン、魔族と対峙して言葉を交わした時点で、君達は既に魔族に言葉で”欺かれている”んだよ」

「……どういう意味だい?」

「奴等の鳴き声の真偽を考えているその数秒、君の思考の一部は奴等に占有されたも同然。奴等が望む対等な知的生命体同士の議論という土俵に、自ら上がっているんだよ」

 

「…………………あ」

 

フリーレンの思考が、一瞬だけ止まる。

 

魔族と接した上で殺す事に1000年以上を費やしてきた彼女にとって、会話する事そのものが罠という指摘は、あまりに暴力的な真理だった。

 

「敢えて問おうフリーレン。君にとって魔族とは何か?」

「……それは、言葉で人を欺く獣さ。わざわざ君に聞かれなくとも分かってるよ」

「分かってる、ねぇ。君は……いや君達は自分を客観視出来ていないのか?」

 

ビザンツの瞳に、僅かだが感情が灯る。しかしそこにあるのは哀れな存在を見るような、見られる側に惨めさを与えるような生温かい光だ。

 

「吠えてるだけの動物と理路整然と討論を繰り広げる……傍から見れば痛い子だぞ?」

 

「「あ」」

 

続いて師匠の背中を追っていたフェルンと、状況を見守っていたシュタルクの声が重なった。頭の中で魔族を狼や熊に見立てた上で、大真面目に会話する自分達の様子が再生させる……確かにこれはヤバい奴である。

 

「……痛い、子」

 

フリーレンに至っては何も言い返せず、しょんぼり顔になる。しかし彼女の内心なぞ知らぬとばかりに、ビザンツは容赦なく追撃する。

 

「今まで君等がそれに気付けなかったのは、他の連中も君等みたいな痛い子ばかりだからだ。……良かったな? 俺みたいな人間の方が少数派で」

 

ビザンツは踵を返し、背を向けたまま更に語る。

 

ゼーリエ(会長さん)も言ってたぞ? 『魔族と対話はするが、全てが無駄なのは確かだ』って。……覚えておけ。君等が魔族の鳴き声に付き合っても今日まで生き残ってこれたのは、偶々に過ぎないって事を。何時までも強大な魔力があれば、奴等の罠なんか跳ね除けるとは思わない事だ」

 

言いたい事を言いきったビザンツはとうとう歩き去っていく。

 

 

 

「”自分だけは大丈夫”、その過信が事故の元だ」

 

 

 

痛い所を突かれてしまった一行は、彼の白い背中が小さくなっていくのを黙って見送る事しか出来なかった。




ビザンツ「意図しない魔族との遭遇はヒヤリハット案件。俺も偶にあるから魔力探知技術をもっと磨かないと」



ビザンツの外見モデルはシモ・ヘイへです。
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