一般採用整備員の日常~欧州支部第13開発ドック機密アーカイブ~   作:わたぬき※

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お待たせいたしました。
二基体制となった作業機を手に、Aの「資源回収」はもはや誰にも止められないものへと変質します。
効率を優先する実、根底にあるのは子供染みた周囲への意趣返しがあります。
安全マージンも、設計者のこだわりも、地元の縄張りルールも、すべてを踏み潰していくA。
かつての緩衝材が、障害も制約も無視して突き進む暴走列車(ジャガーノート)へと変わっていく様をお楽しみください。


第15話:一般採用整備員の戦地出張報告書 第3報(中東戦線:南部砂海)

13,000 c$という再設定目標に向けた、二度目の回収サイクルが始まった。装甲車が牽引するコンテナのカーゴからは、二基のエグザビークルが砂地に降り立っている。一号機は切断トーチ、二号機は重量物を確実に保持するための大型マニピュレーター。それぞれの役割に特化した装備だ。

後部座席のAは一言も発せず、端末のキーを叩き続けていた。彼が構築した半自動制御システムは、現在進行中の作業の裏で、常に次の行動のタスクを先行で機体に送り込み続ける。戦闘や索敵といった基本プリセット外の複雑な解体作業において、ロイロイが適用すべき規則を検索し、判断のための演算待ちを起こす「空白の時間」を、Aの事前入力によって強引に塗り潰す。その結果、二基の機体は生き物のような連続性を持って駆動した。

一号機が装甲を焼き切ると同時に、火花を散らしながら二号機が大型マニピュレーターを割り込ませ、内部ユニットを毟り取る。二つの個体が接触を回避するために足を止めるような、安全マージンのための「溜め」すら存在しない。

 

「……何よ、その動き。システムが衝突を避けるために一瞬止まるはずのルーチンを、あんたの命令で無理やり殺してるわね? 通信ラグも無視して、ぶつかる寸前のタイミングでねじ込むなんて……怖くないの?」

 

助手席のベアトリーチェが、眉をひそめて呟いた。機体保護のための安全策すら削ぎ落とした、最短軌道での同時処理。それは精密な自動制御というより、損耗を厭わない強引なまでの最適化に見えた。Aは彼女の言葉を物理的なノイズとして聞き流し、モニターに映る周囲の動態反応に意識を割いた。

 

「ナディル、前方十時方向。砂丘の上に数台のビークル。……あれは?」

「装備の意匠からして、スカベンジャーチーム『赤錆の爪』の連中でしょうね。彼らにとって、我々のこのスピードは自分たちの分け前を根こそぎ奪い去る、不気味な屍喰鬼(グール)の群れに見えているはずです」

 

ナディルはハンドルの遊びを確認し、バックミラーに映る背後の熱砂を睨んだ。

 

「昨日までは遠巻きに眺めているだけでしたが、今日は明らかに接近してきています。進行ルート上に磁気地雷を埋設された可能性が高いですね……どうしますか、A一等兵。回避しますか?」

「いいえ、そのまま進んでください。回避による時間のロスの方が、工数へのダメージが大きい。二号機を先行させます。機体出力を磁気攪乱に回せば、車両が踏む前に信管を無効化できます」

 

淡々と告げるAの瞳には、妨害への恐怖など微塵もなかった。

相手の策をただの徒労に変えて意趣返しをしてやろうとする、子供のような仕返し。ただ、それを実行するのが、短期間で機体特性を掌握した正規軍の技術屋であるということが、相手にとっての決定的な不運だった。

 

 

 

 

「……磁気信管の焼き切り、成功ですね。二号機の給電系に若干の熱ダメージが出ていますが、この程度の消耗なら、地雷原を避けて遠回りする時間のロスより安くつきます」

 

拠点に到着するなり、Aは装甲車から降りて二基の点検を始めた。その表情は、命の危険を冒した直後とは思えないほど平坦だ。

 

「あんたね……。確かに早かったけど、補助用のジャミング機能に定格以上の電圧をかけるなんて何を考えてるの。安全装置(リミッター)を強引にカットしてそんな使い方をすれば、デバイスそのものが焼き付くわ。設計者はそんな運用想定してない」

 

ベアトリーチェは、設計上のマージンを無視された不快感を隠そうともせず吐き捨てた。しかし、Aは黒ずんだ電力変換器を躊躇なく引き抜くと、それをゴミ同然に放り出した。

 

「主任、想定なんてどうでもいいんです。焼き付いたら交換すれば済む。高価な燃料と時間を空費して地雷原を回避するより、安物の基板一枚を焼き切る方が、トータルのコストは低い。……それだけのことですよ」

「それだけって……あんたね……!」

 

正論をぶつけたはずが、それすら「コスト計算」の一言で切り捨てられる。まともに議論する気さえないAの背中に、ベアトリーチェは二の句が継げず、苦々しい表情で黙り込むしかなかった。

 

「ナディル、今回の上がりで予備のパワーユニット一式と、消耗品のストックを多めに確保しておいてください。……それと、地元の連中の動きはどうですか?」

「共有チャンネルは賑やかですよ。地雷を平然と踏み越えた我々の手際に、例の『赤錆の爪』を含む地元チームが相当苛立っている。次はもっと直接的な――例えば、バイロン軍の哨戒ルートへ我々を誘い込んで、軍に始末させるような真似をしてくるでしょうね」

「自分たちの手を汚さずに、ですか。……面倒ですね。バイロン軍との接触は、機体の摩耗コストを考えれば避けたいところですが……」

 

Aはわずかに口角を上げた。それは怒りではなく、新たな「資源」の発生源を特定した時の、効率優先の表情だった。

 

「連中が案内役を買って出てくれるというなら、利用させてもらいましょう。バイロン軍の哨戒ルートは、言い換えれば『新しい死体』の宝庫だ。邪魔をされる分は、連中の獲物をこちらで横取りして相殺(チャラ)にします」

「……あんた、それ本気で言ってるの?」

 

ベアトリーチェが呆れたように声を漏らすが、Aは既に次の計算に入っていた。

 

「ナディル、明日にはもう一基、三基体制に移行します。利益の余剰はすべて機体の買い増しに充ててください。最終的にはこれを七基まで増やし、このエリアの残骸を根

こそぎ回収します。障害が増えるなら、こちらも物量で対抗するまでです」

 

Aがそう告げる背後では、二基の作業機が淡々とポルタノヴァの組み上げを続けていた。

現場で手際よく回収したユニットを、選別済みのフレームへと手際よくマウントしていく。パチパチと溶接の火花が散り、効率的な接合作業の音が拠点の空気を満たす。Aの管理下で、バラバラのパーツは驚くべき速度で再び「機体」としての体裁を取り戻していく。

彼らが通り過ぎた跡には、利用価値のあるものをすべて剥ぎ取られた、ただの鉄の骸しか残らない。その徹底した収穫と、プロの技術を最短距離で叩き込む作業の手際は、地元組にとって真似のできない、ただただ忌々しいだけのやり口だった。

 

 

 

【地球連合軍・欧州方面軍 第13開発ドック 宛:業務進捗報告】

件名: 現地運用ユニット増強による回収効率向上、および妨害事案への対処報告

1. 結論

二基体制によるマルチタスク運用の有効性を確認。当初計画を上回るペースで資源回収が進行しており、目標金額13,000 c$達成への障壁はない。

2. 背景および経緯

進行ルート上にて地元チーム「赤錆の爪」による磁気地雷の埋設を確認。これに対し、二号機のリミッターを一時的に解除し、高出力パルスによる磁気攪乱を実施。車両損害ゼロで強行突破に成功した。当該機体の電力系に一部損耗が発生したが、回収部品による交換で修繕済みであり、工期への影響は軽微である。

3. 収支詳細(第2回サイクル)

・収益  :ポルタノヴァ1基   :2,200c$

      解体端材パーツ   : 900c$

 支出  :作業ユニット増設費 : 600c$

      消耗パーツ予備費  : 200c$

 収支合計           :2,300c$

  (累計手持 4,800c$、目標金額13,000c$に対し進捗 36.9%)

4. 備考

効率向上のため、次サイクルより作業ユニットを三機体制に増強する。ベアトリーチェ主任より技術理論を無視した運用について強い抗議を受けたが、任務遂行を優先しこれを却下。主任は現在、独自にナディル二等兵と接触している模様だが、特段の措置は講じず静観する。

【支部長の所感】

……フラン君、見てくれ。A一等兵が今度は地雷原を焼き切って突き進んだそうだ。ベアトリーチェ君の悲鳴が聞こえてきそうだが、この収支の伸びは無視できない。彼はもう「戦場の算盤」を弾く経営者だよ。主任が裏で何か画策しているようだが、彼女の「余計なこだわり」がAの効率を邪魔しないといいんだがね。

 

 




ご愛読ありがとうございました。
地雷原を「焼き切って」突破し、その修理代すらコスト計算に含めて笑うA。
そんな彼に設計者としての矜持を傷つけられ、実務からも切り離されたベアトリーチェの焦燥は、今どれほどのものか…。
次回の第16話、三基体制へと膨れ上がる「葬列」に対し、追い詰められた地元勢はバイロン軍を招き入れるという禁じ手に打って出ます。
次回もよろしくお願いいたします。
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