捜査本部では、相変わらず他愛のない話が続いていた。
事件とは関係のない世間話。
軽い冗談。
時折混じる、緊張を紛らわせるための笑い。
それは人間として自然な行為なのだろう。
しかし私にとっては、どこか異様に見える光景でもあった。
これほど奇妙な殺人事件が世界中で起きているというのに、
人は平然と日常を続けることができる。
ある意味、それは幸福なことなのかもしれない。
私は体育座りの姿勢のまま、黙って彼らの会話を聞いていた。
いつ話が事件に戻るのか。
誰かが核心に近づく発言をするのか。
私はそれを待っていた。
しかし――
どうやら、それは期待しすぎだったようだ。
(……仕方ありませんね)
私は小さく息を吐いた。
「そろそろキラ事件に対する、私の考えを話してもよろしいでしょうか?」
その一言で、部屋の空気が変わった。
さきほどまでの雑談は止まり、
皆の視線が私に集まる。
もっとも、完全な静寂ではなかった。
かすかに、どこかいやらしい声のようなものが聞こえる。
(……ワタリですね)
おそらくヘッドホンをつけて何かを見ているのだろう。
私は特に気にしないことにした。
松田はなぜかにやにやしている。
理由は分からない。
だが、深く考えるほどのことでもない。
「キラは単独犯です。
そして前の捜査本部の情報を得ていた可能性が高い。さらに――」
「キラって単独犯なの?」
相沢が、私の言葉を遮った。
私は一瞬だけ黙る。
(……そこからですか)
論理というものは、本来階段のようなものだ。
一段ずつ上がらなければ頂点には到達しない。
しかしこの場では、
どうやら階段そのものを説明する必要があるらしい。
「はい。そして殺しに必要なのは顔と名前です。さらに死の時間や死の前の行動をある程度操れる可能性が――」
「えええ。死ぬ前の行動を操れるんですか?」
今度は松田だった。
私は一瞬、天井を見た。
(……なるほど)
この捜査本部の知能分布は、かなり偏っているようだ。
「……その前提を踏まえて、これから話を聞いてください」
私は黒いマジックを取り出した。
人差し指と親指でつまむように持つ。
そして机の上に直接書き始めた。
総一郎さんは、何か言いかけたがやめた。
おそらく「机に書くな」と言おうとしたのだろう。
12月14日
FBI捜査官12人が日本に潜入
12月19日
刑務所の犯罪者が奇妙な死を遂げる
○の中に☆を書く
「えるしっているか」などの暗号を残す
私はペンを止めた。
「ここまではいいですか?
この意味が分かりますか?」
松田は即答した。
「分かりません」
実に正直だ。
さらに彼は言った。
「えるしっているかって何ですか?」
「頭文字を横読みしてください」
「……あ! なるほど!」
相沢は腕を組んで頷いた。
「犯罪者でテストか……キラもよく考えましたね」
私は内心で首を振った。
(そういう意味ではありません)
しかし説明するしかない。
「つまり、この五日の間にキラはFBIの存在に気付きました」
私は言った。
「そしてそれを脅威と判断した」
顔も名前も分からないFBI。
それを消すためには、
死をどこまで操れるのか確認する必要があった。
だから犯罪者で実験した。
「そしてキラは、刑務所で起きた死亡を確認できる位置にいる」
つまり――
警察内部、
あるいはそれに近い場所だ。
私はさらに書いた。
12月27日
FBI12人全員死亡
「ここで質問です。
なぜ12人全員に顔と名前の入ったファイルを持たせたのか」
松田が手を挙げた。
「分かります!
キラは顔と名前が必要だから!」
私は首を振った。
「違います」
「これは、ファイルを見た人物が特定されないためです」
総一郎さんが言った。
「なるほど。全員が同じファイルを持てば入手経路を絞れない」
私は頷いた。
確かにその通りだ。
だが――
(本題はそこではありません)
私は続けた。
「逆に言えば、キラはFBIの誰かとかなり接近した可能性があります」
部屋が静まり返る。
「つまり」
私は言った。
「キラはFBIが調査していた人物の中にいる」
背後で、死神が笑った。
「ククク……よく言うぜ」
「お前は最初からFBI全員の顔も名前も知ってるくせに」
私は無視した。
それは、私にしか聞こえない声だからだ。
捜査本部の人間たちは、
希望に満ちた顔をしていた。
「すごい……」
「ここまで分かれば我々でも捜査できる」
そのとき、総一郎さんが言った。
「竜崎、ひとつ聞いていいか」
私は顔を向ける。
「あなたは負けず嫌いだと言った。
我々に顔を見せたことは……キラに負けたことにはならないのか?」
私は少し考えた。
そして答えた。
「はい」
「顔を出したことも」
「FBIを犠牲にしたことも」
「負けです」
私は皆の顔を見た。
「しかし」
私は言った。
「最後は勝ちます」
そして微笑んだ。
「ここに集まった命がけの人間で、見せてやりましょう」
「正義は必ず勝つということを」
その夜。
私は窓の外を見ていた。
雪が降っている。
白い街。
(何かひとつでも穴があれば……)
それだけで終わる。
たった一つの真実。
それが見つかれば――
この戦いは決着する。
その頃、別の場所でも。
一人の青年が同じことを考えていた。
夜神月。
彼もまた思っていた。
「あと一つ」
私も思う。
あと一つ。
決定的な何かが。
***
私は、じっと待っていた。
捜査本部の人間たちが、自分の力で気づく瞬間を。
事件というものは、誰かに答えを教えられて理解するものではない。自分の頭で発見したときにこそ、それは真実として意味を持つ。だから私は、これまで幾度となくヒントを与えてきた。時には答えと言ってよいほどのヒントを。
それでも彼らの理解は遅かった。
当初予定していた時間よりも、かなり進行が遅れている。
(……少し甘く見積もりすぎましたね)
私は体育座りのまま膝に顎を乗せた。
捜査本部の人間たちは決して無能ではない。しかし思考の速度が違う。
私は常に三歩先を考える。
彼らはようやく一歩目に気づく。
その差が、じわじわと時間を消費していく。
(そろそろ……)
私は小さく呟いた。
「あれれぇ。おかしいなぁ」
この台詞も、すでに何度目だろう。少しやりすぎかもしれない。本来ならこの段階はDランク程度の難易度だ。推理としては、極めて初歩的なレベルである。
(レイ=ペンバーの件など、あえて不自然な点を多く散りばめておいたのですが……)
私はモニターを見つめた。
改札の映像。
電車の車内。
そして死の直前。
三つの映像が並んでいる。
普通の人間なら、一度に三つの映像を見ることは難しいだろう。だが私の脳は、それらを別々の思考として同時に処理できる。
「あれれぇ。おかしいなぁ」
私は口に指を入れながら呟いた。
「山手線は一周一時間……」
画面の時刻を確認する。
「しかしレイ=ペンバーは一時間半乗っている」
捜査本部のメンバーがざわめいた。
「遺留品に切符はありません」
「Suicaの履歴にも途中下車の記録はない」
私は静かに言った。
「つまりレイ=ペンバーは……」
「ファイルを持ったまま、一時間半電車に乗り続けていたことになります」
「たしかに……」
誰かが呟く。
しかし。
(違います)
私は内心で首を振る。私はわざわざ三つの映像を並べた。その意味に気づいてほしい。
(よく見てください)
改札。
ホーム。
電車。
三つの映像。
そこには、小さな矛盾がある。
(封筒です)
だが、誰も気づかない。
(……本当に気づかないのですか)
そのときだった。
「あっ!!!!」
松田さんが叫んだ。
「封筒はどこへ行った??」
私は静かに目を細めた。
(ようやくですか)
「封筒?」
相沢さんが画面を覗き込む。
「あっ……確かに改札とホームでは持っています」
そのとき、夜神さんが言った。
「遺留品リストには封筒がない」
私は頷いた。
「その通りです」
そして続ける。
「レイ=ペンバーは、最初にファイルを受け取ったハリーに電話をしています」
私は机を軽く指で叩いた。
「つまり、レイ=ペンバーはファイルを非常に欲しがっていた可能性があります」
ここには大きな意味がある。
そして。
「山手線での不自然な行動」
私は言った。
「……何かが起きています」
捜査本部の空気が変わった。
「レイ=ペンバーが怪しい……?」
誰かが呟く。
私は静かに続けた。
「レイ=ペンバーは、調査対象を“疑う余地なし”と報告しています」
しかし――
それは本当なのか。
「この中にキラがいる可能性があります」
私は画面を消した。
「レイ=ペンバーが調べていた二つの家」
部屋が静まり返る。
私は大きく息を吸った。
そして振り返り、全員の顔を見渡す。
「盗聴器と監視カメラを設置します」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「馬鹿な!」
「日本ではそんなこと許されない!」
「ばれたら全員クビだ!」
松田さんと相沢さんが慌てている。
私は静かに言った。
「首ではなく」
「命を懸けて捜査しているはずです」
部屋が静かになる。
夜神さんだけは黙っていた。
彼は理解している。キラを捕まえるには、常識の外へ踏み出す必要があることを。
「その二人というのは誰ですか?」
夜神さんが聞いた。
私は答えた。
「北村次長と、そのご家族」
そして。
「夜神さんと、そのご家族です」
部屋の空気が凍りついた。
「この二軒の家に盗聴器と監視カメラを設置したい」
松田さんと相沢さんは激しく反対した。当然だろう。これは警察としては、ほとんど越えてはいけない線だ。
しかし私は知っている。真実というものは、しばしば人間の倫理より残酷だ。
「キラがその中にいる確率は5%です」
私は言った。
「しかし今まで容疑者がゼロだったことを考えれば」
「5%は非常に大きな数字です」
夜神さんは黙っていた。その顔には父親としての葛藤が浮かんでいる。警察官ではなく、一人の父親の顔だ。
やがて彼は言った。
「……分かりました」
結果として、夜神家と北村次長の家には、家の隅々まで盗聴器と監視カメラが設置されることになった。
監視を行うのは。
私と――
夜神さん。
(さて)
私はモニターを見つめた。
(ここからです)
この家のどこかに、
生贄の子羊(スケープゴート)がいるかもしれない。
***
私は暗い部屋の中で、じっとモニターを見つめていた。
夜神家の各部屋から送られてくる映像が、無数の小さな窓となって画面に並んでいる。
そのすべてを同時に追うことは、普通の人間には不可能だろう。だが私にとっては、ただの情報整理にすぎない。
隣には夜神さんがいる。
この監視は、私と夜神さんの二人だけで行っていた。
それは捜査上の機密という意味もあるが、もう一つ理由がある。
風呂やトイレにまで監視カメラを設置している以上、余計な人間を関わらせるわけにはいかない。
せめてもの配慮というやつだ。
人間という生き物は、犯罪者を追うときにしばしば自分自身の倫理を試される。
私はそういう瞬間を、何度も見てきた。
そのときだった。
モニターの一つに、小さな違和感が現れた。
夜神月が部屋を出る。
そして。
ドアの前でしゃがみこんだ。
(……?)
私は身体を少し前に乗り出した。
月はポケットから紙の切れ端を取り出し、ドアの隙間に挟み込んだ。
極めて自然な動作。
だが、意図がある。
(簡易トラップ……)
ドアが開けられれば、紙は落ちる。
つまり、誰かが部屋に入ったかどうかを確認するための仕掛けだ。
「息子があんなことをしているとは……」
夜神さんが低く呟いた。
「部屋に見られたくないものでもあるのか」
私は静かに答えた。
「私も意味なくそういうことをしたことがあります」
そして続ける。
「彼に捜査状況を話したことは?」
夜神さんは即座に否定した。
「馬鹿な……」
声には苛立ちが混じっていた。
「報道されない極秘事情は絶対話したりはしない」
(……でしょうね)
私は再びモニターへ視線を戻した。
月は外出した。
そして数時間後――
帰宅。
ここからが面白かった。
月は自室へ入り、本棚から一冊の分厚い本を取り出した。
タイトルは妙に目立つ。
『挑発に乗っては死亡フラグ』
私は眉をわずかに動かした。
(奇妙なタイトルですね)
だが、問題はそこではない。
月はその本を開いた。
すると。
中から別の本が数冊現れた。
なるほど。
本棚のカモフラージュ。
いわゆる偽装収納というやつだ。
そして月は、その中の一冊を取り出すとベッドに転がりながら読み始めた。
隣で夜神さんが凍りついた。
「まさか……」
声が震えている。
「あの真面目な息子が……あ、あれは……」
私は横目で夜神さんを見た。
額から冷や汗が流れている。
「どうかしました?」
夜神さんは一瞬、言葉を詰まらせた。
「いや……」
(私の無くしたと思っていた『たとえ火の中、水の中、あの娘のスカートの中』ではないか……)
その言葉は声にならない。
夜神さんは慌てて続けた。
「こんなものを見ているなんて夢にも思わなかった」
顔はすぐに平静へ戻った。
だが。
人間の動揺というものは、ほんの一瞬の隙間に現れる。
私はそれを見逃さない。
(……なるほど)
私は思った。
(ここで月くんへの疑惑を少しずつ向けていきましょう)
この本は、使える。
「17歳には普通です」
私は静かに言った。
「ですが私には……」
モニターを見つめたまま続ける。
「部屋に誰か入っていた場合の言い訳として置かれているように見えます」
夜神さんの顔がゆっくりこちらへ向いた。
ちょうど九十度。
眉間に深い皺が刻まれている。
「まさか竜崎」
低い声。
「私の息子を疑っているのか?」
(……やはり来ましたね)
私は内心で頷いた。
父親として当然の反応だ。
ここで誤魔化すよりも、正面から言う方が良い。
「疑っていますよ」
私は淡々と言った。
「だからお宅と次長の家に盗聴器とカメラを仕掛けたんです」
夜神さんは黙り込んだ。
そのとき。
月が本を閉じた。
そして額に手を当て、ため息をついた。
「あーあ」
小さく呟く。
「また父さんに騙された」
私はすぐに反応した。
「父さんに騙されたというのは」
「その本は夜神さんのものですか?」
夜神さんが跳ね上がった。
「あ……いや……」
完全に動揺している。
「私は……五年前に発売された雑誌のことなど知らない……」
一瞬の沈黙。
「あっ……くそっ……ライトッ……!!!!」
私は静かに思った。
(それよりも)
問題はそこではない。
本棚の仕掛け。
(ウエディが見落とした)
あの女は優秀だ。
だが。
ワタリなら見落とさないレベルの仕掛けだ。
(ということは……)
他にも見落としがある可能性がある。
私は夜神家に直接侵入できない。
誰かに依頼するしかない。
そこに、わずかな不安が残る。
盗聴器やカメラが発覚する確率は低い。
しかし。
もし発覚すれば――
それは完全に犯罪だ。
(まあ)
その程度の訴えなら、いくらでも不起訴にはできますが。
そのとき。
下の階から、明るい声が響いた。
「おーにーいちゃーーん、ごーはーんっ だーょっ」
黄色い声。
夜神さゆだ。
月はすぐ立ち上がり、部屋を出た。
階段を降りる。
リビングでは、さゆがドラマを見ていた。
流河早樹の出演する人気ドラマだ。
母親は夕食の支度を終え、食卓には色とりどりの料理が並んでいる。
平凡な家庭。
平和な夕食。
どこにでもある、普通の夜神家の風景。
――しかし。
私は知っている。
この家のどこかに。
世界最大の殺人者がいる可能性があることを。
そしてもし、それが事実なら。
この静かな食卓の裏側で。
人類史上最大の知能戦が始まっている。
***
私はスマートフォンを耳に当てていた。
相手はワタリだ。
「はい……」
私は短く答える。
「では例のテロップをお願いします」
通話はすぐに切れた。
作戦はすでに決まっている。
北村家と夜神家――
その両方が夕食を取りながらテレビを見ている時間帯を狙って、ニュース速報のテロップを流す。
人間という生き物は、突然の情報に対して本性を見せる。
特に、予期しないニュースに直面した瞬間の反応は非常に正直だ。
その表情、呼吸、視線、言葉の選び方。
それらは、どんな高度な嘘よりも雄弁である。
モニターには夜神家の食卓が映っていた。
穏やかな家庭の光景だ。
母親が料理を並べ、さゆがテレビを見ながらはしゃぎ、月は落ち着いた様子で食事をしている。
どこにでもある普通の家庭。
突然。
ピロリロリン
ピロリロリン
災害速報の音が部屋に鳴り響いた。
テレビ画面の下部にテロップが流れる。
ICPO、キラ事件に対して1500人を派遣することを決定。
私は体育座りのまま、モニターを凝視した。
爪を噛みながら。
人間の反応を見るとき、私は必ず爪を噛む癖がある。
なぜかは分からない。
おそらく思考を集中させるための、私なりの儀式のようなものだろう。
月の表情。
視線。
呼吸。
そして。
言葉。
私はそれらすべてを同時に観察していた。
そのとき月が口を開いた。
「馬鹿だな……」
落ち着いた声だった。
「ICPOも……」
私は眉をわずかに動かした。
月は続ける。
「こんなに送り込むなら堂々と発表するのではなく、こっそり入れるべきだ」
家族は静かに聞いている。
月の声は冷静だった。
むしろ。
冷静すぎる。
「極秘で捜査していたFBIでさえあんな目にあったのに……」
「これじゃその二の前になる」
私は月の瞳を見つめた。
一瞬も揺れない。
まるで。
すでに答えを知っている人間の目だ。
「つまりこれは」
月は言った。
「大げさに報道してキラを動揺させようとする警察の作戦だ」
私は思わず爪を強く噛んだ。
(……見事ですね)
月は続ける。
「キラは非常に頭がいい」
「こんなのはキラにもバレバレだと考えるのが妥当だろう」
私は画面から目を離さなかった。
声のトーン。
呼吸のリズム。
顔の筋肉の動き。
すべてを観察する。
(演技ではない)
この青年は。
本当に賢い。
私は呟いた。
「賢いですね……息子さん」
隣で夜神さんが驚いた顔をした。
その瞬間。
背後で死神が笑った。
『うほっ』
『お前から「賢い」なんて言葉初めて聞いたぞ』
私は無視した。
『散々、日本人は無能とか言ってたくせに』
『この夜神月、お前の退屈を救う救世主かもな』
私は何も答えない。
しかし。
心の中では。
同じことを考えていた。
日本に来てから、私は一度も誰かを賢いと言ったことがない。
だが。
この青年だけは別だ。
(面白い)
同時に。
私の中で、もう一つの考えが強くなっていった。
彼をキラとして誘導する。
もし彼がキラなら。
必ず反応する。
もし違うなら。
それもまた分かる。
夕食が終わった。
月はポテトチップスを持って部屋へ戻る。
コンソメ味。
袋の音が監視マイクに小さく響く。
そして机に座ると、すぐに勉強を始めた。
「息子さんは夕食が終わるとテレビをつけずに勉強ですか……」
私は言った。
夜神さんは答える。
「センター試験も近いからな」
私はモニターを見つめた。
月の背中。
この角度では。
机の一部に死角がある。
(なるほど)
私は考えた。
(では試してみましょう)
もし月がキラなら。
監視や盗聴があっても尻尾は出さない。
むしろ。
それを利用して無罪を演出するはずだ。
ならば。
逆に仕掛ける。
(軽犯罪者を殺しておきましょう)
私はキラ像を作る。
あえて。
罪の軽い人間を殺す。
そうすれば。
キラはいつもと違う行動をしているように見える。
あるいは。
焦って殺したようにも見える。
そして。
夜神家を最初から白く見せる。
完全な潔白。
それはむしろ――
不自然だ。
人間は、真っ白なものを疑う。
(簡単にキラを見つけるのは嘘っぽい)
だからこそ。
どんでん返しが必要だ。
そして。
そのどんでん返しの主役は――
夜神月。
23時。
ワタリから報告が入った。
21時頃。
軽犯罪者が二人。
心臓麻痺で死亡。
夜神さんが言った。
「その時間帯」
「妻と娘はドラマを見ていた」
「息子は部屋で勉強」
そして両手を広げた。
「つまりニュースを見ていない」
安堵が顔に浮かんでいる。
「これでうちの家族は潔白ですね」
その喜びは本物だった。
私はそれを静かに壊す。
「しかし」
私は言った。
「今日のキラはずいぶん罪の軽い者を殺しましたね」
夜神さんの表情が止まる。
「しかも」
「報道されてすぐに」
私は爪を噛んだ。
そして言う。
「しかもカメラを仕掛けた初日だというのに」
私はモニターを見つめた。
月の部屋を。
「夜神家は」
少しだけ笑った。
「面白いほどに」
「すんなり白だ」
夜神さんの体が固まった。
私は分かっていた。
その言葉の意味を。
夜神さんも理解してしまったからだ。
疑いは。
晴れていない。
むしろ――
一ミリも。
月とLどちらに勝って欲しいか
-
月
-
L
-
勝者なし
-
引き分け
-
月L以外