Lがデスノートを拾った世界~リメイク~   作:梅酒24

13 / 28
12杯目の次に公開。
順番通りに読みたい場合は18日目のあとに。


19恋目:パパとママ……ずっと大好きだよ

夕暮れの光が、カーテンの隙間からそっと差し込んでいた。

まるで誰かが遠慮がちに部屋を覗き込んでいるみたいに、細く柔らかな光だった。

 

部屋の中は静かだった。

 

都会のマンションの一室。

外では車の音が絶え間なく流れている。

クラクションやエンジンの低い唸り声。人のざわめき。

 

それなのに、この部屋の中だけは時間がゆっくりと止まっているみたいだった。

 

部屋の中央に、少女がひとり。

 

弥海砂――あまねみさ。

 

ミサは床に足を投げ出して座り、テレビをぼんやりと見ていた。

画面の中ではキャスターが何かを真剣な顔で話している。

 

けれど。

 

ミサの目は、テレビを見ているようでいて、どこも見ていなかった。

 

テーブルの上には週刊誌が広げられている。

 

大きな見出し。

 

「キラ、再び犯罪者を粛清」

 

ミサはそっと手を伸ばした。

 

指先でその文字をなぞる。

 

「キラ様……」

 

その声は、とても小さくて。

 

まるで祈りみたいだった。

 

普通の人なら恐れる存在。

世界中で議論されている大量殺人犯。

 

でもミサにとってキラは違う。

 

怖い人なんかじゃない。

 

むしろ――

 

救世主。

 

ミサにとってキラは、この世界に現れた神様みたいな存在だった。

 

どうしてそう思うのか。

 

それは、ずっと前の出来事に繋がっている。

 

数年前。

 

ある事件があった。

 

強盗殺人。

 

その事件で――

 

ミサのパパとママは、殺された。

 

それは、本当に、本当に辛い出来事だった。

 

でも。

 

ミサの心の中には、もっとずっと前の記憶が残っている。

 

五歳の頃の記憶。

 

まだ世界が全部キラキラして見えていた頃。

 

ミサはソファの上で足をぶらぶらさせながら、パパとママを見ていた。

 

そのとき、ミサは突然言ったのだ。

 

「ミサね、世界で一番幸せ者なんだよ」

 

ママがくすっと笑った。

 

とても優しい笑い方だった。

 

「どうしてなの?ミサ」

 

ママの声は、いつも柔らかかった。

まるで春の日差しみたいに、温かくて安心できる声。

 

ミサはその声が大好きだった。

 

「ふふふ」

 

ミサはちょっと得意そうに笑った。

 

「それはね」

 

そして両手を広げて言った。

 

「大好きなパパとママと一緒にいられるから!」

 

その瞬間。

 

パパとママは顔を見合わせた。

 

そして次の瞬間。

 

ぎゅっとミサを抱きしめた。

 

パパの腕は大きくて温かかった。

ママの香りはいつも優しい匂いがした。

 

「ミサは本当に可愛いなぁ」

 

パパが笑った。

 

ママは目をうるうるさせながらミサの頭を撫でた。

 

「そんなこと言われたら、ママ泣いちゃうじゃない」

 

ミサはその理由がよく分からなかったけど、二人が笑っているのが嬉しかった。

 

その時間は、宝物みたいに温かかった。

 

それから十年。

 

ミサは中学三年生になっていた。

 

部屋の机には参考書が山のように積まれている。

 

受験勉強。

 

ミサは正直、勉強があまり得意じゃなかった。

 

何度もパパやママに怒られた。

 

「ミサ!また数学やってないの!」

 

「うぅ……だって難しいんだもん!」

 

そんなことで喧嘩もたくさんした。

 

でも。

 

どんなときでも、パパとママはミサのそばにいた。

 

夜遅くまで勉強していると、ママが温かいミルクを持ってきてくれた。

 

パパは横に座って、難しい問題を一緒に考えてくれた。

 

「大丈夫だミサ。ゆっくりやればいい」

 

その言葉だけで、ミサはまた頑張れた。

 

そして。

 

合格発表の日。

 

掲示板に、自分の番号を見つけた瞬間。

 

ミサは思わず叫んでいた。

 

家に帰るとすぐに言った。

 

「パパ!ママ!」

 

二人が振り向く。

 

ミサは笑いながら言った。

 

「ふたりのおかげで高校に合格できたよ!ありがとう!」

 

ママは驚いた顔をして、それから優しく笑った。

 

「ミサ、よく頑張ったね」

 

「もう高校生かぁ……本当に時が経つのは早いね」

 

パパも大きく頷いた。

 

「パパも嬉しいぞ!」

 

そして少し照れくさそうに言った。

 

「ミサが新しい制服を着る姿、早く見たいな」

 

ミサは笑った。

 

とても幸せな気持ちだった。

 

「ふふふ。これから沢山見れるよ!」

 

「入学式、楽しみにしててね!」

 

ママは優しく言った。

 

「もちろんよ」

 

パパも笑った。

 

「もちろんさ」

 

そのとき。

 

ミサは少しも疑っていなかった。

 

これからもずっと。

 

パパとママと一緒にいられると。

 

だけど。

 

そんな日は――

 

一度も来なかった。

 

入学式の日。

 

桜がきれいに咲いていた。

 

みんなの隣には家族がいた。

 

写真を撮っている人たち。

 

笑っている人たち。

 

でも。

 

ミサの隣には――

 

誰もいなかった。

 

ミサは一人で、入学式を過ごした。

 

***

 

三月の中旬だった。

 

空気にはまだ冬の冷たさが残っているのに、どこか春の匂いが混じっている。

街路樹の枝には小さな芽がつき始め、遠くでは子どもたちの笑い声が聞こえていた。

 

その日、ミサは中学校の卒業式を終えた。

 

胸には小さな花。

手には卒業証書の入った筒。

 

校門の前では写真を撮る人たちがたくさんいた。

泣きながら抱き合う友達。

先生と話す生徒。

保護者たちの優しい笑い声。

 

その人混みの中で、ミサはパパとママと並んで歩いていた。

 

「ミサ、卒業おめでとう」

 

ママがそう言って、ミサの肩に手を置いた。

その手はいつも温かかった。

 

「ありがとう、ママ」

 

ミサは笑った。

 

パパも横で嬉しそうに頷いている。

 

「いやぁ、もう中学卒業かぁ。早いなぁ」

 

パパは少し大げさにため息をついた。

 

「ついこの前までランドセル背負ってた気がするのにな」

 

「そんな昔じゃないよ!」

 

ミサは少し頬を膨らませた。

 

三人で笑った。

 

その笑い声は、春の光の中でとても柔らかかった。

 

帰り道、三人は並んで歩いた。

 

ママが言う。

 

「高校の制服、早く見たいわね」

 

パパもすぐに続く。

 

「入学式は写真いっぱい撮らないとな」

 

ミサは照れながら笑った。

 

「そんなに撮らなくていいってば」

 

それでも、心の中では少し嬉しかった。

 

この人たちがいる。

 

それだけで、自分は世界で一番幸せなんだと、本当に思っていた。

 

家に着いたのは夕方だった。

 

空は薄いオレンジ色に染まっている。

 

ミサが玄関の鍵を開けた。

 

カチリ、と小さな音がする。

 

扉を開ける。

 

「ただいまー!」

 

いつものように声を出した。

 

そして三人で玄関に入る。

 

靴を脱ぎながら、ママが言った。

 

「今日はお祝いね。ケーキ買ってあるのよ」

 

「えっ、ほんと!?」

 

ミサが振り向いた、そのときだった。

 

――リビングから音がした。

 

カタン。

 

何かがぶつかったような音。

 

パパの表情が一瞬で変わった。

 

「……誰だ?」

 

低い声だった。

 

次の瞬間。

 

リビングの奥から、男が現れた。

 

知らない男。

 

痩せた顔。

濁った目。

乱れた髪。

 

その手には――

 

包丁が握られていた。

 

空気が凍った。

 

時間が止まったみたいだった。

 

男も驚いた顔をしていた。

 

「……ちっ」

 

舌打ち。

 

どうやら、家を物色している途中だったらしい。

 

まさか住人が帰ってくるとは思っていなかったのだろう。

 

その目が、ゆっくりミサを見た。

 

気味の悪い目だった。

 

その瞬間。

 

パパがミサの前に立った。

 

「ミサ、下がれ」

 

低い声だった。

 

ミサは動けなかった。

 

足が床に縫い付けられたみたいだった。

 

男が包丁を構える。

 

「騒ぐなよ」

 

その声には苛立ちが混じっていた。

 

パパが言う。

 

「金なら渡す」

 

「だから――」

 

言い終わる前だった。

 

男が突然、動いた。

 

包丁が振り上がる。

 

「パパ!!」

 

ミサが叫んだ。

 

鈍い音。

 

肉が裂ける音。

 

パパの体が揺れた。

 

白いシャツが、一瞬で赤く染まる。

 

それでもパパは倒れなかった。

 

ミサを守るように、両腕を広げて立っていた。

 

「……逃げろ……」

 

声がかすれている。

 

ママがミサを抱きしめた。

 

「ミサ、走って!!」

 

涙で顔がぐしゃぐしゃになっていた。

 

男がまた包丁を振るう。

 

今度はママだった。

 

「いやあああ!!」

 

ミサの叫び声が家の中に響いた。

 

血の匂いが広がる。

 

鉄みたいな匂い。

 

温かい液体が床に広がっていく。

 

パパが倒れた。

 

ママも。

 

二人とも、ミサを守るように前に倒れた。

 

まるで――

 

壁みたいに。

 

ミサは動けなかった。

 

声も出なかった。

 

目の前で。

 

世界で一番大好きだった人たちが。

 

ゆっくりと動かなくなっていく。

 

パパの手が、床を探るように動いた。

 

ミサの方へ。

 

血だらけの手。

 

その指先が、ミサの靴に触れた。

 

「……ミサ」

 

最後の声だった。

 

それは。

 

今までで一番優しい声だった。

 

***

 

その瞬間、時間が壊れたみたいだった。

 

世界の音が遠くなる。

 

リビングの空気が、どこか別の場所のもののように重く沈んでいる。

 

床には血が広がっていた。

赤い。

あまりにも赤い。

 

パパが倒れている。

 

ママも倒れている。

 

二人とも、ミサの前に。

 

まるで最後まで――

ミサを守る壁になろうとしているみたいに。

 

ミサは動けなかった。

 

足が震えているのに、逃げることができない。

 

頭の中では「逃げなきゃ」と何度も声がするのに、体は言うことを聞かなかった。

 

パパの呼吸が荒い。

 

肩が小さく上下している。

 

シャツはもう白じゃなかった。

 

真っ赤だった。

 

パパはゆっくりと顔を上げた。

 

ミサを見た。

 

その目は、まだ優しかった。

 

いつもと同じ目だった。

 

「……もう……パパは駄目そうだ……」

 

パパは苦しそうに笑った。

 

その笑い方が、ミサは嫌だった。

 

そんな顔、見たことがなかったから。

 

「ミサが……どんな大人に成長するか……見たかったな……」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

ミサの頭の中に、いろんな景色が一気に浮かんだ。

 

小さい頃。

 

公園で自転車の練習をした日。

 

「大丈夫だ、ミサ。パパが後ろで支えてる」

 

振り返ったら、パパはもう手を離していた。

 

それでも転ばなかった。

 

そのときパパは大きく笑っていた。

 

「ほらな、できただろ!」

 

その顔が、今のパパと重なった。

 

でも違う。

 

あのときのパパは元気だった。

 

今のパパは、もうすぐ消えてしまいそうだった。

 

「やだ……」

 

ミサの口から小さな声が漏れた。

 

「パパ……」

 

パパの手が動いた。

 

震えている。

 

床を擦りながら、ミサの方へ伸びてくる。

 

その手はもう温かくなかった。

 

血で濡れていた。

 

ママも動いた。

 

ママは横たわったまま、顔だけをミサに向けた。

 

髪が血で頬に張りついている。

 

それでも、ママは笑おうとしていた。

 

いつもの優しい笑顔で。

 

「ミサ……」

 

その声はとても小さかった。

 

ミサは思い出す。

 

夜、勉強で泣きそうになったとき。

 

ママはいつも横に座ってくれた。

 

「大丈夫よ、ミサ」

 

頭を撫でてくれた。

 

「ミサは頑張り屋さんだから」

 

その手はいつも温かかった。

 

その声はいつも優しかった。

 

ママは言った。

 

「ごめんね……ミサ……」

 

涙が頬を伝っていた。

 

「ミサは……世界一可愛い子だったよ……」

 

声が途切れ途切れになる。

 

「本当に……今まで……ありがとう……」

 

ありがとう。

 

どうしてそんなことを言うのか。

 

ありがとうなんて、言わないでほしかった。

 

ミサの方こそ、ありがとうなのに。

 

ママがいてくれたから。

 

パパがいてくれたから。

 

ミサは幸せだったのに。

 

「やだ……」

 

ミサは首を振った。

 

涙が止まらない。

 

「やだよ……」

 

ママは小さく首を振った。

 

「だから……逃げて……」

 

その声は、必死だった。

 

最後までミサを守ろうとしている声だった。

 

パパも言った。

 

「ミサ……」

 

血を吐きながら。

 

それでも笑おうとして。

 

「生きろ……」

 

その言葉を聞いた瞬間。

 

ミサの胸の奥が、ぐちゃぐちゃになった。

 

痛い。

 

苦しい。

 

悲しい。

 

全部が一緒になって、息ができない。

 

ミサは二人を見ていた。

 

世界で一番大好きだった人たち。

 

パパ。

 

ママ。

 

その二人が、今――

 

少しずつ。

 

少しずつ。

 

動かなくなっていく。

 

***

 

犯人は逮捕された。

 

テレビのニュースでは、何度もその言葉が繰り返されていた。

画面の下には赤い文字のテロップ。

アナウンサーの落ち着いた声。

 

それなのに、ミサの心は少しも落ち着かなかった。

 

裁判は長く続いた。

何度も、何度も。

 

ニュースの中で、難しい言葉が飛び交っていた。

 

証言。

証拠。

状況証拠。

弁護。

 

やがて、ある日。

 

弁護士が言った。

 

「証拠不十分です」

 

その言葉が、テレビの画面から静かに流れてきた。

 

ミサは、その意味をすぐには理解できなかった。

だけど、時間が経つにつれて、ゆっくり分かっていく。

 

もしかすると。

 

あの男は。

 

――無罪になるかもしれない。

 

そのときだった。

 

けれど、ミサの中には、もう一つの問題があった。

 

あの日のこと。

卒業式の日。

パパとママが倒れた日のこと。

 

その記憶の多くが、ミサの中から消えていた。

 

まるで、誰かが優しく布をかけて隠してしまったみたいに。

 

思い出そうとすると。

 

頭の奥がずきずきと痛む。

 

犯人の顔。

 

それだけが、どうしても思い出せない。

 

輪郭はある気がする。

影は見える気がする。

 

だけど、顔だけがぼやけている。

 

思い出そうとすると、胸が苦しくなる。

そして、頭が痛くなる。

 

だからミサは、途中で考えるのをやめてしまう。

 

やがて裁判は終わった。

 

長い年月をかけた末の判決。

 

テレビの中で、裁判官が静かに言った。

 

――無罪。

 

その男は、自由になった。

 

ニュース番組では、専門家たちが議論していた。

 

証拠の信頼性。

捜査の問題点。

刑事司法の限界。

 

けれどミサの耳には、何も入ってこなかった。

 

ただ一つだけ、胸の奥に残った。

 

パパとママを殺した男が。

 

罰を受けないまま。

 

この世界を生きているという事実。

 

それから、四年の月日が流れた。

 

ミサは高校を卒業していた、少しだけ大人になった。

 

テレビの中では、相変わらず多くの事件が流れていた。

 

ある日の夜。

 

ミサはぼんやりとニュース番組を見ていた。

 

アナウンサーの声が流れる。

 

「続いてのニュースです」

 

「四年前に無罪判決を受けた、あの強盗殺人事件の元被告が――」

 

その名前が読み上げられた瞬間。

 

ミサの体がぴくりと動いた。

 

次の瞬間。

 

画面の下に赤い文字が出た。

 

速報

 

「本日、自宅で死亡しているのが発見されました」

 

「死因は――心臓麻痺とみられています」

 

ミサは、しばらく画面を見つめていた。

 

音が遠くなる。

 

心臓の鼓動だけが、はっきり聞こえる。

 

――心臓麻痺。

 

その言葉が、胸の奥に落ちていく。

 

その頃からだった。

 

世界で奇妙な現象が起き始めたのは。

 

犯罪者たちが、次々に死んでいく。

 

事故でもない。

病気でもない。

 

ただ突然。

 

心臓が止まる。

 

まるで、見えない誰かに裁かれているみたいに。

 

人々は、その存在を呼び始めた。

 

キラ。

 

ミサはテレビを見つめながら、静かに涙を流した。

 

それは悲しい涙ではなかった。

 

胸の奥が、じんわり温かくなるような涙だった。

 

初めて。

 

この世界に。

 

正義がある。

 

そう思えたからだ。

 

パパとママを奪った世界。

 

理不尽で、冷たくて、どうしようもない世界。

 

でも。

 

どこかに。

 

ちゃんと見てくれている存在がいる。

 

悪い人を裁いてくれる存在がいる。

 

だからミサにとって。

 

キラは――

 

恩人だった。

 

そして。

 

少しだけ。

 

恋をしているような気持ちにも似ていた。

 

ミサは小さく呟く。

 

「ミサ……」

 

「キラ様に会いたいなぁ……」

 

ぽつりと呟く。

 

その瞬間。

 

部屋の空気が、ふっと重くなった。

 

まるで温度が下がったかのように。

 

ミサは振り返る。

 

そこに――

 

異形の影が立っていた。

 

人間ではない。

 

背が高く、細長い体。

黒い翼のようなもの。

骨のように細い腕。

 

そして。

 

奇妙に落ち着いた声。

 

「ミサ」

 

ミサは驚かなかった。

 

なぜなら。

 

その存在を、もう知っていたからだ。

 

死神。

 

名前は――

 

レム。

 

「どうしたの?レム」

 

ミサはまるで友達に話しかけるように言った。

 

レムはゆっくりとミサを見下ろした。

 

その目は冷たい。

 

だがどこか、人間に近い感情が宿っている。

 

「今日は話しておくことがある」

 

ミサは体を起こした。

 

レムが現れたのには理由がある。

 

それは――

 

一冊の黒いノート。

 

テーブルの上に置かれている。

 

それはこの世界のものではない。

 

死神のノート。

 

デスノート。

 

数週間前。

 

ミサの前にそれが落ちてきた。

 

空から。

 

まるで偶然のように。

 

だが実際は違う。

 

それは一人の死神が落としたものだった。

 

その死神の名は――

 

ジェラス。

 

ジェラスは死神だった。

 

だが死神らしくない死神だった。

 

死神は本来、人間を観察するだけの存在だ。

 

しかしジェラスは違った。

 

彼はミサを見ていた。

 

毎日のように。

 

人間界の空から。

 

やがて彼は知った。

 

ミサはもうすぐ死ぬ。

 

ある男に殺される運命にある。

 

その瞬間。

 

ジェラスは――

 

掟を破った。

 

人間を助けた。

 

その男の名前をデスノートに書いたのだ。

 

男は死んだ。

 

そしてミサは生き残った。

 

だが。

 

それは死神の世界では許されない行為だった。

 

死神が人間を救えば――

 

その死神は死ぬ。

 

ジェラスの体は砂のように崩れた。

 

そして残った。

 

一冊のノート。

 

それをレムが拾った。

 

ジェラスの最後の意思として。

 

レムはノートをミサの元へ落としたのだった。

 

ミサはノートを手に取った。

 

「レム」

 

「うん?」

 

「ミサ、これでキラ様のお手伝いできるんだよね?」

 

レムは少し沈黙した。

 

「そうだ」

 

低い声で答える。

 

「そのノートに名前を書けば人間は死ぬ」

 

ミサは目を輝かせた。

 

「やっぱり!」

 

だがレムは続ける。

 

「だが条件がある」

 

ミサは首を傾げる。

 

レムは静かに説明した。

 

「まず、その人間の顔を知っていること」

 

「そして名前」

 

ミサはうなずく。

 

それなら簡単だ。

 

テレビや雑誌に出ている犯罪者なら、すぐ分かる。

 

だが。

 

レムはさらに言った。

 

「そしてもう一つ」

 

ミサはじっと見つめる。

 

レムの声は、どこか冷たい。

 

「死神の殺し方を教えておく」

 

ミサは少し不思議そうな顔をした。

 

「死神も殺せるの?」

 

レムはゆっくり言った。

 

「殺せる」

 

「ただし」

 

「普通の方法では無理だ」

 

ミサは息を呑んだ。

 

レムの目が暗く光る。

 

「死神が死ぬのは――」

 

「人間を愛したときだ」

 

部屋の空気が、しんと静まる。

 

「人間を助けるためにデスノートを使えば、その死神は死ぬ」

 

ミサは少し考えてから言った。

 

「ジェラスみたいに?」

 

レムはうなずいた。

 

「そうだ」

 

ミサはノートを抱きしめた。

 

そして小さく笑った。

 

「じゃあミサ」

 

「キラ様のためなら」

 

「死んでもいいよ」

 

レムはその言葉を聞いて、何も言わなかった。

 

ただ静かに思った。

 

――ジェラス。

 

お前は、間違っていなかったのかもしれない。

 

この少女は。

 

あまりにも。

 

人間らしすぎる。

月とLどちらに勝って欲しいか

  • L
  • 勝者なし
  • 引き分け
  • 月L以外
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。