【三国志×ジョジョ】徐庶(ジョショ)の奇妙な冒険   作:券王

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新野の光、劉備との邂逅

「……孔明。私は発つ。この中原を巡り、人の理(ことわり)を束ねる『真の器』を見極めてくる」

 

二〇二年の春。伝承の儀式を終えた直後、徐庶は迷いのない瞳で告げた。

パミールで培った九年間の波紋は、今や彼の血管を流れる「黄金の河」となって脈動している。だが、吸血鬼帝国と化した司空府という巨大なシステムに対抗するには、個の武勇や呼吸だけでは足りない。数万の民、数万の兵を一つの意志へと繋ぎ止め、闇の恐怖に抗わせるための『巨大な精神的支柱(カリスマ)』が必要不可欠であった。

 

「……分かりました。私はこの隆中で、貴殿が語った『生命の音色』を、戦の陣形へと昇華させる術を研ぎ澄ませましょう」

孔明は、まだ熱を帯びた自らの肺を愛おしむように押さえ、羽扇を静かに動かした。

「……貴殿が『この人こそ』と思う器を見定めたならば、その時は迷わず、私の元へ導いてください。……その時こそ、我らが出廬の刻。……この大気を、風を、黄金の呼吸で染め上げる刻です」

二人の軍師は、言葉なき誓いを瞳に宿し、それぞれの戦場へと別れた。

 

徐庶は数ヶ月をかけ、中原の動乱を疾走した。

まず訪ねたのは、江東の若き虎・孫権であった。その碧眼の奥には、偉大なる父兄の幻影を追い、一刻も早く彼らに並ぼうと焦る、若き覇者の危うい熱が宿っていた。徐庶の目が捉えたのは、主を侮る老臣たちの不協和音と、それらを束ねきれぬ孫権の未熟な支配力。……もし今、ここに石仮面という『闇の真実』を投げ込んだとしても、江東の朝廷は『百家争鳴』の泥沼に陥り、何一つ決断を下せぬまま吸血鬼帝国の牙に掛かるであろうことは目に見えていた。……それは、闇を払う盤石な光ではなかった。

 

次に向かった荊州の主・劉表に至っては、失望を通り越して戦慄を覚えた。

「……澱んでいる。この男の覇気は、死を恐れるあまり自らの殻に閉じこもり、腐敗を始めている」

表面上は君子を装っているが、その血は冷たく、静止している。曹操という巨大な捕食者が牙を剥けば、この男は自軍の兵を、民を、己の命の代わりに差し出す「生贄の供出者」になりかねない小人物であった。

 

(……いない。……人の尊厳を守り抜き、闇の捕食者に真っ向から立ち向かえる『輝き』を持つ者が、この大陸にはいないというのか……!)

焦燥と共に、徐庶は旧知の仲である水鏡先生(司馬徽)の庵を訪れた。

 

そこで彼は、運命という名の邂逅を果たす。

檀渓の濁流を、愛馬と共に命がけで飛び越え、ずぶ濡れの鎧を纏いながらも、晴れやかな顔で休息している一人の男――新野に駐屯する敗軍の将、劉備元徳。

(……なんだ、この男は。……修行の形跡もない。軍略の気配も薄い。……だが、なんだ、この心地よい震えは……ッ!)

 

徐庶が、庵の軒先で劉備の傍らに腰を下ろした瞬間。

九年間、極寒のパミールで、一切の雑味を削ぎ落として練り上げた徐庶の波紋が、かつてないほど穏やかに、そして温かく共鳴(シンクロ)を始めた。

劉備は、庵の童に笑いかけ、自らの不徳を照れくさそうに、それでいて慈愛に満ちた声で語っている。その言葉、その振る舞いの一つひとつが、周囲の人間の呼吸を自然に整え、絶望を希望へと書き換えていく「天然の浄化作用」を持っていた。

(……これだ。……これこそが、孔明という怜悧な『理』を流し込むべき、真の器……! 奴らが『死血』による恐怖で民を支配するなら、この男は、その魂の輝きで、民の鼓動を一つにするッ!)

 

劉備には自覚はないだろう。だが、彼こそが、波紋の共鳴を数万の民へと伝播させ、闇の軍勢に対抗し得る「黄金の精神」の源泉であると、徐庶は確信した。

もはや、一刻の猶予もない。

徐庶は立ち上がり、ボロボロの鎧に身を包んだ「器」の前に、深々と頭を垂れた。

「……御命(おんいのち)、お助けいたす。……わが名は徐庶、徐庶元直。……貴公の志に、わが呼吸のすべてを捧げようッ!」

 

西暦二〇二年。

反撃の波紋が、新野の地から静かに、しかし激しく鳴り響き始めた。

曹操が構築した「人間牧場」という絶望に対し、今、一筋の「陽光」が、歴史の表舞台へと躍り出たのである。

 

(第三章・完)

 

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