イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー   作:カオス箱

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■前回のあらすじ
・レヴィ、セレニアに喧嘩吹っ掛けるた挙句大事なモノを捨てちゃう
・理事長乱入
・ジゼル、セレニアのためにレヴィと決闘することに

というわけで決闘に向けてジゼル、レヴィ双方の心持を書いてゆく回です。


第9話 踏み出す勇気/息詰まる部屋

 

 

 

 

 夜 ウィダール邸

 

 王都郊外に位置する、やや古びた邸宅。

 ヴィダール邸。

 アズール王国の建国時から存続する、由緒正しき公爵家。それがヴィダール家だ。

 

 その一室。

 風呂から上がったレヴィ・ウィダールは、キングサイズのベッドの上でゴロゴロしていた。

 彼女の手に握られているのは、一枚の紙切れ。

 

「はぁ……ローゼン様ぁ」

 

 それは、ローゼン・レインズラインのブロマイドだった。

 

 最強イケメン社長魔術師であるローゼンにはファンが多い。秘密のファンクラブができたり、こうして無許可で作られたブロマイドが出回るくらいには。

 レヴィもその一人。

 魔術師として、家の当主として完璧に振る舞うローゼンを尊敬し、彼の領域に近づくことを夢見て努力をしている。

 

「はぁ…………なんであんな無能がローゼン様と血が繋がってるんでしょうか……絶対私の方が合ってますわよ、ねぇ」

 

 だからこそ、ローゼンの妹であるジゼルのことが気に食わない。

 気弱で意気地なしで、魔術も碌に使えない。そんなジゼルを目にするたびに、無性に腹が立って仕方がない。あんなやつが憧れの人と血縁者であるということが耐えられない。

 だから、学園でことあるごとにジゼルを虐めている。

 少しでもこの鬱憤を晴らしたいがために。

 実際には、それだけが理由ではないのだが。

 

「ローゼン様の雷撃で貫かれたい……ビリビリに痺れて心肺停止させられたい……」

 

 ブロマイドを抱きしめながら、危険な妄想をおっぱじめるレヴィ。なんか明らかに言ってることが変だが、今この場にはレヴィ一人。ツッコミ役は不在だ。

 

 だが、これを誰かに知られるわけにはいかない。

 特に、父親には。

 

 と、噂をすればなんとやら。

 扉越しに近づいてくる足音が耳に入ってきたかと思えば、ノックもなしに部屋のドアが開かれた。

 

「聞いたぞ。明日の歓迎会、そこでレインズラインの娘とやり合うのだと」

「!」 

 

 突然かけられた声に慌てて振り向くと、いつのまにか部屋の入り口に壮年の男性が立っていた。

 イゴール・ヴィダール。

 レヴィの父にしてヴィダール公爵家の当主。

 その険しい顔つきを目にすれば、大抵の人は竦み上がってしまうだろう。

 レヴィは咄嗟にブロマイドを隠し、ベッドから起き上がる。

 

「っ、お父様⁉︎ いつからそこに……⁉︎ 部屋に入る時はノックして欲しいと常日頃から――」

「例えどんな時、どんな場であろうと負けは許さん。ましてや、レインズラインに遅れをとるなど言語道断。良いな?」

「…………っ。はい、元よりそのつもりです」

「その言葉を忘れるな。…………それとだ、決闘に際してお前にひとつ贈り物をしてやる」

 

 イゴールはそう言って、レヴィにあるものを手渡す。

 

「これはっ…………」

 

 それは、一見するとブレスレットのように見える。

 だが、レヴィには分かる。

 これは幻煌魔装(エスペラント)だ。携帯の為にブレスレット形態になっているが、これは紛れもなく幻煌魔装(エスペラント)

 イゴールはこれを決闘で使えと言っているのだ。

 

 正直言って、ジゼル相手に幻煌魔装(エスペラント)まで持ち出すのは過剰すぎるとレヴィは思っている。2人の実力差ならば、幻煌魔装(エスペラント)無しでも充分レヴィが勝利できるはず。

 だというのに、イゴールはこれを渡してきた。

 それはつまり、

 

「お父様はわたくしの力を信用していないのですか……? 相手はジゼル・レインズライン。魔術もろくに使えない彼女相手に幻煌魔装(エスペラント)など使うまでも――」

「お前の意見など求めておらん。私は確実に勝てる勝負しかしないのだ。そいつを絶対に使え。それがお前の役目だ、レヴィ」

「…………」

 

 レヴィの抗議を一蹴したイゴールは、それだけ言って退室してしまう。

 一人残されたレヴィは、扉が閉まると同時にベッドに倒れ込む。

 

 ――ほんと、息苦しくてしかたがない。

 

 元より、イゴールはプライドの高い人間だった。

 自分より上の存在を認めず、他人を貶めなければ生きていけない、狭量な人間。

 成り上がる為ならば実の娘だろうと使い潰し、障害となるならば実の兄だろうと排除する。己の都合を第一とするエゴイスト。

 レヴィが物心ついた時から、イゴールという男は堕ちていた。

 

 それがより悪化したのは10年前、ローゼン・レインズラインがLLCの社長に就任してからだった。

 

 18歳にして人並外れた経営の才覚を発揮していたローゼンにより、元々大きかったLLCはラトレイユ有数の巨大企業にまで成長。科学魔導産業のトップシェアにのし上がった。

 おまけに、魔術師としても比類なき才能を持ち、容姿も優れている。

 

 それが面白くなかったのだろう。

 プライドが馬鹿みたいに高いイゴールは、それによってレインズライン家を逆恨みしはじめ、娘を使ってまでレインズライン家に勝つことを望むようになった。

 

 自由を与えられる事はなく、ひたすらに学業や魔術の訓練などをさせられた。

 異を唱えた母は家を追い出されてのたれ死んだ。

 

 父親には逆らえない。

 結果を残せなければ次は自分が追い出される。

 他者を蹴落とし自らの有用性を示し続けることでしか居場所を守れない、哀れな少女。

 

「わたくしは優秀…………、ジゼルなんかに負けない。負けてなるものか……‼︎」

 

 ベッドに仰向けになりながら、うわ言のように繰り返す。

 自らの存在価値を示す。

 その為ならば他者などいくらでも踏みつけてやる。

 それがレヴィ・ウィダールに許された、ただひとつの生き方なのだから。

 

 

 

 

 

    ◇     ◇     ◇

 

 

 同時刻 レインズライン邸

 

 

 

「はぁ…………………………」

 

 ジゼルはクソデカ溜息をついていた。

 

 とんでもないことになってしまった。

 

 その場の勢いとはいえ、レヴィに魔術決闘を挑むことになろうとは。昨日の自分にこのことを話せば、きっと「頭おかしくなったのかな?」と言われるだろう。

 ミクリが入れてくれた紅茶の味すらよく分からないレベルで、ジゼルはガチガチに震えていた。多分今なら共振パンチ放てそう。

 

 ミクリは、そんな有様のジゼルに呆れながら空になったカップに紅茶を注ぐ。

 

「何ビビってんだこの馬鹿。」

「ビビるに決まってんじゃん……私に魔術合戦とか無理だよ」

「情けねえなぁ。お前昼間の威勢の良さはどこに捨ててきた? ニセモノか? 昼間のお前はニセモノだったのか?」

「いやあれも紛れもなく私だから……。てか、私でもなんであそこまで反抗できたのかわかんないんだよ……頭に血が上ってた感じ?」

「いい機会じゃないか。この際あの阿保令嬢を公衆の面前でコテンパンにしてやれば、お前の胃痛の種が無くなるだろ?」

「いや、だから……私じゃレヴィに勝てないって話を」

「ハナから諦めてんじゃねえぞ」

「!」

 

 さっきまでヘラヘラと笑っていたミクリが急に真面目なトーンで話し始めたので、ジゼルは思わずぶるりと震えてしまった。

 そのままミクリはつかつかとジゼルに歩み寄ると、ジゼルの両肩を強く握る。

 

「自分の殻に篭って、何があっても堪えるだけってのは確かに楽だろうさ。だが、それじゃ何も変わらない」

「それはそうだろうけどさぁ……」

「お前さ、あいつにムカついてるんだろ? これまでだって散々我慢してきたんだろ? “アイツがいなければ、アイツより上だったら”って思ったこともあったんじゃないのか? ――ならやろうぜ。どんな無茶苦茶な“もしも”も、可能性を信じて踏み出せば現実になるかもしれない。勝ちたいなら勇気を持って前に出ろ。お前に必要なのは踏み出す勇気だよ」

「勇気………………」

 

 それがきっと、ジゼルに無いもの。

 聖剣の勇者(もしものじぶん)が当然のように持っていたもの。

 たとえあれがあり得ない異聞(イフ)だとしても、ジゼルであることには変わりない。ならば、ここにいるジゼルにだって手に入る筈だ。

 

 それに、ここで尻込みしてしまえば、あの時セレニアのために抱いた怒りすら間違っていたことになってしまう。

 友達のために立ち上がれもしない人間が、誰かの隣に居ていいはずがない。少なくとも、ジゼルはそう思う。

 

 だったら、やるしかない。

 今のジゼルには背中を押してくれる人がいる。

 

「ミクリってさ、割と熱血だよね」

「そうか?」

「なれるかな、わたしも。ミクリみたいに」

「やめとけやめとけ、俺みたいな奴を手本になんか間違ってもしない方がいいさ」

 

 ミクリのその言葉に苦笑するジゼル。

 …………うん。

 確かに要素だけ抽出するとマジでとんでもない奴だもんなあ。アラサー女装メイドだし。

 

 と、その時。

 突然部屋の扉が開けられたかと思えば、ずかずかとローゼンが入ってきた。

 

「に、兄様ッ!?」

 

 驚くジゼルを気にも留めず、ローゼンはミクリに詰め寄る。

 

「なんすか」 

霧江御久理(きりえみくり)。何故ジゼルの決闘受諾を止めなかった?」

「何故って…………止める必要がなかったし」

「笑えない冗談だ。ジゼルを聖剣の勇者にさせない、そのために私は君と契約を交わしたはず。これは純然たる契約違反、場合によっては解雇も辞さないが」

「ちょ、ちょっとまって兄様……なんで兄様がわたしが聖剣の勇者かもってことを!? てか解雇って……」

 

 まるでジゼルのロスト能力に関して既に知っているかのようなのローゼン言動に、驚きを隠せないジゼル。

 というか、ミクリを解雇するなどといった話が飛び出しているあたり、ミクリが魔術決闘を止めなかったことがそれほどまでにマズかったのだろうか。

 

「ロスト能力は有り得ざる可能性の発露。しかし、そのイフが現実のものとなる可能性はゼロではない。たとえ僅かであろうと聖剣の勇者となる可能性は排除する。だからこそ、ありとあらゆる脅威からジゼルを守る必要がある。その為に君を引き入れたのだぞ。わかっているのか?」

 

 表情一つ変えず、淡々とミクリを問い詰めるローゼンの横顔に、ジゼルは戦々恐々としていた。

 この顔だ。

 この、さも自分に正義があると言わんばかりの鉄面皮。

 ローゼンが他者と顔を合わせると大抵の場合こうなる。だからジゼルはローゼンが苦手なのだ。

 

 だが、ミクリは一切物怖じしていなかった。

 

「あのなあローゼン、ジゼルが友達の為に身体張ろうと決めたんだぞ。ビビりで弱くて引っ込み思案なジゼルがだぞ? 妹の成長が嬉しくねーのかよお前。大目標に踊らされ過ぎて本質見失ってんぞ」

「だが……」

「ジゼルが聖剣の勇者とならない未来を作る……確かに俺達はそういう契約でここにいる。だけどな、最悪の未来を恐れて何もさせないってのは間違っている」

「…………」

「庇護するだけが手段じゃない。運命をうち破れるほどに強くなるってのも一つの道だと俺は思ってるけどね。お前はどうだ、ローゼン」

 

 ローゼンが沈黙する。

 ジゼルの庇護か、成長か。

 両者ともにジゼルを思っているが故に譲れない。正しくて、間違っている。

 

 しばらくの間、静寂が部屋を包んでいた。

 そして。

 根負けしたかのように、ローゼンがため息をついた。

 

「…………今回の件は君に任せる」

「おう。ガチでヤバくなったらその時は何とかするし安心しろ」

 

 そう言ってミクリは得意げにVサインをする。

 

「ジゼル」

「!」

「健闘を祈る」

 

 最期にそれだけ言って、ローゼンは部屋を後にした。

 

 それは、彼なりの激励だった。

 どれだけ冷徹に正義を掲げようとも、その根底にあるのはジゼルへの愛情なのだ。 

 

 

 

 ――魔術決闘まであと三日。

 ジゼルの初陣が、始まる。

 

 

 

 




ローゼン、本編時間軸で初となる妹との顔合わせ。
…………あなたお兄さんなんですよね?


topicsは今回お休み。
次回はいよいよ決闘回です。
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