トランプメン 〜異世界で道化師プレイをつづけた結果、大変なことになったその男の末路〜   作:山下敬雄

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第57話 道化師vsお兄様

 船の上にまた怒号が飛び交った──。

 

「っく!? 待て待てぷっ殺すなああああ!」

 

 背後から団長の喉元に突きつけられたのは、レイピアの冷たい刃。「ぷっ殺せ」と大号令を発したコットン・シルバー団長であったが、冒険者アキトにすぐに捕らえられてその身を盾や人質にされる始末であった。

 

 周りにいたスーパーコットン団に属する団員たちに、コットン団長は先程の命令の取り消しを叫んだ。

 

 己の身が一番大事。ここで妙な動きを見せて、喉元に這う冷たい刃に裂かれる訳にはいかない。

 

 焦るコットンは、冷や汗をだらだらと垂らしながら必死に両手で団員たちに戦意を抑えるようにジェスチャーをする。

 

「兄貴はシチューに人参を入れると怒るが、俺は人参がない……シチューなんてぇ!」

「毎朝髪のセットをするなら、こんなモヒカンじゃなくてもっと綺麗な黒髪のお嬢様がいい!」

「くっさい靴下毎日洗わせた恨み! おにぃ、覚悟!」

 

 だが、団員たちは団長への積もりに積もった鬱憤を叫びながら、命令で下げていた各々の武器を改めて構えた。

 

 今まで人望があるかに思われた銀髪のカリスマの正体は、団員たちの鬱憤を制御できない裸の王様も同然であった。

 

 突然の部下たちの不満の告白に、コットンは両手を激しく揺らし慌てふためいた。

 

「おい、お友達ども!? 馬鹿言ってないでヤメロっっ止まれええええ!?」

 

 だが、団員たちは制止を聞かず。剣が腕へ、矢が臍へ、槍が横腹に──コットン・シルバーの身を抉り貫いた。

 

「どおじで……ばか……が……がくっ────」

 

 スーパーコットン団のコットン・シルバーは団員たちに恨み節を唱えながら、首をがっくりと力なく下げ、その目を伏せていく。

 

 だが、次の瞬間──大の字に手を広げ甲板の上に倒れていた銀髪の男が、綿埃を散らしながら元気に起き上がった。

 

「ワタタタたたた、なぁんてな! 超絶無敵ィ、コットン・シルバーお兄様だぞ? くたばるのはテメェ一人だ!! ワハハ、ワタたたた」

 

 コットン・シルバーは、たとえ剣や槍でその身を背まで貫かれてもくたばりやしない。とても不思議な【綿】のギフトを用いて、結託した団員たちに焦燥する小者を演じていたその身を躊躇なく貫かせたのであった。

 

 綿を詰めた奇怪な体質とギフトを利用して、人質作戦は無効化。それどころか逆手に取り、敵に深手を負わせただろう。

 

 そう思ったコットンは高笑いした身を、踵で優雅にターンさせ後ろをずばりと指差した。

 

 だが今笑い指を差したそこには誰もいなかった。背後にあった思いもよらぬ結果に瞬きを幾度か意味もなく繰り返したコットンは、突然耳に流れた短い口笛が鳴る方向を見上げた。

 

 するとマストの近くにある見張り台には一人の男がいた。背後からコットンにレイピアを突き立てて脅していたあの黒髪の男だ。

 

 いつの間にそんな所に身を脱していたのか。コットンは食えない相手の行動に訝しげに目を細めた。

 

 すると、黒髪の男は何やら己の臀部をこれ見よがしに叩き出した。

 

 餓鬼の挑発のつもりか、それとも──。

 コットンは謎のジェスチャーをする男を不思議に思い、今度は己の臀部をちらりと覗いた。

 

 尻の左側のそこには何故か突き刺さった一枚の花札があった。そして次の瞬間、それは青い雷光と熱を発し綿の体に火をつけた。

 

「あぁん? なんだこ……わひゃ!? あちゃっ! 熱たァッ!? わツァたたたたた熱ァッいああああ!?」

 

 尻に火がついたことに遅れて気づいたコットンは、甲板上を転がりながらのたうち回った。

 

「アハははははは、キミってとても面白いギフトだねェ。アハははは」

 

「ふざけんなこの三枚目野郎!! 熱っああああ消火だ! 水だ! ぐずぐずせずにいっそげえええコットンお兄様だぞおお熱ぅううう!!」

 

 愉快な男コットン・シルバーとそのお仲間の一幕を特等席の見張り台から見下ろしながら、盗んだ操舵輪を傍に冒険者アキトは手を叩き笑っていた。

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