一般採用整備員の日常~欧州支部第13開発ドック機密アーカイブ~   作:わたぬき※

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お読みいただきありがとうございます。
第1話では、どこにでもある(?)整備ドックの日常風景をお届けしました。
今回の第2話では、いよいよキットの改造案が具体化していきます。
設計主任ベアトリーチェが持ってきた「特化型兵装」の企画書。
それは、整備員を含めた開発局主要メンバーたちが思わず「正気か?」と目を疑うような、極端すぎるコンセプトでした。
30MM(30 MINUTES MISSIONS)のカスタマイズの醍醐味である「盛り」と、それを実際に運用・整備する現場の「困惑」の温度差を楽しんでいただければ幸いです。


第2話:開発設計主任の改修企画提案書

【欧州方面軍 第13開発ドック 内部機密文書‐改修企画提案書】

案件番号: EU-13-RD-1044

作成者: 主任設計官 ベアトリーチェ・デルソラーレ

題目: 「局地戦用特化兵装(防御特化型/攻撃特化型)導入による運用効率および資源最適化案」

 

1. 企画骨子

現行の「汎用機3機」による相互補完戦術を破棄し、役割を「防御」と「攻撃」に完全分離した二機一対のシステム運用を提案する。機能特化により、単機運用限界を超えた出力を維持しつつ、余剰戦力を予備兵力へ回す「戦術的余裕」を創出する。

 

2. 特化兵装の概要

【防御特化兵装:電磁バリアフィールド発生ユニット群】

構成: 背面円環状ウェポンラックに懸架された、アクティブマイン(電磁パルス爆雷)を改修した六基の電磁パルスフィールド発生装置。

運用: 低出力モードでのアイドリング起動により、一機で汎用機三機分の防御範囲をカバー。接近する脅威を検知した瞬間に該当セクターの出力を最大化し、高出力の電磁パルスフィールドで攻撃を遮断する。ラックはエネルギー供給と、射出時の空間配置の最適化を担う。

 

【攻撃特化兵装:高出力砲撃ユニット】

構成: 大容量プロペラントタンク、および供給経路と直結した大型キャノンの一体型システム。

運用: ユニットからの直接過給により、単機運用限界を超えた連続高出力砲撃を実現。遠距離からの陣地制圧、および単射での重装甲目標の撃破を目的とする。

 

3. 導入によるメリット

コスト削減: 三機編成を二機へ圧縮。機体維持コストを33%削減する。

教育の最適化: 汎用課程を排し、「防御」または「攻撃」のいずれかに専攻を絞ることで、パイロットの習熟期間を大幅に短縮可能。

生存率の向上: 高出力フィールドによる保護とアウトレンジ制圧の組み合わせにより、被弾・撃墜確率を劇的に低減。希少な人的資源の損失を最小化する。

 

 

【会議終了後の所感(記録音声より抜粋)】

■整備主任:ゲラルト・ワーグナー

深い溜息とともに、汚れた作業帽を脱いで頭を掻きむしりながら

「……『爆雷をバリアに改造した』だと? 発想がイカれてやがる。一歩間違えれば自機がショートしてスクラップだぞ。だが、このラックの配置……冷却効率と射出軌道を考えれば、この『円環(サークル)』が最適解ってわけか。計算だけは完璧なのが腹立たしいな」

 

■テストパイロット:マーベリック少尉

顎をさすり、映し出された三面図を食い入るように見つめながら

「おやおや、随分と尖った玩具を思いついたもんだねぇ。片方は『死角のない盾』、もう片方は『移動砲台』か。……ま、理論は分かったがね。こいつは組む相手をよっぽど信頼してなきゃ、怖くて背中は預けられないな。俺と心中してくれるお人好しが、このドックに何人残ってるんだい?」

 

■管理部:フランチェスカ

手元の開発費試算資料に目を落とし、眉間に皺を寄せながら

「ベアトリーチェ先輩、この予算案……アレ? 開発費の枠、これ本体購入分の費用だけで計算してません? 爆雷の改造費や変換回路の調達、どこから捻出するつもりなんですか。支部長、本当にこの予算でいけるんですか? 現場に皺寄せが行くだけの『数字遊び』なら再考を提言します」

 

 

■一般採用整備員A

ミーティングルームの片付けをしながら

(……すごいことを考えるもんだ。効率だのコストだの理屈は並べてるけど、これ、要するに……。いや、何て言えばいいんだ? 『最強の盾』と、それを補うための……最強の『……』?

 確か、東洋の方に似たような寓話があった気がするが……あいにく璞は、騎士の槍や剣以外の例えを知らない。

 弓にしては重すぎるし、巨大な『杭』を打ち込むような……。ううん、どれもしっくりこない。既存のどんな武器の組み合わせとも、何かが決定的に違う気がするんだ)

 

 

 

会議室の明かりが消え、人々が去った後。整備兵Aは、端末に残されたCADデータを操作していた。ワイヤーフレームが回転し、青白い光が空間に組み上がっていく。

「……この配置、なんだろう。妙な既視感(デジャヴ)があるな。エネルギーのバイパス経路は、論理的なはずなのに。……でも、この感じ。どこかで、見たことがあるような……」

彼は、防御仕様機の背面に浮かぶ六基のユニットを繋ぐ、円環の軌跡を見つめる。それは幾何学的な配置であるはずなのに、静謐な圧力を湛えていた。

「……後光(ハロ)、かな。いや、違う。もっと……。この円環を背負う、独特のシルエット。……アレ? 昔、極東のアーカイブで見た、何かの資料にあったような……。たしか、……神様…みたいじゃないか?」

 

いつの間にか背後に立っていたゲラルトが、タバコを咥えようとして止めて口を開いた。

「神様だあ? 縁起でもねえ。だが、まあ……そうだな。この歪なシルエット、ただの『効率化』だけで引けるラインじゃねえ。あの嬢ちゃん、図面にまで毒を盛りやがったな」

そこへ、ヒールの響く音が近寄ってくる

「ふふ、ご名答。極東の古いアーカイブにあったのよ。雲を裂き、嵐を呼ぶ二柱の神。素敵だと思わない? この閉塞した欧州の空をぶち抜くには、神様の力添えくらい必要でしょう?」

「……で、上層部にはなんて説明するんだ?まさか『神様を作ります』とは言わねえだろうな」

ベアトリーチェは不敵な笑みを浮かべ、支部長の承認済みの書類を提示する

「まさか。相手は数字だけ見て戦争してるつもりの連中よ? こうやって数字と利点を並べ立てないと見向きもしないでしょう? 文面から私の思い描く完成像を想像できるほど、彼らの頭は柔らかくないもの。……ふふ、支部長が開発許可を取ってきてくれるはずだから、あとは現場が形にするだけね」

彼女は不敵な笑みを浮かべ、今はまだ名前のない神の図面を愛おしそうに指でなぞった。




第2話、いかがでしたでしょうか。
「防御特化」と「攻撃特化」……ゲームやプラモなら胸が躍る極振りのコンセプトですが、現場にしてみれば「予算は?」「整備性は?」という現実が突きつけられます。
そして最後に飛び出した「神」というワード。
ミリタリーの皮を被ったベアトリーチェの「こだわり」が、ついに開発局支部長という名の「防波堤」を直撃します。
次回、第3話はガラリと視点が変わり、中間管理職の開発局局長の孤独な戦いの記録です。
ベアトリーチェの無茶な期待に対し、彼がどう応えていくのか。大人の泥臭い奮闘記、ご期待ください。
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