イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー 作:カオス箱
長くなりすぎたので分割……
第3話 世界を救った勇者
ジゼルの前に現れたメイド・ミクリ。
その正体は、ラトレイユを救った聖剣の勇者だった。
「勇者………………あなたが?」
御伽噺でしか知らなかった聖剣クロノス。
それを携えた本物の勇者が、今ジゼルの目の前にいる。
法衣の男も、その輝きを目の当たりにして動揺している。
聖剣の勇者と言えば、ラトレイユでは知らない人はまずいないであろう伝説的な英雄。彼だって、その偉業を知らないわけではない。
だが、勇者が生きたのは千年も昔。この現代に生きているはずがない。
「聖剣の勇者だと……⁉︎ ふざけるのも大概にしろっ! 厄災戦は千年も前の出来事。いくら勇者といえど所詮人間、それが千年も生きているはずなど――」
「生かされてんだよ、俺は。この世界に呼ばれたときに不老の肉体とかいうゴミを押し付けられてな」
不老の肉体。
彼女の言葉が正しいとするならば、ミクリは勇者となってから千年もの間この世界で生き続けていることになる。明らかに普通の人間ではない。
いや、だからこその勇者なのかもしれない。
驚きのあまり呆然とするジゼルを他所に、ミクリは呼び出した聖剣クロノスを天高く掲げる。
「さ、一撃で決めてやる。安心しろ、死なない程度に加減はするさ」
「っ、舐めるなよ小娘……! こうなったら私の術式できさm
我に返った法衣の男が、懐から魔法陣の描かれたカードを取り出し何かを詠唱しようとする。
だが、遅かった。
「
ミクリが聖剣を振り下ろすと同時に、スラム街の一角が怒濤の閃光で埋め尽くされた。
◇ ◇ ◇
「はい終わり」
「……………………………………ひぇっ」
白く塗りつぶされていたジゼルの視界が正常に機能し始めた時には、全てが終わっていた。
左右に佇んでいたはずの廃ビルは跡形もなく消し飛んでおり、前方にあった街頭モニターは真っ二つに切断された状態で路上に転がっていた。
法衣の男とその部下たちは、その大半が瓦礫に埋もれてしまっていた。中には呻き声をあげながら立ち上がろうとする者もいたが、あの怪我では逃げるジゼル達を追跡するなんて真似は到底不可能だろう。というか今すぐにでも病院にでも行った方がいいと思う。
ミクリは全てが片付いたのを確認すると剣を肩に担ぎながらジゼルの方を振り返る。
「さ、帰るか」
「あなた…………本当に勇者なの?」
「うん」
「マジのマジ?」
「だからそう言ってるじゃん」
いまだに実感が追い付かない。
不良メイドだと思っていたミクリが、伝説に聞く聖剣の勇者だったなんて。
そんな伝説的英雄がなぜ現代まで生き続けているのか。どうしてジゼルのメイドなんかになっているのか。先ほど口にしていた”ロスト能力”とやらは一体何なのか。
疑問は山のようにあるが、動揺のせいかうまく言葉にできない。
そんな感じに困惑と混乱の最中にあったジゼルの手を、ミクリは強引に引っ張る。
「それよりほら、ズラかるぞ。結構派手にやっちまったから警察とか来るかもだし。捕まりたくねーだろ」
「それはそうだけど……」
「だな、じゃあついて来い。あっちにバイク停めてあるから。あ、一応聞いとくけどバイク乗ったことはあるか?」
「いや、ないけど」
「じゃあこれが初乗りか。悪いけど結構とばすから、白目ひん剥かねーようにせいぜい気張っとけよ」
ミクリの言う通り、これだけの騒ぎを起こしたのだから警察だの軍だのが駆けつけてもおかしくない。ましてや、大規模破壊の現場にいた奴がどう扱われるかなんて言うまでもない。
余計な疑いを持たれて補導歴なんてついたらおしまいもいいところ。
ミクリの態度に僅かながらの不安を抱きながらも、渋々付き従うジゼル。
そこに、現れた。
――何が?
パワードスーツを纏って瓦礫の下から飛び出してきた法衣の男が、だ。
「やああああああああああってくれましたねぇえええええええええええええッ‼︎‼︎」
「げっ……一応加減はしてたけど、まだ生きてたのか」
「ウソッ、
数年前からラトレイユに普及し始めた、魔力駆動のパワードスーツ。
圧倒的なパワーとスピード、自由自在なカスタマイズ性に、単独で成層圏を突破できる飛行能力。それに加え、搭乗者の術式性能を大きく引き上げる効果もある。
現代ラトレイユで主流となっている科学魔導技術、その象徴ともいえる夢のマシン。
その圧倒的性能から、スポーツや宇宙開発、果てには軍事といった、様々な分野で使われている。もちろん
だがその分、
そんなものを持っているということは、目の前の男には、
「もう族長からの命令なぞ知ったことかッ‼︎ こうなれば死体にしてでも持ち帰ってやる‼︎ ナァに、必死に抵抗するモンだからやり過ぎましたって言えば向こうも納得するだろうしさぁ‼︎」
「ケッ、そういうのは全て終わってからいうモンだぜ。やる前から全部ベラベラ喋ってるってことはよぉ、私は勝てませんって言ってる様なモンだぞ。負けフラグって言葉知ってます?」
「黙れ小娘ッ、まずは貴様から殺してあげましょう‼︎ 蜂の巣に成りやがれッ‼︎」
法衣の男がそう叫ぶと、彼の
そして、その砲口から怒涛の勢いで魔力弾が放たれた。
ズドドドドドドッ‼︎‼︎‼︎ と、ゲリラ豪雨の如く降り注ぐ魔力弾が、コンクリートの地面を容赦なく抉ってゆく。
その進路の先には、ミクリとジゼル。
衝撃でよろけて尻餅をついてしまったジゼルに、魔力弾の雨が迫る。
ミクリはそれを迎え撃つべく、再び聖剣を構える。
「一度聖剣ぶっぱしたくらいじゃ凝りねぇみたいだな。そんじゃあ二発目と――」
しかし。
ミクリが振り抜こうとしたその寸前で、彼女が握っていた聖剣クロノスは光の粒子となって霧散してしまった。
「なっ……、マジかよ時間切れッ⁉︎ このタイミングで消えんのか⁉︎ 俺のこと嫌いだからって仕事放棄すんじゃねえよクソ聖剣ッ⁉︎」
「ふんっ、剣がなくなってしまえばこちらのモノよッ!!!! 死ねえええええええええええええっ!!!!」
いくらミクリが強いといっても、
武器を失ったミクリに、魔力弾の雨が迫る。
このままではジゼルを守れない。
尻餅をついた彼女が立ち上がるよりも早く、魔力弾の雨が到達してしまう。
この時、ミクリが取れる行動は一つしかなかった。
踵を返し、ジゼルを庇う様にして相手に背を向ける。
ミクリの決して大きいとはいえない背中に、容赦なく魔力弾の豪雨が降り注ぐ。
「ミクリ‼︎」
「ガッ……駄目か、この物量は流石に“
ミクリの全身は先程見た漆黒のオーラに包まれている。
全てを破壊するソレをもってしても、全ての魔力弾を破壊するには至らず、破壊の概念、その障壁をすり抜けたごく一部の魔力弾がミクリの身体に衝突してゆく。
「くっ、これを耐えるか……! だが、その痩せ我慢もいつまで持つでしょうかねぇっ‼︎」
「耐えるに決まってんだろ……っ、俺が倒れたら終いなんだからなぁっ!」
常人ならばとうに身体が消し飛んでいるはずのその衝撃を、ミクリは必死に耐え抜いていた。
それが成せるのはただの根性か、はたまた聖剣の力故か。
尻餅状態から立ちあがろうとするジゼルに、ミクリは声をかける。
「ジゼル、お前は今のうちに逃げろ」
「なっ……、ミクリはどうなんの⁉︎」
「これくらい耐えられるッ……ぐぁっ⁉︎」
嘘だ。
既にミクリの身体のあちこちから血が吹き出している。
それでもミクリは膝をつかない。出会ったばかりの
それが、ジゼルには我慢ならなかった。
元はといえば、ジゼルがミクリから逃げ出してこんなところに迷い込んだのが原因なのだ。だから、ミクリがジゼルのためにここまで傷を負う意味も価値も無いはず。
自分の軽率な行いのせいで誰かが傷つくのは間違っている。
「なに、やってるの……やめてよ、私なんかのために傷つかないで。逃げて良いんだよ……」
「お前こそ何ふざけたこと言ってんだ、主人見捨てて逃げ出すメイドがどこに居るよ?」
「っ……………………」
「仕事だから守るんじゃない。俺はやりたくてやってんだよ」
魔術攻撃をくらいながら、ミクリは不敵に笑う。
熱くて冷たくて痛いはずなのに、なぜ彼女はこうも笑っていられるのだろうか。
ジゼルは、その理由を知っている。
◇ ◇ ◇
十年前。
当時六歳だったジゼルは、バスジャックに巻き込まれた。
彼らの犯行動機は金。
ジゼルを人質にとってレインズライン家から莫大な身代金を頂く。その為だけに、ジゼルと同じバスに乗っていた十数名が巻き込まれた。
そして。
危険を承知で助けに来た父と、逆上した犯人の発砲からジゼルを庇った親友。その二人がジゼルの目の前で犠牲になった。
父親は亡くなり、親友は一命はとりとめたものの後遺症が残った。
親友の親からは疫病神と罵倒され、親友とは引き離された。父の後を継ぎ若くしてレインズライン家の当主となった兄には、今尚多大な苦労をかけている。
――息苦しくて仕方がない。
いろんな人に迷惑をかけた上で、のうのうと守られ生きている自分が嫌だった。
こんな自分に守られるだけの価値なんてない。
あっていいはずがない。
なのに。
目の前のメイドは、今日初めて顔を合わせたはずのジゼルを身体を張って庇っている。
仕事だからとか、義務だからとかじゃなく、ただそうしたいから。
ジゼルを庇って傷ついた二人も、今のミクリと同じように笑っていた。
多分、彼らもそうだったのだろう。
でもそれは。
守られる側からしたらたまったもんじゃないでしょう?
◇ ◇ ◇
(こんなことになったのは、元はといえば私のせいだ! だから、傷つくのは私だけでいい。そうでなきゃいけないんだ!)
その時。
ジゼルの右手から激しい光が放たれた。
「⁉︎」
浮かび上がるのは、ひとつの紋章。
そしてそれは、ミクリの手にあったものと同じものだった。
「この、力は――」
「勇者、権紋…………!」
世界を救った聖剣の勇者、その証。
それが何故ジゼルに現れたのかは分からない。
その剛毅なる輝きは、瞬く間にジゼルの全身を包み込んでしまう。
そして、光が消えた時には、ジゼルの服装は土で汚れた制服から蒼銀の鎧姿に変わっていた。
青いマントをはためかせながら、ジゼルは腰に掛かっていた剣に手をかける。
「なんだ、その光は……⁉︎」
変貌したジゼルの姿を目にした法衣の男が一瞬戸惑いを見せたことで、魔力弾の雨が止む。
魔力弾を耐え抜いて立つのもやっとなミクリと入れ替わる様にして、ジゼルが男の前に出る。
この危機的状況を前に、異様なまでにジゼルは冷静になっていた。
恐怖心というものが跡形もなく氷解してしまったかのような、不気味さすら感じるほどの解放感。しかし不思議と、そのような精神状態の中、ジゼルは自分がどうすればいいのか分かっていた。
頭の中に浮かび上がる情景を反射的に真似て、ジゼルは剣を鞘から抜く。
抜かれた剣には、燦然と輝く勇者権紋。
聖剣クロノス。
2つとしてあるはずのない勇者の剣が、ジゼルの手に存在していた。
「是は未来を決する時制の剣。世界を廻す残酷な運命の楔。我、汝にこの身を捧げる――」
詠唱が進むごとに、聖剣はその輝きを増してゆく。
「この煌めきで闇を祓えッ!!!! ”
ジゼルが聖剣を振るった直後。
目を閉じる事すらできないほどの眩い光が、広範囲を瞬時に焼き尽くした。
用語
◯
ラトレイユに普及している魔力駆動のパワードスーツ。
圧倒的なパワーとスピード、自由自在なカスタマイズ性に、単独で成層圏を突破できる飛行能力。それに加え、搭乗者の術式性能を大きく引き上げる効果もある。
軍事や宇宙開発、スポーツ等様々な分野で用いられている。
……あれ、これってどっかで以下略
◯聖剣クロノス
勇者だけが扱える伝説の聖剣。