イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー   作:カオス箱

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レヴィ戦その③。


第12話 聖竜と閃雷

 

 

 魔術決闘の最中、突如として幻煌魔装(エスペラント)から吹き出した黒い液体に覆われてしまったレヴィ。

 漆黒の鎧騎士と形容できる異様な姿と成り果てたレヴィを前に、ジゼルは息を呑んでいた。

 

 なんだこれは? 一体何が起きている?

 なんだかただならぬ事態になっているが、レヴィは大丈夫なのだろうか?

 

「レヴィ様……? なんか様子が変じゃないっすか……?」

「あ、あのー……大丈夫ですかレヴィ様ぁ……」

 

 レヴィの異様な雰囲気に、先程まで彼女を応援していた取り巻き達も不安になる。

 観客席が困惑に包まれる中、リチャードが口を開く。

 

「――プララヤ・プログラム」

「……なんて?」

「聞いたことがあるんだ。装着者の魔力回路を異常血起させることで、身体の限界を無視した出力を可能とするプログラム。その危険さ故に、とっくのとうに国が規制したシロモノ。あの感じだとおそらく、初めから機体にプログラムされていたんだ」

「そうまでして勝ちたいかよ……たかが子供同士の喧嘩だぞ⁉︎」

 

 “ディアマンティ”はウィダール家が用意したレヴィ専用の機体。

 それに初めからプララヤ・システムが搭載されていたとなれば、それを行った人物はただ一人。レヴィの父親だ。

 つまり彼は、ただ勝ちたいが為に娘の命をも危険に晒す真似をしているのだ。

 

 異様な光景に誰もが呆然とする中、黒い液体に包まれたレヴィが動いた。

 元は半壊状態だったとは思えない程のスビートに、ジゼルの反応が遅れる。

 

「っ、来るッ‼︎」

 

 ジゼルは咄嗟に身構えるが、次の瞬間にはジゼルの身体は宙に浮いていた。

 レヴィがジゼルを掴んだまま飛び上がったのだ。

 

 ジゼルを掴んだレヴィは、そのまま数十メートル上空へと飛翔した後、勢いよく地上に向けて降下し始めた。

 フリーフォール。

 ロスト能力を発現してるおかげで常人よりは頑丈になっているとはいえ、流石にこの高さから落ちて無事でいられる保証はない。

 ジゼルは聖剣の柄でレヴィの額を思いっきり小突いて拘束を抜け出すと、真横に見えた電光掲示板に聖剣を思いっきりぶっ刺してぶら下がることに成功する。

 

「はっ…………はあっ…………!」

 

 ジゼルに振り払われたレヴィは、地面スレスレで脚部のスラスターを稼働させて衝突を回避すると、再びジゼルに向かって突撃してくる。

 その両手には、唸りを上げる高周波ブレード。あんなものに当たれば、人体など容易くバラバラにされてしまう。

 マズい。今度こそは避けられない。

 

 ジゼルが諦めかけたその時、観客席にいたリシェルが叫んだ。

 

「ジゼル様っ、箱をッ!」

「っ!」

 

 そう言われてジゼルは思い出す。

 試合直前、ローゼンからリシェルを介して受け取った小箱の存在を。

 上着のポケットに入れたきりすっかり意識の外に追いやってしまっていたが、あれは一体何だったのだろうか。

 

 電光掲示板に突き立てた剣に片手でぶら下がったまま、ジゼルはもう片方の手で服のポケットを探る。

 ロスト能力を発動したせいで服装が変わっているが、小箱はちゃんとポケットの中に存在していた。

 しかし、こんなものでどうすれば――?

 

 その時。

 一瞬、箱の表面に回路じみた紋様が浮かび上がったかのように見えた。

 そして、

 

『ユーザー認証完了。登録名;JYZEL LEINSLINE――勇者権紋認識成功。機体名”アルゴノート”起動』

 

 箱の上部が開いたかと思えば、瞬く間に装甲が展開され、ジゼルの身体を覆ってゆく。

 そうして現れたのは、青い幻煌魔装(エスペラント)

 レヴィの“ディアマンティ”と比べると、武装が少ない分かなりスマートなフォルムとなっているが、その分背中の翼がかなり大きく目立っている。

 

「これって、私の幻煌魔装(エスペラント)……!?」

「ローゼン様からのプレゼントです。急造故に武装面は充実できておりませんが、機体性能は保証します」

 

 そう言われて、展開された幻煌魔装(エスペラント)――“アルゴノート“の武装を確認するジゼル。

 電磁シールドに高周波ブレード、二機の粒子砲と充実した武装を持つ“ディアマンティ”と比較すると、“アルゴノート”の武装は量産型の実体盾に一本の実体剣くらいしかない。

 リシェルの言う通り、どうやら本当に急増機体らしい。

 だとしても、

 

「こんなものあるなら最初っから不通に渡したらよかったんじゃ」

「言ったはずです、急造の機体だと。流石のローゼン様といえど二日弱で幻煌魔装(エスペラント)を完成させることはできませんでした。なので内部の最適化(アップデート)が未完了の段階でお渡しする他なかったのです」

「待てよ、それってつまり……ローゼンの奴、二日でジゼル用の幻煌魔装(エスペラント)設計して完成まで持ってったってことなのかよ!?」

 

 その事実を耳にしたミクリが、驚愕の声を上げる。

 幻煌魔装(エスペラント)一機を組み上げるのには相応の時間や資材、人員が必要となる。

 だがローゼンはそれを二日、さらにいうと恐らく一人で機体の完成まで持っていったというのだ。いくら最強の魔術師だからと言ってそれはおかしいにもほどがあるのだが、実際やり遂げてしまっているのだから否定しようがない。

 

(これをくれたってコトは、兄様はこうなるのを予期してたってこと――? いや、今はそんなのどうだっていい。これがあれば条件的にはようやくイーブン。散々空から好き勝手やられたんだ、こっちだってやってやる!)

 

 電光掲示板に突き刺さったままの聖剣を引き抜いたジゼルは、息を呑みながら“ディアマンティ”と対峙する。

 これまではゲームの中ぐらいでしか操ったことのなかった幻煌魔装(エスペラント)、それに今乗っている。

 

 空を飛んでいる感覚にはまだ慣れない。

 幻煌魔装(エスペラント)に魔力を供給すべく全身の魔力回路が躍動して、身体が熱くなっているのを感じる。

 だが、悪くない気分だ。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ‼︎」

 

 聖剣を構えながら、ジゼルはスラスターを全力噴射して“ディアマンティ”へと突撃する。

 “ディアマンティ”は高周波ブレードでその刃を受けようとするが、聖剣の一撃によってブレードを粉々に砕かれてしまう。

 バリアを張ることで本体へのダメージこそ防いだものの、近接攻撃の手段を失った“ディアマンティ”。

 そこに間髪入れず、“アルゴノート”を纏ったジゼルの蹴りが炸裂する。

 

「――ッ‼︎」

 

 スラスターを逆噴射することで吹っ飛びを緩和して体勢を整えた“ディアマンティ”だが、その時には既に、ジゼルが聖剣を振り下ろそうとしていた。

 “ディアマンティ”のバリアならばこれくらいの攻撃など脅威ではない。

 だが、刃が通らずとも衝撃までは防げない。

 頭から聖剣の一撃をくらった“ディアマンティ”は、バリアを展開したまま地上まで叩き落とされる。

 

「ぎぇっ⁉︎」

「れ、レヴィ様……」

 

 “ディアマンティ“が墜落したのは、レヴィの取り巻き達のいる観客席、そのすぐ側のフィールド上だった。

 

 落下してきた“ディアマンティ”、その中に取り込まれたままのレヴィを心配する取り巻き達。

 しかし。

 取り巻き達の声に反応した“ディアマンティ”がその砲門を彼女達に向けたかと思えば、躊躇なく彼女達に向かってビームを放った。

 

「なああああああッ⁉︎」

「クソッタレがっ‼︎」

 

 咄嗟に観客席にいたミクリが駆け出す。

 だが、それよりも早くセレニアが動いていた。

 

 観客席から身を乗り出したセレニアは、そのまま横幅二十数メートルはあろうフィールドをひとっ飛びで跳び越えると、取り巻き達の前に立つ。

 そして、天を指しながら告げる。

 

「力を貸して――聖竜(フォトニオス)

 

 瞬間。

 “ディアマンティ”の放ったビームが着弾すると同時に、空から凄まじい閃光がセレニア目掛けて降り注いだ。

 

 

 

 

 

      ◇      ◇      ◇

 

 

 光の中から現れたのは、一体のドラゴンだった。

 光を帯びた透き通るように白い翼。白と紫が入り混じった流線形のフォルム。空気を震わせる咆哮。

 それが翼を広げ、“ディアマンティ”のビームからセレニア達を守っている。

 余りにも神々しすぎて現実離れした光景に、ジゼルもミクリも唖然としていた。

 

「んだこれ……ドラゴン⁉︎」

「うん。ボクの相棒――みたいなものかな」

「すごい……」

「関心はいいから、ジゼルはレヴィを止めて!」

「あ、うん!」

 

 セレニアにそう言われたジゼルは、再びビームを放とうとする“ディアマンティ”を慌てて蹴飛ばす。

 ギギギギ、と各所を軋ませながら立ちあがろうとする“ディアマンティ”だが、突然ジゼルの頭上を掠めて飛んできた瓦礫によって再び地面に叩きつけられる。

 

 瓦礫の飛んできた方を振り向くと、フィールド上に降り立ったミクリがいた。

 

「待たせたな馬鹿令嬢。こうなりゃ決闘なんざ知ったこっちゃ無え、好き放題やらせてもらうぜ」

「ミクリ!」

「観客席の方はセレニアやリチャードに任せとけ。なあに、聖剣の勇者サマがついてんだ。大船に乗ったつもりでいろよ」

 

 ミクリは左手の勇者権紋を見せつけながら笑う。

 その時、ジゼルのすぐ近くで着信音らしきものが鳴りだす。

 音からしてスマホではない。幻煌魔装(エスペラント)に搭載された無線のものだ。

 通信を繋げると、リチャードの声がジゼルの耳に飛び込んでくる。

 

『いいかいジゼル、プララヤ・システムは搭乗者の身体に大きな負担をかける代物。とにかく機体を止めるんだ! このままだとレヴィの身体が持たない!』

「だとよ。どうする、助けるか?」

 

 ジゼルにとってレヴィは、先程まで自分を殺そうとしていた相手。そうでなくとも彼女からは日頃から嫌がらせを受けている。

 普通ならば見捨てても文句はないと思うだろう。

 でも、

 

「………………当たり前だよ。このまま放っておいたら皆が危ないし。それに……幾ら嫌いな相手だからって、見殺しになんてできないし」

「よく言った!」

 

 ジゼルにはそんな真似は出来ない。

 好き嫌いで助ける人間を選り好みをするのは間違っている。

 どんな憎たらしいヤツであろうとも、目の前で苦しんでいるのを目にしてしまった以上は助けなければ気分がわるい。見殺しにしてしまったら絶対に後悔する。

 

 それに。

 きっと聖剣の勇者(もしものじぶん)なら、そうすると思うから。

 

「やってやるよ……やってやるっ!」

 

 “アルゴノート”のスラスターを最大までふかし、ジゼルは全速力で“ディアマンティ”に向かう。

 

 

 が、直後。

 ジゼルのすぐ前で見えない何かが爆発した。

 

 

「が、…………な、なに?」

 

 何が起きたのかわからず困惑するジゼル。

 何かに当たった感触はなかった。

 しかし、“アルゴノート”の表面が少し焼け焦げているのが分かる。これは一体……?

 

「なるほど、空気を圧縮して閉じ込めたバリアをそこかしこにばら撒いてるのか……さしずめ透明地雷ってことかな。気を付けろ、下手に突っ込んだら全身ズタズタになるぞ」

「んなっ……」

 

 ミクリの忠告を受けたジゼルは、ズダボロになった自分の姿を想像してしまい堪らず震え上がる。

 不可視の地雷原。

 幻煌魔装(エスペラント)が無ければ、今頃ジゼルは肉片になっていただろう。

 

 だが、こんなものは直接触らなければいい話。

 

 暗闇の中を手探りで進むように、ジゼルは手に持った聖剣を振り回して、前方に敷かれた不可視の地雷を除去してゆく。

 

 “ディアマンティ”が両肩からビームを放つが、そちらはミクリが触れて破壊する。

 “破壊衝動(マス・ディストラクション)”。

 破壊の概念を自在に操るミクリのロスト能力。

 触れられるものならばなんだって壊せる最悪の力が、最強の盾として立ちはだかる。

 

「――っ」

「今度こそ、ぶった斬る!」

 

 あらかた地雷を除去し終えたジゼルが、聖剣を構えながら“ディアマンティ“へと肉薄する。

 ビームはミクリが処理してくれている。ならジゼルは、その隙に懐に潜り込めばいい。

 

 しかし、聖剣の刃は“ディアマンティ”に届くことなく空中で弾かれてしまう。

 バリアだ。

 何度か斬ってみるがびくともしない。先程バリアをぶち破れたのが嘘のように、バリアは無傷を維持している。

 

「なっ……さっきはバリア破壊できたのに⁉︎」

「プララヤ・システムのせいで出力があがってんだろう。より強力なのじゃないと突破は無理そうだな。かと言って俺の能力じゃ危なすぎるし……」

「強力なのって――まさか」

 

 今のジゼルが出せる最大火力といえばただひとつ。

 聖剣クロノス。

 その力を最大解放するしかない。

 

「できる……のかな?」

「残念だが、迷ってる場合じゃ無いみたいだぞ」

 

 しかし、事態はさらに悪化する。

 突如として、ボコボコと、黒い粘液に覆われた“ディアマンティ”の各所が異様な音を発しながら膨張する。

 そして、その膨張した箇所が弾けるようにして、もう一機の“ディアマンティ”が姿を現した。

 

「ぶ、分身……いや、分裂した……⁉︎」

「なるほどな。自分そっくりの形に精製したバリアにあの黒い泥纏わせてんのか」

「感心してる場合⁉︎」

 

 唖然とするジゼル。

 だが、分身は一体だけには留まらない。

 二体、三体、四体、五体――ネズミ算式に分身は生み出されてゆき、瞬く間にアリーナの半分近くを埋め尽くしてしまった。

 ざっと50体近くはいるだろうか。

 分身の精製がひと段落するやいなや、それらは一斉にジゼル達に襲いかかって来た。

 

「嘘嘘嘘ォッ⁉︎」

「ビビんじゃねえ! 数は多いが一体一体は貧弱だ!」

 

 “ディアマンティ”分身体の放つビームを避けながらミクリが叫ぶ。

 確かに、分身体は火力面こそ本体と遜色ないが、ジゼルの攻撃一発で爆散するほどに弱い。実際、あまり力を入れていない聖剣の一振りが掠っただけで、分身体は水風船のように破裂している。

 

 だが、シンプルに数が多い。

 数の暴力に晒された状態では、皆を守り切ることも本体を叩くことも不可能。

 このままだとジリジリと追い詰められた末に敗れるのが目に見えている。

 

 だが、どうすれば?

 頭を悩ませながら分身体を駆除するジゼル。

 

 その背後から、分身体の砲撃が迫る。

 

 直前。

 

 

「――“聖竜嵐呪(フォトンストーム)”ッ‼︎」

 

 

 

 突如として凄まじい光の嵐が吹き荒れ、“ディアマンティ”分身体の半数近くを一気に消し飛ばした。

 

「な、何が……⁉︎」

 

 嵐が飛んできたほうに目を向けるジゼル。

 そこには、光に包まれたドラゴンを使役したセレニアが居た。

 今のは彼女がやったのだろうか?

 

「ふう……流石にこのレベルのは連発できないか。でも、道は作った」

「道って……」

 

 分身体を消し飛ばしたセレニアに、生き残った分身体達の意識が一斉に向けられる。

 どうやら分身体達は先の一撃によって、セレニアがこの場で一番危険な存在だと判断したらしい。

 ここでミクリは気付く。

 セレニアの意図に。

 

「まさかお前、惹きつけようってのか⁉︎ 馬鹿っ、この量は無理だろ⁉︎」

「あのまま戦い続けてもジリ貧になるだけだよ! なら誰かがこうするしかない! 大丈夫、ボクを信じて!」

 

 ジャキリと、両肩の粒子砲を取り巻き達に向けた“ディアマンティ”分身体は、そのままチャージを始める。

 流石のセレニアもこの量のビームを防ぎ切る自信はないようで、口では強がっているもののその顔色は悪い。

 粒子砲が発射され、ビームがセレニアに迫る。

 

 

 その時、

 

「――“雷矢”」

 

 横から飛んできた雷の矢が、粒子砲を明後日の方向へと弾き飛ばす。

 それもひとつではない。

 無数の雷の矢が空より飛来し、“ディアマンティ”分身体達を瞬く間に撃ち落としてゆく。

 あまりの出来事に、ジゼルもセレニアも唖然とする。

 

「⁉︎」

「今のは、もしかして――」

 

 今の一撃をジゼルは知っている。

 空を裂く雷霆。今を生きる絶対強者。

 

 大穴の開いたバックスクリーンの上に立つその存在を。

 青い長髪を靡かせ、全身から青白い稲妻を迸らせた青年を。

 

「遅くなってすまない、ジゼル。ここは私が食い止めよう」

 

 ローゼン・レインズライン。

 ラトレイユ最強の魔術師、“閃雷の青薔薇”がそこに居た。

 




動かすキャラが多い……!
でも、ここで出しておかないと不自然になる要素ばっかなんだよ!
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