杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
外務省と防衛省の合同会議室は、重い沈黙と書類の山に埋もれていた。
机の上には、世界各国の著名な科学者・学者たちから届いた嘆願書が積み上がっている。
アメリカのハーバード大学生物学部長、ドイツのマックス・プランク研究所物理学者、フランスのソルボンヌ大学魔法史研究者……。
内容はほぼ同じだった。
「魔法という、中世以降に失われた技能が、なぜ今復活したのかを科学的に調査したい。
他の人間も使えるのか?
魔力という未知のエネルギーはどこから来るのか?
トオルくんの協力があれば、必ず解明できるはずだ」
日本政府は、トオルの性格を知っている。
「みんなの為なら」と、喜んで協力してくれるだろう。
だが、問題はそこではなかった。
防衛省の担当者が、ため息をつきながら言った。
「トオルくんがダンジョンから帰還した直後、一通りの調査は済ませています。
肉体的強度は別として、血液、遺伝子、脳波……何も異常は見つかりませんでした。
それ以上の調査となると……手段が限られてきます」
外務省の官僚が、苦い顔で頷いた。
「普通の検査では、もう何も出ない。
魔力の発生源を突き止めるには、もっと深く……例えば、継続的なモニタリングや、強制的な魔力負荷実験が必要になる。
最悪の場合、生体解剖レベルの調査を検討している研究者もいるようです」
会議室に、重い空気が落ちた。
一人の科学顧問が、声を低くして言った。
「彼らは、トオルくんを『子供』として見ていない節があります。
珍しい実験動物……あるいは、未知のエネルギー源として見ている。
『協力してくれれば』という言葉の裏に、倫理的なラインを越えてもいいという考えが見え隠れしています」
防衛大臣補佐官が、机を軽く叩いた。
「トオルくんは国家の宝だ。
同時に、まだ七歳の子どもだ。
生体解剖など、絶対に許されない。
だが、科学者たちの嘆願を無視すれば、国際的な非難を浴びる可能性もある。
どうする……?」
誰もが答えに詰まった。
トオルが喜んで協力するとわかっていても、それ以上の調査は、少年の心と体をどこまで傷つけるかわからない。
しかも、魔力の正体が解明されたら……それが兵器化される危険性も孕んでいる。
会議は長引き、結論は出なかった。
一方、トオルは基地の食堂で、みんなと一緒にダンジョンサーモンを食べていた。
七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、無邪気に笑う。
「今日も美味しいね!」
胡蝶しのぶが優雅に微笑み、
「ふふ……トオルくんはいつも通りですね。
世界があなたをどう見ているか……知らなくて、幸せですわ」
胡蝶カナエが穏やかに頷き、
「あらあら、知らなくていいのよ。
あなたはただ、優しくしていればいいわ」
トオルは首を傾げた。
「みんな、なんか難しい顔してるね……大丈夫?」
炭治郎が静かに微笑んだ。
「うん、大丈夫だよ。トオルくんは、いつも通りでいてくれ」
トオルはみんなの笑顔を見て、胸が温かくなった。
「うん……僕、みんなの為に、がんばるよ」
基地の外では、秋の風が吹き始めていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り続ける。
科学者たちの嘆願は、トオルの知らないところで、静かに、しかし執拗に膨らみ続けていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、世界の欲望を、静かに受け止め続けていた。
霧の港町は、少年の純粋さと、大人たちの影に包まれながら、輝き続けていた。