B組モブによる観察日記 作:急にアクセル踏むタイプの人
作者としては『灰宮先輩は怖くてかわいい』の灰宮先輩を黒髪にした感じの見た目をイメージしています。
後半に主人公ステータス、あとがきに考察?あり。
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【4月6日〔晴れ〕】
高校入学を記念して日記をつけることにした。
とりあえず自己紹介をしておこう。
私の名前は
前世は男、今世は女の転生者だ。
中学に入る少し前に前世の記憶を完全に取り戻した私は、その後の中学時代を無難に終えると、担任の先生に勧められた国立の進学校『高度育成高等学校』を受験し、無事合格して本日から高校生活をスタートさせた。
『高度育成高等学校』略して『高育』。
この学校は前世の日本にはなかった学校だ。
全寮制で、三年間は外部との連絡が原則不可。
一部の例外を除いて敷地外に出ることも出来ない。
その代わり、この学校は妙に待遇がいい。
就職率と進学率はほぼ100%。
広大な敷地内にはコンビニ、カフェ、カラオケ、スーパーなど生活に必要なものから娯楽施設まで、多種多様な店が揃っている。ちょっとした街、と言われても納得できる規模だ。
……正直、ここまで整っていると少し気味が悪い。
さらに、高育には『Sシステム』という制度がある。
簡単に言えば、学校から支給されたポイントを敷地内で電子マネーのように使える仕組みだ。しかも、そのポイントは無償で支給される。
そして今日、入学式の日。
私たち新入生には一律で10万ポイントが配布された。
1ポイント=1円。
つまり10万円だ。
単純計算すると、
一学年160人で年間1億9200万円。
三学年なら5億7600万円になる。
……改めて計算すると意味がわからないな。
しかも寮費は無料。
水道光熱費も学校持ち。
制服やワイシャツなどの必需品も、正当な理由があれば追加で支給されるらしい。
至れり尽くせり、という言葉がこれほど似合う環境も珍しい。
特に10万ポイント支給はやり過ぎだろう。
事前の資料には具体的にどれほどポイントが支給されるかは記載がなかったが、せいぜいが月1万か2万くらいだと思っていた。10万は多すぎる。
だが、世の中そんなに甘くはないはずだ。
これほどの好待遇には相応の理由があるに違いない。
本格的な授業は明日か明後日からだが、もしかしたら滅茶苦茶厳しい授業が始まるのかもしれない。気を引き締めておいた方がいいだろう。
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【4月7日〔晴れ時々曇り〕】
今日は少し気になることがあった。
放課後、部活動説明会が終わった後のことだ。
私は暇つぶしで説明会に来ただけで、部活に入る予定はない。なので、どの部活に入るかあれこれと悩んでいる他の生徒達をしり目に一人で校舎に戻った。
目的は一つ。
先輩達の教室を確認するためだ。
進学校では、勉強についていけなくなる生徒が一定数出ると聞いたことがある。途中で転校する者もいれば、退学してしまう者もいる。この学校も国内有数の進学校である以上、同じことが起きていてもおかしくない。
もし退学者の数が分かれば、この学校の厳しさもある程度見えてくるはずだ。
幸い、部活動説明会の時間帯は校舎に人が少ない。
先輩方の教室を覗くならチャンスだった。
……結果、この学校は想像以上に普通ではないことが分かった。
二年生の教室と三年生の教室。
それぞれの机の数を数えた結果、空席がかなり目立った。
二年生は14人。
三年生は11人。
合計25人分の空席。
普通の進学校なら、退学者は学年の2〜3%程度が平均的な数だと聞いたことがある。
この学校に当てはめるなら、一学年160人だから計算すると3人から5人くらいが普通……の筈なのだが、実際は平均の二倍から三倍の生徒が脱落していることになる。
……少し、背筋が寒くなった。
今日の授業はほとんどがガイダンスだった。本格的な授業は明日からになるだろうが、一体どれほど厳しい授業が始まるのか、戦々恐々と言ったところだ。
前世の記憶があるとはいえ、油断は出来ない。
テストで良い点を取ることもそうだが、授業も真面目に受けて、なるべく学校側からの評価を下げないように注意しよう。
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【4月8日〔雨のち曇り〕】
今日から本格的な授業が始まった。
今の所は普通の授業だ。
進学校らしくレベルは高いが、逆に言えばその程度。
我等がBクラスの皆も、授業が辛いとか、厳しいとか、ついていけないとか言う者はいない。むしろ余裕な雰囲気さえ感じる。
恐らく、これから徐々に厳しくなっていくのだろう。
クラスメイトたちは優しくて性格の良い子ばかりだから、願わくばこの中から退学者は出ないでほしいものだ。
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【4月9日〔曇りのち晴れ〕】
今日は初めて学食に行ってきた。
高育の学食はかなり広い。
昼時ということもあって多くの生徒で賑わっていた。
今回、メニューの中から私が選んだのは山菜定食だ。
理由は単純。
無料だったからである。
内容は、
味噌汁と白米。
梅干しと海苔。
わらびの炒め物。
椎茸、レンコン、インゲン豆の揚げ浸し。
以上。
……精進料理か何かだろうか。
味は不味くはないが、特別美味しいわけでもない。全体的に『草』って感じの味。梅干と味噌汁がないと米が減らない。
しかもテーブルには調味料が置かれていないので味変も出来ない。おっさんボディだった頃ならヘルシーで逆に嬉しいのだが、若い体には少々きつい。
脂っこさとカロリーが足りていない。
が、今更文句を言っても仕方ないので黙々と食べるしかなかった。
高校生活最初の学食が、こんなんでいいのだろうか。
物珍しさと、無料だからお得、などという軽いノリで注文してしまったが、何だか損した気分になった。もう次からは山菜定食は頼まないぞ。
それにしても、少し気になることがある。
私以外にも山菜定食を食べている生徒がちらほらいた。
その中には明らかに上級生と思われる人もいて、大抵は暗い顔でモソモソと食べている。嫌なら違うメニューを頼めばいいのに。
なにせ、高育では毎月10万が支給されるのだ。
食事代程度で困るとは思えない。にもかかわらず無料の定食を選んでいるということは、やはりお金がないということで……まだ4月が始まったばかりなのに?
……なぜだろう。
ふと思いついたのは、生徒同士の賭けごとだ。
前世の学生時代、現金を賭けて友人同士で麻雀やビリヤードをして、負けまくって十万くらい借金するようなアホがいたな。この学校でも似たようなことが行われているのかもしれない。
まあ、ただの想像だが。
今はまだ、この学校はよくわからないことだらけだ。
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【4月10日〔曇り時々雨〕】
今日はクラスメイトたちと親睦会に行ってきた。
主催者は一之瀬帆波という女子。
場所はケヤキモールにあるカラオケだ。
一之瀬は入学初日に自発的に皆で自己紹介をしておこうと言い出した生徒で、美少女揃いの女子の中でもひときわ目立つ容姿をしている。
輝くストロベリーブロンドの髪に、目鼻立ちが整った美しい顔。可愛らしい声と柔らかな表情。細身ながらも出るとこ出まくった抜群のスタイルに加え、所作もまた美しい……まるでラノベのヒロインみたいだ。
ただ単に見た目が可愛いだけではなく、コミュ力も非常に優れており、入学五日目の現時点でクラスのアイドルのような扱いを受けている。カリスマ系のスキルとか持ってそうだ。
しかも入試首席として入学式で挨拶をしていたので、学力も相当に優秀なのだろう。体育の授業で見る限り、運動神経はともかく身体能力だって相応に高い。
一之瀬帆波、逆に君は何を持ち得ないのだ。
そんなパーフェクト美少女の一之瀬だが、どうやら入学初日からクラスメイト同士で交流を深めようと動いていたらしく、私を含めた数人の生徒以外とは既に連絡先を交換済みらしい。
今日の親睦会も初回ではなく、二回目になるそうだ。
初回はまさかの入学初日に終わっていたらしい。私はさっさと帰ってしまったので誘われなかったようだ。
正直な所、私は大人数でわいわい騒ぐのは苦手だ。
前世からの陰キャ気質を引き継いでしまったせいだろう。仲の良い数人で遊ぶくらいなら大丈夫なのだが、大勢になると途端に肩身が狭くなる。
なので、誘ってくれたのは嬉しいし、皆とのカラオケが楽しくなかったわけではないが、今後はあまりこういう集まりに行くことはないだろうな。
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【4月11日〔晴れ〕】
土曜日の今日はケヤキモールで買い物して来た。
服や下着は家から送ることが出来たが、タオルや歯ブラシ、ティッシュなどの消耗品はもちろん、生理用品も足りていないのでその補充だ。一度に買いきれないので、何度か寮と店を往復することになった。
それと、寮にはエアコン、テレビ、冷蔵庫、炊飯器、洗濯機、課題用の低スペックノートパソコンなどの家具家電は一通り揃っていたが、人によっては追加で購入するものもあるだろう。
私も今日は電気ケトルを購入した。
型落ち品だが性能は十分。値段も安かった。
明日は掃除機を買いに行こうかな。
前世で一人暮らししていた頃を思い出しながら、必要な物をリストにまとめておこう。
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【4月12日〔曇りのち晴れ〕】
今日はひょんなことから姫野と行動することになった。
姫野ユキ。
私の隣の席の女子だ。
インナーカラーだけ青く染めた髪にツインテール。
両耳にはピアス。気だるげな目つきが特徴的。
うちのクラスの中では珍しく、少しダウナーなギャルのような見た目の女子だ。だが、実際に話してみると意外と落ち着いた性格をしていた。
きっかけは寮のエレベーターだ。
偶然乗り合わせ、なんとなく雑談をしていたら、私がケヤキモールへ買い物に行くと言ったのを聞いて姫野が「じゃあ私も行く」と言いだした。
どうやら彼女も私と同じ用事だったらしく、二人なら荷物も多めに運べるし、その方が効率が良いから、というのが彼女の言い分だ。
断る理由もないし、まぁいいか、と承諾。
どうせならと、買い物は後にしてモール内の店をぶらぶらと見て回った。
姫野はペットショップがないことが不満だったようだ。
まぁ、寮生活だから仕方がないと納得はしていたが。
何となく「犬と猫どっちが好き?」と聞いたら「犬」と即答。見た目はどっちかというと猫っぽいのに。いや、見た目は関係ないけど。
途中でゲームセンターに寄って遊び、某大手バーガーチェーンでお昼を食べた。その後、モールの隣にスポーツで遊べるレジャー施設があるので、腹ごなしに運動でもしないかと提案を受ける。キックターゲットとバッティングで軽く汗を流した。
……こういう休日の過ごし方は、なんだか普通の女子高生っぽい……かもしれない。元おっさんにはわからないが。
その後はいくつかの店で買い物して帰った。
もちろん掃除機も買った。
静音性を重視したら少々お高めのものになってしまったが、仕方ないだろう。隣人トラブルを避けるための必要経費として受け入れた。
楽しい日曜日……だったのだが、気になることがある。
姫野は時々、私の顔をじっと見ることがある。
私が視線に気づいてることに、姫野はきっと気づいていなかっただろうが。彼女に見られていると、何だか不思議な気分になって来る。
……言語化が難しいな。
既視感、とでも言えばいいのか。
懐かしいような、そうでもないような。
あと、妙に距離が近かったし、教室で見た時よりテンションが高かった気もする。姫野が笑っている顔は初めて見たかもしれない。
何だか気になるが、考えても答えは出そうにない。
とりあえず、今は棚上げしておこうか。
気にしてもしょうがないし。
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【4月13日〔晴れ時々曇り〕】
今日から憂鬱な水泳授業が始まった。
高育では四月から水泳をやるらしい。
普通はもっと暖かくなってからではないのだろうか。屋内プールで空調は効いているから寒さは感じないとはいえ、正直気が進まない。
水泳は得意だが苦手だ。
矛盾しているが、これは事実である。
私は転生者だが、最初から前世の記憶を持っていたわけではない。
幼い頃から少しずつ思い出していき、小学六年生の頃にほぼ完全に取り戻した。
きっかけは川だった。
当時、台風で増水した川に落ちて溺れたのだ。
結果的に助かったが、あの時の感覚は今でもはっきりと覚えている。
濁流に振り回され、体がバラバラになるような感覚。
息が出来ず、視界はぼやけ、頭の中は混沌としていた。
……思い出すと、少し気分が悪くなる。
なので泳ぐことは出来るが、あまり好きではないのだ。
水の中に入ると、当時を思い出してしまうから。
それともう一つ。
更衣室での着替えが気まずい。
体は完全に女なので恥ずかしいという感覚はないのだが、中身は前世おっさんだった人間だ。年頃の女子の裸を普通に見ていいのかという、妙な罪悪感がある。
なので、すぐ隣で着替えている姫野の裸体も可能な限り見ないようにした。
着替えている最中、胸のサイズについて羨ましがられた。姫野だって普通にある方だし、別に他人を羨むことはないと思うが。あと下半身は意外とむちむち
なんてことを書いているんだ。
まるで変態じゃないか。
着替えてプールサイドに出た後は、男子達の視線を感じながらも体操をして、全員で50mを泳ぐ。それが終わると、体育教師のゴリマッチョ先生こと東山先生が大きな声で言った。
「まったく泳げない者はいないみたいだな───それでは今から、男女別で50m自由形のタイムを取る! 一番速かった生徒にはそれぞれ、5000ポイントを支給するぞ! ただし、一番遅かったやつは補習だからな」と。
……今なんて言った?
5000ポイント、つまり五千円だと?
途端にやる気が出て来た。
ポイントはいくらあっても困らない。昨日、姫野と遊んでポイントを使ってしまったし、特に掃除機の出費が痛かった。貰えるものなら是非5000ポイント頂きたい。
なので優勝した。
これでも一応、肉体チート持ちの転生者である。同年代の女子相手には早々負けない。負けたらチート転生者の名が泣く。
……しかし、二位だった南方という女子からライバル認定を受けてしまった。彼女はクラスの中でも特に運動神経抜群な子で、体育の授業では毎回張り切って活躍している。
今回の件で、私が今まで授業で手を抜いていたんじゃないかと疑いを持ったようだ。次回からの体育の授業は面倒なことになりそうだな……。
後半は自由時間だったので、私はプールサイドでのんびりしていた。
隣には姫野が座っていて、泳がないのかと聞いたところ「疲れた」「だるい」と面倒くさそうに答えた。どうやら私と同じで水遊びではしゃぐタイプではないらしい。
プールの中で元気に遊ぶクラスメイト達。
その様子をぼんやり眺めながら、私たちは黄昏ていた。
我らB組ダウナーガールズには、こうしてプールサイドでだらだらしているのが一番性に合っている。
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【4月14日〔曇り〕】
今日は漢同士の熱き戦いを目にした。
所用があって放課後に特別棟をぶらついていたのだが、そこで男子二人の喧嘩を目撃することになったのだ。
短髪でガタイの良い男子と、ロン毛の男子。
体格ではロン毛の方が若干不利だった。実際、最初の方は短髪の方が押していたのだが、時間が長引くにつれて動きが鈍くなり、後半はロン毛が逆襲して大勝利。
中々に見ごたえのある喧嘩だった。
特にロン毛。格闘技をかじっている人間なら、彼が相当な実戦経験を積んだ
それも、ルール無用の喧嘩に完璧に適応したタイプだ。
短髪の方は力任せの荒々しいスタイルだったが、ロン毛の方は格闘技を織り交ぜた独特な戦闘スタイルだった。手も足も器用に使うし、何なら口も使う。
前半は押されていたように見えたが、あれはわざとだろう。彼我の戦力差を分析しつつ、相手のスタミナを削り、言葉で挑発してメンタルに圧をかけ、短髪が怒りと焦りで動揺したところをカウンターで一気呵成にたたみかける。
終始冷静な試合運びで、確実に勝つためというよりは、相手の心を折るような戦い方をしていた印象だった。
最後は鮮やかな回し蹴りでフィニッシュ。
場数を踏んだヤンキーのやり方だ───プロやな。
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【4月15日〔曇り時々雨〕】
今日は何もない素晴らしい一日だった。
あえて挙げるとしたら、クラスの空気の変化だろうか。
元々緩い雰囲気だったが、最近は授業中に居眠りしたり、お喋りしたりする生徒が出てきた。入学して10日が経ち、環境に慣れて来たことも原因の一つだろう。
仕事もそうだが、慣れて来た頃が一番気を抜いてしまうものだ。
しかし不思議なことに、先生方はそういった授業態度に関しては一切注意しない。確かに、現時点では目に余る程のものではないが……進学校だよな、ここ。
放任主義、なのだろうか?
あと、体育の授業で南方とバスケで勝負した。
手を抜くべきかどうか迷ったが、バレたら後が怖そうなのである程度本気を出して勝った。
1on1も試合も完全勝利である。
彼女は試合後は悔しそうにしていたが、すぐに人懐っこい笑みを浮かべて「また次も勝負しようね!」と言ってきた。良い子だなぁ。この子、私の娘ってことにならないかな。
なお、クラスで一番最初に授業中の居眠りを始めたのは南方である。勉強は苦手なようだ。
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【4月16日〔晴れ時々曇り〕】
今日は姫野と一緒にお昼ご飯を食べた。
場所は校舎に外付けしてある非常階段だ。
なんでそんな微妙な場所なのかというと、二人とも人混みが苦手だからだ。校内にはカフェや学食があるが、そっちは人気なので人が多い。
中庭、図書館のラウンジなども人気スポットだし、年中解放されている屋上にもそこそこ人がいる。あそこはカップルが多いな。
特別棟に行くことも出来るが、以前に不良(ロン毛&短髪)がいたからな。あそこは校舎に比べて監視カメラが少ないし、もしかしたら不良のたまり場になっているのかもしれない。
私一人ならいいが、姫野を連れて行くのはやめた方がいいだろう。
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【4月17日〔晴れのち雨〕】
今日は花の金曜日。
姫野と帰りにどっか寄って行くかと話していた所、クラスメイトの網倉という女子に皆で遊びに行くから一緒に行かないかと誘われた。
網倉は一之瀬とよく一緒にいるポニテ女子だ。
女子のまとめ役で、明るく快活な陽キャ。男子にも物怖じせず、言うべきことははっきり言うタイプの子だ。
ちなみに一之瀬はクラスのトップなので、網倉は女子のナンバーツーということになる。クラス内での発言力も結構強い。
どうしようかと迷って姫野をチラリと見た。
そして見えた。一瞬だが、露骨に嫌そうな顔をしていた。「うわめんど」って感じの顔してた。行きたくないんだな。そうなんだろう姫野。
なので断ったら、姫野はホッとしていた。
彼女は根っからのボッチ気質なのだろう。このクラスはフレンドリーで良いクラスだとは思うが、姫野とは相性が悪いかもしれない。
はっきり断ってしまったが、網倉は気を悪くすることもなく「また今度誘うね」と言ってあっさりと引き下がった。
これがサバサバ系女子ってやつか。
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【4月18日〔晴れ時々曇り〕】
今日は土曜日なので、朝から敷地内を散策して来た。
ケヤキモール以外の場所だな。
とはいえ、特別注目するような施設はない。
生徒が利用するような店や施設は、ほぼ全てがケヤキモールの方に集約されているのだろう。時折、ランニングや散歩をしている人は見受けられたので、敷地の外周は自然あふれる散歩コースとしては優秀と言える。
それにしても、なぜだろう。
ここの敷地はこんなにも広いのに、まるで鳥かごの中に閉じ込められたかのような、奇妙な閉塞感がある気がする。色んな所に監視カメラがあるせいかな。
四六時中見られているようで、落ち着かない気分だ。
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【4月19日〔曇り時々雨〕】
そろそろ現実を見なければならない。
入学して約二週間。
どうにも違和感が拭えず、この学校について私なりに色々と調べてきたが……どうやら、高育は想定よりも遥かに異常な場所であるという事実が、私の中で真実味を帯びつつある。
まず、監視カメラの数。
敷地内の至る所に設置されている。
校舎の中だったら、トイレや更衣室を除けば大体の場所にあるんじゃないだろうか。当然教室の中にもある。
ざっと見たところ、校舎が一番多く、体育館と図書館が同程度。次いで特別棟が一番少ない。生徒が集まりやすい場所に多く配置されているらしい。
こんなにカメラがあっても管理する手間が大変だろうに、ここまで徹底して生徒を監視する必要があるのだろうか、と思うほどだ。
次に、ポイント制度。
毎月10万ポイント。つまり10万円。
普通の高校が、生徒一人に毎月そんな金額を支給するだろうか。
否、常識的に考えてあり得ない。異常である。
さらに、退学者の存在。
これは部活動説明会の日に空席の数を確認した件だ。
その後、何人かの先輩にさりげなく聞いてみたが、どうやらあの空席の全てが退学者らしい。 転校した生徒は皆無だそうだ。
つまり、この学校は普通の進学校よりも圧倒的に退学しやすい環境ということだ。赤点取ったら補習無しで即退学とか、そういう厳しい措置があるのかもしれない。
そこも詳しく聞きたかったが、先輩方の口は堅かった。
学校側から箝口令でも出されているのか?
そして最後に、クラス分け。
うちには他クラスに友達がいる生徒が複数いるため、彼等から話を聞くことで他クラスについてはおおよそ知ることが出来た。
それらの情報を元に評価すると、
Aクラス。
基本的に真面目で優秀な生徒が多い。
進学校に相応しいエリートが揃っていると見ていい。
Cクラス。
気の荒い不良が多い。男女ともに、だ。
授業態度や普段の素行も良くないそうで、進学校の生徒とは思えない。
Dクラス。
Cクラスとは違った意味での不良の集まりと言えよう。
率直に言えば馬鹿が多い。授業をまともに受けない生徒が大半で、既に学級崩壊気味。
最後に我らがBクラスだが……ここは地味だな。
協調性が高く、フレンドリーな生徒が多いくらいか。
授業態度や素行はまずまずで、良くも悪くも大多数は普通の高校生といった印象だ。
ここまで露骨にクラスの性質が違うのは不自然だ。
普通ならクラス分けなど、適当なものだろう。
ここまで綺麗に特徴が分かれるとは思えない。
つまり、このクラス分けには何らかの意図がある。
ポイント制度。
異常な数の監視カメラ。
平均を遥かに超える退学者数。
その他にも得られた様々な情報と総合して考えると、ある一つの仮説に辿り着く。
この学校は、生徒同士を競わせている……?
詳細はまだわからない。
だが、少なくとも一つだけ確信していることがある。
この学校は、普通に生活しているだけでは生き残れない、ということだ。
とはいえ、私が深読みしているだけの可能性もある。
なので明日の放課後、担任の星之宮先生に直接聞いてみることにした。先輩方の対応を見るに、学校側がきちんと答えてくれるかどうか、期待薄ではあるのだが……。
……それ以前の問題として、星之宮先生は朝のHRに二日酔いのまま来るような駄目教師なので、そう言う意味でも対応には期待出来ないかもしれない。
進学校の先生の姿か? あれが……。
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【4月20日〔雨〕】
今日は色々あって頭が混乱している。
詳細は明日書くことにする。
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【登場人物メモ】
①一之瀬帆波
クラスカーストの頂点に君臨する女子。
容姿端麗、愛想、性格、成績良しの完璧美少女。
Bクラスの雰囲気が良いのは、彼女の人柄の影響が大きいだろう。
②姫野ユキ
高校入学後に出来た最初の友達。
ボッチ気質なダウナー系ツインテ少女。
クラスの雰囲気に馴染めておらず、いつも気怠そう。
どこかで会ったことがあるだろうか……?
③網倉麻子
快活とした雰囲気のポニテ女子。
一之瀬の相方ポジションで、彼女とよく一緒にいる。
はっきり言うタイプだが、引き際も弁えている。
④南方こずえ
気さくな性格のお団子頭の女子。
運動神経抜群でスポーツ万能だが、勉強は苦手な様子。
口元のほくろがチャームポイント。
⑤星之宮知恵
1年Bクラスの担任の先生。養護教諭。
クラスの皆から人気の美人な先生。
最初は朗らかで優しそうな先生だと思った。
正体は二日酔いのまま学校に来る酒カス。
⑥ロン毛&短髪
不良。特別棟でタイマンで喧嘩していた。
技のロン毛、力の短髪と言った感じか。
ロン毛の方はプロヤンキーと思われる。
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【高度育成高等学校学生データベース】
氏名 :
クラス :1年B組
学籍番号:S01T004750
部活動 :無所属
誕生日 :8月20日
【評価】
学力 :A
知性 :C
判断力 :B-
身体能力:A-
協調性 :D+
【面接官からのコメント】
面接時の受け答えは終始落ち着いており、年齢に比して精神的に成熟している様子が見受けられた。学力と身体能力は同年代でも高水準を示しているため、能力のみを見ればAクラス相当の生徒である。
しかしながら、中学時代に他校の生徒と喧嘩騒ぎを起こしている事実は看過できない。動機については理解できる部分もあるが、適切な対応だったとは言い難いだろう。
本人は深く自省しており、上記の件以外で問題行動を起こしたという報告もない。よって、今後は自らの力を適切な形で用いるための知性および正しい判断力を養うことを重要な課題とする。
以上の評価をもってBクラスへの配属する。
・比良坂那月
本作主人公。ts転生者。
身長:170cm
スリーサイズ:B88(E)/W58/H85
・性自認は一応女だが、男としての意識も残っているため、見た目はともかく雰囲気や振る舞いは中性的に見られることが多い。
・小学五年生の頃に両親と弟を交通事故で亡くしており、遠方にある伯父夫婦の家に引き取られて育つ。小学六年生の頃、台風で増水した川に飛び込んだ際に前世の記憶を完全に思い出した。
・中学の頃は大人しかったが、他校の不良に絡まれた友人を助けるために喧嘩騒ぎを起こしてしまったことがある。
・転生時に肉体チートを授かっており、どこぞの西中の虎に匹敵する運動神経と頑強さを誇る。が、筋力はそれほど高くない。
・前世で空手とキックボクシングを織り交ぜた独自の格闘スタイルを確立している。
・前世の死因は暴行による全身骨折及び内臓損傷による出血性ショック死。
【学校からの評価について】
初期の五項目はあくまで中学時代を評価したもので、ポーズに過ぎない入試(筆記と面接)の結果は考慮しないものとします。
入試では本気を出したであろう松下がDクラス入りなので。
・学力
中学時代の学業成績を評価する。
定期テスト、模試、内申点など。
テストを欠席した場合、欠席理由によってはマイナス評価となる。
・知性
社会的知能や倫理観を評価する。
マナー、モラル、社会性、問題行動の有無など。
問題行動はマイナス評価となるが、証拠を残さない立ち回りなど、対応次第では評価が下がらないorプラス評価になる場合もある。
・判断力
問題解決能力や状況判断能力を評価する。
トラブル対応、判断の正確さ、リーダーシップなど。
クラス内での地位が高い場合、プラス評価されやすい。
・身体能力
身体的な運動能力を評価する。
体育の成績、体力テスト、運動部での活動実績など。
運動部所属の場合、プラス評価されやすい。
・協調性
集団行動への適応能力を評価する。
指示への従順性、他者との衝突の少なさなど。
従順(主体性が低い)=プラス評価
反抗的(自立心が強い)=マイナス評価
他項目と違い、必ずしも評価が高い=良いという意味にはならない。
一般的な社会生活においてはC~B+あたりが適正レベル。
比良坂ちゃんは中学時代の喧嘩騒ぎが原因で知性と判断力の評価を一段階下げられ、Aクラス入りが無しに。あとは消去法で、Dに入れる程の大問題ではなかったし、Cに入れるには基礎能力が高いので、じゃあBクラスが妥当だな、となりました。
南雲とかも似たような理由でBクラス入りになってそうな気がします。