イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー   作:カオス箱

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これでレヴィ編は終わりです。
無駄に長くなったゾ……


第14話 重たすぎる荷物なんか捨てて

 

 

 

 

 魔術決闘から二日ほど経った朝。

 ジゼルは酷い筋肉痛になっていた。

 

 そりゃそうだ。

 いくらロスト能力で強化されていたとはいえ、普段運動をろくにしていない少女が全力で戦ったのだ。肉体の限界を軽く超えた動きを連発した以上、その反動は必ずやってくる。おかげさまで昨日は丸一日ベッドから起き上がれず、せっかくの休日を筋肉痛に苦しみながら過ごす羽目になってしまった。

 一晩経って普通に登校できるレベルにまで回復したものの、まだ身体の節々が痛くて仕方がない。気を抜いたら身体がバラバラになってしまいそうだ。

 ここまで痛むんならセレニアの治癒魔術の行使を遠慮するんじゃなかったと軽く後悔しながら、ジゼルは登校していた。

 

「ほんとにやばかったら背負ってやるぞ」

「いいよ、へーきへーき…………」

 

 普段なら茶化してくるであろうミクリも本気で心配している始末。

 これは明日大霰(おおあられ)でも降るか、と思いながらも筋肉痛に耐え校門の見える距離までやってくる。

 そこで、ミクリが何かに気付く。

 

「おい、アレって――」

 

 ミクリの指差しす先。

 門の前に誰かがいる。

 

 レヴィ・ヴィダール。

 顔や首に包帯を巻いた公爵令嬢が、ジゼルを待っていたかのように佇んでいた。

 暴走した“ディアマンティ”から解放された彼女は、すぐさま病院に搬送された。ジゼルもまともに動けない状態になってしまったため、あの後どうなっていたか不明だったのだが、この様子だと大丈夫なようだ。

 

 ――しかし、気まずい。

 ジゼルが決闘に勝ってしまったせいで余計な(わだかま)りが生じていそうで気が気でない。出来ることなら顔を合わせず素通りしてしまいたい。

 そんな感じに顔を逸らしながらレヴィの前を素通りしようと目論むジゼルだったが、レヴィの方が先に気づいてしまった。

 

「げっ……」

「先制攻撃、だな」

 

 レヴィの行動の意図が読めず戦々恐々とするジゼル。

 まさか復讐か?

 決闘で負けた腹いせに直接排除しにかかったのか?

 

 そうこうしているうちに、レヴィがジゼルの前にやって来た。

 走る緊張。流れる汗。震える足。

 

 だが。

 レヴィの第一声は、ジゼルにとって予想だにしないものであった。

 

 

 

「大変申し訳ございませんでしたッ‼︎」

 

 

 

「…………………………今、なんて」

「あ、あれ。もしかして聞こえてらっしゃらなかった? ふぅ………………では、もう一度。た・い・へ・ん・も・う・し・わ・け・ご・ざ・い・ま・せ・ん・で・し・たぁッ‼︎‼︎」

「いや聞こえてるからそんな馬鹿でかい声出さなくていいよッ‼︎‼︎ 発言の意図がわかんないって意味だよ‼︎‼︎」

 

 土下座したまま馬鹿でかい声で謝罪するレヴィを前に、ジゼルは本気で驚いていた。

 まさかレヴィの口から謝罪の言葉が出てくるとは思わなかった。

 基本的にレヴィは、自分の意見を無理やり押し通す人間だ。そんな彼女が誰かに対して土下座するなど誰が予想できようか。

 

 登校中だった周りの生徒達も、土下座するレヴィを目にしてあからさまに動揺している。中には泡を吹く者や天に祈りを捧げる者までいる始末。

 

「これまでの所業を知っていながらわたくしを助けていただいたなど、なんでお詫びとお礼を申し上げればいいか……」

「ちょ、周り見てるからとりあえず土下座はやめて! 本気なのはわかったから!」

 

 この勢いだとジゼルが首を縦に振るまで土下座が続きかねない。

 レヴィの本気を認めたジゼルは、とりあえずレヴィに土下座をやめさせて彼女の謝罪を受け取ることにした。

 

「ジゼルさんには大変辛い思いをさせてしまいました。なんとお詫びを申し上げれば良いか……」

 

 が。

 次の台詞でジゼルのその認識は木っ端微塵に打ち砕かれた。

 

「お詫びと言ってはなんですが――わたくしをぶっ叩いてくださいませんか?」

「……………………ん?」

 

 ――ブッタタイテクダサイマセンカ?

 なんか変な一文が湧いて出てきた気がするのだが?

 

「貴女にぶち込まれたあの一撃が忘れられなくて……思い出しただけで身体が熱ってしまって仕方がないのですッ‼︎ 責任を‼︎  取ってくださいまし‼︎」

(何でだぁああああああああああああっ⁉︎ なんでこうなった⁉︎ なんか未知というか禁断の扉開けちゃった⁉︎)

 

 予想外甚だしいレヴィの変貌っぷりに声を失うジゼル。

 そんなジゼルの反応など知ったこっちゃないレヴィは、どうぞ引っ叩いてくださいと言わんばかりにぐいぐいと赤らめた頬を接近させてくる。

 助けを求めるべくミクリの方に視線を向けるが、彼も唖然としている。駄目だこりゃ。

 

「さあ何処から叩かれますかッ、尻でもおっぱいでも無言の腹パンでもなんでもご自由にやってくださいましッ‼︎ ちなみにわたくし的には全部(フルコンボ)を御所望致しますね!」

「うおおおおォッ‼︎‼︎ 拒否権というものを知らないのかこの公爵令嬢ッ‼︎ やめろ近寄るな鼻息吹きかけるなぁッ‼︎‼︎」

「まあ、言葉責めも良いものですわね……ジゼルさんからの鞭ならいくらでもご飯おかわりできますわ……‼︎」

「駄目だドM過ぎてツッコミが効かねえぇえええええええええミクリぃ助けてえええええッ‼︎」

「うぉっと、そうだった‼︎」

 

 ジゼルのヘルプコールでようやく我に返ったミクリは、慌ててレヴィの頸に手刀を叩き込んで一撃でダウンさせる。

 ――かくして変態令嬢は倒れた。

 できればもう二度と目覚めないで欲しい。

 

「――どうしよっか、コイツ」

「ほっとこうよ、こんなやつに構って遅刻するのも癪だし」

 

 

 

 

      ◇       ◇      ◇

 

 

 

 その後。

 なんとか落ち着いたレヴィからことの顛末を聞かされた。

 

「実家を追い出された⁉︎ たった一回決闘に負けただけで⁉︎」

「父は昔からそういう人でした。父の満足する結果を出せなかったわたくしには相応しい末路ですわ」

「で、でも……」

「ジゼルさんが気に病む必要はありません。これは遅かれ早かれ起きていたこと。でも、これで良かったのです」

「え?」

「公爵令嬢としての人生はほぼ無くなりましたが、不思議と今の方が気楽な感じがするのです。つーかあのカス野朗供と離れられて清々しましたわッ‼︎‼︎」

「色々と大変だったんだな、お前も」

 

 思いの丈を履き散らかしたレヴィに、ミクリが同情気味にそう返す。

 よその家庭事情にあまり深く突っ込むのもアレだが、どうやらレヴィも相当に苦労してたらしい。

 過保護気味な兄に育てられたジゼルと、結果主義の父親の道具として育ったレヴィ。どちらも他人の都合に縛られていたという点では同じ。二人は根本的なところで似ていたのかもしれない。

 

「…………つーか、よく学園には残らせてもらえたな」

「叔父様が援助してくれなければのたれ死んでましたわ。勘当の件を話したら学費とか一括で振り込んでくれたのです。――さて、わたくしは行きますわ」

 

 そう言って、ベンチから立ち上がるレヴィ。

 

「行くって、どこへ?」

「セレニアさんやわたくしがいじめていた他の方にも謝りに行きませんと。後これから学生寮への入居手続きもしなければなりませんし、生活費のためのバイト探しもしなきゃですし。あー忙しい」

 

 どうやらレヴィは学園の寮に入ることになったらしい。

 まあ、父親に追い出された以上寮生活になるのは当然かもしれない。

 

 傲慢な公爵令嬢は、負けて全てを失ったことでやり直す機会を得た。

 そんな彼女の顔は、以前より生き生きとして見えた。

 

 そうして謝罪行脚へと赴こうとするレヴィだったが、校舎に入る直前で足を止める。

 

「……? どしたの?」

「それはそうと――いつわたくしをお兄様に紹介していただけるのですか?」

 

 

 瞬間。

 ジゼルは持っていた鞄を容赦なくレヴィの顔面目掛けてぶん投げた。

 ――本人は大喜びしていたので逆効果だったが。

 

 

 

 

 

 

      ◇       ◇      ◇

 

 

 

 

 その夜。

 ジゼルは夢を見た。

 幾度となく繰り返された、勇者の旅路の夢を。

 

 

 

 

 それは、どこかの街のように見えた。

 まるで災害でも起きたかのように街は無惨にも壊されていたが、そこにいる人達の顔は希望に満ちている――ように見える。

 

「おお勇者様ッ、貴女様のおかげでこの街から厄災の脅威は去りましたっ! なんとお礼を申し上げればよいか……!」

「いえ、聖剣の担い手として当然のことをしたまでですから。それに、これは街の皆さんと共に掴んだ勝利です。私一人ではなし得なかった。皆さんの力添えがあっての今なのです」

 

 夢の中のジゼルは、泰然自若とした態度で歓喜する群衆にそう返す。

 自身も満身創痍だというのに痩せ我慢すらしない。正真正銘の英雄として振る舞うジゼルの肩に、背後から手が置かれる。

 振り返ると、聖職者のような服装をした薄桃色の髪の少女がいた。

 

「やったねジゼル! ボク達、この街を守れたんだよ!」

「……だね。あなたが居て良かった、セレニア」

 

 互いに生きてこの戦いを終えられた喜びを分かち合う二人。

 街を守れたことももちろん嬉しいが、ジゼルにとっては、彼女が生き延びてくれたことがなにより嬉しいのだ。

 

 そこに、歓喜の声を上げる群衆の中から、一人の少女がジゼルの前に現れる。

 整った顔立ちに似つかわしくない大きな鎧に身を包んだ彼女は、ジゼルに跪きながら宣言する。

 

 

「――これよりこのレヴィ・ウィダール、貴女様の盾となることを誓いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

      ◇       ◇      ◇

 

 

 

 ジゼルが目を覚ますと、見慣れた自室の天井だった。

 

「ッ――、今のは……………………夢?」

 

 夢。

 幼い頃から幾度となく見てきた、聖剣の勇者(もしものじぶん)の夢。

 だが今回の夢には、これまでとは明確に違う点があった。

 

 

 夢の中で見た二人。

 あれは間違いなくセレニアとレヴィだ。

 

 だが、どうして?

 

 これまで幾度となく聖剣の勇者の夢を見てきたジゼルだが、旅仲間らしき人物の顔には常に靄がかかっていた。顔が出てきたのはこれが初めてだ。それも、ジゼルの知る人間の。

 これは一体どういうことだ?

 幾ら考えたところで、分かるはずもない。

 

 ただ。

 何かを伝えるかの様に、右手に浮かぶ勇者権紋は淡い光を放っていた。

 

 

 




クソカス令嬢、変態になるの巻。
次回からレヴィはこれがデフォルトになると思っていてください。
まあまっとうなヒロインやるのはセレニアが間に合ってるし、多少はね?




あと今回でストックが尽きたので次話まで間ちょっと空きます。ごめんなさい。
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