私は本を読みたいだけです   作:上条@そぉい!

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栞の三枚目

 パチっと目を開ける。目の前に広がるのは、果てしなく続く星雲と綺羅星達だ。ガタンゴトンと音が鳴る。窓ガラスから見える景色は宇宙そのものだった。

 

「今日の夢は列車か」

 

 銀河を泳ぐ鉄道か。メーテルでも居るのかな?随分と浪漫に溢れたシチュエーションだ。この景色を横目に本を読むのも、楽しいだろう。さて、まずは本を探そう。部屋を区切る扉を開けて部屋を覗いてみる。誰かの生活スペースのようだ。写真が壁に幾つも貼られており、どれも楽しそうに人々が笑っている。しかし、本は無さそうだ。次。

 次の部屋は……どうにも殺風景な部屋だ。最低限の家具すらない。どうやって座ったり寝たりするのだろうか?あ、だけど。

 

「ふっふっふ、いいのがあるじゃないか」

 

 近未来らしく、本としての媒体は紙でなくタブレット端末のようだ。だけどそれが本である限り私の手から逃れられるとは思わないことだね。鼻歌混じりに掛けられたロックを解除し、中身を読み込む。

 

「ふむふむ、ちょっと議事録っぽいけど……中身は活動日誌みたいなものだね」

 

 この列車がしてきた経験と、その乗客の歴史を綴る、アーカイブのようなものだ。これを記録した人は随分と真面目だ。客観的に書きながら、自分の意見注釈を細々と書き連ねている。ちょっと行儀が悪いけど、床に直接座って本格的に読むとしよう。

 


 

「おやすみ、丹恒」

「ああ、おやすみなさい。ヴェルトさん」

 

 その日はいつもより夜遅く起きていた。というのも、少々ヴェルトさんとのチェスに夢中になってしまい、気がつけば夜遅い時間となっていたのだ。普段なら構って欲しいと言わんばかりに、なのかか穹が来ていた。だからそこまで遅くなることはなかったのだが……

 

「──」

 

 自室へと戻る道すがら、いつもと違う事に気がつく。廊下に漂う鼻につく匂い。これは、金木犀、だろうか?なのか達ではない。前にも蟲などの侵入者がいた。招かれざる客ならば……

 

「……」

 

 息を潜め、自らの得物に手を掛け、ゆっくりゆっくりと、歩く。音を立てないようゆっくりと。その匂いは、向かっていた自分の自室から強く感じた。

 慎重に扉の取手に手を掛け、一気に開いて中へと入る。

 

「誰だ!」

 

 部屋に入り目に飛び込んできたのは、1人の女性だ。裸足で床に座り込み、腹を抱えて涙すら流しながら笑う女性。

 

「あ、お邪魔してるよ。しっかし面白いねぇこれ。特にこの穹って子。もしかして愉悦でも……あぁダメ、面白すぎて笑っちゃう」

 

 刃を向けているこちらにお構いなしで笑う女性。まずは敵性生物でなかった事に肩の力を抜き、いやしかし、正体不明の人間が密航していた事実に目が鋭くなるのを感じる。しかし、それと同時に自分の内で疼くモヤモヤとした物を感じていた。これは、一体?

 

「お前は、何者だ」

「私?私は──あ、ちょっと待って今いい所だから」

 

 星穹列車のアーカイブから目を離さず彼女はそう言う。涼やかな瞳に、掴みどころのない浮世離れした佇まい。そして、突如現れたとしか思えない状況。丹恒は、宇宙ステーションヘルタでの会話を思い出した。

 

──本当は彼女の事も紹介したかったんだけど、今居ないみたい。

 

「彼女?」

 

──ええ、貴方達も聞いた事ない?読書家の事。

 

──読書家?

 

 話を聞いていた、なのかと穹が首を傾げる。読書家とは、あの読書家の事か。それは個人を指す言葉では無いはずだと。しかし丹恒は違った。その場にヴェルトさんや姫子さんが居たら同じ反応だっただろう。

 

「それは、あの読書家の事だろうか」

「ええ、その読書家よ」

 

 巷で噂になっている人物だ。神出鬼没、何処にでも現れては消える。その目的も一切が不明。しかし、どんな時でも本を読んでいる姿から取って、読書家と呼ばれている存在だ。

曰く、メモキーパーである。

曰く、愉悦の信者である。

曰く、記憶の使令である。

 どれもこれもが信憑性に欠けた噂に過ぎない。

 

「噂ほど過激でも無いのよ?ただ本を読んでるだけだし。でも、もしかしたら天才クラブに声を掛けられるかもしれないわね」

 

 甘く見ても宇宙ステーションヘルタ(うち)でやっていける人材なことは間違いないだろうし、とアスター所長はその所感を漏らしていた。

 

 

「読書家か?」

「あ、そうそうそれ私。はー面白かった。続きはまだ無いの?」

 

 ピノコニーまでしか無いんだけどー、とタブレットから目を離し呟く読書家を前に、敵ではないと判断して武器を下す。

 

「……どうしてここに?」

「どうしてって、変な事聞くね?」

 

 ボクは本ある所なら何処でも行くよ、多分そこが地獄でもね。と冗談めかして言う読書家の姿に、何処かで見た、既視感に襲われる。もしや、と思い尋ねてみる。

 

「お前と何処かで、会った事があるか?」

「ん?」

 

 眉を曲げ、じっとこちらの顔を見る読書家は、要領を得ない様子でうーん、と唸る。

 

「何処かで見たような、見てないような。うーん、ボク人の顔覚えるの苦手なんだよねぇ」

 

 人より本を優先してるから、かなぁ?なんて尋ねてくる。

 

「……何処かにメモでもすれば良いだろう」

「あ!それ!前にも誰かに言われた気がする!でもねぇ、メモ書いても無くしちゃうからねぇ」

 

 と、その時だ。楽しげな笑みを絶やさない彼女の姿が霞のようにブレる。

 

「あ、もう時間切れ?次の夢で会えたら良いね」

 

 バイバーイ、とこちらの聞きたい事が山ほどある中で彼女の姿が消え失せた。その場に残るのは自室に似合わぬ金木犀の香りだけであった。

 

 




読書家
何この面白い本!続き!続きはないの!?へ?噂について?何も知らないし興味ないよ。
人の名前と顔を全然覚えられない人。多分会った端から忘れてるタイプ。色んな人間から向けられる矢印ごと忘れてる罪なやつ。

丹恒
怪しい。噂になるのも納得の怪しさだった。でもやり取りも含めて何処か既視感を感じており、もしやすると前世の記憶が関係しているのかもしれない、と考えている。

天才クラブ所属の機械紳士
読書家ですか?あぁ、あの方ですか。一度討論を交わした事がありますが実に刺激的でした。階差宇宙について意見を求めた事があったのですが、あの人の言葉でいくつかアップデートをした事がありますよ。きっと、ルアン・メェイとも意見が合うのではないでしょうか

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