Lがデスノートを拾った世界~リメイク~   作:梅酒24

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17冊目:異物

――人間というものは、面白い。

 

入学式という平穏な儀式の中でさえ、

人の心は仮面をかぶり、嘘をまとい、

そして互いを探り合う。

 

私はその仮面の奥を見るのが好きだ。

 

挨拶が終わり、会場がざわめく中、私は夜神月に顔を寄せた。

ほんの数センチ。

人間が最も警戒を覚える距離。

 

私は静かに囁いた。

 

「夜神月……警察庁局長の息子でありその父に負けないくらいの正義感のある持ち主……そしてキラ事件にも興味を持っている……実は私は……」

 

ここで一呼吸置く。

 

沈黙というものは、

どんな言葉よりも人の神経を刺激する。

 

そして私は言った。

 

「Lです……」

 

その瞬間、夜神月の瞳の奥で、

極めてわずかな波紋が広がった。

 

普通の人間なら驚愕する。

あるいは笑う。

 

だが彼は違う。

 

彼の思考は、

一瞬で十通り以上の可能性を走らせている。

 

私はそれを観察していた。

 

――面白い。

 

この青年の脳は、

極めて高速で回転している。

 

だがその次の瞬間、彼は攻撃に出た。

 

「キラは心臓麻痺以外でも殺人をすることが可能。そして本当に隠したいことは心臓麻痺以外で殺す。バスジャック事件の時はまんまと君にやられたよ。あれもLの仕業だろ……」

 

論理。

しかも極めて鋭い。

 

月は私の背後に回り、耳元で囁いた。

 

「死神まで使ってさ……」

 

――その瞬間。

 

私は自分の体の微細な反応を感じた。

 

ほんのわずか。

筋肉が緊張する。

 

(……死神……)

 

なぜその言葉を知っている。

 

だがすぐに思考を修正する。

 

(動揺するな……)

 

人間は、自分の知らない単語を聞いたとき、

反射的に意味を探す。

 

それは自然な反応だ。

 

しかし月はそれを見逃さない。

 

「んっ?動揺してるのが僕にはすごく伝わるよ」

 

彼は言う。

 

その声音は穏やかだが、

刃物のような鋭さを持っていた。

 

「一瞬の動揺僕は見逃さない」

 

――なるほど。

 

私は理解した。

 

この青年は、

観察者だ。

 

人間の微細な動きを読む。

 

それは探偵に近い能力。

 

しかし次の瞬間、

彼はさらに踏み込んできた。

 

「死神を認識する方法があるんだ……それは目を使うやり方……バスジャックの後頭部席の真ん中に死神は確かにいた」

 

私は思考を加速させる。

 

(死神の目を知っている……)

 

リュークを見られた?

 

いや、それはあり得ない。

 

デスノートに触れた者しか見えない。

 

しかし月の話し方には、

妙な確信がある。

 

私は彼の言葉を分解する。

 

具体的な話。

 

しかし――

 

決定的な部分がない。

 

(死神の見た目を言っていない)

 

そうだ。

 

死神の姿は、

見れば忘れられない。

 

あの異様な骨格。

あの怪物のような顔。

 

それを彼は語らない。

 

つまり。

 

見えてはいない。

 

しかし。

 

何かを認識している。

 

私は思考する。

 

AI解析。

機械分析。

動物実験。

 

私はすでにいくつかの可能性を試していた。全てではない。

 

だが――

 

この青年は。

 

(おそらく、自分で方法を絞り込んだ)

 

そして。

 

掴んだ。

 

その結論に至った瞬間、

私の胸の奥に奇妙な感情が芽生えた。

 

それは恐怖ではない。

 

むしろ。

 

歓喜に近い。

 

(面白いよ、月君)

 

日本の警察の中でも、

ここまで思考できる人間はいなかった。

 

そして月は言う。

 

「君がLだと今、心から確信した……そしてキラである可能性が高いこともね」

 

彼の瞳は鋭い。

 

まるで私を解剖するかのように、

細部を観察している。

 

(……落ち着け)

 

私は自分に言い聞かせる。

 

(世界一の探偵Lとしてふるまわなくちゃ)

 

だが私は気付いていた。

 

彼の視線。

 

彼は私の一挙手一投足を、

すべて記録している。

 

リュークが笑った。

 

『こいつは大したもんだなぁ』

 

確かにそうだ。

 

夜神月。

 

この青年は――

 

危険だ。

 

彼は私を八割ほどキラだと確信している。

 

しかし、

証拠はない。

 

だから彼は、

私に近づく。

 

そして情報を奪う。

 

入学式が終わり、

私はリムジンに向かった。

 

その背後から声がする。

 

「今日はありがとうね、また学校で会おう!」

 

振り向くと、月が笑っている。

 

爽やかな笑顔。

 

だがその奥には、

明確な敵意があった。

 

「僕を殺してもいいけど僕を論破せずに殺したら永遠に僕に勝てないという自負を追いながら生きていくことになるからね」

 

――なるほど。

 

これは挑発だ。

 

しかも非常に巧妙な。

 

私はその夜、部屋に戻り、

机を叩いた。

 

「くっ」

 

私は珍しく感情を露わにした。

 

「完全に上から見下された感じがします」

 

リュークが苦笑する。

 

「おいおいいつも冷静なお前が荒れ狂うとか珍しいな」

 

私は首を振った。

 

「違いますよ」

 

そして静かに言った。

 

「私は嬉しいのです」

 

本当にそうだった。

 

長い間、

世界は退屈だった。

 

犯罪者は愚かで、

推理は簡単で、

 

すべてが予定調和だった。

 

しかし今。

 

目の前に現れた。

 

私の思考に届き得る人間。

 

「殺しはしませんよ」

 

私は笑った。

 

「新しいおもちゃを手に入れたのですから」

 

夜神月。

 

彼は私をキラだと疑っている。

 

しかし確証はない。

 

それはつまり――

 

ゲームが成立する。

 

「私と月君で直に接して騙しあい……知恵比べだ……」

 

表面上は友人。

 

だが裏では。

 

互いの首を狙う。

 

私は静かに呟いた。

 

「私は月君を信じ込ませそしてキラに仕立てあげます」

 

この迷宮のゲームで、

 

最後に笑うのは――

 

 

私は椅子に座り、

静かに微笑んだ。

 

「受けて立ちますよ、月君」

 

***

 

――人間の本性は、競技の最中に最もよく現れる。

 

次の日、大学のテニスコートで私は夜神月と向かい合っていた。

青空は晴れ渡り、学生たちの笑い声が遠くから聞こえる。

誰の目にも、これはただの大学生同士のテニスに見えるだろう。

 

しかし私と月君は知っている。

 

これは単なるスポーツではない。

観察と試験の場だ。

 

ボールがラケットに当たる乾いた音がコートに響く。

 

私はわざと、少し甘い球を打った。

すると月君は一瞬の迷いもなく踏み込み、鋭いクロスを返してくる。

 

(速い……)

 

反射速度。

判断力。

そして、迷いのない動き。

 

そのすべてが洗練されている。

 

「夜神月って中学時代の全国チャンピオンみたいです」

 

遠くからそんな声が聞こえた。

 

なるほど、と私は思う。

 

彼の動きには、

思考と身体が完全に一致している人間の特徴がある。

 

普通の人間は、打つ直前に一瞬迷う。

だが月君は違う。

 

決断した瞬間、

すでに身体が動いている。

 

これはスポーツだけではない。

 

思考も同じだ。

 

そして試合は終わった。

 

6-4。

 

月君の勝ち。

 

私はラケットを肩に担ぎながら、月君を見た。

 

彼は爽やかな笑顔を浮かべている。

 

だが私は知っている。

 

月君は今、

勝敗よりも私の反応を観察している。

 

このテニスは建前。

 

「親睦を深めた」という理由を作るための舞台装置。

 

これで私と月君は自然に行動を共にできる。

 

――つまり。

 

互いを監視しやすくなる。

 

そのあと私たちは喫茶店に入った。

 

店内にはコーヒーの香りが漂い、

静かなジャズが流れている。

 

私は砂糖を山ほど入れながら、月君に質問を投げかけていた。

 

キラ事件について。

 

仮説。

 

倫理。

 

動機。

 

それは雑談のように見えるが、

実際は尋問に近い会話だった。

 

私はわざと、少し偏った仮説を出す。

 

すると月君はそれを冷静に修正する。

 

論理的。

無駄がない。

 

(やはり優秀ですね、月君)

 

だが。

 

優秀すぎる。

 

――彼がキラだったらもっと楽しめたでしょう

 

そのときだった。

 

電話が鳴った。

 

内容は単純だった。

 

夜神総一郎が倒れた。

 

月君の目が見開かれる。

 

「まさか父が心臓発作……キラが……」

 

私はその表情を観察した。

 

驚き。

焦り。

恐怖。

 

確かに存在している。

 

しかし。

 

(……演技の可能性もあります)

 

私は感情を確率で考える。

 

本物の動揺。

演技の動揺。

 

どちらも否定できない。

 

私たちは急いで病院へ向かった。

 

病室には静かな空気が流れていた。

 

夜神総一郎はベッドの上で横になっている。

 

生きていた。

 

月君の肩から力が抜ける。

 

総一郎さんは私を見て言った。

 

私がLであることを。

 

月君の視線が私に向く。

 

(……父がそう言ってる以上少なくとも今までLとして指揮を執っていた人物だ……やはり本物のL……)

 

そう考えているのが分かる。

 

私は静かに言った。

 

「月君は推理力が高く、非常に的確です」

 

それは事実だ。

 

だが私は続ける。

 

「しかし、レイ・ペンバーの死には不審点が多い。疑う対象は月君しかいません」

 

病室の空気がわずかに張り詰める。

 

すると月君は笑った。

 

柔らかい笑顔。

 

しかし私はもう知っている。

 

月君は笑う時、本当は笑っていない。

 

「確かにその理論だと僕しか疑う対象はいないようだけど」

 

彼は言う。

 

「そもそもキラなら不審点を多く残すかな?」

 

私は黙って聞く。

 

「Lがキラで僕をキラにする為にあえて不審点を作って罪を被せるという考えもできるよね?」

 

なるほど。

 

実に見事な反論だ。

 

私は頷いた。

 

「なるほど、そう言う考えもありますね」

 

これは本心だった。

 

つまりこの議論は――

 

無限ループになる。

 

「そうなるといたちごっこでまた収拾がつかなくなりそうです」

 

月君は笑った。

 

「そうだな……まぁとりあえず父がLだと証明してくれたしこれからは捜査本部を手伝うよ」

 

その言葉に総一郎さんが弱々しく言う。

 

「月……お前は大学生になったばかりじゃないか……」

 

だが月君は首を振る。

 

そして父親を見つめた。

 

「父さんに何かあったら僕がキラを死刑台に送るって!」

 

その言葉は真っ直ぐだった。

 

総一郎さんの目が潤む。

 

(この息子がキラであるはずがない……)

 

そう思うのも当然だろう。

 

しかし私は思う。

 

人間は、最も美しい仮面をかぶることができる。

 

総一郎さんは静かに言った。

 

「キラは悪だ……しかし私は最近こう思うようになっている……悪いのは人を殺せる力だ……そんな力を持った人間は不幸だ」

 

私は床を見つめた。

 

(十分楽しめています……)

 

心の中で呟く。

 

(不幸だなんて思いませんよ)

 

なぜなら私は今、

人生で初めての相手を見つけたのだから。

 

その後、月君と私は病院を出た。

 

そして捜査本部。

 

総一郎さんのいない部屋は、

どこか緊張感が欠けている。

 

松田がいつも以上に騒いでいる。

 

私は椅子に座り、甘い菓子を口に運ぶ。

 

そのときだった。

 

ワタリの声が通信機から聞こえる。

 

「竜崎……」

 

私は顔を上げた。

 

嫌な予感がする。

 

「さくらテレビでキラと名乗る人物からメッセージが届きました」

 

その瞬間、私の思考が加速した。

 

――私ではない……まさか

 

それとも。

 

挑戦者。

 

私はモニターを見つめながら思う。

 

この迷宮は、

さらに複雑になるらしい。

 

そして。

 

月君。

 

あなたはこの事態をどう見るのでしょうか。

 

私は静かに微笑んだ。

 

ゲームはまだ、

始まったばかりなのですから。

 

***

 

――人間の悪意というものは、時に単純な形で現れる。

だが本当に恐ろしい悪意は、偶然のような顔をして現れる。

 

さくらテレビのスタジオに流れるテープの声を、私はじっと見つめていた。

いや、正確に言えば聞いていた。

 

『キラから4日前に4つのテープが送られてきました。なぜキラだと言えるかというと1本目のテープに先日死亡した犯罪者の名前と死亡時刻が記録されておりその通りに死亡したからです』

 

私は画面を凝視していた。

 

(……私は殺していない)

 

つまり。

 

この死は私のものではない。

 

偶然か。

 

それとも――

 

別の存在か。

 

「ワタリ、調べてください」

 

私の声は静かだったが、思考は高速で回転していた。

 

画面の向こうでは二本目のテープが再生される。

 

『では二本目のテープを流します……私はキラです。メインキャスターの○○を6時ちょうどに心臓麻痺で死亡します……』

 

私は即座に言った。

 

「テレビを二台用意してください」

 

ワタリは何も聞かずに動く。

それが彼の良いところだ。

 

数秒後、テレビが二台並んだ。

 

私は視線を動かさない。

 

チャンネルを変える。

 

次の瞬間。

 

メインキャスターが倒れた。

 

スタジオが騒然となる。

 

私は指先を口元に当てた。

 

(確定ですね)

 

これは偶然ではない。

 

キラの力だ。

 

しかし。

 

(私は殺していない)

 

つまり。

 

世界に存在するキラは――

 

一人ではない。

 

『そしてもう一人犠牲になって貰います……』

 

その言葉が流れた瞬間、

宇生田が立ち上がった。

 

「辞めさせないと……」

 

彼は部屋を出ていった。

 

私は止めなかった。

 

止めるべきだったのかもしれない。

 

しかし私は――目を持つ者か見極める必要がある。

 

 

 

さくらテレビの前で宇生田が叫ぶ。

 

「開けろ!!」

 

その瞬間。

 

彼の体が崩れた。

 

私は画面を見つめた。

 

フリーアナウンサーが叫ぶ。

 

「誰かが倒れています!」

 

そこに映っていたのは、

ついさっきまで同じ部屋にいた男だった。

 

私は静かに思考する。

 

(……これが偽キラだと分かっているのは私がキラであるからです)

 

つまり。

 

この現象の意味を理解できるのは、

世界で私だけだ。

 

宇生田は偽名を使っていた。

 

それでも死んだ。

 

つまり。

 

犯人が宇生田を知っていた可能性。

 

――否。

 

私は首を振る。

 

(違います)

 

もしそうなら。

 

捜査本部の全員が死ぬ。

 

しかしそうはならない。

 

重要なのは一つ。

 

(あそこに行ったら死んでしまった)

 

それだけだ。

 

次の瞬間、

護送車が猛スピードでさくらテレビに突っ込んだ。

 

狂気のような男が出てきて、

拳銃を突きつける。

 

テープを回収する。

 

私はそれを見ながら電話を取った。

 

北村次長。

 

「これ以上警察関係者の犠牲を増やさない為です」

 

そう言った。

 

もちろん、それは嘘ではない。

 

しかし。

 

(悪いですが数人ほど犠牲になって貰います)

 

北村次長は、

キラ事件に関わりたくない人間だ。

 

責任を避けるタイプ。

 

つまり。

 

動かない。

 

だが。

 

正義感のある警察官は違う。

 

命令がなくても、

現場に向かう。

 

私はそれを待つ。

 

そして。

 

パトカーが到着した。

 

警察官たちが降りる。

 

一歩。

 

二歩。

 

三歩。

 

そして。

 

倒れる。

 

次々に。

 

まるで糸を切られた人形のように。

 

私は静かに呟いた。

 

(やはり)

 

結論は一つ。

 

第二のキラがいる。

 

しかも。

 

私とは違う。

 

私は名前を知る必要がある。

 

しかし彼、あるいは彼女は――

 

顔だけで殺せる。

 

 

何かを見るだけで成立する条件。

 

私は目を細めた。

 

(想像していなかった訳ではありません)

 

デスノートという存在があるなら。

 

複数の所有者が現れる可能性。

 

それは当然考えていた。

 

だが。

 

(実際に現れると、面白いですね)

 

私は椅子に深く座り込んだ。

 

リュークがリンゴを齧る音が聞こえる。

 

(おそらく私はまだ、デスノートの秘密をすべて知ってはいない)

 

死神は気まぐれだ。

 

人間にすべてを教えるはずがない。

 

つまり。

 

この第二のキラは。

 

まだ知らないルールを持っている。

 

そして。

 

私は思う。

 

夜神月。

 

君ならどうする?

 

もし彼がキラなら。

 

この事態をどう見るだろうか。

 

味方か。

 

敵か。

 

あるいは。

 

利用するのか。

 

私は静かに笑った。

 

迷宮はさらに深くなった。

 

そして私はその迷宮の中心で、

ゆっくりと歩き始める。

 

***

 

――事件というものは、表面だけを見ていては決して姿を現さない。

むしろ重要なのは、その裏側にある「意図」だ。

 

私は受話器を持ったまま、もう一つの電話を耳に当てていた。

 

二つの回線。

二つの思考。

そして二つの現場。

 

夜神総一郎さんの声が向こうから聞こえる。

 

緊張している。

しかし理性は失っていない。

 

さすがだと思う。

 

「では夜神さんは5分後にそのまま外へ出て下さい」

 

私は淡々と告げた。

 

その言葉の裏には、いくつもの計算が含まれている。

 

もし第二のキラが顔を見て殺す能力ならば、

対策は単純だ。

 

顔を見せなければいい。

 

だがそれだけではない。

 

第二のキラが視覚情報以外――

声、姿勢、特徴、あるいは直感的な何かで識別する可能性もある。

 

人間の思い込みは危険だ。

 

だから私は常に、

複数の可能性を同時に走らせる。

 

五分後。

 

総一郎さんが建物の外へ出る。

 

画面越しにその光景を見て、私は小さく頷いた。

 

外には黒いスモークシールドで顔や体を覆い隠した警察官たちが並んでいる。

 

まるで黒い壁だ。

 

人の形をした壁。

 

この状況では、外から内部の人間を特定することはできない。

 

そして案の定、

第二のキラ――

 

いや。

 

弥海砂は。

 

その様子を観察するしかなかった。

 

人を探す目。

焦り。

不満。

 

しかし。

 

何も見えない。

 

それでいい。

 

私は静かにコーヒーを一口飲んだ。

 

甘い。

 

いつものように砂糖を大量に入れている。

 

思考を回すには、

糖分が必要だ。

 

総一郎さんが本部に戻ってきた。

 

捜査本部の空気は、どこか重い。

 

だが私はすぐに動いた。

 

テープ?

 

違う。

 

私は机の上の封筒を手に取った。

 

重要なのは、

声ではない。

 

痕跡だ。

 

封筒を裏返す。

 

そして目を細めた。

 

(……大阪の消印ですか)

 

なるほど。

 

関西。

 

だが。

 

私はすぐにその推理を否定した。

 

(しかし)

 

キラの能力を思い出す。

 

死の前の行動は操れる。

 

つまり。

 

犯人が大阪にいる必要はない。

 

例えばこうだ。

 

大阪にいる人間を操る。

 

郵便を出させる。

 

それだけで、

消印は大阪になる。

 

つまり。

 

この情報は――

 

証拠ではなく、罠かもしれない。

 

「相沢さん」

 

私は封筒を差し出した。

 

「鑑識に回してください」

 

相沢はすぐに動いた。

 

彼は真面目だ。

 

そしてこういう人間ほど、

捜査では貴重だ。

 

そのあと私はテープを再生した。

 

一度。

 

二度。

 

三度。

 

何度も。

 

人間の声というものは、

聞けば聞くほど情報を漏らす。

 

呼吸。

 

間。

 

抑揚。

 

そして感情の揺れ。

 

 

 

日本警察の長官か。

 

それとも。

 

Lの首か。

 

どちらかを差し出せ、と。

 

私は顎に指を当てた。

 

普通の人間なら、

ここで恐怖を感じるだろう。

 

だが私は違う。

 

むしろ。

 

興味が湧く。

 

第二のキラは明らかに幼い。

 

精神が。

 

思考が。

 

計画が。

 

すべてが未熟だ。

 

だが。

 

(能力は強力ですね)

 

もし私の推理が正しければ。

 

第二のキラは。

 

顔だけで殺せる。

 

私の能力よりも

はるかに効率的だ。

 

つまり。

 

 

場合によってはこの存在は最悪の敵になる。

 

 

この第二のキラは。

 

敵なのか。

 

それとも。

 

味方なのか。

 

私はゆっくりと椅子に体を沈めた。

 

甘い菓子を口に入れる。

 

思考は止まらない。

 

迷宮はさらに深くなった。

 

 

第二のキラ。

 

そして。

 

夜神月。

 

私は静かに呟く。

 

「面白くなってきましたね……月君」

 

***

 

――人間というものは、極度の緊張の中に置かれると、かえって滑稽な姿をさらすことがある。

 

次の日。

捜査本部の空気は、どこか重かった。

 

壁に並ぶモニター。

机の上に散らばる資料。

そして沈黙。

 

その沈黙の中心で、私はケーキを食べていた。

 

椅子の上に両足を乗せ、背を丸める。

まるで猫のような姿勢だと、よく言われる。

 

フォークでショートケーキを切り分け、口に運ぶ。

 

甘い。

 

非常に甘い。

 

思考を回すには、この程度の糖分は必要だ。

 

部屋の人間たちは、私の姿をちらちらと見ている。

彼らには、きっと奇妙に映るのだろう。

 

世界一の探偵と呼ばれる男が、

このような姿でケーキを食べているのだから。

 

しかし外見など、どうでもいい。

 

重要なのは、頭の中で何が起きているかだ。

 

総一郎さん――夜神総一郎から聞いた話では、

警察庁長官の首ではなく、Lの首を差し出すことで合意したらしい。

 

つまり。

 

差し出されるのは――

 

私だ。

 

普通の人間なら動揺するところだろう。

 

だが私は苺をフォークで刺しながら、静かに言った。

 

「んー。キラに便乗された者……」

 

苺を口に入れる。

 

そして続けた。

 

「いや、第二のキラに殺されるのは納得はいかないですね」

 

その言葉で、部屋の空気がわずかに揺れた。

 

「第二のキラだと?」

 

「ちゃんと話してくれないか?」

 

相沢さんが身を乗り出す。

 

私はフォークを皿の上に置いた。

 

そしてゆっくりと説明を始める。

 

「まずビデオで殺すと予告殺人した犠牲者について……」

 

私は目を細めた。

 

眠そうに見える目だとよく言われる。

 

しかし実際には、その奥で思考が猛烈な速度で働いている。

 

「この犠牲者は女性週刊誌とワイドショーでしか報道されていませんでした」

 

部屋の人間が顔を見合わせる。

 

多くの人間は、ここでようやく気付く。

 

報道の偏り。

 

私は続ける。

 

「本物のキラならそんなザコでやってみる必要はありません」

 

キラの行動には一定の傾向がある。

 

犯罪者。

社会的影響。

そして裁き。

 

しかし今回の犠牲者は違う。

 

小物だ。

 

あまりにも小さい。

 

「しかし第二のキラ視点では事情が変わります」

 

私は指先を組んだ。

 

「本物のキラが殺す可能性のある犯罪者を予告には使えない」

 

もし使えばどうなるか。

 

本物のキラが先に殺してしまう。

 

そうなれば予告は外れる。

 

つまり。

 

第二のキラは――

 

本物のキラが手を出さない領域を選んでいる。

 

私は静かに結論を言った。

 

「第二のキラである可能性は……70%以上です」

 

部屋がざわつく。

 

だが私はその反応を気にしない。

 

むしろ気になるのは別の点だ。

 

私は少しだけ眉を寄せた。

 

「それともう一つ」

 

フォークでケーキの端を崩す。

 

「本物のキラは一定の基準で殺しています」

 

思想。

信念。

ある種の秩序。

 

だが。

 

「第二のキラは違います」

 

私は小さく息を吐いた。

 

「気まぐれです」

 

その言葉には、わずかな不快感が混じっていた。

 

秩序ある犯罪者よりも、

無秩序な犯罪者の方が厄介だ。

 

そして。

 

私はもう一つの駒を動かす。

 

「だからこそ」

 

私は総一郎さんの方を見た。

 

「夜神月君を捜査本部に呼んでほしい」

 

部屋の空気がまた変わる。

 

夜神月。

 

あの青年の頭脳は、すでに確認済みだ。

 

観察力。

推理力。

そして異様なほどの冷静さ。

 

この事件の中で、

彼は極めて有効な駒になる。

 

だが私は最後に言葉を付け加えた。

 

「ただし」

 

指を立てる。

 

「今回、第二のキラの存在は伏せておいてください」

 

なぜか。

 

理由は単純だ。

 

もし第二のキラが自分の存在を認識されたと知れば、

行動を変える。

 

それでは観察ができない。

 

私は椅子の上で体を丸めた。

 

猫のような姿勢に戻る。

 

そして思う。

 

第二のキラ。

 

未知の能力。

 

そして――

 

夜神月。

 

私はこの三つの点を頭の中で結びながら、静かにケーキを口に運んだ。

 

迷宮は深くなっている。

 

だが私は迷わない。

 

迷宮というものは、

構造を理解した瞬間、ただの地図に変わる。

 

そして私は思う。

 

この奇妙な事件は――

 

一つの実験に似ている。

 

未知の能力。

未知の人間。

未知の動機。

 

それらが同じ舞台に集まった。

 

ならば。

 

観察するしかない。

 

どちらが先に、この迷宮の中心に辿り着くのか。

 

第二のキラか。

 

夜神月君か。

 

それとも。

 

――私か。

Lがデスノートを拾ったらという発想は興味を引くものだったか

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