イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー   作:カオス箱

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レヴィ戦その②です。


第11話 ブレイビング・メモリー

 

 

「がっ、……ちょばっ……⁉︎」

 

 決闘開始から数分足らずで、ジゼルは既に全身土埃まみれとなっていた。

 既に身体の各所が悲鳴をあげている。

 荒事どころかスポーツすらほぼ無縁だったジゼルの体力が、早くも尽きようとしているのだ。この状態で未だジゼルが無傷である事が奇跡と言っても良いだろう。

 ――それほどまでに、戦況はジゼルにとって不利だった。

 

 肩で息をするジゼルの頭上に、幻煌魔装(エスペラント)・“ディアマンティ”に身を包んだレヴィが飛来する。

 

「勝負は既に決したようなもの。今ならば病院送りで済ませてあげなくもなくてよ?」

 

 右手に持った鉄製の杖をジゼルに向けながら、勝ち誇った顔をするレヴィ。

 彼女の言う通り、ジゼルの勝利する可能性は限りなくゼロに近い。幻煌魔装(エスペラント)にも乗っていないし、魔術も碌に使えない人間が勝てる道理など、あるはずが無いのだ。

 おまけにレヴィは結界魔術に秀でており、防御面でも隙が無い。

 ゲーム的には、序盤の雑魚敵がガチガチに装備を整えてる熟練プレイヤーを相手にしているようなもの。誰がどう見ても結果の見えた負け試合。

 

 しかし、負けるわけにはいかない。

 友達(セレニア)の為に立ち上がると決めた以上、投げ出すなんてもってのほかだ。

 

 ――だが、どうする?

 幻煌魔装(エスペラント)を纏ったレヴィに勝つにはどうしたらいい?

 

 まだジゼルには、唯一残された手札がある。

 

(こうなったらアレだ‼︎ ロスト能力に賭けるしかないっ‼︎)

 

 ロスト能力。

 手に入れたばかりのこの力しか無い。

 

 魔術合戦にそれとは無関係な異能を使うというのは完全なルール違反になるのだろうが、そもそもジゼルは勝手に不利な戦いを押し付けられた側だ。ロスト能力を使ったところで向こうに文句を言われる筋合いは無いはず。

 向こうが幻煌魔装(エスペラント)という不正をするというならば、こちらはロスト能力というズルで対抗してやる。

 卑怯者同士、不正堂々といこうではないか。

 

「っ、まだやるつもり⁉︎」

「………………あたりまえだろ」

 

 残った力を振り絞って立ち上がる。

 それに呼応するかの様に、右手に浮かぶ勇者権紋に光が灯る。

 

(そういえば、自分の意思で呼び寄せるのは初めてだったな)

 

 これまで無意識のうちにやっていたことを意識的にやるというのは、中々にハードルが高い。

 だが、ここでやらなければ駄目だ。

 セレニアを傷付けたレヴィに、なんとしてでも一矢報いなければ気が済まない。

 その一心で、ジゼルは叫ぶ。

 

 

「いでよ、失われし我が可能性――“聖剣の勇者(ブレイビング・メモリー)”ッ‼︎‼︎」

 

 

 瞬間、青い閃光がジゼルの全身を包み込む。

 泥だらけの制服から、純白の勇者装束へ。

 銀の胸当てに青いマント、白いブーツに蒼銀のサークレット。

 幾度となく夢に見ていた、勇者としてのジゼルの姿。

 

 “聖剣の勇者(ブレイビング・メモリー)”。

 そう名付けられたジゼルのイフが、今ここに顕現した。

 

「へえ、一体それはなんの御遊びのつもり? ヒーローショーでもおっ始めようってコトですの?」

「煩いっ、黙ってて!」

 

 レヴィの冷やかしに反論しながら、ジゼルは勇者権紋へと意識を集中させる。

 自分からやるのは初めてのはずなのに、不思議なくらいにスムーズに、それは行われた。

 

「来て、聖剣クロノス――ッ‼︎」

 

 ジゼルが呼びかけると、それに応えるようにして光の粒子がジゼルの手の中に集結し、一本の剣を形作る。

 聖剣クロノス。

 勇者の証たる剛毅の剣。

 今ジゼルの手にあるのはロスト能力で生成されたレプリカだが、それでも武器としてのスペックは本物と遜色ない。

 

「これは……物質創造の魔術? いや違う、あのジゼル・レインズラインがこんな高等魔術を使えるわけない……! 一体何をしたの⁉︎ どんな卑怯な手を――」

「アンタにだけは言われたくないんだけどッ‼︎」

 

 狼狽えるレヴィに向かって、啖呵を切りながらジゼルは飛び上がった。

 十数メートルの高さをひとっ飛びで詰めたジゼルに、レヴィは動揺を隠せないでいる。

 ジゼルはそのまま勢いに任せて、聖剣をレヴィの頭頂部目掛けて振り下ろした。

 

 が。

 ガキンッ‼︎‼︎ と甲高い音を立てて、聖剣の刃先は見えない何かに弾かれる。

 防御結界だ。

 

「効いて…………ない⁉︎」

「残念でしたわね……結界魔術は我がヴィダール家の十八番でしてよっ‼︎」

 

 レヴィはそう吐き捨てると、防御結界を展開したままジゼルに突撃してきた。

 

「堕ちろッ、レインズラインッ‼︎」

「ああああああああああああああああッ‼︎⁉︎」

 

 突進をまともにくらったジゼルは、まるでバレーボールのシュートのように勢いよく地面に叩きつけられ、何度も地面をバウンドする。

 

「がっ……ぐっ……」

 

 ロスト能力を行使してるおかげか、五体満足のまま立ち上がることはできる。

 だが、間に合わない。

 ジゼルが立ち上がるまでの間に、結界を展開したままのレヴィが急接近していた。

 

「潰れてしまいなさいッ‼︎」

「げょぽっ⁉︎」

 

 コンクリート塀と結界に挟まれたジゼルの口から、奇声とよぶのも憚られる音が飛び出る。

 どうやら、このまま結界で押しつぶす算段のようだ。

 

 ミシミシと、身体の各所から人体が発してはいけない音が鳴る。

 

「わたくしは勝たなくてはいけない…………ッ、お前に、レインズラインに勝って、自分の価値を証明するッ‼︎」

 

 そう言ったレヴィの目は完全に血走っている。

 どうやら彼女は、単にジゼルを叩きのめしたいわけでは無く、ジゼルを倒さねばならぬ余程の理由があるらしい。

 真正面から向けられる、嘘偽りのない本気の殺意。

 それと相対したジゼルは、

 

(――けど、生憎殺意(そういうの)は慣れてるんだよっ、こっちは‼︎)

 

 全く臆していなかった。

 

 ジゼルは幼い頃から、大企業の令嬢というだけで謂れのない僻み嫉みをぶつけられてきた。

 金に目が眩んだ犯罪者はおろか、血の繋がった親戚にすら金目当てで命を狙われたりしたことは幾度とあるし、つい最近もギャングの群れに殺されかけた身だ。

 他人から負の感情を向けられることにはもう慣れきっているのだ。

 

 それに比べたら、同級生からの殺意なんてまだマシ。まだ耐えられる。

 ――そもそも。

 セレニアを傷付けた奴に黙ってやられるとか、死んでも嫌だ。

 

「ぐ、ぬお……っ」

 

 力を振り絞ったジゼルに呼応するように、ジゼルの右手の勇者権紋が点滅する。

 結界に押し潰されて満足に身動きできない中、なんとか手を伸ばし、数センチ離れた位置で押し潰されている聖剣を手に取る。

 そして。

 手に取った聖剣を、力一杯振り抜いた。

 

「っじゃらあああああああああああああああああッ‼︎‼︎」

「なっ――」

 

 初撃とは異なり勇者権紋の光を一身に受けたその一振りは、先程は弾かれた防御結界をバリバリと切り裂きながら、レヴィの“ディアマンティ”の左肩を切断する。

 

「ぐゃああああああッ‼︎⁉︎」

 

 切断された左肩から火花と魔力を撒き散らしながら、“ディアマンティ”はスピンする。

 二機の粒子砲のうち片方も、左肩装甲と一緒に切断されて使い物にならなくなってしまった。

 

「何故……何故貴女がこれほどの力を⁉︎ 」

 

 レヴィは、何故自分が反撃を喰らっているのか理解ができないでいた。

 ジゼルは魔術を碌に使えない。だから、幻煌魔装(エスペラント)を持ち出せば圧勝出来るはずだった。

 

 ヴィダール家に伝わる結界魔術”呪戦結界(サンタマリア)”は、変幻自在のバリアを生成するもの。その硬度は砲撃にも耐え得るほどであり、レヴィは修得以来一度たりともバリアを破壊されたことがなかった。

 だが、その不落神話もたった今潰えた。よりによって、散々見下してきた相手であるジゼルによって。

 その事実が受け入れられない。

 

 レヴィが動揺している間に、体勢を整えたジゼルが聖剣を構えていた。

  

「今度は……こっちの番だ!」

「っ」

 

 反応が遅れ、今度は右肩に剣の一撃が命中する。

 左肩の時同様に右肩装甲が粒子砲諸共切断され、あっという間にガラクタと化してしまう。 

 攻撃の要であった両肩の粒子砲を失った”ディアマンティ”など、もう恐れるに足らず。

 調子づいたジゼルの突きによって、レヴィは大きく後方に吹き飛ばされる。

 

(負ける――? わたくしが、レインズラインに……⁉︎)

 

 最悪の未来を想定してしまったレヴィの身体は、無意識のうちに震えていた。

 体勢を立て直そうにも、身体が震えて上手く幻煌魔装(エスペラント)を動かせない。粒子砲はぶった斬られて使いものにならないし、回路がイカれてしまったのか腕部の魔術障壁(マジックバリア)も動作しない。できることといったら、みっともなく後退ることだけ。

 

(嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だっ、わたくしは、負けたく無い――負けちゃ駄目なんだっ!)

 

 苦悶の表情を浮かべるレヴィの脳裏に、昨晩の父の言葉が蘇る。

 

 ――例えどんな時、どんな場であろうと負けは許さん。

 

 負けたら、父に捨てられる。存在価値がないと見做されてしまう。

 出来損ないの娘なんていちゃいけない。誰かに打ち負かされるような弱者は切り捨てられる。それが、レヴィの生きる環境なのだ。

 

 負けたく無い。負けちゃいけない。

 こんなことがあっていいはずがない。

 

 焦燥に支配されたレヴィの脳裏に、ひとつの声が響く。

 

 

 “――なら、何もかもぶっ壊しちまえよ”

 

 

 その時。

 身体の内側から迫り上がって来たナニカが、レヴィの意識を瞬く間に塗りつぶした。

 

 

 

 

    ◇     ◇      ◇

 

 

 

「――ァ」

「え、何………………?」

 

 ゆらりと、倒れたはずのレヴィが立ち上がる。

 ”ディアマンティ”の各所からは煙が上がっており、両肩の粒子砲は喪失済み。

 このまま戦い続ければ”ディアマンティ”は完全に壊れて使い物にならなくなるし、なによりレヴィ自身が危ない。

 

 だというのに、”ディアマンティ”はまだ立ち上がろうとする。

 

 ぞくりと、その姿を目にしたジゼルに悪寒が走る。

 理由は分からない。だが、本能的に察知していた。

 ――――何かヤバいと。

 

 そして、その予感はすぐに的中する。

 

「アガ、ババババババババ――グギャッ‼︎‼︎」

「‼︎⁉︎」

 

 いきなりレヴィが奇声を上げ始めたかと思えば、彼女の眼球があり得ない方へと動き、それと同時に彼女の駆る“ディアマンティ”の随所から黒い液体のようなものが溢れ出した。

 ガクガクと、まるで下手くそなマリオネットの様に痙攣するレヴィの身体は、瞬く間に黒色の液体に包み込まれてゆく。

 そして、レヴィの全身が包まれた時。

 そこにあったのは、漆黒の鎧騎士だった。

 

 ラバーを思わせる光沢を発し、身体の震えに応じて各所からガチャガチャと音を発する。

 ジゼルに壊されたはずの両肩の粒子砲はその形を取り戻し、砲門をジゼルに向けている。

 

「なにが、おきてる……⁉︎」

「なんかヤバくないか……?」

「ヤベェよヤベェよ……!」

 

 観客席に居たレヴィの取り巻き達も、その異様な光景にざわつき始める。

 誰もが変わり果てた”ディアマンティ”を注視する中。

 その黒色の物体が、声を発した。

 

『――自動殲滅形態(カオスモード)、移行完了。コレヨリ、殲滅を開始スル』

 

 

 




…………これ完全にISだよね!?
元々決闘展開はする予定だったけど、なんでこうなったんだろう。

しかしもう後には引けません。
こうなったら最後まで突き抜けましょう。
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