Lがデスノートを拾った世界~リメイク~   作:梅酒24

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9日目:鳥銃偽画

僕は机に肘をつき、静かに思考の海へ沈んでいた。

 

夜というものは不思議だ。

昼の喧騒が消えると、人の思考は深い井戸の底へ落ちていく。

窓の外では車の音が遠く流れ、ビルの灯りが静かに瞬いている。

 

その静寂の中で、僕の頭の中には一つの出来事が重く横たわっていた。

 

FBI捜査官、十二人の死。

 

僕はゆっくり目を閉じる。

 

――死んだFBI捜査官は十二人。

そして、その全員が日本に入った仲間の写真入りファイルを持っていた。

 

偶然だろうか。

 

いや。

 

偶然であるはずがない。

 

僕は思考を整理するように、指先で机を軽く叩いた。

 

もしキラが、死の直前の行動を操れるとしたら――

 

十二人全員にファイルを持たせたまま殺すことは可能だ。

 

しかし、そのためには条件がある。

 

まず。

 

十二人全員の顔と名前を知っている必要がある。

 

僕は視線を落とす。

 

もしLがキラではないなら。

 

キラは、最初にファイルを手に入れた捜査官に接触したはずだ。

 

そのファイルを見て、残りの捜査官たちの顔と名前を知る。

 

そして彼らを操り、全員にファイルを持たせたまま殺す。

 

つまり。

 

注目すべきなのは――

 

死んだ順番ではない。

 

ファイルを持った順番だ。

 

しかし。

 

僕の思考はそこで止まらない。

 

もし――

 

Lがキラなら。

 

その瞬間、推理の形はまるで変わる。

 

その場合、Lは最初から十二人の顔と名前を知っている。

 

ならば。

 

ファイルを手にした順番など意味を持たない。

 

むしろ。

 

ファイルを持っていた者たちがブラフになる。

 

僕はゆっくり息を吐いた。

 

――どちらだ。

 

Lか。

 

キラか。

 

あるいは。

 

L=キラなのか。

 

そこまで考えたところで、僕は顔を上げた。

 

今日は家族会議があると聞いている。

 

だが、僕の頭はまだキラ事件の思考から抜け出せずにいた。

 

リビングへ降りると、父さんはすでにテーブルに座っていた。

 

四人掛けのテーブル。

 

父さんは腕を組み、黙ったまま動かない。

 

額にはわずかな皺。

 

普段は威厳のある警察官の顔だが、今日はどこか重い影が落ちている。

 

母さんは静かにお茶を運んできた。

 

四つの湯呑み。

 

僕はその様子を見て思う。

 

――母さんはもう、父さんが何を話すのか知っている。

 

そんな気がした。

 

家族会議といえば、毎年正月に一度ある。

 

だが。

 

まだ新年には三日早い。

 

サユは椅子に座り、にこにこしている。

 

腕を頭の後ろで組みながら、実に気楽そうだ。

 

――もしかして。

 

お年玉でも貰えると思っているのだろうか。

 

もしそうなら、僕のラブライブのレアカードを何枚か譲ってもいい。

 

そう考えて、僕は少しだけ笑いそうになった。

 

その時。

 

父さんがゆっくり口を開いた。

 

「隠しておいても、いずれ分かることだ」

 

父さんの声は低かった。

 

重い。

 

まるで石のように重い。

 

「ここで言っておく」

 

父さんは僕たちを見渡した。

 

「私は今、キラ事件の捜査本部の指揮を執る立場にある」

 

サユはぱっと顔を明るくした。

 

「そうなんだー」

 

腕を組んだまま、にこにこしている。

 

「なんとなく知ってたけど、やっぱすごいねーお父さんって」

 

父さんは首を横に振った。

 

「いや」

 

そして言った。

 

「本題はここからだ」

 

部屋の空気が変わる。

 

父さんは一瞬目を伏せた。

 

「実は昨日……」

 

声が少しだけ低くなる。

 

「キラを見つけ出すために日本に入ったFBI十二人が」

 

「全員亡くなった」

 

サユが目を丸くする。

 

「キラに殺されちゃったのー?」

 

父さんは頷いた。

 

「つまり」

 

「キラを捕まえようとする者は、殺されるかもしれない」

 

父さんの声は少し震えていた。

 

「現に、部下もこの事件から降りていっている」

 

「こんな残虐な犯罪は今までにない」

 

「降りていく部下を……私は止められない」

 

父さんは俯いた。

 

僕はその顔を見た。

 

――父さんは。

 

家族に反対されると思っている。

 

だから。

 

顔を上げられないんだ。

 

その時。

 

サユが身を乗り出した。

 

「お父さんが死んだら嫌だよー!」

 

「やめてよー!」

 

母さんもすぐに言った。

 

「そうよ」

 

「立場とかそんなものより大事なことがあるでしょう」

 

僕は静かに思った。

 

――そうだ。

 

母さん。

 

父さんには。

 

大事なものがある。

 

父さんは顔を上げた。

 

そして言った。

 

「いや」

 

「私は絶対にこの事件から降りない」

 

「悪に屈してはならない」

 

その言葉は、静かだった。

 

だが。

 

揺るがない。

 

僕は言葉を失った。

 

前髪が目にかかる。

 

父さんは本気だ。

 

命を懸ける覚悟だ。

 

その姿を見て――

 

僕の胸の奥に、強い感情が湧き上がった。

 

僕はゆっくり顔を上げた。

 

そして言った。

 

「立派だよ」

 

テーブルに両手を置く。

 

「父さん」

 

「僕は父さんを誇りに思う」

 

父さんが僕を見る。

 

その目は、少しだけ驚いていた。

 

僕は続ける。

 

――そうだ。

 

今考えるべきなのはキラ事件だ。

 

そして。

 

父さんは命を懸けて戦おうとしている。

 

僕の顔は自然と険しくなった。

 

頭の中に浮かぶのは、憎むべき存在。

 

キラ。

 

僕は言った。

 

「父さんにもしものことがあったら……」

 

僕は席を立った。

 

そしてサユの後ろへ回る。

 

静かに。

 

冷静に。

 

僕は言った。

 

「必ず僕が」

 

「キラを死刑台に送る」

 

その言葉は自然に出た。

 

作った言葉じゃない。

 

僕の心の奥から出てきた言葉だ。

 

父さんは何も言わなかった。

 

だが。

 

その顔には、確かな安堵が浮かんでいた。

 

母さんが小さく言う。

 

「ライト……」

 

サユも呟く。

 

「お兄ちゃん……」

 

そしてサユは、少しだけ頬を膨らませた。

 

――お兄ちゃんだけ、うまく話をまとめてずるい。

 

きっとそんなことを言いたかったのだろう。

 

でも。

 

父さんの話はまだ続く。

 

だからサユは、その言葉を飲み込んだのだった。

 

***

 

僕はモニターの前で、ほとんど身動きもせずに座っていた。

 

机の上には冷えたコーヒー。

飲みかけのまま、もう二時間ほど放置されている。

 

視線はずっと同じ映像に固定されていた。

 

――バスジャック事件の映像。

 

もちろん、父のパソコンから手に入れたものだ。

警察庁の内部資料。

普通の人間なら決して見ることのできないデータ。

 

だが、僕にとってハッキングなど特別な行為ではない。

ただの手段にすぎない。

 

僕は再生バーを少し戻した。

 

同じ場面を、何度も、何度も、何度も見ている。

 

研究者というものは、往々にして異常な執着を持つ。

普通の人間が見逃す些細な違和感を、徹底的に掘り下げる。

 

そして今、僕の頭の中にはひとつの疑問が渦巻いていた。

 

――気になる場所がある。

 

映像の中で、犯人が舌打ちをする。

 

「けっ……」

 

男は苛立ったように紙を睨む。

 

「買い物メモかよ」

 

紙をぐしゃりと握り潰す。

 

「くだらねぇ」

 

その目が、乗客を一人一人舐め回すように見ていく。

 

「いいか……」

 

「今度妙な動きをしたら――」

 

そして。

 

その瞬間だった。

 

男の目が止まる。

 

視線が後方へ固定される。

 

瞳孔が開く。

 

僕はそこで一時停止を押した。

 

画面を拡大する。

 

フレーム単位で確認する。

 

――明らかに。

 

――僕たちには見えない何かを見ている。

 

最初は、単純な推測だった。

 

あのバスはパニック状態だった。

犯人は麻薬中毒者。

 

だから。

 

幻覚。

 

それが一番合理的な説明に思えた。

 

だが。

 

僕はもう一度映像を再生する。

 

犯人の目。

 

その瞳孔の開き方。

 

僕は机に肘をついた。

 

――違う。

 

これは麻薬中毒者特有の反応ではない。

 

むしろ。

 

もっと動物的な反応だ。

 

例えば――

 

カラスの目。

 

鳥類は危険を察知すると、瞳孔が瞬間的に大きく開く。

捕食者を見つけたときの反応。

 

つまり。

 

犯人は何かを視認している。

 

「な……」

 

男の声が震える。

 

「なんだてめぇは!!」

 

突然叫ぶ。

 

「そこの一番後ろの奴!!」

 

画面の中でレイ=ペンバーが肩を震わせる。

 

――見られた?

 

彼はコートの内側に拳銃を隠している。

 

撃つべきか。

 

撃たないべきか。

 

その判断をする一瞬。

 

しかし。

 

犯人の指は。

 

レイとは別の方向を指している。

 

「ふざけやがって……!」

 

男は後ずさる。

 

「い……いつからそこにいたァァ!!」

 

僕は映像を止めた。

 

そして後部座席の画面を拡大する。

 

犯人から見て。

 

後頭部の右側にはレイ=ペンバー。

 

左側には。

 

――顔が映っていない人物。

 

座り方は。

 

体育座り。

 

髪はぼさぼさ。

 

それだけ。

 

それ以上の情報は何もない。

 

カメラの角度。

 

乗客の影。

 

座席の死角。

 

すべてが絶妙に重なり。

 

顔だけが映っていない。

 

僕は小さく息を吐いた。

 

――これは偶然か?

 

僕自身も、その人物を一瞬しか見ていない。

 

しかも。

 

バスのカメラには一度も顔が映っていない。

 

それは確率的にどれほどのものだろう。

 

僕はさらに映像を確認する。

 

犯人の視線。

 

それは後部座席の中央に向いている。

 

だが。

 

そこには誰もいない。

 

僕は別の作業に移った。

 

映像の明度を変える。

 

ノイズを除去する。

 

音声を分解する。

 

周波数分析。

 

不可解な音がないか。

 

だが。

 

結果はすべて同じだった。

 

何もない。

 

僕は椅子にもたれた。

 

そして思った。

 

人間は、視覚についてほとんど理解していない。

 

例えば。

 

利き目。

 

片目を隠して文字を見るだけで分かる簡単なものだ。

 

だが。

 

それすら知らない人間が大半だ。

 

僕はさらに思考を進める。

 

色。

 

この世界の色とは何だろう。

 

人間は世界をカラフルだと思っている。

 

しかし。

 

本質的には違う。

 

世界はただ光を反射しているだけだ。

 

犬や猫は白黒の世界を見ていると言われる。

 

それはある意味で正しい。

 

色とは。

 

脳が作る錯覚だ。

 

人間は三種類の錐体細胞。

 

赤、緑、青。

 

その組み合わせで色を認識する。

 

だが。

 

それは決して優れた能力ではない。

 

例えば。

 

トナカイ。

 

カラス(鳥)。

 

亀。

 

これらの生物は。

 

紫外線を見ることができる。

 

紫外線。

 

人間には透明に見える光。

 

だが実際には。

 

紫色だ。

 

ただ。

 

人間の目がそれを認識できないだけだ。

 

つまり。

 

世界には。

 

人間には見えない色が存在する。

 

動物が突然何かに反応する。

 

人間には何も見えない。

 

だが彼らには見えている。

 

それは珍しいことではない。

 

僕は机の横のケージを見た。

 

中で。

 

数匹のカラスが鳴いている。

 

そう。

 

僕はカラスを捕まえてきた。

 

トナカイはさすがに無理だった。

 

亀は反応するか分からない。

 

だから。

 

カラス。

 

実験は簡単だった。

 

問題の映像を再生する。

 

その瞬間。

 

カラスたちは一斉に騒ぎ始めた。

 

カアカアと。

 

まるで。

 

何かを恐れるように。

 

僕は静かに呟いた。

 

つまり。

 

そこには。

 

人間の見えない何かがいた。

 

この現象をキラと結びつけるのは。

 

確かに強引かもしれない。

 

だが。

 

キラの殺しは。

 

すでに合理性の外にある。

 

常識を越えている。

 

だから。

 

もう一つ。

 

思い当たるものがある。

 

囚人が残したメモ。

 

僕はその言葉を思い出す。

 

「えるしっているか」

 

「死神は」

 

「りんごしかたべない」

 

僕はゆっくり呟いた。

 

――死神。

 

もし。

 

あのバスに。

 

死神が乗っていたとしたら。

 

そして。

 

何らかの理由で。

 

犯人を死に導いたとしたら。

 

それは。

 

鳥獣戯画のような荒唐無稽な空想だろうか。

 

僕は首を横に振る。

 

いいや。

 

少なくとも。

 

カラスの実験によって。

 

人間に見えない何かが存在する可能性は示された。

 

それが何なのか。

 

まだ分からない。

 

だが。

 

僕の直感が告げている。

 

この不可解な現象。

 

キラ。

 

死神。

 

それらは。

 

どこかで繋がっている。

月とLどちらに勝って欲しいか

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