一般採用整備員の日常~欧州支部第13開発ドック機密アーカイブ~ 作:わたぬき※
ドックに眠る大型ガトリングを代用し、強引に形にした暫定仕様。だが、その「お行儀の良すぎる」性能は、理想を追う設計屋と、実戦を知るパイロットを失望させることになる。
【第13開発ドック 業務仕様・改修企画提案書(D427-11-PR)】
作成日: 20XX年 X月 X日
作成者: 開発設計主任 ベアトリーチェ・デルソラーレ
承認者: 第13開発ドック支部長 ジェイムズ・ボガード
件名:eEXM-17U(P-3) 大型キャノン代替火器の試験搭載、および衝撃分散機構の検証継続について
1. 改修の背景と現状分析
前報(D427-10-Final)の通り、右肘部への多段階連結パーツ導入は、実機フレームにおける衝撃分散能力を十分に証明した。
本来、本機構は「大型キャノン」の運用を最終目的としているが、当該ユニットは現在、軍の兵站局およびブラックマーケットにおいても深刻な欠品状態にある。このため、当初計画していた長距離砲撃仕様への完全移行は一時凍結せざるを得ない。
2. 代替案:ドック内在庫「大型ガトリング」の試験搭載
主兵装の調達が遅延する間の暫定措置として、ドック内在庫である「大型ガトリング」を右腕アームユニットへ試験搭載することを提案する。
選定理由: キャノン級の単発荷重はないものの、連射時に発生する微細な連続振動は、老朽化したフレームにとって別の意味で致命的な負荷となる。P-2’の衝撃分散機構が、この高周波振動を各節でいかに減衰・処理できるかを検証する絶好の機会と判断した。
運用想定: 中長距離の精密射撃は放棄し、近接から中距離における面制圧能力を確認する。
3. 技術的懸念事項
ガトリングユニットの自重、および給弾ベルト等の取り回しにより、機体の重心バランスは再度不安定化する。また、副兵装のミサイルポッドと射程圏が重複するため、武装全体の構成としては極めて中途半端なものとなる。
しかし、本換装は「衝撃分散アーム」がどこまで連続負荷に耐えうるかを確認するための「極限環境試験」と位置づける。
4. 整備班への依頼事項
本試験搭載にあたり、現場の整備班にはガトリング稼働時の共振対策および給弾系の最適化を要請する。得られたデータを基に、アームユニットの最終調整(P-3仕様への昇華)を行うものとする。
【
「キャノンがないからガトリングで我慢しなさい」なんて、私のプライドが一番許してないわ。でも、今のドックの棚にあるもので一番『暴れる』のはこれなのよ。親方、現場の調整で、この不格好な機体をどこまで『マシ』にできるか、あなたの愛弟子の腕を見せてもらうわね。
「――だとよ、A。仕事だ。嬢ちゃんの『リクエスト』を形にしてやれ」
昨日、P-2'としての実証を終えたばかりの多段階連結アーム。そこへ今日、ドックの奥から引っ張り出されてきた「大型ガトリング」を強引に据え付ける作業が始まった。
「親方、これ本当に大丈夫なんですか? 数値は出てるはずなのに、ガトリングが重すぎて右腕が勝手に垂れてきますよ。これじゃ、まともに
「ガタガタ抜かすな! 姿勢制御OSのアクチュエータ制限を一段階開放しろ。多段階関節ごとにトルク配分を最適化して、右腕全体でガトリングの自重を食い止めるんだ。……A、そこだ! コンソールから右肩と肘の出力リミッターを二〇%上乗せして、強引にホールドさせろ!」
「……できました、右腕換装完了。大型ガトリング、給弾システム同期。……ですが親方、正直言ってこれは中途半端すぎます。腕がもげない安定感こそありますけど、重すぎて機動性は落ちてます。副兵装のミサイルとも役割が被って、運用の意図が見えません」
一般採用整備員Aのぼやきに、親方は鼻で笑いながら油の乗ったスパナを工具箱へ放り投げた。
「ハッ、そいつは嬢ちゃんに言ってやれ。俺たちの仕事は、その『中途半端な鉄クズ』を、少なくとも実弾が撃てる状態にまで引き上げることだ。運用の意図なんざ、その後の話だよ」
「……おい、妙に『お行儀がいい』じゃねえか。腕ももげなきゃ、集弾性もマニュアル通りだ」
射撃レーンの固定架台に据えられたeEXM-17U(P-3)から、マーベリック少尉の冷めた声が響く。右腕に据えられた大型ガトリングの連射テストは、皮肉なほど順調に進んでいた。多段階連結アームによる衝撃分散は完璧に機能し、連続射撃による激しい微振動を各関節がしなやかに吸収している。
「だが、それだけだ。主兵装のガトリングと副兵装のミサイルで、有効射程が完全に被ってやがる。これじゃあ、どっちを撃っても結果は同じだ。……『真っ正直』すぎて、戦場じゃただの潰しの利かないデカブツだぞ」
マーベリックの指摘は冷徹だった。かつての(P-2)が持っていた、壊れる寸前の危うい破壊力は消え、代わりに手に入れたのは「壊れないが決定打に欠ける」という、あまりにも平凡な安定感だった。
「……やっぱり違うわ。これじゃただの『ちょっと頑丈な中距離支援機』じゃない!」
モニターを見つめていたベアトリーチェ・デルソラーレが、突如として頭を抱え、椅子に深く沈み込んだ。
「私が求めていたのは、物理法則をねじ伏せる圧倒的な一撃(キャノン)なのよ。こんな小綺麗なまとまり方、私の設計思想(プライド)が許さないわ! ……ああ、もう! なんで肝心な時に、大型キャノンの在庫がどこにも無いのよ!」
……理想(キャノン)と現実(ガトリング)の乖離に、ドック内にはお通夜のような沈黙が流れる。俺(整備員A)も、腕がもげなかったことに安堵しつつも、この機体の運用案が袋小路に入ったもどかしさに言葉を失っていた。
ベア主任は、無言のままモニターの電源を落とし、重い足取りで自室へと消えていった。
■ 第13開発ドック:実弾射撃試験報告書(D427-11-Test)
試験実施日: 20XX年 X月 X日
試験場所: 屋内射撃レーン
試験機体: eEXM-17U(P-3)
試験搭乗者: マーベリック・ローガン少尉
1. 【火器運用評価:大型ガトリングユニット】
剛性および安定性: 良好。多段階連結パーツによる衝撃分散は想定以上の精度を発揮。全弾斉射時においてもフレームへの致命的なバイブレーション波及は見られず、
集弾性能: 標準的。ガトリング特有の拡散は見られるが、アームユニットが微細なブレを吸収しているため、マニュアル通りの集弾率を維持。
2. 【戦術的懸念および総合評価】
運用上の矛盾点: 評価に値しない。
総評: お行儀が良すぎる。かつてのP-2仕様にあった「壊れるかわりに一撃で殺す」という狂気が消え、単なる「潰しの利かない重装機」に成り下がっている。現状の武装構成では、戦場での優位性は極めて低い。
3. 【査閲】
「腕がもげなかったのは及第点だが、少尉の言う通りだ。これじゃあ宝の持ち腐れだな。ガトリングのせいで右側の油圧負荷が跳ね上がってやがる。……A、パラメータをもう一度見直せ。」
「……(無言での却下印)」
第11話をお読みいただきありがとうございました。
今回は、プラモ改造あるあるの「理想のパーツが売っていない」というメタな悩みを、軍の兵站不足として物語に組み込みました。
衝撃分散アームによってガトリングの連射に耐える[P-3]は、一見「完成」に見えますが、技術者たちのプライドがそれを許しませんでした。
行き詰った現状を打破すべく、ベアトリーチェがまた何を考え付いたのか?
次回の第12話からは、第13開発ドックの外を舞台にした第2部が始まります!