聖園ミカが空崎ヒナのスタンドみたいな守護霊になった世界線 作:レイトウカイトウ
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今ココ
大遅刻してごめんなさい、本当にすみませんでした
シャーレで燃え盛る炎、そして襲撃している巨大な黒い犬を見て、頬に一粒の水が流れるのを感じた。
ホラー、そんな雰囲気が漂っている。謎の生物、黒くて不気味な目、ミカ(ほとんど幽霊)以外の攻撃が通らない、これらは全て、B級ホラー映画の特徴に合致している気がする。
「……誰も来てない?」
「先生がピンチなのに、どうして?」
ミカと、アコを含めた風紀委員たちを連れて来て、私は疑問に思う。
誰もいない。先生の危機だというのに、誰もいないだなんて、おかしい。状況はホラー映画みたいで、本格的に怖くなってくる。
「委員長! 他の学園でもあのような黒い犬に襲われているらしいです!」
「!?」
アコが、手に持っているスマホを見ながら言った。
なんだ、そういう事か。タネがわかってしまえば、ホラーは怖さを一気に失っていく。
「連邦生徒会、ミレニアム、トリニティ、山海経、ヴァルキューレ……主要な学園であの犬が発生しているらしく、おそらく対応に追われているかと!」
「……」
しかし、緊迫した様子のアコに、一抹の不安が過る。
あの犬は、ミカにしか倒せない、そんな気がする。今すぐトリニティに向かわないと、ミカの仲間たちが危ない。
「……ヒナ、迷わないで」
「……良いの?」
ミカは、冷静に言う。一切の焦りが伝わって来なくて、少し薄情な子に見えてきた。
「薄情じゃないし。それより、早く先生を助けよう」
「でも、あなたの仲間が……」
「良いから。今は先生優先。それに――」
目を閉じて、少し一考したミカ。
「――トリニティは大丈夫。だから、行こう?」
「……わかった」
放たれた言葉には、覚悟が感じられた。
全く焦っていない、そんな事は全然ない。だけど、先生を案じていて、仲間を信頼しているからなのか、迷いは感じられない。
なら、私もそれに応えないと。
「アコ、あなたたちは周りの住民を助ける事。ヴァルキューレですら身動きが取れない今、私たちが干渉するしかない」
「わかりました!」
この状況、ヴァルキューレが動けていない事から、非常にまずい。周りの住民たちは避難できているのか、もしかしたら逃げ遅れている人がいる可能性だってある。
「……ミカ、任せるわ」
「また?」
「さっきの通り、あれはあなたの意志でしか倒せない。だから、ミカだけが頼りよ」
「もう、しょうがないなぁ~」
周りの住民たちはアコたちに任せる、そう考えて、私は瞑想を始めた。
◇◇◇◇◇
「あ、また眠ったようになって……」
ヒナから意志を託されて、私は大きな犬を見る。
周りに小さな犬はいない。もしかしたらって最悪な想像をしてしまい、すぐに頭を振って払う。
「……ヒナったら、私の気持ちを察してるくせに」
捨て台詞みたいに吐いて、気持ちを整理する。
さっきはカッコつけて言ってみたけど、本当はナギちゃんとかセイアちゃんを助けに行きたい。でも、先生も助けたい。
「……もし元の状況に戻ったら、ナギちゃんにお説教されるんだろうなー……セイアちゃんもうるさそうだし」
そう思いながら、とりあえず宙に浮く。
ヒナの身体を引っ張っているのはそうだけれど、重みはあまり感じない。いつもは私が引っ張られる側だったけど、立場が逆転してる。
「……」
少し引っ張られてる感覚はある。いつかのヒナも、こんな感覚があったから、自分で動くように言ってきたのだろう。
全く動かなくて、意志を感じられないヒナ。私が起きているから意識はあるはずだし、どうやったらこんなに大人しくできるのか、全部が終わったら訊いてみよう。
気が付くと、巨大な犬の近くに来ていた。
「さっきは透明な壁みたいな物があったけど……やっぱりある」
犬を殴れる距離に近づこうとすると、見えない壁に阻まれる。
流石にさっきと同じような手順で攻略すれば良いはず。だから、犬の下にある、不気味な目が多数ある黒い沼に入った。
「え」
驚いた、柱が八個ある。もしかして、さっきの二倍は動かないといけないかもしれない。
まあ良いや。さっき溜まっていた鬱憤を晴らすチャンスとして、思いっきり壊してしまおう。
「ギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!」
「うわぁ、さっきよりめんどくさそう……」
ゲヘナで戦った犬より二回りくらいは大きいし、咆哮も耳を塞ぎたくなるくらいにうるさい犬がいた。
もちろん小さな犬も無数にいるわけで、なんてめんどくさいのだろうかと、セイアちゃんくらいのお気持ち表明ができてしまいそう。
「……まあ、関係ないや。犬は空を飛べないわけだし」
相手が強くなっても関係ない、私なら相手を破壊できる。さっきので自信は付いたし、ストレス発散も十分にできると思う。
都合が良くて助かる。油断してもヒナが道連れになってくれるし、ただの出来レース。
「グギャァァァァァァァ――」
「うるさい」
「!?」
八つの柱とそれに結びついていた鎖を一瞬で壊した後、とりあえず一発犬を殴った。
これが気持ちいい。小言がうるさいセイアちゃんに対しては本気で殴れないけれど、悪に対しては遠慮なく殴れる、
「ギャン! ギャン!」
「はーい、うるさいから黙ってねぇ☆」
「ギャオン!?」
ねっとりじっくりと、語尾を伸ばしながら言う。言葉は相手に届いていないんだろうけど、雰囲気くらいなら感じ取ってくれたのかな。
殴ると良い声で鳴いてくれる。まるで音の鳴るサンドバッグみたいに、全力で殴りまくる。もちろん拳が分身して見えるような速さで、最大限に。
気持ち良い、気分が良い、波が最高潮、中毒症状を起こしてしまいそう。
「ほらほら、もっと鳴いて。私を満足させるくらい」
「ギャフン……」
「……もう終わり?」
炎を吐いてくるわけでもなく、抵抗をしてくるわけでもなく、ただ殴られただけ。結果、すぐに消滅してしまった。
小さい犬たちもいなかったように、消滅する。
「……つまんないな」
「物騒すぎる……早く先生を助けに行くわ」
「はーい」
いつの間にか意志を取り戻していたヒナが、落ちると綺麗に着地する。
「できるだけ早めに行く」
「先生を助けないとね☆」
「うん。大きくジャンプするから、準備は良い?」
「いつでも大丈夫だよ」
「そう」
ヒナがそう言うと、凄い勢いでジャンプした。
一っ飛びで、シャーレの窓に辿り着く。窓を割るっていう意志が来たから、それに従って拳を振るうと、窓が割れて中に入れた。
「おや、誰か入ってきたみたいですねぇ……?」
「ヒナっ……!?」
シャーレに入って最初に見たのは、燃え盛る執務室の中で、向かい合う一人の先生と一人の生徒だった。
◇◇◇◇◇
「……あなたが主犯格ね?」
「さて、何の事でしょうねぇ?」
ねっとりと、うざったい口調で言う生徒、明らかにシャーレ炎上事件、それどころかあの大きな犬の事件に関与していそうな人がいた。
「ヒナ、今すぐ――」
「先生は黙ってて」
「なんか酷い……」
私に逃げて、だなんて言いそうな先生を黙らせて、黒幕を睨む。
「どうやってここまで来たのか知りませんがぁ、手前さんは逃げた方が良いですよぉ?」
「あなたは誰? こんな事をして、許されると思ってるの?」
「話が通じませんねぇ、これだから理解力の低い人はぁ――」
「チッ」
相手が中々名乗らないので、思わず銃弾を発射する。しかし、効いてる様子は無い。
「仕様がないですねぇ、教えてさしさげます。手前は箭吹シュロでぇす」
「ふーん。私は空崎ヒナ、こっちは聖園ミカよ」
「よろしくね☆」
「こっちぃ……? 何を言っているのかわからないですぅ……」
「……見えないのね」
少し残念に思いながら、自己紹介を済ませる。
「ヒナ、気を付けて。この子は無敵だから」
「そのようね。銃弾が効かないのだから」
「そうですよぉ? 手前には誰一人傷を付けられないんですからぁ」
「……その口調、ふざけてるの?」
語尾を伸ばしている相手、箭吹シュロに訊いてみる。
いつもなら問答無用で殴りつけるところだけれど、相手の素性が知れない今、警戒を怠らないようにする。先生も最大限警戒しているから、猶更だ。
「いえいえ、手前は真剣ですぅ……先生という邪魔ものをぉ、この世から消してしまうのにぃ……」
「やっぱりふざけてるのね」
「無駄ですよぉ、手前さんでは手も足もでませんからぁ」
「……」
「良いですねぇ、その目。手前の怪談に相応しいですぅ」
相手はミカが見えていない、だったらさっきの犬みたいにすれば良い。ただ、犬と人間?では、相手が違う。イレギュラーが発生するのがめんどくさい。
炎が燃え広がってきている。急いで先生を連れて脱出しないと。
「先生!」
「ヒナ!?」
先生を抱っこするという意志を持って、駆け寄る。
「無駄だって言っているでしょうがぁ、わからないんですかぁ?」
「無視☆」
「……」
「ハァ?」
箭吹シュロを無視しながら、ミカが先生をお姫様抱っこする。
そのまま、私は窓の外から飛び降りる。しっかりと羽を使って滑空し、先生に被害を及ぼさないようにする。
「えっと、ミカが抱っこしてくれてるのかな?」
「そうよ」
「えへへ」
できるだけ炎の少ない所に着地できるように、私は慎重に降りていく。
少し大きめのタブレットを持っている先生は、驚きながらも状況を飲み込んでくれた。
「二人とも、助けてくれてありがとう」
「手前から逃げるだなんてぇ、できませんよぉ?」
「……パラシュートが無くて大丈夫?」
「……ぎゃああああああああああ!!!!!!!!」
先程の箭吹シュロが、無様に落下した。
「あははははは!!!!!」
「ちょ!? 揺れてる!」
「ミカ、落ち着いて」
「ごめんごめん、あまりにも面白くて……あはは!」
思わずミカが噴出した。
そりゃあ、普通に落ちたらそうなる。逆に、なんで話しかけられたのか不思議だ。
「あの子ってバカじゃない? そうじゃなかったらお笑い芸人でも目指してるのかな?」
「……まあ、バカである事は同意するわ」
「手前を侮辱するなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
努めて冷静に、聞こえないように言ったつもりだったけれど、届いてしまったらしい。
配慮してあげたのに、地獄耳が過ぎる。私の配慮を無駄にするなんて許せない。
鈍い音が聞こえた。下を見てみると、全身が地面に埋まった箭吹シュロが見えた。
私はその二の舞にならないように、しっかりと滑空して着地する。
「ふう、無事に降りれたわね」
「……大丈夫かな」
「……あぁ! めんどくさい!」
怒りを露わにしながら、頑張って箭吹シュロが地面から抜け出してきた。
先生も思わず心配していたけれど、相手は銃弾が効かない、この程度なら大丈夫だと思う。
「
「大丈夫そうよ」
「あはは、怒ってる☆」
顔を存分に歪ませて、箭吹シュロが怒号をあげた。
「何もできないくせにぃ!! 手前を倒せないくせに!! 調子に乗るなぁぁぁぁぁ!!!!!」
どんどんと顔を歪ませていく相手、声も汚くなっていく。
「手前は無敵なんですぅ!!
「そういえばあなた、怪談が好きなようだけど」
「手前は怪談家でぇ、あの犬を出したのも、シャーレを炎上させたのも手前ですぅ。どうですかぁ? 恐れ戦きましたかぁ?」
「ふーん……」
先程の黒い犬を思い出しながら、私は可哀そうな人を見る目で相手を覗いた。
「なんですかぁ? その目ぇ……気に食わないですぅ!」
「二流怪談家が何も言う資格は無いわ」
「はぁ!?」
「どちらかと言うとあなたのやっている事はホラーだけれど、ホラー家としても未熟。何もわかってない」
「手前をバカにするなぁ!!」
相手がこちらに炎を放ってきた。
その炎は、私に届かずにミカにかき消される。涼しい顔でいるミカ、熱くもない炎に、もはや憐れみを感じてきた。
「良い? 怪談はホラーと違って、人の幻覚がベースなの。それなのにあなたは犬なんていう実体を出してる。その時点でホラーよ。最も、ホラー家としてもあなたは未熟なのだけれど」
「素人がぁ!」
「素人でもわかる。怪談を見える物として扱ったあなたは、もはや怪談家として隅に置けないわ」
ただの個人の主張、合っているかなんて関係ない。
「何がいるのかわからない、だから人はそういう存在を作って、安全地帯を作る。それを見えるようにするって事は、もう怖い物でも何でもない」
「黙れぇ!!」
「今から見せてあげる、本当の怪談っていう奴を……『ミカ』」
「お仕置きの時間だね!」
そして、私は目を開けたまま、全てをミカに委ねた。
◇◇◇◇◇
「本当の怪談? バカにしてるのはそっちですよぉ?」
「……」
「えっと、ヒナ?」
ヒナが黙り込んで、先生が心配そうにする。
「あはは、黙りこんじゃいましたねぇ?」
ここぞとばっかりに、相手は歪んだ笑顔を浮かべた。
今から起こる事を何も理解していない、それは先生も同じだ。そして、今のヒナも、わからない。
「……操れる。やった! ヒナを操れるよ!」
ヒナが、ゆっくりと歩き始めた。実際にはヒナを操っているのではないけど、実質そうなっている。
今までは、ヒナが私の意志を制御していた。だけど、今は立場が逆転している。私の意志に沿って、ヒナが行動するようになった。
「無意味に向かってくるんですかぁ?」
「……」
「これだから学習しないバカは困りますねぇ」
依然、相手は煽り続けてくる。正直、特にダメージは受けてない。
「……」
「まあ良いですよ、手前は動きません。まあ、絶望するのがオチだと思いますけどねぇ……」
「ヒナ……」
今から何をするのか、相手はもちろん、先生すら知らない。いや、察しているとは思うけど、効果があるとは微塵も考えていないだけかな。
確かに、黒い犬に対して効果があった方法が通用するとは限らない。でも、自信はある。
「……さてと、君には現実を見てもらうよ☆」
「は? 手前さん、口調が違う――」
「オラァ!!!」
「あぶぅ!?」
なぜか私の代わりにヒナが煽る。ピースサインを作って、目の所に置いて可愛らしいポーズをしてる。それに対して相手がツッコミを入れようとしたところに、それを無視して一発決め込むと、予想通り攻撃の感触があった。
殴っている時に考える事じゃないけど、私の口調を真似したヒナって結構かわいいかも。
「な、何が起こって……?」
「ヒナ、今の可愛い! もう一回やって!」
「はーい☆」
先生の要求に応えて、ヒナは先生の方を見て、さっきと同じポーズをする。今度はウインクをしながらだ。
「て、手前を無視するなんて「邪魔だよ☆」ギャァぁあっぁああ!?」
この、煽り口調でしか喋れなさそうな生徒は、ぶん殴っておこう。
ここまでの惨事を作り出したんだから、羽沼マコト以上の制裁が必要、絶対そう。ラッシュを食らわせて、ボコボコにしてやる。
「アガガガガガガガガガ――」
「良いね! とってもかわいいよ!」
「えへへ、嬉しい……」
私が敵を殴りまくっている間に、先生とヒナは呑気な会話をしてる。
うん、まるでカオスだ。私は敵の顔面に拳を当てまくっているというのに、温度差が酷い。
考えてみてほしい、私が殴り続けていると衝撃波が発生して、周りの炎が消えているというのに、先生とヒナは自分たちの世界に入っているのは、流石に場違いだろう。いや、ヒナには今意志が無いはずなんだけど、どうして。
「見てるだけでイラついてきたから、八つ当たりしよ」
「ベベベベベベベベベベベベ――」
私の手に伝わってくるのは、殴った感触のみ。
顔面を殴っているからなのか、手に唾とか鼻水とか、そういう汚い物に触れている感覚がある。ヒナはこれを感じているはずなのに、どうして冷静でいられるのだろう。
いや、確かに私が敵の顔面を殴るのをやめれば良いって、その通りだけど……やっぱり顔面を殴りたいじゃん。でないとあんまり気持ちよくならないし。
それにしても、羽沼マコトを殴ってた時はこんなに汚くなかったはず。この子がおかしいだけかも。
「――ギギギギィギギギギャァァァァ!?!?!?!?」
トドメと言った感じで、最後の一発を重めに殴ると、相手は空の彼方に飛んで行った。
「え、何が起こったの?」
「……うぅ」
「ヒナ?」
流石に、敵が遠くに吹っ飛んで行ったら先生もそっちを見た。それと、ヒナが急に恥ずかしがる。
うん、意志が復活してるね。ヒナの意志が私に流れ込んでくる。
「……はぁ、終わったぁ……」
敵を吹っ飛ばして最初に感じた事は、安堵だった。
こんな状況を引き起こした本人に対して激しい怒りを感じていたのは事実だけど、先生は無事――というかほとんど傷がついてなかったし、攻略法が普通にあったし、ヒナも私も初対面の人だったりで、羽沼マコトに対して感じた程の怒りは無かった。
「……みんなに連絡してから、トリニティに行くわ」
「そっか、他の学園も大変だったね。今すぐ助けに行こう」
恥ずかしがりながら言うヒナに、先生が同意する。
何がしたかったのかわからない今回の騒動は、幕を閉じた。
◇◇◇◇◇
「終わったぁ……」
力なく、ミカが呟いた。
シャーレ炎上騒動から一週間、いろいろと事後処理に追われて、しっかりと疲れた。
「はぁ……問題児が復活するタイミングだったのが……」
「こんな状況でもいつも通りだったね」
問題児たちは、完全復活を遂げた。さらに、問題が起こった事に乗じて暴れ始めた。
ミカと私のコンビネーションが上がった今だったからこそ、徹夜しない程度には鎮圧できたけれど、また復活したときにめんどくさい事になるんだろうなって思うと――
「……考えないようにしよう」
「無理じゃない?」
「ミカ、もしかして私の心が読めてる?」
「意志なら伝わってきてるよ。ヒナもそうでしょ?」
「そうだけど……」
小首を傾げながら言うミカ。私の意志だけから考えている事を読み取るっていう事は、結構鋭い子であるのかもしれない。
「ふぅ、百鬼夜行の百花繚乱?が騒動の解決に動いてくれたのは本当に助かったね」
「そうね。おかげ様で、私たちの負担も軽くなった。あの後の、箭吹シュロはどこだって言うのは凄い迫力があったけれど」
ミカが言った事に対して同意する。
あの後、私たちはまずトリニティに行って、黒い犬を対処した。その後はミレニアムに行って同様に対処した。
そして、他の学園に行こうとしたら、百花繚乱の活躍を知って、一息付けたって感じ。その人たちから多大なる感謝をされて、その後に首謀者の事について根掘り葉掘り訊かれた。
「どこか遠くに吹っ飛ばしちゃったし、わからないよね」
「マコトの時は全く吹き飛ばさなかったくせに、どうして?」
「だって、汚かったっていうか……」
両手の人差し指をちょんちょんと当てながら、ミカは言い訳する。
確かに、箭吹シュロはマコトと違って鼻水、涙、唾などが出て、それがミカの手を汚していた。その感覚は私にも伝わっていたし、それで怒りというか、呆れの感情の方が強かった。
マコトに対しては腸どころか全身が燃え上がるような怒りが湧き続けて、殴る度に快楽を覚えていた。それに対して、箭吹シュロに対しては激しい怒りは感じたものの、段々と可哀そうになってきた。
「まあ、仕方ないわね。普通は相手を蹂躙してると、段々と可哀そうになってくるものだし。マコトに対してはそうならないけど」
「そうだね。あの子、やってる事は非道だったのに、あんまり怒れないっていうか、憐みが凄かったな」
憐み、そう言うのは簡単だが、要は見下している。ミカも私も、あの子の事を下に見ていた。
「とりあえず、羽沼マコトを殴りに行こう☆」
「やめなさい。今回は悪い事をしていないでしょう?」
「はーい」
「とりあえず、今から先生に会いに行く。遅くなっちゃったけど、ゲヘナの事について事後報告しないと」
「そうだね」
本当は先生に会いたいだけなのは察せられていると思うけど、建前を言って私は先生との約束場所に向かう。
あれから、先生は全く傷も付いていなかったし、診察しただけで終わったらしい。いろいろな生徒から心配されていたらしいし、アコも会いに行ったらしいけど、ミカと私に限っては忙しすぎて行けていなかった。
「先生にたくさん褒めてもらわないと、やっていけないよね」
「うん、その通り」
「早く会いたいからさ、空を飛んで行こう?」
「わかった」
ミカに意志を託して、私は瞑想をした。
◇◇◇◇◇
「お、ヒナ……とミカかな」
約束した場所、ゲヘナ郊外にあるカフェにて、先生が一つの席に着いていた。
「先生、待った?」
「ううん、今来たとこ」
決まり文句を言いながら、先生は笑顔で言う。
ヒナは、そのまま先生と相席した。
「ミカにはとても助けられたね。改めてお礼を言うよ、ありがとう」
直球で言われて、思わず照れる。
この一か月、私はヒナ以外に認識されていなかった。もちろん、あの変な生徒も私の事が見えていなかったし、犬だって見えていなかった。
ありがとうって言われたのは、ヒナ以外には久しぶりだ。
「嬉しいなぁ……」
「私も、スタンド能力が欲しいなぁ。近距離パワー型が欲しい」
「……?」
思わず呟いていたら、先生がまた訳のわからない事を言った。
スタンド、一か月くらい前に聞いた概念。先生は似てるって言ってるけど、多分違うと思う。
先生が言ってるそれは、全部自分で操るものみたいな感じ。だけど、私は結構違う。基本的にはヒナが私の意志を制御するけど、ヒナが意識を手放さずに意志を放棄した場合にのみ、私がヒナの意志を制御する事になってた。
関係ないけど、ヒナって結構凄いかも。私だったら意志を手放す事ができなさそうだし、高等技術が過ぎる。
「銃弾を全部掴んで、時を止めて、無駄無駄って連呼したい」
「?」
「人間を辞めたいし、石仮面を被りたい」
「何を言ってるの?」
先生が、自分の世界に入り込んでしまった。
羅列された単語を理解するために脳を使ったけど、糖分の無駄だから即刻止めた。
「まあ、ヒナとミカの状況が羨ましいんだよ。どこかからスタンドの矢が降ってこないかなー」
「矢?」
「キヴォトスなら銃弾かもね。それは置いておいて、最近はどうだった?」
先生は、私たちの近況を訊いた。
それから、お互いの状況について、先生とヒナは話した。ゲヘナの問題児たちがここぞとばっかりに暴れ始めたり、そのせいで後始末が大変な事になったり、それでも私とヒナの連携で徹夜だけは避けたり、いろいろとヒナは語っていた。
先生の方も、本当に大変だったらしい。あれからたくさんの生徒たちが集まってきて心配してくれたらしいんだけど、それ以上に修羅場という物を経験して疲れたって。箭吹シュロという生徒が犯人だってどこからか聞きつけた生徒が、その子をボコボコにしようなんて多くの生徒を誘っていて、止めるのも大変だったとの事。
「はあ、本当に疲れすぎて、しんどい」
「お疲れ様、がんばった」
「ヒナもね」
自然と、先生はヒナの頭を撫でていた。
ずるい、羨ましい。先生にハグされて、癒されたい。
「あと、ミカも、お疲れ様」
「先生とハグしたい!」
「……はい」
私の意志が伝わって、ヒナは先生に抱き着く意志を持った。
「えい☆」
「!?」
先生に抱き着く。もちろん、先生は驚いている。
気持ちよくて、ずっと抱きしめていたい。
「もう、いきなり抱き着くから思わずビックリしちゃったよ」
「ごめんなさい。でも、良いでしょう?」
「うん。ミカも、私と触れ合いたかったんだよね」
困惑しながらも、先生は私を受け入れてくれている。
普段は適切な距離を保ってくる先生だけど、私の事が見えない今なら、こういう事だってできるんだから。
「……今回ばかりは、ミカの事を甘やかしてあげて。ミカ、私以外と碌に絡めていないから、寂しい思いをしているの」
「もちろんだよ」
「……うん」
先生に甘える、普段なら周りの目が気になってできない事を、今はできる。
ヒナがいたから、実際はあんまり寂しい気持ちにはなっていない。だけど、やっぱり自由に先生と絡みたいし、ナギちゃんとセイアちゃんとも会いたい。もちろんコハルちゃんとか、ヒナ以外の子と一緒にお話ししたいって、そんな願望が私にはある。
この状況がいつ終わるのか、待ち遠しい。楽しんでいた最初が嘘のようだ。
「……そういえば、その状況から元に戻る方法って見つかった?」
「ううん、見当がついていなくて」
「うーん、そろそろ戻らないと、ナギサがミカ捜索隊を派遣しそうだからなぁ」
「まずい、本当にまずい。いくら捜しても私が見つからない状態なのに」
ナギちゃんも行動に移そうとしているから、早く戻りたい。それなのに、その方法がわからない。
急にヒナの部屋に来て、幽霊みたいな存在になっていた。前日までそんな兆候は全くなくて、意味を理解しきれない。
「……まあ、もう少しナギサを説得してみるよ。時間の問題だと思うけど」
「わかった」
とりあえず、元に戻る方法は各々探すって事にして、話題を切り上げた。
「コユキと仲直りできたから、悪い事ばかりでは無かったんだよね」
「犯罪者……」
「ま、まあまあ……」
その後、しばらく先生と雑談をしてから、帰った。
◇◇◇◇◇
「ふわぁ、眠い」
「今日の分の仕事は、何とか終わらせたわね。まあ、明日はまた多くなっているのでしょうけど」
深夜一時、仕事を終わらせる事ができた。
ミカのために、私は部屋に行って、寝る準備をする。
「歯磨き、顔洗い、着替え……それが終わったら就寝だね」
「うん。ぱぱっと済ませる」
ミカと感覚や意志を共有するようになってから、私は規則正しい生活サイクルを意識し始めた。
今まで仕事に追われていた事も、ミカと協力して早く終わらせたり、テロリスト共を制圧したり、ミカのおかげで生まれた余裕、それでミカの気持ちを崩さないように意識せざるを得なかった。
その結果、私のサイクルが正常になっていた。
「羽沼マコトがそろそろ復活しちゃうから、朝一でボコボコしに行こうよ」
「めんどくさい」
「良いじゃん! 定期的なストレス発散は大事だよ!」
「そんな事を言われても……」
「ね? ね?」
「……勝手にして」
「やったー!」
ミカがあんまりにもしつこいから、渋々了承する。
朝は、意志を放棄しておこう、ミカのやりたいようにさせてあげよう、マコトを殴る時だけその意志を持ってあげよう。
本当に、ミカはマコトが嫌いだ。いつも恨み事を呟いているアコよりも嫌いな気がする。ゲヘナを恨む気持ちがあるにしても、マコトに対してはレベルが違う。
「あなたって、マコトに恨みがあるの?」
「傍若無人な議長に対して殴りたいって思うのは普通じゃない?」
「……おやすみ」
「えー、もっとお話しをしよー?」
「眠いの。夜更かしは美容の天敵って、言ってたじゃない」
「せめて、寝落ちするまで話そうよ」
「……」
やけに私と話したがるミカに、違和感を覚える。
「ほら、明日から元に戻る方法を探すわけだし、離れ離れになりそうでさ」
「良いんじゃないの? あなたの嫌いなゲヘナとはおさらばできるし」
「そうだけど! ヒナとは結構仲良くなれたなって……」
「この状況だからだと思う。元に戻ったら嫌いになるわ」
「それは寂しすぎるよ!?」
「そんな物なの。私の意志があるからあなたが抑えられてただけ」
「えー?」
寂しい、そう言われても、あまりピンとこない。
ミカがいなくなったら、元に戻るだけ。いつも通り仕事をして、いつも通りテロリストたちを取り締まって、いつも通り徹夜をするだけ。何も寂しがる必要なんてない。
「それじゃ、おやすみ」
「今夜は寝かさないからね!」
「めんどくさい……」
ミカがあまりにも話しかけてきたから、結局お話をするはめになって、寝る時間がいつも通りになってしまった。
◇◇◇◇◇
「ふわぁ……」
朝が来た。いつも通りの日常が始まる。
「ヒナ、おはよー」
重い体を起こして、挨拶をする。一か月も続けば習慣化されるもので、起きたらそう言うのが日課になっていた。
しかし、返事が無い。いつも返ってくるはずの言葉が、全く耳に入ってこない。
「……あれ?」
ベッドから降りて、ヒナを捜す。ドッキリと称して物陰に隠れているかもしれないから、物をどかしてみる。
しかし、どこにもいない。
「って、ここ私の部屋だ」
一か月ぶりに来た私の部屋、それに気が付いて、初めて理解する。
足が地面に付いている。それに、ヒナの意志に関係なく物が触れる。もちろん、壁を通り抜けようとしたらぶつかった。
「……元に戻ったのかな」
そう呟いて、急に寂しさが押し上げてくる。
一か月前と同じく、私は動ける。その期間で人間のような行動をしていなくても、幼い頃から身についていた事は、そう簡単に失われはしないらしい。
「……まあ、仕方ないか」
急にいなくなってしまったヒナ、その寂しさを忘れて、私は通学の準備をした。
準備が終わって、部屋を出てから、ナギちゃんとセイアちゃんが待っているであろうティーパーティの部屋に向かう。一か月ぶりに顔を出したら、どんな顔をされるのか、気になってきた。
「セイアちゃんはどうでも良いとして、ナギちゃんは凄く気になるな」
勘が良くて察していたであろうセイアちゃんはともかく、何も知らないナギちゃんの反応は、きっと面白いはず。
さっきの寂しさを紛らわせるように、ワクワクした気持ちが湧いてきた。
「……時間があったら、ゲヘナに遊びに行こうっと」
◇◇◇◇◇
「セイアさんも先生もミカさんを甘やかし過ぎです!」
「そうだが、ミカも多感な時期だ。少しは自由にさせてやるのも興だと思うよ」
「そうだよ。ミカもそういう時期なんだよ」
部屋の中から、そんな会話が聞こえてきた。
ナギちゃん、そんなに私の事が心配だったのかな。とても嬉しい。
だけど、今部屋に入ったらめんどくさくなりそうな気がする。
「そろそろ帰ってきてもらわないと困るのに、どうしてお二人はミカさんを庇うのですか!?」
「まあ、ミカの居場所を知ってるからだけど……」
「では教えてください、私が迎えに行きます」
「落ち着いてくれ、今の君は錯乱状態にある」
「そうだよ、落ち着いて、ナギちゃん」
そーっと部屋の中に入って、会話に参加する。
さり気なく会話に参加すれば、何とかなるかなって、そういう意図があるんだけど、どうだろう。
「……」
「え、ミカ?」
あ、ダメっぽい。
先生とセイアちゃんは驚いた様子でこっちを見てくる。だけど、ナギちゃんは無言で睨んできてる。
目力が強いって言うか、怒ってるっていうか、呆れてるっていうか、とにかく怖い。
「……」
「な、ナギちゃん?」
「……言う事、ありますよね?」
「ごめんなさい」
圧が強くて、謝罪の言葉を羅列する。
「……全く、私がどれだけミカさんの事を心配したのか、わかりますか?」
「うぅ……」
「それに、ここ一週間は大変で大変で……それなのに、全く戻って来なかった理由を、説明願えますか?」
「……遊んでました」
「おや、話をしっかりと聞いていなかったようで。私は理由を聞いているのです。あなたの事情を聞いているのではありません」
「えっと……」
「……何をしていたのですか?」
私に詰め寄って来るナギちゃん、まるで毒蛇に睨まれたくらいには怖い。
とにかく、言い訳を考えないと、一か月間の事を正直に話しても、信じてもらえる気がしない。先生は謎の単語を言って信じてくれたし、セイアちゃんは持前の勘で状況を察してくれたけど、普通の人には信じてもらえないだろう。
実際に、ゲヘナの連中は全く信じていなかったし。
「ま、まあまあ、ナギサには言えない所かもしれないし……」
「ほう。そんなに危険な場所に行っていたと」
「ナギサ、たまには良いんじゃないか? ミカも、たまには羽目を外したかったのだろう」
「いつも外している気がしますが」
「うーん……」
結局、ナギちゃんを説得するのに、大分時間を食われてしまった。
◇◇◇◇◇
「……はぁ」
監獄に閉じ込められた私は、反省文を書かされていた。
一週間はここに閉じ込められるらしい。食事は三食ロールケーキだし、監視カメラは十個くらい置いてあるし、厳重にも程がある。これが一か月くらい行方を晦ました私への罰か、それにしては重いような気がするけど。
「仕事はここに持って来ますので。それと、毎日来ますね」
「出してー」
「反省してください。私の心配を無碍にした罰です」
「えー」
「あら、一週間断食生活がしたいだなんて、ミカさんは想像の斜め上を行きますね」
「反省するからそれはやめてね?」
満面の笑み、だけど目が怖いナギちゃんに、心が震える。
誰か助けて。先生とセイアちゃんはナギちゃんに怯えて何も言ってこなかったし、助けてヒナ。スマホを取り上げられてるから連絡できないけど、何とか意志を伝えられないものか……できなさそう。
この一か月間が結構楽しかったから、絶対に退屈する。暇で暇で、下手したら暴れてしまいそうだ。
「では、また明日来ますね」
「はーい」
冷たい声で、ナギちゃんは去って行った。
「……はぁ、つまんない」
反省文を書いて、完成させていく。
何が起こって、何をしていたのか、細部まで手を抜かないで記載して、それに対する謝罪、贖罪、二度とやらないという誓いをさせられて、嫌になっちゃう。というか、別に私は望んであの状態になった訳でもないから、濡れ衣だ、
「ヒナは何をしてるんだろ」
一か月で仲良くなった戦友を思い浮かべる。
ゲヘナでの一か月は、楽しい事が多かった。仕事が多かったり徹夜したり、問題児を殴って気絶させたり、大変でもあったけど充実していた気がする。
何より、ヒナの事をよく知る事ができたのが、一番良かった。
「反省文、ヒナとの思い出話で全部埋めちゃえ」
もはや感想文みたいに、一か月間の記憶を書き出していく。私の思い出、色が全く抜け落ちない物を、どんどんと追加していく。
羽沼マコトを殴って気絶させた事、巨大ロボットを壊した事、炎に包まれた世界で大きな黒い犬と戦った事――そして、変な少女と戦った事。生身では体験できなかったであろう経験、強烈なインパクトと共に全てが残っている。
「用意してくれた紙、全部埋まっちゃった」
ナギちゃんが用意した紙、それが全て埋まってしまう。もっといろいろと書きたかったけれど、それは心の中にしまっておこう。
「……仕事しよっと」
書類、書類、書類、吐き気が催しそうになるくらいに束になっている書類の空欄を埋めていく。
ヒナと一緒にやっていた仕事、徹夜でやっていた事を思い出して、リバースしそうになる。ヒナが肩代わりしてくれていた吐く気が、私に押し寄せてきて、気持ち悪い。
「おや、君にしてはよくやっているようだね」
「うわ、セイアちゃん」
何とか吐き気を抑えていたら、セイアちゃんがやって来た。
「私もいるよ」
先生もオマケで――先生のオマケで、セイアちゃんがついてきた。
「先生、私すっごく頑張ってるから、褒めて☆」
「うん、ミカは凄いよ。特に、特殊な状況から持ち直せる修正力が」
「それは違うかも」
「先生から詳細を聞いたよ。君は、極めて特殊な、状況下にいたらしいね」
「聞いてよセイアちゃん。私、幽霊になってたんだよ」
幽霊、そうとしか形容できないのに、死んでいない状況であって、説明が雑になってしまった。
だってよくわからないし、セイアちゃんは勘が良くて頭の良さを曝け出してるから、伝わると思う……多分。
「幽霊?」
「スタンドだよ。ミカはヒナに制御されてたんだ」
「先生は黙ってて」
「酷い!」
「……何にせよ、ミカが無事に戻って来れた事を祝福する」
ホッと息をつくように、セイアちゃんは言った。
「どうせだし、私の経験を聞いていかない?」
「興味がある。聞かせてもらおうか」
「私も、ミカの状況を詳しく知りたいからね」
そうやって、私はセイアちゃんと先生に、一か月間の出来事を話した。
◇◇◇◇◇
「委員長、出動要請です!」
アコの、何度聞いたかわからない要請を聞いて、思わずため息を吐きそうになる。
「わかった」
そうやって、私は毎日のように出動する。
ミカがいなくなって一週間、私は徹夜続きで疲れていた。
「……」
ミカがいてくれたのは、私にとって大きい物であった。仕事を手伝ってくれるし、一緒にテロリストを制圧してくれる。
徹夜をせずに済み、いろいろ余裕を持てていたのは、ミカがいてくれたおかげだった。その本人が不在な今、私は元の生活に戻る。先生に会える日が限られて、風紀委員の仕事に追われる毎日。
「……元に戻っただけ。何ら変わりない」
そう言い聞かせて、私はテロリストの所に辿り着く。
最近までミカに頼っていたから、少しだけ鈍っていたらしい。テロリストを何度も逃がす羽目になって、仕事が増え続ける一週間であった。
別に辛くはない。きっと、ミカと一緒にいた事で、天狗になっていただけ。元に戻すのは大変だけど、きっと戻してみせる。
「……はぁ」
「風紀委員長だ!」
「逃げろ!」
私を見るなり、テロリストは逃げて行く。風紀委員を指揮しながら、私はテロリストを囲って、制圧するように取り掛かる。
だけど、テロリストは上手く囲いを抜けてくる。めんどくさいくらいに厄介で、だるい。
「……ミカで殴った方が早いわね」
もういない相方の事を考えて、私は憂鬱な気分になった。
「やっぱり、私がいないと寂しい?」
「……そうじゃない。でも、少しは寂しい」
「ふーん?」
「ぐぎゃあ!?」
「な、何でここにトリニティの生徒が!?」
殴るのではなく銃で、突然現れた生徒はテロリストを制圧していった。
風紀委員会の面々も驚いている。それはそうだろう、何の違和感も無く、唐突に現れて、私たちの活動に協力してくれたのだから。
「……何しに来たの?」
「ヒナに会いたくて」
「……そう」
「ど、どうして委員長と仲良さげに話しているのですか!?」
アコが、私に対して気軽に接してくるミカに、驚いている。
「まだ終わってないよ」
「そうね、話はそれからで」
「えぇっと……」
「それじゃ、やろっか」
「お願い」
「ひ、ひぇぇぇぇぇ!!!!!」
ミカと一緒に、私はテロリストに攻撃をしかける。
初めての連携、そのはずなのに淀みがない。それどころか、抜群の相性だと言わんばかりに、テロリストを圧倒する。
「後で羽沼マコトを殴りに行きたい☆」
「やめなさい、今は認識できるんだし」
「そうだったね☆」
冗談交じりの会話を交わしながら、絶妙なコンビネーションで、私たちは戦った。
コユキと先生
コユキ「先生!」
先生「コユキ!」
ユウカ「いつの間に?」
ノア「もう抱擁していますね」
先生とコユキは、無事に元に戻ったのであった。