一般採用整備員の日常~欧州支部第13開発ドック機密アーカイブ~   作:わたぬき※

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 第7話での動作試験において、重心崩壊と右腕の可動域狭小という「案山子」の烙印を押された試作1号機(P-1)。
 普通なら設計の見直し、あるいは軽量化に走る局面ですが、開発設計主任、ベアトリーチェの辞書に「妥協」の文字はありませんでした。
 彼女が導き出した、あまりにも極端な「引き算」の答え。
 それは、機体の『五体満足』を捨てるという暴挙でした。
 現場の一般採用整備員Aが、親方と共にジャンクの山をかき分け、無理やり形にした「ダイレクトアクセス」仕様。
 機体構造の限界に挑む、第8話が始まります。


第8話:一般採用整備員の事故報告書eEXM-17U(P-2)仕様

【設計課:技術指令書】

作成者: 開発主任 ベアトリーチェ

件名: eEXM-17U (P-2) 改修仕様変更通知

 

【指示事項】

右腕:ダイレクトアクセス構造の採用

標準の前腕部(肘から先)を完全に排除。肘関節のジョイントへ重火器(ロングバレルライフル)を直結せよ。物理トリガーを介さない電子パルスによる即時射撃系統を構築すること。

 

左肩:火力制圧ユニットの増装

12連ミサイルポッド×2基を左肩ハードポイントへ懸架。右腕の軽量化による余剰積載分を全て火力へ割り振る。

 

留意点: 詳細な接合ジョイントの選定およびマウントステーの形状は現場判断に一任する。

 

 

■1:

「……また無茶な図面を。マニピュレーターを潰して信号線をバイパスしたら、もうこのライフル、指じゃ引けませんよ」

一般採用整備員Aは、モニターに映る『肘から先を消した』設計図を仰ぎ見た。開発主任のベアトリーチェは、図面を放り投げると「あとはよろしく」とだけ言い残し、自身の研究室へ戻っていった。細かな実装は現場に任せれば大丈夫だという、丸投げに近い信頼の結果だ。

理屈は分かるが、物理的にどう繋ぐかが問題だ。一般採用整備員Aは傍らで腕を組む親方に助けを求めた。

「親方、これ。共通の3mmジョイントだから連結自体はできるんですけど……ライフルのハードポイントの向きが肘の軸と垂直なんです。そのまま挿すと、砲身が完全に真横を向いちゃうんですよ」

親方は、愛用の作業用アシストアーマー――マーケットで安く買い叩いて以来、重いパーツ運搬に重宝している「パワードシステム」のコクピットからひょいと降りると、足元に転がっているジャンクパーツの入ったコンテナを顎で示した。

「アルト[グリーン]を組んだ時の余りパーツがその辺に転がってんだろ。……A、あの中から軸の向きを90度変えられるジョイントパーツを探してこい。今から言う形状のやつだ」

親方が指定したのは、軸の向きを変換するための汎用ジョイントだった。一般採用整備員Aは、山のようなジャンク袋の中から目的のパーツを掘り出し、ライフルの基部へ差し込んだ。

「カチリ」と軽い音を立てて、ライフルがようやく前を向く。

「物理的な接続はこれでいいとして……問題は中身ですね。ライフル側のトリガー回路を殺して、肘のプラグに直結しなきゃならない」

一般採用整備員Aは、作業台からテスターと細線用のはんだごてを手に取った。

ライフルのグリップ基部をバラし、本来なら指の圧力を検知するセンサーをバイパスする。回路を強引に書き換え、肘のジョイントプラグから送られる「射撃命令(電磁パルス)」を直接、ライフルの発射機構へと叩き込む。

「……電子バイパス完了。指の動作を待たずに、OSの信号一つで火を吹きます。……ただ親方、これ。通常の肘関節だけでこの重いライフルと射撃反動を支えることになりますよ?」

「……ま、図面通りに組みゃあそうなるわな。軸が折れるか、ジョイントが弾け飛ぶか。現場(こっち)ができるのは、せいぜい接合部をガタつかねえように、遊びを少なくすることぐらいだ」

親方は煙草をふかし、完成した歪な右腕を見つめて鼻を鳴らした。

 

「……物理的な接続はこれでいいとして、問題はこの山ですよ」

一般採用整備員Aは、クレーンで吊り上げられた2基の12連ミサイルポッドを見上げた。

「主任の指示だ。右腕を軽くした分、左に積んでもお釣りがくるってよ。……A、汎用のマルチジョイントを介して、左肩のハードポイントに二段重ねでマウントしろ」

親方の指示に、一般採用整備員Aは絶望的な気分でレンチを握った。

「お釣りどころか、破産しますよ。これ、12連を2基もマウントしたら、左側の自重だけでフレームが軋みます。……ほら、ジョイントを噛ませる場所がもうない。強引にステーを溶接して、物理的に『盛る』しかないですね」

火花を散らし、左肩に巨大な鉄の塊が「実らせ」られていく。右腕は細く鋭い銃、左肩は巨大な箱。機体のシルエットは左右非対称(アシンメトリー)という言葉では生ぬるいほどに歪んでいった。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【セクター55、外部演習場】

砂塵の中に立つP-2仕様のアルトを、マーベリック少尉はコクピットから一瞥して吐き捨てた。

『……おい。右腕はただの棒、左肩は視界を遮る壁。これは何の冗談だ?』

「取り回しは改善されたはずよ、マーベリック少尉。右腕のラグはゼロ、左肩は一斉射で中隊を吹き飛ばせるわ」

ベアの声が無線に踊る。マーベリックは機体を一歩踏み出させた。

『ラグ以前の問題だ。左のポッドがデカすぎて、モニターの左半分が死角になってる。おまけに右腕……こいつ、遊びがねえ。少し動かしただけで、肘の奥で嫌な音がしてやがるぞ』

「……少尉、とりあえず試射を。データを取りたいんです」

一般採用整備員Aが祈るように告げると、マーベリックは鼻で笑った。

『ああ、いいぜ。……あそこに突き刺さってる旧式の残骸(スクラップ)が標的か。……死ね』

神経接続された電子トリガーが、思考の速度で作動する。

右肘に直結されたライフルが火を吹いた、その刹那。

――ガキィィィィィィィィィィッ!!

耳を刺すような金属の破断音。

ライフルの強烈な反動が、遊びのない3mmジョイントに全て叩き込まれた。

『――ッ、このゴミクズがぁ!!』

マーベリックの怒鳴り声と同時に、アルトの右肘から先が、自身の射撃エネルギーに耐えきれず「もげた」。

宙を舞う巨大なライフル。

それは放物線を描き、演習場を囲う外壁の防護フェンスを突き破って、後方の岩場に深々と突き刺さった。

右腕を失った機体は、衝撃に耐えきれず、不自然にたたらを踏んでその場に膝をついた。

 

 

 

【整備完了兼事故報告書】

作成者: 一般採用整備員A

責任者: 整備主任 ゲラルト・ワーグナー

 

【試験結果】

動作試験結果: 右肘関節全損。

事故概要: 射撃時の反動エネルギーが、接続部であるジョイント軸の許容限界を突破。

機体状況: 右腕(ライフル)が自身の反動で後方へ射出、演習場外壁付近まで飛散。機体は左肩の重装により転倒こそ免れたものの、右肘関節は修復不能。

 

【責任者所感】

「現場でジョイントを工面して形にはしたが、通常のアルトの肘関節だけでこの重火器の反動を預けるのは無茶だ。次は肘から肩までの機構を改良するか、標準オプションのアームユニットを転用して衝撃を逃がす仕組みが必要だろうな」

 

【作成者備考】

「だから物理的に無理だと言ったんです」

 

 




第8話をご一読いただき、ありがとうございます。
 ……はい、もげました。右肘から先が、物理的にさよならしました。

 プラモデルを組んでいる時、「このジョイント一本でこの重い武器を支えるのは無理があるな……」と感じる、あの嫌な予感をそのまま物語のピークに持ってきてみました。
 12連ミサイルポッドを二段重ねにするという公式の盛り付け例(ヘビーウェポン1参照)を再現しつつも、右腕を「遊び」のない直結にしたことで、反動の逃げ場が一点に集中してしまった結果です。
 整備主任であるゲラルトの「現物合わせ」の技を持ってしても、物理の壁は厚かったようです。
吹き飛んで外壁フェンスを突き破ったライフルの回収、そして右肘を損壊した機体の修復……。一般採用整備員Aの残業確定な夜が始まります。

 次回、第9話。
 どうぞお楽しみに。
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