英雄になりたいおっさんの聖杯戦争   作:笑嘲嗤

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第3話 マスターはズルをして一人前!

 英国――ロンドン。

 

 召喚陣から迸った光が消える。

 

 そこに立っていたのは、一人の少女だった。

 

 小柄な身体に鎧をまとい、腰には剣。

 

 少女は周囲を見回すと、自らを呼び出した者たちへ視線を向けた。

 

「――セイバー。召喚に応じ参上した。君がボクのマスターかな?」

 

「成功だ」

 

 時計塔の魔術師が満足げに頷く。

 

「霊基はセイバー。問題ありません。そして――宝具についても、こちらの想定通りです」

 

「宝具?」

 

 セイバーが首を傾げた。

 

「ええ。本来のセイバークラスでは使用できないはずの宝具を、あなたの霊基へ組み込みました」

 

「……ちょっと待ってくれ」

 

「対国宝具です」

 

「ボク、セイバーだよね?」

 

「もちろん」

 

「なのに対国宝具?」

 

「はい」

 

 魔術師は平然としていた。

 

「今回の聖杯戦争にあたり、我々時計塔は可能な限りの検討を行いました。その結果――最強の騎士を召喚するだけでは不十分との結論に達しました」

 

「それで?」

 

「最強の騎士に、本来持ち込めない宝具まで持たせることにしました」

 

「…………」

 

 セイバーはしばらく黙った。

 

「それ、ズルじゃない?」

 

 部屋の隅で紅茶を飲んでいた男が、そこで初めて笑った。

 

 英国政府から派遣された男。

 

 名を、ジョン・ブルという。

 

「素晴らしい」

 

「え?」

 

「私は時計塔というところを誤解していたらしい。古臭い伝統にしがみつく、退屈な連中だと思っていた」

 

 ティーカップを置く。

 

 そして満面の笑みを浮かべた。

 

「安心したよ」

 

 ジョン・ブルは時計塔の魔術師たちを見渡した。

 

「君たちは立派な英国紳士だ」

 

「光栄です」

 

「褒めるところなのか、それ?」

 

 セイバーの疑問に答える者はいなかった。

 

 

 

 日本――東京。

 

「聖杯戦争など、ただの賭博だ」

 

 田中義一は、集められた者たちを前にそう断言した。

 

「勝者になる必要はない。最後まで生き残った者が聖杯を掴む。その瞬間に殺せばいい」

 

 あまりにも身も蓋もない。

 

 その命令を聞いていた黒装束の女――くノ一が、わずかに眉を動かした。

 

「アサシンといえば、ハサンなる者たちが召喚されると聞きましたが?」

 

「その可能性は高い」

 

「では――」

 

「だから呼ばん」

 

 田中は即答した。

 

「日本人のマスターなど、彼らからすれば粛清対象でしかない」

 

「…………」

 

「暗殺者を召喚して、自分が最初に暗殺されては笑い話にもならん」

 

 もっともだった。

 

「そこで宮内省の陰陽師たちに、召喚術式そのものを改良させた。触媒もすでに用意してある」

 

 田中が視線を送る。

 

 祭壇の中央には、一つの触媒が置かれていた。

 

「呼ばれる英雄はアサシンクラス。しかし、その霊基出力は――セイバークラスに匹敵する」

 

 くノ一の目が細くなる。

 

「暗殺者でありながら、正面戦闘も可能と?」

 

「そういうことだ」

 

 田中は立ち上がった。

 

「英国人も、アメリカ人も、ドイツ人も、聖杯を欲しがるだろう。好きに争わせておけ」

 

「我々は?」

 

「待て」

 

 短い命令だった。

 

「隠れろ。欺け。必要なら殺せ。最後の一人が勝利を確信する、その瞬間までな」

 

 そして田中は、くノ一を真っ直ぐ見た。

 

「必ずや――聖杯を誰にも渡すな」

 

 女は静かに頭を垂れた。

 

「了解」

 

 日本にとって、聖杯戦争は戦争ですらなかった。

 

 勝者の決まっていない賭場である。

 

 ならば胴元ごと、最後に奪えばいい。

 

 

 

 ドイツ帝国――ベルリン。

 

 召喚陣を囲む帝国政府の高官たちが、固唾を呑んで見守っていた。

 

 光が収まる。

 

 そこに現れたのは、一人の女だった。

 

「キャスター。召喚に応じました」

 

「よし!」

 

 真っ先に声を上げたのは、小柄な少女だった。

 

 カーラ・マルクス。

 

 彼女はキャスターを一目見るなり、帝国政府の高官たちへ振り返った。

 

「軍団を用意して!」

 

「……軍団?」

 

「うん。兵士いっぱい。銃も大砲も。すぐ西部戦線に送れるようにして!」

 

 高官たちが顔を見合わせた。

 

「待ちたまえ、マルクス君。これは聖杯戦争だぞ?」

 

「知ってるよ?」

 

「サーヴァント同士の戦いではないのか?」

 

「だから軍団を連れていくんだよ」

 

「なぜ?」

 

 カーラは隣のキャスターを指差した。

 

「この子なら、それが一番強いから」

 

 キャスターは微笑んでいる。

 

 否定しない。

 

「まさか……軍隊を聖杯戦争に持ち込むつもりか?」

 

「ダメって書いてあった?」

 

 誰も答えられなかった。

 

 数日後。

 

 西部戦線へ向かう軍用列車。

 

 カーラとキャスターだけではない。

 

 その前後には、完全武装した帝国軍兵士を満載した列車が続いていた。

 

 カーラは窓から身を乗り出す。

 

「革命のため――!」

 

 帝国軍将校たちの視線が、一斉に突き刺さった。

 

「…………」

 

 カーラはそっと拳を下ろした。

 

「ていこくのためーに、がんばりまーす」

 

「マルクス君?」

 

「がんばりまーす」

 

 隣でキャスターが楽しそうに笑っていた。

 

 軍用列車は西へ走る。

 

 英霊一騎とマスター一人。

 

 そして――一個軍団を引き連れて。

 

 

 

 アメリカ合衆国。

 

「やりたくねえ」

 

 アンクル・サムは開口一番そう言った。

 

 政府関係者たちが沈黙する。

 

「欧州で聖杯戦争? 勝手にやってろよ」

 

「しかし、英国もドイツもロシアも参加します」

 

「だから?」

 

「聖杯です。あらゆる願いを叶えるという――」

 

「ヨーロッパ人がそう言ってるだけだろ?」

 

 アンクル・サムは椅子に深く腰掛けた。

 

「モンロー主義サイコー。ヨーロッパの面倒事はヨーロッパで片付けてもらおうぜ」

 

「参加命令です」

 

「…………」

 

 召喚が行われた。

 

 光が消える。

 

 一人の英霊が姿を現した。

 

「アーチャー。召喚に応じた」

 

「おう」

 

「……それだけか?」

 

「アンクル・サムだ。よろしく」

 

「よろしく」

 

「…………」

 

「…………」

 

 しばらく二人で見つめ合った。

 

「聖杯、欲しい?」

 

「別に」

 

「俺も」

 

「そうか」

 

「じゃ、適当にやろう」

 

「ああ」

 

 握手。

 

 こうしてアメリカ代表の方針は決定した。

 

「死なない程度に頑張るぞ」

 

「了解した」

 

 政府関係者が慌てて割って入る。

 

「待ってください! 国家の威信が!」

 

 アンクル・サムは面倒くさそうに振り返った。

 

「じゃあ勝てそうだったら勝つ」

 

「そういう問題では――!」

 

「よし、アーチャー。行こうぜ」

 

「ああ」

 

「どこへ?」

 

「知らん。ヨーロッパ」

 

「広いな」

 

 二人は歩き出した。

 

 参加国の中で最もやる気のない陣営が、こうして聖杯戦争へ送り出された。

 




英国 セイバー チート上等
日本 アサシン 聖杯なんてギャンブルなんて興味ない。優勝者抹殺
ドイツ キャスター 帝国に忠誠心なし!名前からして革命家気取り
アメリカ アーチャー 絶賛モンロー主義中。放っておいてください。
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