宇宙戦艦ヤマト外典:慈愛の元帥 — 凍てついた平和と、黄金の再臨 — 作:汚染されし者
執拗なガミラス艦隊の追撃、摩耗していく乗組員たちの精神。
「鉄の棺桶」と化したヤマトの前に、突如として出現した「真珠色の光」……。
それは救済か、あるいはさらなる絶望の始まりか。
独自の解釈と圧倒的なスケールで贈る、もう一つのヤマト航海記、ここに開幕します。
西暦2199年。大マゼラン銀河の外縁部、恒星間空間を往く宇宙戦艦ヤマトの艦内には、逃げ場のない「疲弊」が沈殿していた。
第一艦橋を支配しているのは、規則的に繰り返される計器のビープ音と、補助エンジンの微かな低周波振動だけではない。それは、リサイクル回数を重ねるごとに鋭敏さを失っていく、どこか鉄錆の匂いが混じった酸素の重みだった。乗組員たちの肌は、人工太陽灯の光に晒され続け、不自然な蒼白さを帯びている。
「……敵艦隊、依然として追撃を継続。距離、三万二千。相対速度、秒速八百キロ。彼ら、加速を止めていません。……いえ、さらに引き離しにかかっています」
レーダー手の森雪の声が、沈痛な静寂を裂いた。彼女の指先は、絶え間なく流れる重力子波のノイズを必死に追い続けている。メインスクリーンに映し出された赤き輝点――シュルツ司令官率いるガミラス大マゼラン総軍の追撃艦隊は、まるで獲物の心臓の鼓動を数える猟犬のように、正確な距離を保ちながら、ヤマトの艦尾を捉えて離さない。
「奴ら、わざと距離を詰めてこないな……」
戦術班長の古代進が、タクティカル・コンソールのグリップを握りしめ、低く唸った。手袋越しにも伝わる金属の冷たさが、彼の焦燥を逆なでする。
「アウトレンジからの陽電子砲撃……。こちらの迎撃圏外から、じわじわと装甲を削るつもりだ。地球までの残り日数を考えれば、一分一秒が惜しいというのに」
古代の指摘通り、ガミラスの戦法は冷徹を極めていた。彼らはヤマトを一度の会戦で沈めることを目的としていない。広大な真空の海で、逃げ場のない獲物の手足を一本ずつ、丁寧に切り落としていくような執拗さ。ヤマトが反撃を試みようと回頭すれば、敵は即座にワープ(ゲシュ=タム跳躍)で距離を取り、再び射程外から光の矢を放つ。
「南部、主砲の状況はどうなっている」
沖田十三は、艦長席に深く身を沈めたまま、枯れ木のような指で肘掛けを叩いた。その視線は、計器の数値を超えて、宇宙の深淵そのものを射抜いている。
「主砲、第一から第三まで、次弾充填率……六十パーセント! 波動エンジンのバイパス回路に負荷がかかりすぎています。徳川機関長からは、これ以上の急速充填は、エンジンの臨界突破を招くと警告が!」
砲術長の南部康雄が、苛立ちを隠さずに報告を返す。波動エンジンという「神の火」は、ヤマトに超弩級の破壊力を与えたが、同時にその制御の難しさは、乗組員たちを常に爆弾の上に座らせているような危うさを強いていた。
その時、ヤマトの船体を、金属が悲鳴を上げるような鋭い衝撃が襲った。
「被弾! 艦尾、第十七ブロック付近! 外殻装甲に損傷、気密隔壁閉鎖!」
「応急修理班、急げ! これ以上の減圧は持たんぞ!」
真田志郎の沈着な声が響く一方で、艦橋内には赤い非常灯が明滅し、影が奇怪に伸び縮みする。
古代はメインスクリーンを睨んだ。ガミラスのデストリア級から放たれた陽電子ビームが、漆黒の宇宙を白く切り裂き、ヤマトの航跡を嘲笑うように通り過ぎていく。
「……もう一度だ。もう一度だけ、主砲を撃たせてくれ」
南部の呟きは、もはや祈りに近かった。しかし、ヤマトに残されたエネルギーは、次のワープに回すべきか、防護障壁に回すべきか、常に究極の選択を迫られていた。
このままでは、イスカンダルに辿り着く前に、ヤマトはただの巨大な鉄の棺桶として、銀河の塵に還る。
誰もがそう確信し、言葉にすることを拒んでいた、その瞬間――。
艦橋の重力波計が、突如として振り切れた。
「重力値、急上昇! なんだ、この波形は……!? 既存のワープ反応じゃありません! 空間そのものが……『圧縮』されているのか!?」
森雪の叫びと同時に、ヤマトの船体が、これまでの被弾とは次元の異なる「不快な歪み」に襲われた。内臓を直接掴み、捩じり上げるような、物理法則そのものが悲鳴を上げているかのような不協和音。
「……真田さん、これは!?」
古代が身を乗り出した瞬間、メインモニターに映る宇宙の景色が、まるで古い絹の布をカミソリで引き裂くように、無残に崩落した。
暗黒の向こう側に、あってはならない「光」が漏れ出す。
それは、太陽の輝きよりも清冽で、死者の魂を呼び戻すほどに透き通った、真珠色の光芒であった。
次元の裂け目から、ゆっくりと、しかし確実に、その「異形」が姿を現し始めた。
ご拝読ありがとうございます。
第1回は、ヤマトを襲う極限の絶望と、それを一瞬で上書きする「異形の巨神」の出現までを描きました。
空間を粉砕して現れた、全長五キロに及ぶ白銀の巨躯。
そして、全回線に流れ込んできた、あまりにも深い「悲しみ」を湛えた声……。
次話(2)では、この巨艦『エリュシオン』がもたらす物理的な威圧感と、既存の兵器を無力化する圧倒的な技術の全貌を詳しく描写します。
「神話の元帥」が、いよいよその姿を現します。