イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー   作:カオス箱

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ちょっとばかし下ネタじみた要素ありますのでご注意。


第4話 もしもの私は聖剣の勇者?

 

 

 

「がははははははははっ、随分と派手にやったよなぁ俺達! まあ久々に暴れられたし俺的には落第点かなぁ!」

「……………………うるさいから黙ってて」

 

 それから色々あって、ジゼルとミクリは帰路についていた。

 あの後2人は、慌ててあの場を立ち去った。あれだけの大立ち回りをしでかしたのだ。早いところズラからなければジゼル達が警察に捕まりかねない。

 ミクリはなんか満足げにガハハと笑ってやがるが、ジゼルは完全に気力を使い果たしており、歩くだけでも精一杯だった。

 というかあんだけ魔力弾くらって流血しておきながらもうピンピンしているミクリが恐ろしくて仕方がない。なんだコイツ、一人だけ耐久力がギャグ漫画の世界の住人の域に達してないか?

 

 ちなみに、ミクリの乗ってたバイクはジゼルが聖剣をぶっ放したせいで木っ端みじんになったため二人は徒歩で帰っている。ご愁傷様……。

 

(――なんだったの、さっきのアレ)

 

 歩きながら、ジゼルは先程の出来事を思い返していた。

 

 自分の手に聖剣が現れた後。

 ジゼルは身を守るべく、襲い来るギャングに向かってそれを振るった。

 

 そのあとはもう閃光の嵐だった。

 とてつもない光と防風が収まった後、そこにあったのは壮絶な破壊の跡だった。

 まるでミサイルでも落としたかのように、倉庫街の一部が吹き飛んでいる。いくつものコンテナや倉庫が瓦礫と化し、原型を失っている。

 聖剣の一撃をモロに食らった法衣の男は、瓦礫と共に倒れ伏していた。辛うじて息はあるみたいだが、あの有様ではジゼル達に反撃することは到底出来ないだろう。

 

 そして、この惨状を作り上げた当の本人(ジゼル)は、己が力に完全に恐怖していた。

 

 なにせ、ついさっきまで非力だった少女がこんなことをしでかしたのだ。ましてや、ジゼルは喧嘩や荒事とは無縁のお嬢様。その衝撃は常人の比ではない。

 こうして少し時間が経った今もなお、ジゼルは動揺している。

 

 アレはなんだったのか。

 自分は一体何をしてしまったのか。

 

 この恐怖を少しでも和らげるためには、それを知らなくてはならない。

 

「――ねえ、ミクリ」

 

 震える声で、ジゼルは訊ねる。

 

「ん」

「さっきのアレ……なんなの? 私は、何をしたの?」

「…………………………んー。しらね」

 

 嘘だ。

 明らかにミクリは隠している。

 

「嘘つかないでよ。その反応、明らかに知ってるって感じじゃん」

「話すと長くなる」

「それでも知りたいの! あんな訳のわかんない力が私の中にあるって考えたら、怖くてたまらないの‼︎  お願いっ、なんか知ってるんでしょ⁉︎」

「あーわかったわかった! そこまで言うなら話すから!」

 

 ジゼルの剣幕に押し負けたミクリは、呆れ気味に返答する。

 

「……けど、その前にひとついいか?」

「?」

「ひとっ風呂浴びてこいよ。お前全身土まみれだぞ」

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 

 レインズライン邸。

 王都ハレーの郊外に位置するそれは、馬鹿笑いしてしまうほどに大きな庭園と、その奥に聳え立つ豪邸だった

 金持ちの家を想像してごらんと言ってみたら十人中十人がこの屋敷を想像するであろう、豪邸のテンプレートと呼ぶべき存在。

 それが、ジゼルの家だ。

 

「ふぅ…………」

 

 風呂から上がったジゼルは、ミクリに用意してもらった私服に着替えていた。

 なんか上手い具合にミクリに先延ばしにされた気がするが、実際追いかけっこだのドンパチだののせいで制服が汚れまくっていたし疲労困憊でもあったので、こうしてミクリの提案通りひとっ風呂浴びてきたのだ。

 

 ドライヤーで髪を乾かしながら、スマホで適当に動画を垂れ流す。

 

LLC(レインズラインズ・カンパニー)は、科学魔導の先頭を行くもの。人類の叡智と神秘、その融和こそが未来を切り開く――』

「広告で身内の顔見せられんの、ほんと勘弁して欲しいわ……」

 

 動画の前に再生された広告、そこに映る兄・ローゼンの姿を目にしたジゼルの顔が曇る。

 

 LLCの社長にして、“閃雷の青薔薇”の異名でも知られる最強クラスの魔術師。社会的にも魔術的にも勝ち組のパーフェクトヒューマン。

 画面の中の兄は、清々しいまでのビジネススマイルを浮かべている。そこに、人間らしい情動は微塵も感じられない。

 仕事はおろかプライベートでもこれなのだから、ジゼルがローゼンを避けるのも無理はないだろう。

 ……まあ、LLCの女性社員達は“そういうところが好き! 氷の帝王って感じがして!”とおっしゃってる様だが。実妹のジゼルからすれば理解に苦しむ。

 

「最悪………………」

 

 一気にげんなりした気分になったジゼルは、スマホをしまうと、脱衣室を出た隣にある使用人用のシャワールームに目をやる。

 扉の向こうからはまだシャワー音が聞こえている。

 ミクリも服が汚れちゃったとのことで、シャワーを浴びに行ってるのだ。

 

「まだ出てないのか……おっそいなぁ」

 

 使用人たるもの清潔さは大事だけれども、だからといって主人よりシャワー時間長いのはいただけない。普通ご主人より先に出るもんじゃないだろうか。

 何故兄はこんな奴を雇ったんだろうか。

 ジゼルは呆れながら、シャワールームの扉をノックする。

 すると、タオルを頭に乗っけた全裸のミクリが扉を開けてきやがった。

 

「あーごめん、シャワー止まんなくてなんとか直してたトコ。悪かったな」

「おわあああああッ⁉︎  どんな格好ででてきてんの⁉︎ つーか出てくるんならせめてタオルで隠しなさ………………い……よ?」

 

 唐突に現れた肌色に、ジゼルは思わず飛びあがろうとして――気付いてしまった。

 ()()()()()()()()()()()()()()

 メイド服着てた時には、確かに胸の膨らみがあったはずなのに。

 しかし、今のミクリはぺったんこだ。これは一体?

 

 そのまま、ジゼルの視線はするすると下の方へと滑り落ちてゆく。

 なんだか猛烈に嫌な予感がするのだが、それとは裏腹にジゼルの視線は何かに吸い込まれるようにして、どんどん落ちてゆく。

 水の滴る腹筋、細い腰。

 そして、見てしまった。

 

 ――ナニがとは言わないが、ミクリの()()()()()()()を。

 

 つまり。

 コイツは女ではなく――

 

「……………………まさかとは思うけど、アンタ男?」

「あ、言うの忘れてた。スマン」

 

 ジゼルの確認に、笑いながら答えるミクリ。

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああなんてもん見せてんのよこの変態ッ‼︎‼︎‼︎」

 

 直後。

 我に返ったジゼルは容赦なくミクリの頭を扉で挟み潰した。

 

 

 

 

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 

 

 

「改めて自己紹介だ。霧江御久理、本日付でこのレインズライン家に仕えることとなった新人メイドだ。よろしくな………………あー頭痛い」

「自業自得だばーか。通報しないだけ感謝して」

 

 ミクリは頬をさすりながら、淹れたてのコーヒーをジゼルに出す。

 

 場所はジゼルの自室。

 既に窓の外は日が落ちかけており、遠くには街明かりが灯っている。

 ちなみにローゼンはまだ帰っていないらしく、家にはジゼルと使用人達しかいない。母親は滅多に帰ってこないし、ジゼルにとってはこの状態が普通なのだ。

 

 ジゼルは出されたコーヒーに砂糖を入れながら、頭を抱える。

 その理由はもちろん、ミクリの存在だ。

 

「まさか新人メイドが女装した変態だったなんて……しかも聖剣の勇者とか……」

「似合ってるだろ?」

「褒めてねぇし金輪際褒める気ねえから」

「その言葉、後悔すんなよ?」

「…………」

 

 なんか突っ込むだけ無駄な気がしたので、ジゼルはこれ以上の言及をやめた。この手の輩は深く考えるだけ損をすると決まっているのだ。

 

「ちょっと気になってたんだけど、その名前…………あなた、ひょっとして漂流者?」

「ん、まあな」

 

 漂流者。

 彼らは俗にいう”異世界転移者”とも呼称される存在だ。

 このラトレイユには、時折外の世界からヒトやモノが流れ着いてくることがある。いつからそれが起きているのかは定かではないが、記録上は少なくとも数百年前から散発していたのは間違いない。

 そういうこともあってか、ラトレイユには様々な世界の文明や文化・技術などが雑多に混在する実に混沌とした世界と化している。

 テレビに携帯端末、バレンタインにクリスマス。果てには幻煌魔装(エスペラント)。昨今のラトレイユに広まっている技術や文化の多くは、漂着者によってもたらされたものなのだ。彼ら無くして、今のラトレイユは存在し得ない。

 

 ――いやいやいや。

 聞きたいのはそれではない。

 ともかく、本題に入らなければ。

 

「…………………………あのさ、そろそろ話してくれないかな」

「ん?」

「あの宗教家共に襲われた時に私が使った力……あれってなんなの? ミクリ言ってたよね、“ロスト能力”がどうとかって……もしかして、私の力もその“ロスト能力”ってやつだったりするの?」

 

 幻煌魔装(エスペラント)に襲われた時、ジゼルが発現させた力。

 聖剣に酷似した剣を振るい、倉庫街もろとも法衣の男共を吹っ飛ばしたあの力が、ジゼルは怖くてたまらなかった。

 あれほどの破壊を巻き散らせてしまう自分が恐ろしい。いつか、あの力で今ある日常を壊してしまうのではないかという悪い想像が、頭から離れないでいる。

 

 だから、少しでもその恐怖を和らげたいという一心で、ミクリに尋ねた。

 明らかに彼は、あの力について何か知っているような態度だった。

 ミクリは何かを隠している。ジゼルはそう判断していた。

 

「んー、どう説明したもんか…………いや、考えても仕方ないな」

 

 ミクリは少し考えてから、ようやく話し始めた。

 

「まだ確信はできてないが……お前が発現させた力、あれはロスト能力だと判断してもいいだろうな」

「ロスト能力……それって一体?」

「“もしも自分がトップアスリートだったら”。“もしも自分が超強いスーパーヒーローだったら“……って思ったりした事、お前にだってあるだろ? お前の有り得たかもしれない可能性、失われしイフの自分の具現化。そいつが形になったのがロスト能力だよ」

「イフの、自分」

 

 ジゼルは、右手に現れた紋章に目をやる。

 

 勇者権紋。

 伝承によれば、聖剣クロノスとの契約を結んだものには、身体のどこかしらにその証が刻まれるのだとか。

 先程と比べるとかなり薄いし光ってもいないが、ジゼルの手にあるのは紛れもない勇者権紋。

 

 見間違える筈がない。

 昔から見続けていた勇者の夢の中でも、常にジゼルの右手にはコレがあった。嫌というほどに頭に焼き付いているのだ。

 

 この勇者権紋がロスト能力に起因するものだとすると、ジゼルの“もしも”はおのずと導かれる。

 

「……………………聖剣の勇者。それが私のイフ、ってことなんだよね」

 

 ミクリは無言で頷いた。

 

「どんだけ荒唐無稽だとしても、存在し得ない可能性からはロスト能力は生まれないからな。お前のロスト能力がその形で発現したってことは、お前が勇者になっていた可能性があったってことになる」

「私が、勇者……」

 

 ジゼルの脳裏に浮かぶのは、いつも見ている勇者の夢。

 ――あの辛い旅路が、自分のイフだと?

 仲間を失い、世界も救えず、全てを無くして力尽きたあの絶望の物語が?

 

 今までただの悪夢だと思っていたそれらが、急に現実的な重さを伴ってジゼルにのしかかってきた気がした。

 ……と。

 ジゼルが考えこんでるうちに、どうやら恐怖と不安が顔に出てしまったらしく、ミクリが心配そうに顔を覗きこんできた。

 

「何ビビった顔してんだお前?」

「………………え」

「安心しろ、俺がいる。現在進行形で聖剣クロノスを使ってる、モノホンの勇者サマがな」

 

 ミクリはそう言って、左の手袋を外す。

 顕になったミクリの左手。

 そこには、ジゼルにあるのと同じ、勇者権紋があった。

 

「…………やっぱり、見間違いじゃなかったんだ」

 

 ミクリの告白を聞いたジゼルは、そう漏らしていた。

 自身にも権紋が現れた今ならわかる。宗教家達と戦う時に見たミクリの手の輝き。アレは間違いなく勇者権紋のものだった。

 それも、ロスト能力によって生まれた紛い物ではなく、正真正銘、本物の。

 

「聖剣クロノスの契約者は常に一人。当代の契約者が死なない限り、他の者には聖剣は扱えない。つまりだ、俺がいる限りお前が聖剣の勇者になることは不可能ってワケだ」

「でもそれじゃあ、ミクリが死んだら駄目じゃない?」

「大丈夫、俺強いし不老だから」

「不老……それってマジなの?」

「うん。こっちに召喚された時に無理矢理そうさせられたんだよな。でも悪いモンじゃねーぞ、ずっと若い身体ってのは」

 

 そう言ったミクリは、イシシと笑いながら手袋を付け直すと、ジゼルに手を差し出す。

 それは、彼なりの決意表明。

 ジゼルは知る由もないが、ミクリがこうしてジゼルの元にやってきた理由。

 

「まあなんだ。これだけは言っとく。俺はお前を聖剣の勇者にさせないためにやってきた。よろしく頼むぜ、お嬢様」

 

 

 

 これは。

 かつて世界を救った聖剣の勇者と、かつて聖剣の勇者であったかもしれない少女。

 

 二人を取り巻く、数多の仮想(イフ)で彩られた運命の物語。

 

 

 

 




◯ロスト能力
各人の「もしもの可能性」を具現化する異能。
既存の魔術や科学では説明不可能な現象を巻き起こす、謎多き力。

発現する「もしもの可能性」は「その世界で実現される可能性が極めて低い」ものになる傾向がある。
ただしゼロではないため、何らかの拍子にその可能性が現実のものとなった場合、そのロスト能力は消失する。
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