うちの家にはジグザグマがいる。母さんが言うにはどうやら僕の生まれる前からいるらしい。
「ぐう」
このジグザグマ、なんでかは知らないがよく変なものを拾ってくる。拾ってくるものの幅は広い。きのみからくすりのような人工物、キラキラした石、ただのごみまで拾ってきては僕の部屋に置いていく。僕の部屋から変なにおいがしたらそれはジグザグマのせいだ。やめてほしい。
「ぐまぐま」
「はいはいわかったわかった」
スマホをいじる手を止めて、足元をチョロチョロして構えアピールしてくるジグザグマを膝の上に抱き上げる。そのまま腹をわしゃわしゃとなで回すと、ジグザグマはそこそことちょっと世間にはお聞かせできないようなゆるんだ声を上げた。野生を完全に失っている。それでいいのかお前。
「さて今日は何をもってきましたかねっと…」
なで回すついでにモフモフの毛の中を漁ると、ボロボロとよくわからんものが落ちてきた。ざっと見た感じほとんどはまんまるな石とかきれいなぼんぐりとかのただのごみっぽい。どうやら今日は外れの日のようだ。あたりの日は美味しいきのみを拾ってくるのだが。
そして毛のなかにあったものを回収してからブラシで毛並みを整える。どうせきれいにしたところですぐにそもそもの毛質もあってぼさぼさになるのだが、するとしないとでは手触りが全然ちがうのだ。具体的には顔をうずめたときに顔が痛くならない。─ただしジグザグマはブラッシングがそこまで好きではないのでいやだいやだと身をよじる。そのせいで机の上に置いていたプリントが床に落ちた。
「あ、こら。それ大事なやつだから噛むなよ」
床に落ちたプリントに興味がわいたのかするりと腕のなかから抜け出したジグザグマがふんふんとプリントをかぎまわる。それを止めるべくもう一度ジグザグマを抱きかかえてから、プリントを拾った。
「なあジグザグマ。聞いてくれよ」
わしゃわしゃと腕の中のジグザグマの頭を撫でながらつぶやく。
「『10歳になったんだからポケモンといっしょに旅をしましょう』だってよ。めんどくさいったらないよな」
この世界には10歳くらいの年齢(人によって多少の前後はあるが)になったら
「なんでわざわざ旅なんてしなくちゃいけないんだろうね。旅なんて暑いし寒いし疲れるし。」
ジグザグマの頭に顔をうずめる。ちくちくした毛の奥からは青草と太陽の匂いがした。
「…旅に出たらお前ともしばらくお別れだな」
口にしたらそれは随分と寂しいことに感じられた。だってジグザグマは僕がまだホウエンにいた頃、それこそ生まれた時から一緒の家族だから。でも、このジグザグマを連れていくことはできない。
「お前、バトル嫌いだもんなあ」
ずっと昔、テレビで見たポケモンバトルにあこがれた僕はジグザグマを連れて野生のケムッソと戦おうとしたことがある。結果としては、うん。バトルにすらならなかった。『たいあたり』や『なきごえ』を指示しているのに、ジグザグマは全部無視して地面を掘ったりケムッソの匂いをかいだりするだけだった。結局思っていたことが何もできなかった僕は泣きながら家に帰ったのだが、本当に困っていたのは突然絡まれたケムッソのほうだっただろう。
「旅に出たら絶対なにかしら戦うことになるだろうし、博士のとこに行ってポケモンもらってお前はお留守番…」
そういったところでジグザグマに嚙みつかれた。甘噛みとはいえ痛い。そのままガジガジと歯を立てるジグザグマをどうにか引き離すと、両頬を手で挟む。くりくりした両目と目が合った。
「いやお前バトル嫌いじゃん。家のほうが楽しくない?」
「ぐまう!」
僕の問いかけにしっぽをぶんぶんしてジグザグマが鳴いた。いけんの?ぐまぐま。と会話になってない会話を繰り返したところで。
「じゃあ、一緒に行こうか」
「ぐま!」
ジグザグマは嬉しそうに鳴いた。
「ああ、あの子普通にバトルできる、というかバトル好きよ。あたしが捕まえた時なんて大暴れして大変だったんだから」
その後、母さんにジグザグマと旅に出ることの許可を得てから、ジグザグマがバトル嫌いなことが心配だと告げた僕に母はあっさりと言った。
「え、でも昔全然バトルしてくれなかったけど」
「らしいわね。でもあの時はバトルがいやで戦わなかったわけじゃないの。あんたがバトルに巻き込まれて怪我しないように、わざと戦わなかったのよ」
そういって母親はソファの上で腹を出して眠るジグザグマのほうを見て目を細めた。
「
大事にされてるわね、と言って母さんは笑った。
「兄弟2人、仲良く怪我無く旅しなさいよ」