Lがデスノートを拾った世界~リメイク~   作:梅酒24

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18日目:慧眼見真

――人間の世界というものは、ある瞬間を境に、まるで別の舞台へと姿を変えることがある。

 

その夜、僕は自室でテレビの中継を見ていた。

机の上には参考書が開かれている。大学の講義の予習だ。だが今の僕の視線は、そこには落ちていない。

 

画面の向こうでは、さくらテレビのスタジオが混乱に包まれていた。

 

人が倒れる。

悲鳴が上がる。

アナウンサーの声が震えている。

 

普通の人間なら、ただ恐怖を感じる場面だろう。

 

しかし僕は違った。

 

僕の興味は、倒れた人間ではなく――

その背後にある論理に向いていた。

 

僕は腕を組み、ゆっくりと呟いた。

 

「作り方といい……どこから来たか分からない人間を次々に殺していることといい……」

 

映像を見つめながら、思考を組み立てる。

 

「これは今までのキラとは違う」

 

今までのキラ事件は、ある意味で整然としていた。

犯罪者。

心臓麻痺。

一定の基準。

 

そこには一種の“秩序”があった。

 

しかし今テレビに映っているものは違う。

 

雑だ。

衝動的だ。

そしてどこか、幼い。

 

僕は小さく息を吐いた。

 

「第二のキラ……とでもいうのだろうか」

 

その言葉を口にした瞬間、頭の中でいくつもの仮説が並び始める。

 

まず能力。

 

これは明らかだ。

 

「殺傷能力はキラより高い……」

 

もし今の推理が正しいなら、この人物は

顔を見るだけで殺せる可能性がある。

 

少なくとも、名前を書いたり調べたりする必要はなさそうだ。

 

つまり。

 

今までのキラよりも、はるかに迅速な殺害が可能になる。

 

僕はしばらく黙って画面を見つめていた。

 

普通なら恐ろしい事態だ。

 

しかし僕の中に浮かんだのは、恐怖ではなかった。

 

むしろ――

 

可能性だった。

 

「……しかし」

 

僕は椅子の背にもたれた。

 

「これは逆にチャンスではないだろうか」

 

この事件の中心には、常に一つの存在がいる。

 

L。

 

世界最高の探偵。

 

そしてキラを追い続ける男。

 

もしLが第二のキラと繋がってしまえば――

それは最悪の展開になる。

 

だが。

 

もし違うなら。

 

僕の思考は、ゆっくりと一つの結論に近づいていく。

 

「僕が第二のキラを見つけて……」

 

僕はテレビの画面を見つめた。

 

「どのように殺しているか分かれば……」

 

その瞬間、胸の奥で何かが燃えるように熱くなる。

 

「Lを逮捕できる可能性はある」

 

Lは、今までキラ事件の中心にいた。

 

しかしキラの力の正体は分からない。

 

もし僕がそれを解き明かせば――

 

この事件の構造を、すべて説明できる人間になる。

 

そしてそのとき。

 

Lでさえ、僕の推理から逃げられない。

 

僕はもう一度テープの映像を見直した。

 

編集。

構成。

言葉遣い。

 

すべてが粗い。

 

「テープの作り方やキラからのメッセージの内容といい……」

 

僕は断言した。

 

「本物のキラよりは、はるかに劣る」

 

つまり。

 

この人物は、キラに憧れた模倣者かもしれない。

 

そして模倣者というものは――

 

必ずどこかに隙がある。

 

僕は窓の外を見た。

 

夜の街が広がっている。

 

あの中のどこかに、第二のキラがいる。

 

「僕が見つけ出せる可能性は高い」

 

同時に。

 

警察やLも見つけやすい。

 

つまり。

 

この事件は長く続かない。

 

「これは短期決戦になるな……」

 

僕は静かに結論を出した。

 

「ここはLを監視しつつ第二のキラも追う」

 

そして、そのための最短の場所は――

 

一つしかない。

 

「捜査本部に出入りすることだ」

 

僕はゆっくりとテレビを消した。

 

この事件は、

ただの殺人事件ではない。

 

これは――

 

知能の戦いだ。

 

そして僕は、その戦いに参加する。

 

 

***

 

――人間の思考というものは、時として迷宮のような形をとる。

道は何本もあり、どれもが正しく見える。だがその中で、ただ一本だけが真実へ続いている。

 

その朝、僕は机の前で考え込んでいた。

 

どうやって捜査本部へ入るか。

 

理由が必要だった。

警察の中枢に、ただの大学生が出入りするには、いくら父が刑事とはいえ口実がいる。

 

Lに近づくための。

 

そしてキラ事件の核心に触れるための。

 

――そのとき、電話が鳴った。

 

父からだった。

 

「月、捜査本部に来られるか」

 

一瞬、僕は言葉を失った。

 

(……来た)

 

まるでこちらの思考を読まれていたかのような、あまりに都合のいい展開。

 

いや。

 

違う。

 

これは偶然ではない。

 

Lが呼んだのだ。

 

理由はすぐに説明された。

 

キラが送りつけたというテープ。

 

それを見て、率直な感想を聞きたいという。

 

僕は受話器を置きながら考える。

 

(Lがキラなら……)

 

もしLがキラなら、今起きている現象の意味は当然理解しているはずだ。

 

つまり。

 

自分以外の第三者が人を殺している。

 

第二のキラの存在。

 

それを知っているはずだ。

 

しかし。

 

テープの説明には、その話が一切出ていない。

 

(……なぜだ?)

 

可能性はいくつかある。

 

第二のキラの存在を隠しているのか。

 

それとも。

 

まだ気付いていないのか。

 

僕はすぐに首を振った。

 

(いや……)

 

あのテープの出来は、ひどい。

 

幼稚。

粗雑。

吐き気がするほどの稚拙さ。

 

あのLが見て、気付かないはずがない。

 

ならば。

 

(深く考えずに第二のキラの存在を公言しておくべきだろうな)

 

そう結論を出した。

 

捜査本部に入った瞬間、空気が少し変わった。

 

部屋の中央には大きなテレビ。

 

その前に、一脚の高級な椅子。

 

そして。

 

L。

 

父。

 

数名の警察関係者。

 

(……まぁこの程度の人数だろうと予想はしていたが……)

 

僕はゆっくり部屋を見渡す。

 

大規模な会議ではない。

 

つまり。

 

観察の場。

 

僕は椅子の近くを通りかかった。

 

その瞬間、目に留まった。

 

白いクリーム。

 

ほんのわずかに、椅子の端についている。

 

(……なるほど)

 

ここにLが座っていたのだろう。

 

ケーキを食べながら。

 

僕はその光景を頭の中で想像した。

 

あの奇妙な姿勢で、

猫のように椅子の上に座る男。

 

そしてふと、別の思考が浮かぶ。

 

(それよりも……)

 

なぜ僕をここに呼んだ?

 

Lは僕を疑っている。

 

それは間違いない。

 

ならば。

 

この場に僕を呼ぶ理由は何だ。

 

最悪の可能性。

 

もしここにいる人間が、Lと僕を残して全員死んだら――

 

僕がキラだという構図を作れる。

 

Lが生き残る理由は簡単だ。

 

名前が分からないから。

 

それで説明できる。

 

しかし。

 

僕の反論も簡単だ。

 

僕に罪を着せるために僕だけ殺さなかった。

 

それで済む。

 

僕は小さく息を吐いた。

 

(さすがにそれは可能性が低い)

 

あまりにも雑だ。

 

Lらしくない。

 

Lがゆっくり説明を始めた。

 

さくらテレビに送られたビデオ。

 

その概要。

 

そして。

 

僕に感想を求めた。

 

テレビが再生される。

 

映像が流れる。

 

僕は無言で見ていた。

 

そして数分後。

 

確信した。

 

(……やはり)

 

出来が悪い。

 

それだけではない。

 

キラのイメージとまったく違う。

 

だが。

 

部屋では誰もそれを口にしない。

 

第二のキラという言葉も出ない。

 

僕は眉をひそめた。

 

(……誰も気付いていないのか?)

 

そんなはずはない。

 

この部屋には刑事がいる。

 

Lがいる。

 

それなのに。

 

この沈黙。

 

(……だとしたら滑稽すぎる)

 

僕は立ち上がった。

 

部屋の視線が集まる。

 

「第二のキラについての話が皆無だが」

 

僕ははっきり言った。

 

「この送り主は今までのキラではない可能性が非常に高い」

 

ざわめきが起こる。

 

僕は続けた。

 

「今までのキラなら予告にこんな犯罪者を使わない」

 

そしてもう一つ。

 

「キラの殺しに顔と名前が必要なら、そこに偶然駆けつけた警察官が死んだのはおかしい」

 

部屋が静まり返る。

 

僕はゆっくり結論を言った。

 

「本来は顔だけで殺せるが、先代のキラはそれを隠すために名前も分かる人間だけ殺していた可能性もある」

 

だが。

 

僕は首を振った。

 

「しかしそれよりも……」

 

僕は断言した。

 

「第二のキラは顔だけで殺せると思う方がいいだろう」

 

一瞬の沈黙。

 

そして誰かが言った。

 

「うわ、Lと同じ意見だ」

 

「これで息子の疑いは晴れたか!?」

 

そのとき。

 

Lがゆっくり立ち上がった。

 

猫のように丸まっていた体が、のっそりと伸びる。

 

そして僕の正面に立つ。

 

近い。

 

異様なほど近い。

 

能面のような表情。

 

黒い瞳。

 

僕を見つめている。

 

「その通りです、月君」

 

静かな声。

 

「私も第二のキラだと見ています」

 

僕は微笑んだ。

 

「私も……? つまりLだけはそう思っていたということだな」

 

その瞬間、理解した。

 

「なるほどな」

 

僕は言った。

 

「このやり取りの意味が」

 

Lが言っても説得力は弱い。

 

なぜなら。

 

僕がLを疑っているからだ。

 

だが。

 

僕が同じ推理をした瞬間、説得力は跳ね上がる。

 

(……考えたな)

 

だが。

 

僕はすぐ次の思考に進む。

 

(いや……)

 

もし僕が第二のキラに気付かなかったら。

 

キラなら第二のキラを隠すはずだ。

 

つまり。

 

僕をキラに仕立てる材料になる。

 

そしてもし気付いたなら。

 

Lの推理の信用度が上がる。

 

(どちらに転んでもLにメリットがある)

 

僕は心の中で感心した。

 

(考えてあるな)

 

そのときLが言った。

 

「月君」

 

「ホンモノのキラを演じて欲しいんです」

 

僕は一瞬黙った。

 

なるほど。

 

これが本題か。

 

「キラから呼びかけをすれば第二のキラは従うと思うんです」

 

僕は理解した。

 

僕は駒だ。

 

キラ役の。

 

しかし。

 

悪くない。

 

僕は原稿を書いた。

 

キラになりきって。

 

そしてそれをLが見た。

 

一行、削られている。

 

「殺してもいい」

 

その部分だ。

 

僕は笑った。

 

「ははっ。まぁそれは適当に削除しといて」

 

そう言ってメッセージを流した。

 

テレビに。

 

 

 

 

 

Lは静かに考えていた。

 

(まぁ月君がキラですというテープを作ってるから……)

 

 

(月君が私を疑っても)

 

証拠がなければ意味はない。

 

それよりも。

 

先にやるべきこと。

 

第二のキラの捕獲。

 

僕はテレビ画面を見つめながら思った。

 

L。

 

君の狙いは分かっている。

 

だが。

 

この迷宮の中心にたどり着くのは――

Lがデスノートを拾ったらという発想は興味を引くものだったか

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