開店する占い屋さん。
そこで占われた者は願いが叶う代わりに、
近いうちに死ぬと言う。
そんな占い店に今日も一人……占いにやってくる者が居た。
教えていただきたく願います。
誰もが死に際に願う、もしもあの願いが叶うのならば。
そんな願いを叶えてくれる占い屋。
占われたものは願いが叶う代わりに死ぬという。
そんな変わった噂が立っている占い屋。
その占い屋に今日もまた一人………
「だから……自由に願いを叶える力なんて……
ないって言っているでしょう。」
少し長めの黒髪をした。
落ち着いた目のシンプルな服が特徴的な男。
「そこをなんとか!」
男がすがり付く。
「はぁ」と柊は呆れた様子で見る。
「死んでも良いから!」
その言葉を聞いた柊は突然ギロリと睨むように顔を向ける。
「貴方はまだ死にませんよ……当分ね」
「え?」
帰って下さいと店を追い出す。
「あの~?」
新しい客が、遠慮がちに声をかける。
振り向くと、そこにいたのは年老いた女性だった。
その顔を見た瞬間。
柊の表情が、静かに変わる。
「その顔……なにかお困りですね。」
「良ければ占って差し上げます。」
柊は人が変わったように優しげな顔つきで接客を始める。
(この人……もうすぐ死ぬ。)
「お代は必要ありません。どうぞこちらへ……」
彼はそういって椅子を引く。
「そんな……悪いわねぇ。でもなんででしょう?」
彼女はそう言いつつも椅子に腰掛ける。
「あなたは知っているでしょう。」
彼はフフッと軽く笑みをこぼして、
静かに水の入ったコップを置いた。
「噂は本当なのですね。あなたは死が見えると。」
「噂になると面倒も多いのですがね……勘違いも多くて。」
「はぁ」と息を漏らす彼の癖のようだ。
「それで?願いは何でしょう。」
柊は静かに問いかけた。
「あの子の姿を最後にもう一度見たくてね。」
ポツリポツリと声を発していく。
「うちの娘は勉強が嫌いでね、
昔からいつもいつも勉強しなさいって口煩くいってたものさ。」
昔を思い出すように語る彼女の目にはうっすらとだが、
涙がたまっていた。
「それが悪かったのかねぇ」
ある日飛びだしてそれっきりさ、
彼女はそう言って、小さく笑った。
「まぁ、今さら会っても迷惑かもしれないけどねぇ」
柊は黙って話を聞いている。
「でもね……一目でいいんだ」
「元気にしてるかだけ、見られたら」
そう言って、彼女は静かに目を伏せた。
柊はしばらく考えてから口を開いた。
「娘さんの名前は?」
「……咲だよ」
「最後に会ったのは?」
「もう十年以上前だよ」
柊はゆっくり立ち上がる。
「分かりました」
「え?」
「その願い、叶えましょう。」
柊はそういって外に出た。
しばらくして、
その手には手紙のような物があった。
「娘さんはこちらにいらっしゃると思います。」
「信じるか信じないかはあなた次第です」
そういって柊は彼女に手渡した。
「方法は詳しくはお教え出来ませんが、
出会って良かったと思えると良いですね……。」
と彼は静かに元の位置に戻っていく。
「一体どうやって……?」
突然渡された手紙に驚く彼女。
「死後のあなたからです。」
そう彼は言った。
「どうか悔いの無いように」
彼女はしばらく手紙を見つめていた。
震える手で封を開ける。
中には、短い文章が書かれていた。
『
もしこの手紙をあなたが見ているなら、
私はもうこの世にいないのでしょう。
ごめんね。
私はあなたを苦しめた母親だったかもしれない。
でも――
あなたが生まれてきてくれたことだけは、
一度も後悔したことはありません。』
手紙の最後には住所が書かれていた。
彼女は静かに涙をぬぐう。
「……あの子、ここにいるのかい」
柊は答えない。
ただ静かにコップの水を差し出す。
「あなたの願いは叶います」
少し間を置いて続けた。
「ただし――」
「時間は、あまりありません」
彼女はゆっくりと立ち上がった。
「ありがとうね」
深く頭を下げる。
柊は何も言わない。
ただその背中を見送る。
店の扉が閉まる。
静かな夜。
柊は一人つぶやく。
「……間に合うといいですね」
彼女は書かれた住所に向かった。
その夜。
住所の家の前で、彼女は立ち止まった。
震える手でインターホンを押す。
しばらくしてドアが開く。
出てきたのは、一人の女性だった。
「……どちら様ですか?」
彼女は言葉を失う。
面影があった。
小さかった頃のままの目。
「……咲?」
女性の目が大きく開く。
「……お母さん?」
長い沈黙。
そして娘の目から涙がこぼれた。
「なんで……今さら……」
彼女は震える声で言う。
「ごめんね」
それだけだった。
娘は顔を伏せる。
「……ずっと言えなかった」
「私も……会いたかった」
二人は抱き合った。
再会から数日後。
彼女は病院に運ばれた。
とある病院の部屋。
「何で……何で会えたばっかりなのに」
娘が一人、手を握りながら泣いている。
遠くから、それを見ている男が一人。
柊透。
彼は静かに目を閉じる。
「……願いは叶いましたね」
「ですが、娘さんは悲しむこととなった。
それは良かったのでしょうか……。」
そう呟いて、夜の街へと戻っていった。