タイトルそのままなんですよ。
騙して悪いが、導入だけだ。後は君たちに頑張ってもらおう。


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導入

 

 

 キーンコーンカーンコーン。

 呼び鈴が鳴り響く。

<今日の講義はこれで終わりにします。皆、課題は二週間以内に提出してね!>

「はーい。ダンテ先生お疲れ様でしたー!」

<お疲れ様、気をつけて帰ってね。>

 大学の講義が終わったからか、生徒たちは思い思いに動き出す。身体をほぐしたり、友達と話す人達を見ると少し不安になる。

 私はちゃんと先生として働けているのだろうか。そんなことを思いつつも、帰っていく学生達に挨拶をしながら資料を片付けていく。

「ねぇねぇ!今日何処行く?」

「ぱっカラオケだろ。俺の持ち歌聞かせてやるよ」

「ふっ似合わないですね」

「んだとコラ!?そーゆうテメェはどうなんだよ!」

「あっやっほ〜。調子どう?今からカラオケに行くんだけど来ない?」

 思わず顔を上げてしまう。そこでは仲の良さそうな学生達が会話をしながら歩いている。そこには間違っても囚人たちは居ない。

<………そうだよね。>

 私が転生したのは、都市で死んだ後の事だった。

 皆の因縁に決着を付け、自分の帰るべき場所へと皆帰っていった。勿論親交が途切れた訳ではないけれど、一人、また一人と会えなくなっていった。

 結局最後に残ったのは、私とファウストだけだった。当時の仲間はその頃には土の中で眠っていた。ヴェルギリウスでさえ、歳には勝てないらしい。白い病室で赤い瞳を開ける事はついぞ無かった。

 最後の会話を思い出す。

 ファウストも私も、互いに見た目が変わり果ててしまったけれど、あの日だけは昔と同じ気がしたんだ。

『ダンテ。転生というものをご存知ですか』

<転生って……あれだよね?死んだ後に別の命に生まれ変わる。>

『はい。その転生です』

<………そっか、そろそろなんだね。>

『えぇ。目には見えずとも、死期が近いことは分かります』

<でも、どうして転生の話に繋がるの?もしかして似たような特異点でも作ったの?>

『いえ、遺物で変わったものを見つけたので。それを私達に使ってみようと考えたのです』

<えぇ!?失敗したらどうするの!?>

『ダンテ、私は不確実性を信じるファウストです。失敗した時はその時に考える。()があの旅の中で学んだことでもあります』

<今だけはその学びを忘れてほしいかなぁ!?>

『大丈夫です。失敗しても二人なので寂しくはないでしょう?』

 うん、今考えても強引が過ぎるな。

 しかし、こうして若返っていることからも遺物は本物だったんだろうなぁ。

 ここは日本という所らしい。

 最初は都市で生まれ変わるのかと思ったけれど、別世界に行くことになることとは思ってなかった。でも、ここは平和で、ご飯が美味しい場所だ。

<………皆に会いたいなぁ。>

 ただ、少し不満があるとするなら囚人に会えないことだろう。

 というか、他の皆はともかくファウストは何処に行ってしまったのだろう?確実に来ているはずなのに……。巻き込んだのだから、私を見つけてほしいものだ。

 いや、それも仕方ないのだろうか。

 大学にある鏡をみる。そこには時計頭なんか存在せず、人の頭が付いていた。

<………帰ろう。>

 

 

 

「─────ダンテ?」

 一人の女性がその様子を見ていることに気づかずに。

 

 

 

 日本に来てからの一番の楽しみは食事だ。

 ホーエンハイムが用意してくれた味覚変換器のお陰で、時計頭でも味は楽しむことは出来たけれど。それでも自分で噛んだり飲んだりするほうが美味しい気がする。

 ここに来てから、どんなに仕事が忙しくても必ずご飯は食べるようにしてる。ロージャが「ご飯を食べられないなんて、人生の八割損してるわよ!?」って言ってたのも分かるな。

 いつもは自炊をしているけれど、今日はコンビニで済ませようかな。

「いらっしゃいませー」

  気だるげな挨拶と入店音が心地よく聞こえてくる。

 コンビニは良い所だ。お金はかかるけれど、味が安定して美味しい。時短も出来るから楽だ。何より大学と距離が近いから直ぐ行ける。

 鼻歌混じりにカゴに商品を入れていく。

 カゴいっぱいに詰めていく。詰めて詰めて詰めていく。ケーキに、カップラーメンに、弁当に、お菓子に、お酒に、身体に悪いものから良いものまで詰めていく。

 そしてお会計に持っていく。

<お願いします。>

「はい、どうも。相変わらず沢山買いますねぇ。身体に悪いですよ?」

 コンビニの店員が声を掛けてくる。このコンビニはよく利用しているから、顔なじみといってもいい。店員さんはニコニコしながら話しかけてきた。

<アハハ。いやぁ、分かってはいるんですけど。>

「ま、大学の教授さんですもんね。はぁ。楽な仕事とか知りません?」

<あったら私がやりたいですよ。あっ、クーポン使える?>

「使えますよ。……はい、お会計15230円になります」

<カードでお願いします。>

「…………それ、ずっと前から気になってたんですけど……黒、ですよね」

 店員さんは会計の準備をしながら、手元に持っているカードを凝視していた。そんなに珍しいだろうか。私がそう思っていると、店員さんは少し嫉妬が混ざった声で質問をしてきた。

「もしかして珍しくないと思ってます?」 

<まぁ……うん。>

「………それ、色んな所で使わない方が良いですよ。犯罪者に目を付けられる可能性もあるんですから。私も狙うかもですね」 

 店員さんは不器用な優しさで、私に忠告をしてきた。

 なんだか、イシュメールを思い出すな。

<……ふふっ。>

「あ〜!笑いましたね!?せっかく人が忠告してるのに!」

 

 

 

「…………ふむ」

 

 

 

<いや〜。いっぱい買っちゃったな。>

 私の家は大学から歩いて30分の場所にある。まぁ、家というか研究室なんだけど。

 大学が管理しているアパートがある。教員なら安く住めるようになっていて、当時衣食住に困っていた私にとっては良いことしかない。

 ………他の教員達は住んでいないけど。

 といっても、此処は学生寮でもあるのだ。学生達が何をするか分かったものではないから、基本的に教員が此処を使うことはない。

「お疲れ様です。ダンテ教授」 

<あぁ、管理人さん。お疲れ様です。>

 このアパートを管理している管理人さん。

 歳は結構いっているのか、白いひげを蓄えている。大学から雇われている人だけど、勝手にこのアパート管理以外の仕事をしていたりもする。

 かくいう私も、気づいたら手伝ってもらう事があるから何とも言えない。

「そういえば知っていますか?最近この大学に留学生が来たんですよ」

<そうなんですか?聞いたこと無かったですけど……?>

「もしかしたら、ダンテ教授も担当するかもしれませんね」

<いや、どうだろう。正直私の研究分野は取る人が少ないといいますか。>

「死の哲学や義手など幅広いものをやっていましたね」

 管理人はそこで言葉を止めると、私の手元を見た。そこにはコンビニで買ったものがビニール袋に入っていた。

「…………静かにやって下さいね。学生さんもいるのですから」

 どうやら晩酌をすることを見抜かれたらしい。

 目を逸らしたくなるが、悪いことはしていないはずなので取り敢えず頷き返すことにした。

「では、私はこれで」

<あ、はい。>

 …………あの人は少し苦手だ。悪い人ではないのだけれど、一風変わった独特の雰囲気を放つから。

 

 

 

「…………ふふっ」

 

 

 

 晩酌の時間だ。

 この日を楽しみにしてきたんだ。少しくらい羽目を外しても問題ないだろう。

 冷蔵庫に入れて置いたお酒を取り出す。辛口の物はあまり飲まない。グレゴールや良秀はあのピリッとした喉越しが美味しいと言っていたが、私は甘い味付けの方が好きだ。

 缶がよく冷えていて、温かい空気に反応して結露を生み出す。

 ピーッと電子レンジで温めていた弁当が出来たようだ。浮足立ちながら、パカッと蓋を開ける。今回買ったのはシュウマイ弁当と焼肉弁当だ。

 コンビニでシュウマイ弁当を先んじて温めておくと、家に帰った頃に適温になっていて食べやすい。焼肉弁当でも勿論良い。焼肉弁当を温めると、帰ってる間にタレがお米にちょうどよく染み込むんだ。

 でも私はシュウマイ弁当派だ。

 からしを使う時に、シュウマイが熱すぎると口の中で喧嘩してしまうから。シュウマイはある程度冷やして置くことが、より味を楽しむコツだと思う。

 小さな机に弁当二つと缶ビールを一つ。缶の大きさは500mL。

 缶のプルタブを掴むと、カシュッと空気が抜ける音が部屋に響き渡る。その後しゅわしゅわと泡が跳ねる。掴めば、弁当で温まった手が末端から冷えていく。

 気づけば、─────喉に流し込んでいた。

 喉を潤していく。

 仕事で渇いた気持ちを、(聖水)が洗い流す。

<っっっっーーー!!!!>

 机に思いっきり缶を叩きつけようとして、咄嗟に辞める。

 ─────危なかった。美味しすぎてやる所だった。

 缶をそっと机に置いて、今度は割り箸を掴む。両手でしっかりと持って、左右に離す。

<うん、完璧。>

 流石私だと褒めてあげたい。綺麗に離れた割り箸で、まずはシュウマイ弁当を食べる。既にからしは出してある。端に寄せてあったからしにシュウマイを当てていく。

 一回、二回、三回。

 からしをどれだけつけるかは人によるけど、私はこのぐらいつけて食べる。

 シュウマイを口へと運んでいく。

 口の中にからしの辛味が直ぐ来るが、シュウマイの肉と野菜が弾け、和らげていく。肉汁がしっかりと出て、米と一緒に掻き込みたくなる。

 一粒も落とすことが無いように、気をつけながら米を掴む。箸先で明かりによって照らされた米粒の光沢は、食欲を掻き立てる。

 しっかりと米からは湯気が出ており、酒で冷えた口内を温め直してくれるだろう。

 そして、───────咥える。

 逃すことが無いように、一粒一粒味わうように。

<─────おいしい。> 

 此処に私は、最後の一手を加える。

 温められた口に冷蔵庫で冷やされ、まだ一度しか飲んでいないそれ(缶ビール)

 それを私は、─────流し込んだ。

「──────随分満喫しているようですね、ダンテ」

 ………背後から聞き覚えのある声が聞こえた。

 首を後ろから巻き付けるようにして、腕が絡みついてくる。

 頭に柔らかいものが当たっている。耳元には生暖かい吐息がかかる。

 だが、どうしてだろう。まったく嬉しくないのは。

<ふぁ、ファウストさん………。>

「はい。どうしましたか?」

<違うんだよ、これは、その。>

 力が強くなった。 

 首がミシミシと鳴り始める。痛みがアルコールの高揚感を打ち消していく。

 呼吸が苦しくなってきた。

「ダンテ。明日、空けておいて下さい」 

 ファウストはそんなことを言うと、絡ませていた腕を離す。

「逃げないで下さいね」

<……はい。>

 後ろを振り返れば、目の光りが無いファウストが立っていた。

 その姿はバスに乗っていた時と変わり無いもので、彼女も遺物の効果を受けたのだと直ぐに分かった。

 「それでは」

<あ、うん。また明日……。>

 ファウストはそのまま帰っていった。

 そういえば、玄関には鍵を掛けていたはずだが、どうやって入ってきたのだろうか?

<────明日叱ろう。>

 そこには、壊された扉があるだけだった。

 

 

 

 


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