一般採用整備員の日常~欧州支部第13開発ドック機密アーカイブ~ 作:わたぬき※
本作は「30 MINUTES MISSIONS(30MM)」のキット改造記録を、作中の整備兵の視点から描く二次創作小説となります。
舞台は地球連合軍・欧州方面軍。公式設定をベースにしつつも、一部独自設定を盛り込んでいます。
最前線である中東に物資を吸い取られ、慢性的なリソース不足に喘ぐ地方支部のドックで、正規パーツの代わりに「ブラックマーケット産のジャンク品」をバラし、量産機を維持し続ける整備員たちの日常をお楽しみいただければ幸いです。
※本作に登場する改修機体のビジュアルは、私のX(旧Twitter)にて随時公開する予定です。
プラモデルについてはライト層のため、パテ等の専門的な工作は行わず、30MMのコンセプトである「既存パーツの組み換え(ミキシング)」のみで、現実のキット改造の過程を、主任の「妄想」として形にしていきます。
第1話:一般採用整備員の整備業務日誌
【地球連合軍 欧州方面軍 第13開発ドック 整備業務日誌:抜粋】
XX月XX日(雨)
作成:一般採用整備兵A
今日のドックは、いつになく「嫌な熱気」に包まれていた。
設計課のベアトリーチェ主任が、図面も持たずにふらりと現れたからだ。彼女がゲラルト親方やテストパイロットのマーベリック少尉を捕まえて議論を吹っ掛ける時は、大抵ろくなことにならない。
新入りの僕は、泥にまみれたアルトの脚部シリンダー交換を続けながら、その「危険な問答」を盗み聞きするしかなかった。
■「万能機」の運用限界について
主任は、リフトに吊るされた無骨なアルトを見上げてこう切り出した。
「親方、正直に言って。この『何でもできる』アルトを、現場の兵士はどれだけ使いこなせてる? 射撃、格闘、防御……平均点の機体で、彼らは本当に死なずに済んでいるの?」
親方は鼻を鳴らし、油にまみれたタオルを放り出した。
「ハッ、無茶言うな。今の新兵じゃ6割が関の山だ。盾を構え、ライフルで牽制し、間合いを詰めてサーベルで叩き切る……教本通りの『基本戦術』がすべてだ。中東へ行ったベテランならいざ知らず、今のひよっこ達は選択肢が多いと迷って固まっちまう。それなら一芸特化の『尖った一発屋』の方が迷わなくて済むだろうさ。だがな嬢ちゃん、上の連中は数字しか見ねえ。常に戦線に置ける器用貧乏の方が、予備機として計算しやすいのさ」
■「三機小隊(スリーマンセル)」について
次に主任は、冷めたコーヒーを啜っていたマーベリック少尉に詰め寄った。
「少尉、今のシフト、もう限界でしょう? 連合軍の規範は三機一組での哨戒。けれど中東へリソースを吸い取られ、あなたの休息時間は削られる一方だ。……もし、これが『二機一組』で運用できるとしたら?」
少尉は困ったように、けれど現役らしい鋭い視線で答えた。
「「……そりゃ助かるけどさ。主任も知ってるだろ、今の俺のスケジュールを。
午前中に演習地で新OSのバグ出しをして、午後はそのまま戦線跡地のガレキの山を三時間。ロイロイ1機連れて、おまけに3マンセルの頭数が足りないからって、新兵の教育係まで兼任だ。
バイロンの連中も本気で攻めてくりゃ諦めもつくが、あいつら、こっちを『釘付け』にするためにわざと小出しに撃ってきやがる。
神経が摩耗するんだよ。三機で互いの死角を埋め合わなきゃ、いつガレキの陰から狙撃されるか分かったもんじゃない、二機じゃ死角(クリアランス)が消せない。随伴するロイロイの索敵を足しても、三機編成の『面』の防御には届かないんだ。一機が被弾すれば、残る一機は防衛と牽制を同時に強いられ、背後を取られて二人まとめてお陀仏だ。
一機が攻撃、一機が援護、一機が予備――この三位一体(スリーマンセル)の相互補完を崩すのは、自殺志願者だけだよ」
主任はその言葉を聞いた瞬間、獲物を見つけた猛獣のような、あるいは「啓示」を受けた聖者のような顔で笑った。
「……そう。警戒網の穴と、行動の欠落を補完できればいいのね?」
その後の主任は凄まじかった。
ドックの隅で「攻撃と防御の極致……」「リソースの二極化……」と呪文のように呟き、狂ったようにメモを取り始めた。管理部のフランチェスカさんが「先輩、また予算外の妄想ですか?」と呆れ顔で呼びに来るまで、彼女は石像のように動かなかった。
恐らく明日あたり、ボガード支部長の机には、とんでもない厚みの「改修企画提案書」が叩きつけられるんだろう。
僕らの仕事が、明日からもっと「面倒で、熱いこと」になる予感がしてならない。
【担当整備主任:ゲラルト・ワーグナー】
[承認印:検]
<所感>
おい、新人。日誌を丁寧に書く暇があるなら、交換したシリンダーの余分なグリスを拭き取っておけ。仕事の跡を見れば、その整備士の底が見えるもんだ。
それはさておき、今日の嬢ちゃんと少尉の問答は、教科書よりよっぽどためになる。よく覚えておけ。
三機小隊(スリーマンセル)が基本なのは、一機や二機じゃ物理的に「背中」が守れないからだ。どんなに高性能な機体でも、後ろから撃たれりゃただの鉄屑(スクラップ)なんだよ。三機一組(スリーマンセル)を維持する余裕がないなら、その欠落を埋める「何か」が必要になる。
だが、あの嬢ちゃんの目は本気だった。
「どんな死角からもぶち抜かれない穴のない防護兵装か警戒網」やら「敵を指一本触れさせないほど圧倒的な攻撃兵装」なりを本気で作る気だろう。
あの嬢ちゃん、俺達が言ったことをどう「解釈」しやがった。
……明日から地獄になるぞ。今のうちに、中東送りのジャンク山からマシなパーツを確保しておけ。
管理部のフランチェスカのお嬢さんに嗅ぎつけられる前にな。
今回は、設計主任ベアトリーチェと整備現場の「温度差」を描く導入編でした。
「3機編成(スリーマンセル)が組めないなら、2機で倍働けばいい」という主任の暴論。それが現場の悲鳴と混ざり合い、これから「尖った性能の機体」へと結実していきます。
次回、第二話は「開発部設計主任による改修企画提案書」。
主任の妄想の全容、量産機の改修コンセプトが明かされます。