TS銭ゲバシスターは悪徳商法がお上手です。 作:元お兄ちゃん
リーニャは激怒した。
必ず、かの邪智暴虐の教皇を除かなければならぬと決意した。リーニャには聖書がわからぬ。
リーニャは、シスターである。ホラを吹き、信徒と遊んで暮らしてきた。けれども金に対しては、人一倍に敏感であった。
「許さねえ、あのクソジジイ。
私をこんな田舎に追い出しやがって」
……絶対に見返してやる。
金を貯めて、あの地位から叩き落としてやる。
――金貨10000枚。
それだけの献金を集めれば、奴を蹴落として私が教皇になれる。
昨今の聖教会は慢性的な財政難。金こそが正義の腐りきった組織となってしまった。
血筋や宗教性を重んじる奴らは全員改革派として処罰される。酷い状況だが、私にとっては好都合だ。
「……今に思い知らせてあげましょう。
自分たちがどれだけ愚かな選択をしたのかを」
手元にあるのは、布教のために押し付けられた聖書100冊だけ。
……これを元手に金を貯めるんだ。
「運転手。急いでください。
時は金なりですよ。早くしないと、明日のご飯がなくなっちゃいます」
馬車の中、有り金はたいて買ったパンを齧る。
急な出向のせいで財産は全て王都に置いていくことになった。
……あの守銭奴どもがそれに目をつけないはずがない。
何かしらの理由をつけて、私の財産を没収するのは間違いないだろう。
「――ぶっころすぞ、くそハゲどもが」
「あ、あの、聖女様?」
「あ”?」
「ひっ、い、いえ。
なんでもありません」
頭を支配する怒りを収めようと、パンに手を伸ばす。
だが、伸ばした手は宙を切る。
どうやら、もう食べきってしまったらしい。
「……はぁ」
ため息をついた私は、身体を横に倒す。
すると、横に積み上げられていた聖書のいくつかが落ちた。
「ふむ、良い枕が出来ましたね」
拾い集める気など毛ほどもない。
頭の下に敷いたガラクタたちと共に、私はゆっくりと瞼を閉じた。
イスカリ村。
聖王国南部の国境付近にある小さな村である。
良く言えば、のどかな農村。
悪く言えば、ド田舎の辺境地。
私に課せられた使命は、この地での布教活動である。
我らアルブス教の教えが浸透しきっていない未開の地。そこで布教の命を受けたのが私、シスター・リーニャなのだ。
「……はぁ。
そんな建前信じる馬鹿がどこにいるんですかね」
重い瞼を擦りながら、頭をぐりぐり突き刺す聖書を投げ捨てる。
――今のは建前にすぎない。
……結局のところ、上層部の爺どもは邪魔だったのだ。
何の後ろ盾のない、一端のシスターに過ぎない私が金を集め、"聖女"と呼ばれるまで、地位を高めたのが。
つまりは左遷である。
遺憾である。
むかつくのである。
こんなことをやっているから信者は減り、一端のシスターに過ぎない私に支持を取られるのだ。
なんせ、王都では「シスター・リーニャこそ、我らアルブスの信徒の救世主」とか馬鹿なことを言ってる奴もいるのだから。
こんな信仰心の欠けた私に、だ。
どれだけ、他の神父どもが腐り切っているかが分かる。
……いかんいかん。
深呼吸、深呼吸。
これから、村民に会うというのに、こんな態度はまずい。
馬車から顔を出して、息を吸う。
すると、案外良い空気が身体に入ってきて、心が休まるのを感じた。
「……ふぅ。
私も未熟ですね。この程度で感情を荒げてしまうとは」
そう思って、もう一度外の空気を吸おうとしたとき。馬車が止まった。
「聖女様。
到着いたしました」
どうやら、目的の地に着いたようだ。
「ん、わかりました」
随分と長い旅だった。
ともにしてくれた運転手には感謝してやろう。
まぁ、こいつも私を持ち上げていた奴らの一員なんだが。
「……聖女様。
我々は必ず、貴方様のお帰りをお待ちしております」
「あー、いいです。待たなくて。
適当に新しい聖女でも探しといてください。
できれば、可愛い子がいいですね」
正直、こいつらが私を持ち上げなかったら、こんなことにならなかっただろう。
そう考えると、若干もやもやするが、悪い奴らではないのだ。ちょっと頭が弱くて、人を見る目が皆無なだけで。
「本は魔法で運ぶのでお構いなく。
……あぁ、それと。帰ったら、あのクソ教皇に言っといてください。『ファッキュー』と」
「……は、はい?」
意味を理解できず、ハテナを浮かべている彼女を背に、私は村へ歩き出した。
「皆さま、お初にお眼にかかります。
わたくし、アルブス教のシスター、リーニャと申します」
村の中央広場。
集まった数十人の村民を前に、私はこれ以上ないほど慈愛に満ちた、聖母のような笑みを浮かべていた。
「布教のため、この地に送られてきました。
ですが、まずは村の一員として、皆様の信頼を頂くことが一番と考えております」
こういうのは第一印象が大切だ。
布教をするにも、商売をするにも、まずは相手の懐に入り込むことが成功の第一歩である。
「改めて、このようなのどかな村にお招きいただき、非常に光栄に思いま――おい、そこのクソガキ。私のスカートを覗こうとするな、金取るぞ」
「う、うわっ!?」
足元に寄ってきたガキを魔法で宙に浮かべる。
身体を見られること自体には大した抵抗はないが、ただで見せる気なぞ、さらさらない。
せめて金貨の一枚でも持ってこい。
そう思いながら、私は駆け寄ってきた母親らしき女へ子供を投げる。
「……はい、こんな風に魔法だって使えます。
ここら辺だと、珍しいですかね。
便利ですよ。畑に雨だって降らせられます」
私は宙に指で雲を描く。
すると、見る見るうちに魔力が塊となって、雨雲となって浮かんでいく。
ザーザーと降る雨が地面を濡らす。
範囲の小ささ故に、王都では大道芸人くらいしか使わない魔法だが、彼らにとっては未知のものだ。
ほとんどの村人が驚きを隠せず、目を見開いている。
「ほー、こりゃ凄いな。流石聖女様だ」
一人の村民が感心するように声をあげる。
うむ、良いプロモーションになったのではないだろうか。
「ウィンドフロー」
風魔法で雨雲を払うと、中には七色に光る虹が浮かんでいた。
太陽の光が私を照らし、風が髪をなびかせる。
「ふふっ、何か相談事があれば私の元へいらっしゃってください。
神の使いとして、ほんの少しのお布施さえ頂けば……いえ、何でもありませんよ?」
少なくとも魔法の有用性は示せた。
今日のところはこのくらいでいいだろう。
「――では、神のご加護がありますように」
私はそう言って、広場を後にした。