イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー 作:カオス箱
きっかけは、一体何だったのか。
記憶が正しければ、それは確かわたしが8歳の時。
陽の光が差し込む一室。
そこに幼き日のわたしと”先生”は居た。
「せんせー、なんの本読んでるの?」
「ん、あー…………君にはまだ早いかもだ。聞いてもチンプンカンプンだろ?」
「そんなことないもん! この間のテストで百点満点だったし!」
「それは僕のおかげだろうに…………というかあのテスト、僕の教えた通りにやれば犬でも満点取れるように作ってるし」
わたしが”先生”と呼ぶその男性は、呆れたように笑う。
当時のわたしは、訳あって屋敷の外に出ることを禁じられていた。そのため、こうして家庭教師として我が家に来てくれる”先生”との時間だけが、わたしと外界を繋ぐ唯一のものだった。
「でさ、なんの本読んでるの? 教えてよ見せてよ聞かせてよ」
「やめてやめて頭揺すらないで眼鏡飛んでっちゃうから。…………仕方ないな、教えてあげよう。僕が今読んでるのはこれ、世界を救った八人の英雄のおはなしさ」
「なーんだ、それなら知ってるよ! 小さい時からお母様にしょっちゅう聞かされてたもん!」
それは、古くから伝わる有名な御伽話。
はるか昔、この世界――ラトレイユは厄災に襲われていた。それを撃ち破ったのが、“八英雄”と呼ばれる聖剣の勇者とその仲間達。
紛うことなき救世主にして変革者。それが八英雄。
そんな彼らは、ラトレイユ各地で崇められており、数多の人間達の羨望の的だった。
もちろん、わたしもその一人だ。
”先生”は本をペラペラとめくり、ある一枚の挿絵を見せてくる。
それは、一本の剣だった。
刀剣に関する知識がない者であろうとも、一目で分かる。
コレは、常人が触れていい類のものではない。選ばれた人間のみが持つことを許される代物だ、と。
「これが聖剣クロノス。勇者が使ったとされる”時の聖剣"。時間を操るとされているけど、その力には謎が多い。考古学や歴史学の分野では今なお大きな研究課題となっている」
「なんだかよくわかんないけど、きれいだね」
「…………そうだね」
そう言って微笑んだ”先生”の顔は、何故か悲しげに見えた。
「もしも、だ」
「?」
「君が…………聖剣を手に入れたとしたら。
「……………………? 急になにを?」
”先生”の質問の意図が分からず、わたしは思わず訊き返す。
しばしの間、沈黙が流れる。
「――ああ、ごめん。変なこと言っちゃったね。今のは忘れてくれない? ほら、クッキーあげるから。今朝焼いてきたんだ。好きだろ、僕の手作りクッキー」
「むー、なんかうまい具合にごまかそうとしてない?」
「と言いながらクッキーに手を伸ばすんだね。」
悔しいが、”先生”の作るクッキーの魅力には抗えない。
わたしは差し出されたクッキーの袋を開け、中のクッキーを口に入れる。
こうなったらもうティータイムに入るしか無かった。
「やっぱりせんせーの作るクッキーはおいしいね! 紅茶にもよく合うし、兄様も気に入ってるみたいだし!」
「ははは、お兄さんにも気に入ってもらえるなんて感無量だよ。いっそのこと菓子屋になるのもいいかもなぁ……」
「いや、せんせーはれきしがくしゃになるんじゃなかったの? いつも言ってるじゃん」
「冗談だって……よーし、じゃあ休憩が終わったら勉強の続きだね。えっと次は――」
なんてことのない、幼き日のワンシーン。
ただ、一つ言えるのは。
勇者の伝説を聞かされたあの日から、わたしは夢を見るようになった。
◇ ◇ ◇
夢の中のわたしは、伝説の勇者だった。
伝説に聞く聖剣を携え、運命に導かれるようにして集った仲間たちと共に、世界を救う旅をする。王道を通り越した説明不要の英雄譚。誰かに話せば笑われること間違いなしの妄想。
――そう片付けられればよかったのだが、わたしにはどうしてもそれを夢だと笑い飛ばせなかった。
何故ならば。
毎晩夢に見る私の“もしも”は。
あまりにも、苦しいものに見えた。
それは英雄譚とは程遠い、地獄への道程。
「よ…………かっ、た。皆が、無事で…………あとは、頼みましたよ……………………」
いつも自信たっぷりで一途に
「――ほら、私ってばお姉ちゃんですから。こういうときくらい格好つけさせてもらわないと。……みなさん、後は任せますよ」
いつも明るく皆を引っ張っていた“
「例えこの身が滅びたとしても、僕の拳は皆と共にあります。……ありがとう、修羅に堕ちた僕に人の心を再び与えてくれて」
失っていた心を旅の中で取り戻した“
「怖く無いよ……わたし、ジゼルの為なら全然平気っ! だから、笑ってわたしを送り出してよ。これが、わたしの最初で最後の我が儘」
人一倍臆病で頑張り屋だった“
「守るっ……絶対に守り抜く! 最期までジゼルの盾になるって決めたから!」
「――君に会えて、本当に良かった!」
いついかなる時も誇り高かった“
――そうして、
夢の終わりはいつも独りだった。
故郷も家族も、そして共に旅した仲間も。
旅路の果てに
最後に残ったのは、救いを手にした代償に死屍累々と化した世界。そこに
ありとあらゆるモノを失いながらも、血反吐を吐きながら進む。決められたバッドエンドに向けて否応無しに歩かされる、容赦ない罰。
その荊というのも烏滸がましいほどに辛い歩みから、わたしは思わず目を逸らした。
――もしも、あれが現実だったとするなら。
あの時
プロローグは地雷とか言うけどあったほうが雰囲気出るので俺はやります。
ということでお久しぶりです。
四捨五入したら2年ぶりくらいになると思います。
頑張り次第で続きます。多分。
今回のテーマは「IF」。
「もしも自分が○○だったらなあ」
「もしもあの時ああしてたらなあ」
といった感じのモノを扱うおはなしになってます。