イフの勇者令嬢ー勇者になるかもしれない私と元勇者の女装メイドー   作:カオス箱

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サブタイはふざけていません。マジでこの通りの回だもん。
今回はどちらかというと世界観不可彫りするための回になります。



■前回のあらすじ
・リチャード先生ようやく登場
・ジゼルとセレニア、なんやかんやで仲良くなった模様



第7話 セレニアのパーフェクト魔術教室(補習Ver)

 

 

 ラトレイユにおいて、魔術は一般に広く普及した異能体系とされている。

 太古の時代では、貴族階級や統治者は魔術を極めているのが当然であり、その力を以て領民を守護していた。

 異界より広まった科学が普及した現在でもそれは変わらない。科学と融合した科学魔導と形を変えたそれは、医療、産業、軍事から宇宙開発に至るまで、様々な分野で利用されている。

 

 そして、それは教育の分野でも同じこと。

 

「えー、今日は遠距離魔術の実技を行う。あの的になんでもいいから術式をブチ当てろ。以上」

 

 ジゼル達の通うトリスメギストス学園では、通常のカリキュラムに加えて魔術に関する座学、並びに実技の授業も行われている。立ち位置的には体育の授業に近いだろうか。

 学園に併設された、魔術実技の為の屋内演習場。

 そこには、体操服の上から黒いローブを纏った生徒たちが集められていた。

 その中にはもちろん、ジゼルやミクリの姿もある。

 

(よりによって今日の担当はバクバル先生かぁ……この人無駄に厳しいし怖いしで苦手なんだよなぁ)

 

 ジゼルはこの時間が嫌いだった。

 担当教師が怖いのもあるが、なによりジゼルは魔術の扱いがど下手くそだからだ。

 昔からジゼルは魔術が苦手だった。自慢じゃないが、ジゼルは魔術実技の授業で居残りさせられなかったことはない。

 ローゼンが最高峰の魔術師であるにもかかわらず、その妹であるジゼルはてんで駄目。その事実が、余計にジゼルの苦手意識を加速させる。

 

 ああ早く終わらないかなぁ。てかどうせ居残り決まってるんだからさっさとそうしてくれないかなぁ。

 既に諦めムードに入ったジゼルは、膝を抱えながら皆の実技を眺めていた。

 

「えー次は……転入生か」

「せめて名前で呼べよ」

 

 そうこうしているうちに、ミクリの番が来たらしい。

 魔術実技教師のバクバル(26歳・老け顔)に悪態をつきながら、ミクリは床に轢かれたラインの前に立つ。

 彼の十数メートル先には、ぽつんとたった的がひとつ。

 これに魔術攻撃をあてるのが今回の授業だ。

 

「ちゅどーん⭐︎」

 

 ミクリが指を鳴らすと、十数メートル程離れた位置にある的に雷撃が落ちる。

 煙をたてながら焼け落ちた的を目にした教師は、不満気に鼻を鳴らしながら合格のサインを出す。

 

「合格点ギリギリと言ったところか。威力は充分だが繊細さが足りん」

「んにゃー、やっぱりお姉ちゃんには魔術はムズイなぁ。しばらく使ってなかったし想定以上に鈍ってるにゃー」

「オッサンが可愛子ぶるな鳥肌が立つ」

「まだ28だぞ」

「オレより歳上じゃねえか‼︎」

 

 教師をおちょくりながら生徒たちの集団に戻ってゆくミクリ。

 自分より年上の女装男子が生徒として入ってきてるその心労は、残念ながらジゼルには計り知れない。バクバル先生のことは嫌いなジゼルだったが、今回ばかりはちょっと同情する。

 

「てかミクリ、魔術使えるんだね。ひょっとして向こうの世界にも魔術ってあった?」

「んー、多分なかった。ひょっとしたら俺の知らないとこで使ってるやつもいたかもしれんが、少なくとも俺はこっち来るまで魔術を目にしたことはなかったな」

「それなのによくあそこまでやれるね……」

「勇者やってた時に色々覚えたんだよ。ほら、呪文使えない勇者はローなんとかの王子だけで充分でしょ」

「いや誰よソイツ」

 

 ツッコミを入れたジゼルは、ここでようやく気づいた。

 こちらを鬼のような形相で睨みつけている教師の姿に。

 

「ほう。オレの授業で堂々と私語とは、随分と偉くなったじゃないか、レインズライン」

「ッ、バクバル先生」

「“閃雷の青薔薇”の妹だからといって贔屓はせん。次はお前だ、やれ」

「は、はい………………」

 

 

 

 

 

 

     ◇     ◇     ◇

 

 

 

 結果は言うまでもなく散々だった。

 おかげで今日も居残りだ。

 

「ま、居残りにはなれてるんだけどさ」

 

 夕日の差し込む演習場にて、ジゼルは一人で雷撃魔術の練習をしていた。

 だが、その所作にはどこかやる気が感じられない。

 

 当然だ。

 誰がいくら頑張っても上達する気配のない苦手分野の練習を頑張れるというのか。そんなことできるんだったら居残りなんてしていない。

 更に言うと、雷撃魔術といえばローゼンの一番得意とする分野。こうして上達しない魔術の、ましてや雷撃魔術の練習していると、いやでも兄の顔がチラついてしまう。

 

 ありとあらゆる要素がジゼルのモチベーションを削ぎにかかっている。

 ――もうやめて! ジゼルのやる気はゼロよ!

 なんて言ってくれる人はいるはずもなく。

 

「駄目だぁ……全然できない」

 

 嫌気のさしたジゼルは、ひんやりとした演習場の床に大の字になってしまう。

 先生からは「一発でも的に当てるまで居残り」だとかほざいてやがったが、このまま続けても魔力切れになるだけだ。人間は誰だって得て不得手があるもの。無理なものはどうしたって無理だということがわからないのだろうか。

 

 そうして全てを投げ出して寝転がっていたジゼルだったが、そこに近づいてくる足音が。

 演習場の入り口の方に目をやると、セレニアが入ってくるところだった。

 彼女は試験を一発合格していた。ここにくる理由なんてないはず。

 

「あれ、ジゼル。まだ残ってたんだ」

「なによ、私を笑いに来た?」

「そんなんじゃないよ。あまりにも遅いからちょっと心配になって」

「別に心配するほどじゃないよ。これくらいの居残り、いつものことだし」

 

 ジゼルはそう言って起き上がると、雷撃魔術の練習を再開する。

 しかし、幾らやっても的にかすりもしない。

 このままだと的に命中するより先にジゼルの魔力が尽きてしまいそうだ。

 

 セレニアは演習場の隅からその様子をしばらく見ていたが、ふと何かを思い立ったのか、ジゼルの傍へと寄ってきた。

 一体どうしたのだろうか?

 

「教えてあげよっか?」

「え」

 

 一瞬、セレニアの言ってる意味が分からなかった。

 予想だにしない言葉にジゼルが困惑する中、セレニアはジゼルの伸ばした腕に自らの手を添える。

 まるで、手取り足取り教えるかのように。 

 

「んにゃあっ!?」

「まず余計な力が入り過ぎ。そんなんじゃ魔力の流れが乱れまくって不発になるよ。大方、失敗したら怒られるって思ってるんでしょ。安心して、君は君のペースで成長すれば良い。ここでは、君の完成を急かす人はいないから」

「ちょ、ちょっとまって…………これ何させれられるの私」

「そして何より大事なのは、出来るって信じることだよ。どんな物事でも、一番上手くなれるのって自信のある人なんだから」

「ガン無視かよ!」

 

 どうやらジゼルに魔術の指導をしてくれるらしい。

 余計なお世話だと突っぱねようにももう遅いし、なによりセレニアからの純粋な行為を無下にするのもなんだが気が引ける。こうなったら腹を括ってセレニアに身を委ねるしかない。

 

「文句言わずにアドバイス通りにやって……、はい今!」

「え、えい!」

 

 セレニアの声に合わせて指を振る。

 すると、ジゼルの指先から小さな稲妻が飛び出し、真っ直ぐに的へと着弾した。

 

「…………………………できちゃった」

「ほらね、ボクの言った通りだったでしょ?」

「さんざん練習してできなかったのに…………」

「次はボクの教えた通りにやってみようか。ほーら深呼吸してー、ウルトラリラックスぅ…………」

「う、うん」

 

 セレニアに言われるがまま、教えられたとおりにやってみる。

 深く深呼吸して、雑念や焦燥を洗い流すほどに集中して、狙いを定めて、放つ。

 そうして放たれた雷撃は、見事に的の中央に命中した。

 

「はは、は。すごいや、ほんとうにできちゃった。あははは……」

 

 雷撃魔術が見事に命中してしまったことで、 緊張が解けたジゼルは失笑しながらその場に崩れ落ちる。

 これまで散々苦労してできなかったことがこうもあっさりできてしまったことに、未だ現実感が追い付かない。

 今までの苦労は何だったんだという気持ちがあふれて仕方がない。

 

「バクバル先生……だっけか。あの人教えるの下手だよね。ボクが今言った内容、村長からの受け売りまんまだったのに」

「ははは……先生が聞いたらブチ切れるよ。あの人変にプライド高いし」

「へーきへーき、その程度でキレる奴なんて大したことないし」

「セレニアは強いね……」

「そうでもないよ。ボクは正しいと思ったことをやってるだけだから。ほら、手貸すから立ち上がりなよ」

 

 セレニアの手を借りて立ち上がるジゼル。

 その時、セレニアはジゼルの手を見て何かに気付く。

 

「ん、ちょっと待って。ジゼル、手のひらの皮膚ちょっと切れてない?」

「あれ、ホントだ。」

「きっと雷撃魔術の撃ち過ぎだよ。ちょっとまって、これくらいならボク治せるから」

 

 セレニアはそう言ってジゼルの手をぎゅっと握りしめる。

 すると、セレニアの手に淡い緑色の光が集まりだす。

 

 暖かくも優しい光が、ジゼルの手に染みわたってゆく。

 数秒経って光が収まった時、開かれたジゼルの手には傷一つなかった。

 ジゼルはすぐに分かった。これは治癒魔術を使ったのだと。

 

「これって、治癒魔術? 凄いねセレニア、こんなの使えるんだ」

「ボク、ホントはこっちの方が得意なんだけどね」

「とにかく助かったよ、ありがとう! これなら再試験もうまくやれるかも」

「うん、その意気だよ! 頑張ってジゼル、ボクも応戦するから」

 

 元気づけてもらったジゼルは、片付けをして演習場から出ようとする。

 まずは的を片付けて、それから後は入り口のほうにいるミクリも――

 

 ――ミクリ?

 

「よ」

 

 あまりにも自然過ぎて見落としていたが、いつの間にか演習場の入り口あたりにミクリがいた。

 ジゼルがあまりにも遅いので様子でも見にきたのだろうか。

 ミクリの足元にはお菓子の空箱やら空のペットボトルが転がっているあたり、どうやらジゼル達が気づいていないだけで結構前から居たらしい。

 

「居たんだ……」

「おいおい、なんだその反応は? 若人の青春を邪魔しちゃいけないなぁと思って引っ込んであげてたのに……おねーさんの好意を介さない馬鹿お嬢様は豆腐の角に頭でもぶつけてなさいよもう」

「余計なお世話だしおねーさん自認はやめてって言ったよね?」

「いや見た目だけなら綺麗なおねーさんで通るし一理あるんじゃないかな……」

「セレニアも納得しないで」

「なんだなんだ、昨日あんだけバチバチにやり合ってたのが嘘みたいに仲良くなってんじゃんか。なんかひと悶着あったらどうしようかと思って見守ってたけど、杞憂だったみてえだな」

 

 ミクリの言葉に、ジゼルとセレニアは見合いながら笑う。

 最初はリチャードとの関係性もあってか変にセレニアのことをライバル視してしまっていたジゼルだが、こうして付き合ってみると明るくて面倒見もいいし、結構いい子だというのが分かってきた。昨日のやりとりが嘘みたいのようだ。

 

 友達って、こういう感じなのだろうか。

 久しく感じたことのなかった楽しさに、ジゼルは若干戸惑いながらも喜びを感じ始めていた。

 もっと仲良くなりたいし、もっと一緒に笑い合いたい。

 そう思いながら、ジゼルは演習場を後にしようとする。

 

 

 しかし、その時。

 脅威は突然やってきた。

 

 

「見つけましたわよ、セレニア・ファムロック」

 

 

 夕陽に照らされた実習場の入り口。

 そこに伸びる、ひとつの影。

 

 レヴィ・ウィダール。

 泣く子も黙る性悪公爵令嬢が、こちらを凝視していた。

 

 

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