【三国志×ジョジョ】徐庶(ジョショ)の奇妙な冒険   作:券王

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鋼鉄の揺籃、孔融の苦悩

建安十三年(二〇八年)、元日。

 

華やかな新年の喧騒が許都の街に沈み、凍てつくような闇がすべてを支配する夜。

徐庶は、昼間の母との再会の余韻を無理やり心の奥底に封じ込め、程昱の案内で司空府の地下、漆黒の石室へと足を踏み入れていた。そこは地上から百尺。陽光の加護を絶たれた、吸血鬼たちのための「夜の都」の心臓部であった。

 

「……来たか、徐元直。……待っていたぞ」

曹操の低く、地を這うような声が、湿った石壁に反響する。

中心に据えられた玉座の周囲には、典韋亡き後の曹操の護衛役、怪力を誇る許褚が、不浄な殺気を放って控えていた。

その中央、冷たい石畳の上には、不気味な黒い「鉄の直方体」が立てて置かれていた。箱の上部からは、当代随一の名士・孔融の首だけが、力なく突き出している。その背後では、彼の妻子たちが、逃げ場のない恐怖に身を震わせていた。

 

一見すれば、それは単なる奇妙な檻に過ぎない。だが、徐庶の心眼は、その鉄の箱の内部で起きている「凄惨な循環」を瞬時に見抜いた。

その箱――『鋼鉄の揺籃(ようらん)』の内側には、中世欧州の拷問具「鉄の処女(アイアンメイデン)」の如く、無数の鋭利な刺が突き出していたのである。刺は孔融の肢体を即死させぬ絶妙な角度で貫き、再生能力を持つ半吸血鬼ゆえに、肉が塞がる端から新たな穴を穿ち続けていた。

 

「……文挙よ。貴様の体からは、僅かずつだが確実に血(いのち)が漏れ出している。……放っておけば、貴様は数刻と経たず、干からびた木屑のように枯れ果てるだろう」

曹操が指を鳴らす。許褚が重い腰を上げ、鉄の檻の錠に手をかけた。ガチリ、という不吉な金属音が石室に響き渡る。

「喉を焼くような吸血の飢え。……それらが貴様の高潔な『仁』を食い破る瞬間を、余は見たいのだ。……さあ、その鉄の檻から出でよ」

 

曹操は、冷徹な視線を徐庶へと向けた。

「徐庶。貴様が真にわが足元に跪(ひざまず)くというのなら、今ここで忠誠を示せ。この死に損ないを仕留めてみせよ。勝てば『処刑人』として母共々飼ってやろう。……だが、もし敗れるようなら、貴様も母も、もはやわが帝国に用はない。その時は二人まとめて、この文挙の餌食にしてくれるわ」

曹操の手元で、石仮面が鈍い光を放った。

 

「……文挙よ。勝てば妻子は生かしてやろう。負ければ…わかっておるな。もし貴様が戦わぬというのなら、貴様の眼前でこの妻子を『屍生人(アンデッド)』へと変え、野に放ってやろう。……仁を説いた聖人の末裔が、死と呪いと不浄を振り撒いて回る……。これこそが、旧時代の『徳』が、新時代の『力』に平伏す、最高の供物となろう」

「……な、……なんという……ッ!」

檻から解放された孔融の全身に穿たれた無数の穴がみるみる塞がっていく。そして吸血鬼としての本能が、生存のために徐庶という「新鮮な生命体」を喰らえと、彼の脳髄をかき乱す。

だが、孔融の視線は、徐庶ではなく、その背後の妻子に向いていた。

 

「……この子らを怪物にはさせぬ……ッ!!……死んでくれ、元直……ッ!」

咆哮と共に、孔融が躍り出た。吸血鬼の瞬発力が、石畳を爆砕する。

「――吸(スゥ)ッ!」

徐庶は深く息を吸い込み、黄金の波紋を両腕に纏わせた。

 

ドォォォォォォォンッ!!

 

激突。孔融の鋭い爪が徐庶の肩口を裂き、鮮血が舞う。同時に、徐庶の波紋を帯びた正拳が孔融の脇腹をわずかに掠り、不浄な肉体が「シュゥゥゥーッ」と音を立てて蒸発し、波紋の火傷を刻み込んだ。

人外の怪物と、修行によって人智を超えた身体能力を得た波紋使い。

二人の超常の存在による、音速の攻防が石室を破壊していく。

 

孔融は自らの肋骨を一本、強引に引き抜くと、そこへ溢れ出る自らの血液を纏わせた。血液は空気に触れた瞬間、ベークライトのような樹脂状の硬度を持ち、鋭利な「血の短剣」へと変貌する。

 

「……死ねッ! 死んで私を救えッ!!」

狂乱に近い孔融の無数の突き。その刃先が徐庶の眉間を貫こうとした刹那――。

徐庶は、右手の「人差し指一本」を静かに突き出した。

「――波紋吸着!」

指先に集中させた高密度の波紋エネルギーが、磁石のように短剣の刃先を捉えた。剥がれることのない物理的な結合。パミールでの基礎修行で、水の壁を登り、岩に指一本でぶら下がったあの鍛錬が、今、吸血鬼の怪力を一点で封じ込めたのである。

 

「な……ッ! 指一本で……受け止めたというのか!?」

「……文挙殿。……これしきで、私は倒せませぬ」

徐庶の静かな、しかし確信に満ちた声が石室に響く。

 

だが、孔融の絶望は、さらなる異形の技へと昇華していった。

「……ならば、……動けなくしてから……始末してやるわッ!!」

孔融は顔を歪め、全身の毛穴という毛穴から、溜まっていた血液を一斉に噴出させた。

石室の床に飛び散った血は、瞬時に赤黒く硬化し、地表を覆い尽くす「血の罠」となって徐庶の足を絡め取ろうと迫る。

 

建安十三年、元日の夜。

地獄の決闘は、まだ序盤を終えたに過ぎなかった。

 

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