杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
見てくれる方がいる限り続くと思います。
岩内自衛隊基地の地下研究棟は、夜通し灯りが消えることがなかった。
老竜――全長六百メートルに迫る巨体の遺体は、巨大な格納庫に横たわり、特殊な冷却装置と魔力抑制フィールドで保存されていた。
鱗は銀と金が混じった輝きを放ち、骨は鋼鉄を超える硬度を持ち、血はすでにメフィスト北海道病院へすべて移送済み。
残された骨と鱗は、生物学者たちにとってまさに「宝の山」だった。
ルザミーネは、白衣を羽織ったまま、老竜の鱗に触れながら、興奮を抑えきれない様子でノートに書き込んでいた。
金髪を優雅にまとめ、紫がかった瞳が異様な輝きを放つ。
彼女は娘のリーリエにさえ気づかれないほど没頭し、時折独り言のように呟く。
「この鱗の層構造……ミスリルと同等、いやそれ以上の耐久性。
表面の微細な魔力結晶が、衝撃を分散しているわ。
これを解析できれば、装甲革命どころか、生物工学の新時代が来る……!」
リーリエは母親の横で、そっと袖を引いた。
金髪をポニーテールにまとめ、青い瞳に心配の色を浮かべる。
「お母様……もう三日も寝てません。
少し休んだ方が……」
ルザミーネは一瞬だけ娘を見たが、すぐに鱗に視線を戻した。
「リーリエ、これは歴史的な瞬間よ。
空想上の生物、神話に登場するドラゴンが、現実にここにいるの。
血はメフィスト病院に持っていかれたけど、骨と鱗だけでも十分……十分すぎるわ!」
彼女はスケッチブックに鱗の断面図を描きながら、興奮を抑えきれずに笑った。
「この骨の密度……人間の骨の数百倍。
なのに、軽い。
これを加工すれば、人工骨や義肢が革命的に進化する。
老竜の骨髄液を分析すれば、再生医療の新薬も……!」
リーリエは小さくため息をつき、母親の肩にそっと手を置いた。
「お母様……トオル様が倒してくれたから、こうして研究できるんです。
少しは休んでくださいね。
でないと、倒れちゃいますよ」
ルザミーネはようやく手を止め、娘の顔を見た。
その瞳に、わずかな優しさが浮かぶ。
「……そうね。
あなたが心配してくれるなら、少し休むわ。
でも、明日の朝からまた……この鱗の魔力結晶構造を、絶対に解明する」
リーリエはほっと息を吐き、母親の手を握った。
「はい……お母様。
私も、一緒に手伝いますから」
格納庫の外では、雪解けの風が吹き始めていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
老竜の骨と鱗は、日夜研究に明け暮れるルザミーネたちによって、少しずつ解明されていった。
その成果は、世界の医療と産業を、静かに変え始めていた。
トオルは、そんな研究のことを知らずに、基地の食堂でみんなと一緒に食事をしていた。
七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気だね……僕、もっと採ってくるよ」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたが倒した竜が、世界を変えてるわ。
でも、あなたはただ優しいだけ。それが、一番すごいことよ』
霧の港町は、少年の優しさと、巨竜の遺産に包まれながら、輝き続けていた。