ゲロ喋ります
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/ ̄ ̄/ /i⌒ヽ、| おぇーー!!!!
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ゲロを吐いた。
柔らかい感触が口を埋め尽くし、生ぬるい酸味が味覚を支配した。
吐瀉物が水面に落ちて跳ねる音がぼんやりと聞こえた。
酔っていたわけではない、そもそも下戸だから呑まない。
気分が悪かったわけでもない、むしろ今までにないくらい体調が良かった。
唐突に、本当に唐突に来た嘔吐感から始まった、原因不明のゲロだった。
未だにふわふわとする頭を便器から持ち上げ、昼間に食べたオムライスがどのような形状に変化したのかを確かめようと視線を落とした。
私の予想では食後1時間弱しか経過していないのもあって多少の形状は保っているはずだ。
しかしその予想は全く持って不正解だった。
ゲロは青色だった。
便器の中はクロマキー透過できそうなほどの青色に染まっていた。
「……は?」
何度も瞬きをし、目を擦り、頭を振り、頬をつねり、と目の前の光景の真偽を確かめるも、結果は全てこれが現実だということを教えてくれた。
私は今から内科に行くべきだろうか、それとも精神科か、はたまたどこかの研究機関に解剖されるべきだろうか。
混乱する思考が、異彩を放つ吐瀉物アーティストデビューまで至ったところで、私はそれを放棄してトイレのレバーを"大"の方向へと捻ることで解決することにした。
『ちょっと待て!!!!』
私がレバーに手をかけた瞬間、突如としてどこからか声が聞こえた。
一人暮らしの家に自分以外の人間がいるはずもないので、私はその声に心底驚いて跳ね上がった。
当然トイレの個室にいるのでその勢いでドアに頭をぶつけた。
きょろきょろと見渡しても当然どこにも人影など存在しない。
『おい!ここだ!!』
しかし声は依然として私に語り掛ける。
一つまだ見ていない場所があることに思い至り、しかしそんなはずはない、あってほしくないと私は恐る恐る便器を覗き込んだ。
『ここから出してくれ!!!』
真っ青な吐瀉物にくぼみができ、それがぱくぱくと動いている。
恐らく正確な表現としては”喋っている”というのが正しいのだろうが、私はそれをどうしても認めたくなかった。
『なあおい!聞こえてるのか!!自分で産んだなら責任とってくれ!!』
目がチカチカするような青色の物体、先ほど私が吐き出したそれが責任を問うてくる。
行くべきはやはり精神科だったようだ。
とっととこんな光景からはおさらばしよう。
『あっおい!』
ごちゃごちゃと私を引き留めるゲロを無視し、私はレバーを躊躇なく引いた。
『うおぁあああああっ────』
「……ふふっ」
ゲロがコミカルな雄たけびを上げながら流れていった。
今までに起きた事態が幻覚であったと確信した私は最寄りの精神病院へと駆け込むためにドアノブに手をかける。
その瞬間、再び猛烈な吐き気に襲われる。
心臓の鼓動に合わせて食道が隆起し、胃袋は内容物など知った事ではないと言わんばかりに収縮する。
呼吸がだんだんと浅くなる感覚と共に、私は数分前に味わったあの不快な酸味を再び吐き出した。
『おい!ふざけるな!』
甲高い怒号。
今度はこれまたクロマキー透過が楽そうな真緑の吐瀉物が唾を......否、ゲロを飛ばしながら怒鳴ってくる。
マジで汚い。
『まったく、戻ってこれないかと思ったぞ』
そう言って真緑の吐瀉物はゲロの臭いがするため息を吐いた。
マジで臭い。
もはやこの状況を現実ではないと言ってられる雰囲気ではなくなってきた、いったいどうしようか。
「……なんなんだお前」
質問ではなくもはや独り言、しかしこぼれ出た一言にキラリと目、いやゲロをきらめかせ、吐瀉物は語り始めた。
『よくぞ聞いてくれた!私は君たちの言うところの異星人……正確には別の宇宙、それも未来から来た未来人と言ったところだな。ああ、理解が追いつかないのもわかるぞ、なにせこの時代のチキュウには時間遡行技術も世界線遷移魔法も存在していないのだからな、まあまあそれはいいんだ。私の使命について話そうではぁああああぁっ────』
ごちゃごちゃと得意げに話し始めたのがムカついたので今度は”小”の方向にレバーを捻った。
先ほどよりも勢いが弱いのもあって流されまいと必死に抵抗していたが、やはりゲロは固形物ではないので残り続けることはなく、ずるりとトイレの奥底へと消えていった。
今度はその瞬間に吐き気が来た。
また気色の悪い酸味かと思えば何故かは知らないが今回は激辛だった。
想定外の出来事に辛みもあってか何度もせき込む。
これはあいつの反撃なのだろうか。
『なんで流した!今から色々教えてやる所だったろ!』
怒り心頭と言った具合で真紫の吐瀉物が怒鳴る。
紫だったら毒を吐く敵キャラみたいであまり違和感がないな、とこの状況を受け入れている自分に対する恐怖を置いておき、流した理由を伝えてやろうと口を開く。
「長い、三行でまとめろ」
そう伝えると吐瀉物は『これだから最近の若者……いや大昔の若者は……』と支離滅裂な呆れを現してため息を吐いた、臭すぎる。
『私は世界を救う使命を帯びたエージェントだ。未来で私を構成する予定の原子の大部分がこの時間の君の胃袋に集まっていたのでそれを再構築して意識を載せた。君には私の任務を成功させるための協力を仰ぎたい。』
やはり再び流すべきかと考えたが、多分また不快な思いをするだけだと理解していたので、そこから質問を重ねる。
「何から救う」
『簡単に言えば魔王だ、ここまでの大昔に戻ればほんの些細なことでそいつの誕生を防げる、バタフライエフェクトと言うヤツだな』
「どうやって止める」
『私を目的地まで運んでもらえれば十分だ、多少は動けるから自分で終わらす』
「そうしなければ何が起こる」
『最終的には空から糞便が降り注いで疫病で人類が死滅する』
そこから30分くらい質疑応答が続いた。
恐らくこれが世界で一番汚い記者会見なのだろう、充満するゲロの臭いに鼻が慣れてもう何も感じない。
正直もうなにも考えたくない、ゲロが世界を救いに来たと自分を説得してきたなら、救わしてやったらいいんじゃないかと思う。
3度の嘔吐でふらふらになった頭でそう考え、徐に立ち上がる。
ドアノブに手をかけ、吐瀉物の方を振り向く。
「……目的地は」
口を、いや、ゲロを二ヤリと歪め、吐瀉物はこう言い放った。
『JR大阪駅付近』
なんとも都合がいいことに、それは私の職場のすぐそこだった。
右に人、左に人、前に人、おそらく地下にも人。
ごった返す人ごみの中で、自分の荷物が異臭を放っていないかと気を揉んでいる人物が一人いた。
私だ。
リュックサックに詰められた2本のペットボトルには、ぱんっぱんにゲロが詰まっている、それも何故かゲーミングに発光していた。
頭上の新御堂筋が影を落とす横断歩道を渡り、ランドマークの観覧車を正面に見ながら歩いていると、カバンの中から吐瀉物が語り掛けてくる。
『この付近だ、どこか適当な店に入ってくれ』
「おい、デカい声出すな、見つかるぞ」
私の知っている展開ならカバンから顔を出して怒られるのはかわいらしい小動物と決まっているのだが、現実はゲロだった。
とりあえず指示に従い、横断歩道のすぐそばにあった牛丼チェーンへと足を踏み入れる。
店内は今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気もなく、全く持って殺伐としていない普通の店だった。
数時間前に何度も嘔吐させられて胃が空っぽだったことを思い出し、特に意気込むこともなくつゆだくにした特盛の牛丼を注文した。
『トイレへ行け』
着席するとすぐに背中から吐瀉物の声が聞こえる。
空腹を満たすのを優先したい気持ちを抑え、しぶしぶ席を離れてトイレへと向かった。
個室のカギを締め、特に便意も尿意もないのでカバンを開けて吐瀉物に指示を乞う。
「どうすればいい」
『俺を便器に注げ』
特に異論もなくその通りにする、ペットボトルのキャップを開ければ、強烈な臭いが漂い吐き気を誘う。
飯食う前になんてことをさせるんだと文句を言いたい気持ちを抑えながらどぽどぽと中身を全て便器へと注ぐ。
1677万色に輝くせいで目が痛くなってきた。
「で、次は」
『……俺を流したらミッション終了だ』
なんと、流していいのか。
『いやはや長かった、ここまで来るのに何人もの仲間が犠牲になった。最初はフンボルト、魔王の配下に捕まった俺を逃がぁああああああああぁっ────』
「…………ふっ」
なにかを語り始めたので聞こうかと思ったが、牛丼を注文したことを思い出したので冷めないうち食べるため流した。
やはりコミカルな雄たけびで流れていき、その後再び吐き気に襲われることはなかった。
席に戻るとすでに丼が置かれており、温かくて食欲をそそる湯気が立ち上っていた。
あの吐瀉物とは大違いだ。
その日食べた牛丼は、最高の味だった……と言いたいところだが、不快な体験の直後だったため、正直あまり楽しめなかった。
帰り際、背後からドンと大きな音とどよめきが聞こえたが、もう関わりたくないとそそくさと立ち去った。
後日テレビを見れば、あの横断歩道の下から13mの太い下水管のパイプが突き出ていた。
これで世界が救われたらしいが、その事実は私しか知らないし、私自身信じてもいない。
https://www.youtube.com/watch?v=M54f47dC0w8
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| | U o∴。l
| | : ∴ ol ゴクゴク!!!!
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