一般採用整備員の日常~欧州支部第13開発ドック機密アーカイブ~   作:わたぬき※

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前回のあらすじ:高出力ライフルの反動に耐えきれず、右腕がもげたeEXM-17U [P-2]。失意の現場に届いたのは、事務官フランチェスカがブラックマーケットで競り落とした希少な「アームユニット」だった。しかし、老朽化した機体にそれを組むには、まずは土台から作り直さなければならない。整備兵Aと親方による、現物合わせのミキシングが始まる。



第10話:一般採用整備員の機体改修試験報告書:eEXM-17U(P-2')

 

「……おい、A。嬢ちゃんの書いた図面は一旦忘れろ。あのアームユニット (P-2’)を組む前に、まず重心を下げてバランスを整えるぞ」

ゲラルト親方が、正規予算で購入された『オプションパーツセット2』のランナーを厳つく指差した。

「了解です、親方。……まずこの背中の12連ミサイルポッド、左肩に2基重なってて重心が寄りすぎです。片方外して、重量を削ります」

「おう、それでいい。左の火力が寂しくなる分、セット2の3連ポッドを空いた左肩に足しとけ。……残りの3連ポッド1基は右足の追加装甲の上にマウントだ。右腕が伸びる分、下半身の右側に少しでも重みを置いてバランスを取るんだ」

一般採用整備員Aは親方の指示に従い、ミサイルポッドを組み替えながら、サイドアーマーと脚部延長パーツを組んでいく。

「親方、このロケットランチャーですが、シールドの裏側にはマウントする機構自体がありません。表面に2つマウント穴が開いてるんで、そこにマウントしますね」

「おう、表でいい。そもそも砲撃機体だ、盾構えて打ち合う戦況なんて、中距離まで接近されてからだろ、ミサイルランチャなんてそれまでに牽制で打ち切ってパージしちまえば。その後は盾としてもつかえるだろ。……ま、弾が出りゃ文句ねえだろ」

「了解です……。なんか、盾っていうか火薬の塊みたいになってきましたね」

一般採用整備員Aは表面のハードポイントにロケットランチャーを固定し、 (P-2’)の歪な重装甲を完成させた。

 

 

【第13開発ドック:改修完了報告書(D427-10-A)】

起案: 一般採用整備員A

承認: ゲラルト整備主任

件名: eEXM-17U (P-2’) 全体バランス調整および装甲強化の完了報告

 

【改修内容】

次期右腕換装を見据え、オプションパーツセット2を用いた低重心化および剛性強化を実施。

火力と重心の再配置: 左肩に2基重複していた12連ミサイルポッドを1基に削減。空いた左肩のマウントに3連ミサイルポッドを配置。

重心バランスの適正化: 右脚部追加装甲の上に3連ミサイルポッドを配置し、機体全体のバランスを調整。

下半身の強化: 脚部延長パーツ、追加装甲、ブースターの装着による接地安定性の向上。

防御および副兵装: 左腕シールドへの爆発反応装甲(ERA)装着。マウント機構の制約により、ロケットランチャーをシールド表面のハードポイントに配置。

 

【設計主任:ベアトリーチェの所見】

現場の判断による低重心化は妥当ね、助かるわ。右足側に重量を置くことで、アームユニットの「しなり」を最大限に活かせる土台ができたわ。

シールド表面に露出したロケットランチャーも、威嚇効果としては満点よ。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「――親方、例のパーツが届きました。フランチェスカさんがブラックマーケットのオークションで競り落とした、本命の奴です。」

P-2'の低重心化作業を終えたドックに、フォークリフトで無骨な武装運搬用コンテナが運び込まれた。中には親方が「片腕で重機を支える機構の見本」として目を付けていた『オプションパーツセット1(アームユニット一式)』が納められている。

「おう、やっと来たか。……これだ、この多段階の接続ブロックが欲しかったんだ」

ゲラルト親方がコンテナを開き、肘側とアームユニット側を繋ぐための専用連結パーツを慎重に取り出した。特殊用途向けで供給が絞られているため、実戦機で拝めるのは稀な代物だ。

「いいか、嬢ちゃん。標準的なアルトの肘関節は、一箇所の軸で全てを受け止める単調な構造だ。だから(P-2)の時は、老朽化したフレームが衝撃を逃がしきれずに弾け飛んだ」

親方は作業台に、破損した(P-2)から抜き取ったアルト標準の肘関節と、届いたばかりの連結パーツを並べて見せた。

「だが、これを介して『多段階連結』で肘を組み込めば、射撃のキックバックを複数の節で段階的に分散して逃がしながら支えることができる。……重機のアームが複数のシリンダーを連動させて、重量負荷を逃がしながら巨大な建材を保持するのと同じ理屈だ。……A、こいつを実機に組み付けて、試験射撃の用意をしろ。カタログスペックじゃなく、こいつ自体の『衝撃分散』の数値を計るぞ」

「了解です、親方。……軍の横流し品でもブラックマーケット経由ですよ。カタログスペックなんてどこまで信用できるかわかりません。実際に計ってみるのが一番です」

一般採用整備員Aは、eEXM-17Uの右肘関節に連結パーツを介して、直接ライフルが一体化したアームユニットを本組みした。俺自身が機体のシートに収まり、屋内射撃レーンの固定架台まで歩かせると、外部モニタに数値を送るための荷重センサーを各所に貼り付け、ライフルの出力を低稼働モードに設定する。

ハッチを閉じ、密閉されたコックピットの静寂の中で、俺は両手をレバーから離し、機体外部の計測班へ無線を入れた。

 

「親方、各部センサー同期完了。機体ステータス、オールグリーン。射撃レーン内、クリア。……いつでもいけます」

『おう、全チャンネル録画開始。……嬢ちゃん、OSのモニタリングはいいか?』

『全節のステータス、オンラインよ。出力20%なら、今のフレームでも十分なマージンが確保できるわ。いつでも撃ちなさい、A!』

親方の「撃て」の合図を受け、俺はそこでようやく右手のトリガーに指をかけた。

「了解。出力20%、低稼働モード……発射用意。カウント、5、4、3、2、1……発射!」

射撃場にレーザー特有の鋭い駆動音と熱波が走り、コックピットに鈍い振動が伝わる。

「……親方、状況は?」

「……出たぞ。連結部で一度衝撃を受け止め、そこからアーム側へ段階的に荷重が逃げてやがる。肩の基部にかかる負荷は、標準肘の時より格段に抑えられてるな。これなら、この老朽化したフレームでも十分なマージンが取れる。実機でのデータ整合性、確認完了だ。』

親方の声には、安堵よりも「ようやく土俵に立てた」という冷徹な響きがあった。

『……A、そのままシステムを維持してろ。取れた数値を叩き込んだ本制御プログラムの流し込みに入る。……嬢ちゃん、OSの書き換え、一発で通せよ。ここからが本番だ。』

 

 

 

【第13開発ドック:機体改修試験報告書(D427-10-Final)】

場所: 連合軍欧州支部セクター55「鉄の墓場」内 第13開発ドック

起案: 一般採用整備員A

承認: ゲラルト整備主任

査閲: ベアトリーチェ開発主任

 

件名: eEXM-17U [P-2’] 構成変更および衝撃分散実証試験の結果報告

 

1. 【機体構成変更点:P-2’仕様】

「オプションパーツセット2」および「セット1」の現物合わせによるミキシング。

右前腕部: [アルト標準肘] + [連結パーツ] + [アームユニット内蔵ライフル]

現場判断: ブラックマーケット経由の連結パーツを介し、ライフル腕を直結。

 

左肩部: [12連ミサイルポッド×1] + [3連ミサイルポッド×1]

重量調整: 2段重ねだった12連を1基削減し、3連への置換で高重心化を抑制。

 

右脚部: [脚部追加装甲] + [3連ミサイルポッド]

重心補正: 右腕の延長に伴うバランス変化を、脚部への重量配置で相殺。

その他: [左腕シールド(表面ロケットランチャー)]、[腰部サイドアーマー]、[脚部延長パーツ+ブースター]、[大型クロー]

防御/機動: 脚部延長による衝撃吸収ストロークの確保と、最低限の装甲強化。

 

2. 【屋内射撃レーン:実測データ】

低出力発射試験(出力20%)における荷重センサーの計測結果。

 

衝撃分散効率: 多段階連結構造により、発射時の瞬間的なキックバックを複数の節で段階的に逃がすことに成功。

負荷軽減率: 肩基部およびメインフレームへのせん断荷重を35%軽減。

 

判定: 老朽化した実機フレームにおいて、十分な作動マージンを確保。設計値と実測値の整合性を確認。

 

3. 【第13開発ドック:各主任所見】

整備主任(ゲラルト)

「重機のシリンダーみてえに、複数の関節が連動して負荷を逃がしてやがる。実機でのデータ整合性は取れた。これでようやく、嬢ちゃんの『理想』を載せる土俵が整ったな。……A、本制御プログラムの流し込みを急げ。」

開発設計主任(ベアトリーチェ)

「35%の減衰……助かるわ。現場の『生きた数値』のおかげで、P-3への昇華に必要な最後のピースが埋まったわ。……次はこの安定性を前提にしたガトリング(P-4)の試算に入るわね。楽しみにしておきなさい。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 




第10話をお読みいただきありがとうございました。
今回は、30MMの「オプションパーツセット2」「アームユニット ライフル/大型クロウ」を活用したミキシング回でした。設定上は「ブラックマーケットの一点物」ですが、実際はプラモデルのジョイント一つで繋がるあの「カチッ」という快感を、軍事的な「多段階連結」として再解釈しています。
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