イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー   作:カオス箱

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■前回のあらすじ
・ジゼル、セレニアに魔術教えてもらう
・それを見てにんまりしてたミクリさん
・空気を読まず乱入してきたレヴィ




第8話 強襲のクソカス公爵令嬢

 

 

 

 演習場を後にしようとしたジゼル達の前に、突如として現れた公爵令嬢レヴィ・ヴィダール。

 その姿を目にしたジゼルは硬直し、セレニアはレヴィを睨み返す。

 緊張が走る中、唯一レヴィと面識のなかったミクリが口を開く。

 

「…………誰だ?」

「この学園を牛耳ってる極悪公爵令嬢」

「悪役令嬢のくせに黒髪かよ。普通金髪縦ロールとかじゃないの」

「人様の髪色にケチつけんじゃないわよ喉潰されたいか」

 

 初対面で容姿に文句言ってきたミクリに怒鳴るレヴィ。

 こればかりはミクリが悪いのでジゼルもセレニアも一切フォローはしない。当然だ。

 

「じゃなくて、わたくしが用があるのは貴女ですわ、セレニア・ファムロック。先日の借り、百億倍にして返しに来て差し上げましたわ。感謝なさい」

「悪いけど喧嘩のクーリングオフは受け付けてないんだよね。帰れ」

「相変わらず減らず口を……それもすぐにきけなくして差し上げますわっ‼︎」

 

 そう叫びながらレヴィが指をパチンとならすと、どこからともなく短い杖が彼女の手の中に出現する。

 雷撃や火球といった汎用攻撃魔術が内蔵された科学魔導錫杖(コモンデヴァイザー)。事前に魔力を登録しておけば使用者の意思でいつでも手元に呼び出すことができる、この世界ではありふれた魔術礼装の一種。

 そのままレヴィが杖を振りかざすと、杖の先端からいくつもの雷撃が放たれた。

 

「二人とも下がって!!!!」

 

 セレニアは咄嗟にジゼル達を庇いながら何かを詠唱する。

 すると、セレニアの前面に半透明の障壁が生成され、レヴィの放った雷撃を受け止める。

 障壁に弾かれた雷撃は周囲に飛び散り、演習場の床や壁を容赦なく焦がしてゆく。

 

「へえ、思ったよりやるのですね。ですがその程度の障壁、破るのは容易くてよ? ヴィダール家が得意とするのは結界魔術。結界の生成も突破も朝飯前ですわッ!!!!」

 

 杖を投げ捨てたレヴィの両腕に、魔力が集約されてゆく。

 科学魔導錫杖(コモンデヴァイザー)由来の術式ではなく、レヴィ自身の術式を使うつもりなのだ。

 

 ラトレイユの魔術師の扱う魔術は、大きく分けて二つ存在する。

 ひとつが、科学魔導錫杖(コモンデヴァイザー)のような魔術礼装に登録された汎用術式。

 もうひとつが、血族から受け継いだり自力で術式の理論を構築することで生み出す、その魔術師独自の術式たる固有術式。

 固有術式の継承や構築には相応の頭脳や魔術の腕が要されるため、固有術式を使える魔術師は一定以上の実力者ということになる。

 つまりは。

 今ジゼル目の前にいるレヴィ・ヴィダール。彼女も、その実力者に分類される。

 

「――呪戦結界(サンタマリア)

 

 レヴィがそう呟くと、彼女の両腕に集約された魔力が半透明のドリルのような形へと変形する。

 彼女はそれを、セレニアが展開している障壁めがけて振り下ろした。

 

 ギャギャギャギャギャッ!!!!!!!!!! と、金属同士が激しく擦れるような爆音と共に、セレニアの障壁が削られてゆく。

 このままではマズいと判断したセレニアは、即座に障壁を投げ捨て、ジゼルを担ぎ上げながら真横に飛んで回避する。

 

「結界を攻撃に転用している……確かにそれはボクにはできない芸当。口だけというのは訂正するよ」

「じゃあこんなのはどうでしょうか、ねっ!!!!」 

 

 そう叫ぶとレヴィは、両手に展開していた結界をミサイルのように飛ばしてきた。

 セレニアは再びジゼルを抱えたまま飛んでそれを回避する。

 標的から逸れた結界ミサイルは演習場の壁を容赦なく抉ってゆく。あんなものを平気でぶっ放すレヴィの気が知れない。

 

 普段の彼女は嫌みやかるい小突きこそあれど、ここまで攻撃的ではなかった。

 恐らく、それほどまでにセレニアに反抗されたことが気に食わないのだ。

 公爵令嬢として学園内では女王の如く振舞っていた彼女には、誰かに真正面から喧嘩を売られるという経験が皆無。だからこそ、売られた喧嘩には苛烈なまでの力を以てたいこうしようとしてしまう。それこそ、固有術式すら持ち出してしまうほどに。

 

 自身の攻撃を二度もいなしたセレニアに対して舌打ちしながら、レヴィは更なる追撃に出ようとする。

 そこで気付く。

 足元に何かが転がっていることに。

 

「? これは…………」

「っ、触らないで!」

 

 レヴィがそれを拾い上げるのを目にした途端、セレニアが先程までの余裕をかなぐり捨てて取り乱す。

 

「なんですの、これ」

 

 それは、手のひらほどの大きさのブローチだった。

 銀色の枠にはめ込まれているのは、透き通るような蒼色をした宝石。

 あまり宝石に詳しくないジゼルでもわかる。あれは天然ものの魔導石だ。

 

 魔導石とは、鉱山などから産出される高い魔力の籠った宝石の総称であり、主に魔術礼装の動力源として用いられている。

 主な特徴として、内在している魔力の質や量に応じて石の色が異なるという性質があり、さらに天然モノの魔導石は人工のモノと比較するとより鮮やかな色合いになる。

 蒼色ともなれば内在する魔力量は桁外れであり、テニスボールほどの大きさの石でも戦艦一隻の動力を賄えるだけの魔力を取り出せるとされている。

 

 そんなものを、セレニアは所持していた。

 

「…………返してよ」

「あら、さきほどまでのふてぶてしい態度はどうしたのですか? もしかして、コレがそんなに大事だったりするのかしら?」

 

 魔導石のブローチを手にしながら、レヴィはセレニアを凝視する。

 

「こんなもの――こうしてやりますわッ!!!!」

 

 レヴィはそう言って笑うと、ブローチを演習場の窓に向かって思いっきりぶん投げてしまった。

 セレニアが咄嗟に駆け出すも間に合わず、投げられたブローチはそのまま開いていた窓から外へと飛び出してしまう。

 窓から身を乗り出して探すセレニアだが、窓の外は夕暮れのため薄暗い上草木が伸び放題な為、とてもじゃないがブローチは探せそうにない。

 

「あ、あ…………」

「ふん、わたくしに歯向かうからこうなるのです。これで少しは身に染みて分かりましたか?」

 

 窓際で崩れ落ちたセレニアに、レヴィは勝ち誇って心無い言葉をぶつける。

 セレニアは完全に放心状態となっていた。

 ジゼルに見せた笑顔も、先程までレヴィに立ち向かっていた時の勇敢さも、今の彼女からは微塵も感じられない。まるで別人になってしまったのように、セレニアは呆然としていた。

 それほどまでに、あのブローチは彼女にとって大切なものだったのだろう。

 

(わたしの――せいだ)

 

 そんなセレニアの姿を目にしてしまったジゼルの中に芽生える、ひとつの感情。

 

 自責。

 自分をレヴィから助けたせいで目を付けられ、セレニアは大事なものを失った。

 

 あの時と同じ。

 誘拐犯の凶弾に父が倒れた時もそうだった。

 

 ジゼル一人が傷つくならばいい。ジゼルが我慢さえすれば丸く収まるのだから。

 だけど、自分なんかの為に他の誰かが傷つくのは間違っている。

 ジゼル・レインズラインにそうまでして助ける価値はないし、自分のせいで傷つく誰かを目にするのは絶対に嫌だ。

 

 だから。

 

「レヴィ・ヴィダールッ!!!!」

 

 ジゼルは我を忘れてレヴィに掴みかかった。

 普段だったら絶対にしない筈の行動に、ジゼルは踏み切った。

 

 今まで一度たりとも反抗してこなかったジゼルからの反抗にレヴィは動揺してしまい、反応が遅れてしまう。

 反応できてさえいれば結界を張ってジゼルの掴みかかりを遮断できていたのだが、反応できなかったせいでレヴィはジゼルに胸倉を掴まれ、そのまま演習場の壁に背中を叩きつけられてしまう。

 

「がっ!? な、なんのつもりですか、ジゼル・レインズライン!」

「貴方が虐めたいのは私の方。セレニアは関係ないはずでしょ」

「ふざけたことを…………‼ 歯向かう愚民は根こそぎ滅ぼせというのが我が家の教えでしてねぇ!」

 

 レヴィはジゼルの腹を思いきり蹴り飛ばして身体の自由を取り戻すと、再び結界魔術を行使しようとする。

   

 が、その寸前で彼女の腕を掴む手があった。

 ミクリだ。

 レヴィがジゼルと対峙している隙をつき、レヴィのすぐ横に回り込んでいたのだ。

 

「結界師ごっこもそこまでにしてもらおうか。なあ、クソカス令嬢さんヨォ?」

「っ、だれがクソカスですか‼」

「ミクリ、さっきから姿が見えないと思ったら何処へ…………?」

「守ってやれなくて悪かったな。ちと人を呼びに行ってたもんで」 

「?」

 

 ミクリの言葉に首をかしげるジゼル。

 人を呼ぶって言ったって、一体誰を――?

 

「私です。今すぐ戦闘行為をやめるように、各位」

 

 ジゼルが声をした方を振り向くと、いつの間にか綺麗なスーツに身を包んだ老婦人が演習場の中央に立っていた。

 ――いつ入ってきた?

 演習場の入り口はひとつだけ。そして、その唯一の入り口にはジゼル達がいる。

 どうやってジゼル達に気付かれることなく演習場に入ってきたのだろうか?

 

 いや。

 それ以上に問題なのは入ってきた人物。

 

「り、理事長…………⁉︎」

「誰、この人」

「ニーナ・トリチェーリ。トリスメギストス学園の理事長です」

 

 そう。

 この老婦人こそ、トリスメギストス学園の理事長を務めるニーナ・トリチェーリなのだ。

 流石のレヴィといえど、理事長の目の前で暴力沙汰を起こす気はないようで、ミクリに掴まれていた手を振り払うと慌てて理事長にお辞儀をする。

 

「しかし、理事長が何故ここに……?」

「言ったろ、人を呼んできたって」

「ミクリさんから事情は把握しています。我が校は聖都の自主性を重んじてはいますが、流石に生徒同士の暴力沙汰はご遠慮願いたいのです。どうしてもというならば――ちゃんとルールに則った決闘にするべきでしょう」

「決闘だぁ?」

「ええ。対魔術総合決戦闘技――通称“魔術決闘”。我が校設立時より存在しているこのルールに基づき、お二方には決闘してもらいます。それなら文句はないでしょう?」

 

 魔術決闘。

 それは、魔術師同士が魔術を用いて行う神聖なる決闘。

 古来より魔術大国として発展してきたここアズール王国では、貴族感の争いや王位継承者を決めるための儀式として、魔術決闘が用いられてきた。

 現代ではその文化はほぼ廃れてしまっているが、歴史あるトリスメギストス学園の校則にも、バッチリと魔術決闘についての記載が明記されている。

 

「魔術試合……魔術を使った決闘……。確かに、校則にそのような記載があったような気はしますけど」

「ええ、学園祭以外でやるのは十年ぶりですね。こんな私闘よりかは幾分か公正に決着を決められるのではないでしょうか。ヴィダールさん、あなたはどうです?」

「わたくしは全然オッケーですが、ジゼルさんは? ま、魔術の禄に仕えない貴女が私に挑むのは愚の骨頂。大人しく不戦敗でもしていただけると手間が省けるのですが」

「………………………………」

 

 ジゼルには魔術の才能が無い。

 兄ローゼンは王国でも最高峰の魔術師だというのに、ジゼルは初歩的な魔術すら満足に使えない。

 対してレヴィは、性格はクソの極みだが学園内でも屈指の優等生。魔術の腕も身体能力もレヴィの方が格段に上。何かの間違いでも起きない限り、ジゼルには勝ち目はない。

 

 レヴィはそれを分かった上で、この決闘を持ちかけてきている。

 相手の不得手とする分野で無理矢理戦わせる事で、完膚なきまでに相手の心を傷つけて嘲笑する。そういう算段だ。

 ここで乗ればレヴィの思う壺。

 レヴィはそれを望んでいるし、普段のジゼルならばこうも見え透いた地雷は決して踏まないだろう。

 

 だが。

 今のジゼルは違った。

 

「――その決闘、受けるよ」

「⁉︎」

「やってやるっていってんの! アンタをぶっ倒すって! その傲慢面を木っ端微塵にしてやる!」

 

 

 

 

 




■Topics

〇汎用術式
ラトレイユの魔術のなかでも、とりわけて普遍的に広まっているモノ。
炎を出したり電撃飛ばしたりなど、わりとポピュラーな内容のものが多い。
ちゃんと練習すれば(魔術の素養があるものならば)誰でも修得可能。


〇固有術式
ラトレイユの魔術のなかでも、個々人によって性質が大きく変化するもの。
親から受け継いだり自分でゼロから作ったりすることで習得する。
汎用術式と比較すると、全体的にオリジナリティに溢れ、効果や性能も特殊なものが多い。
修得は一筋縄ではいかないが、これが使えてこそ一流の魔術師。
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