杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
皇居の奥深い書斎では、昭和天皇が静かに窓の外を見つめていた。
すでに七十九歳を迎えた天皇は、長い治世の中で数々の困難を乗り越えてきたが、今の心の重さはこれまでとは違っていた。
「まだ八歳の子供が……一人で深淵と戦っている」
天皇は低く呟いた。
自衛隊の報告書を何度も読み返し、トオルが150階から生還したこと、毎日怪物と対峙していることを知るたび、胸が痛んだ。
自衛隊ですら30階が限界というのに、あの幼い少年は人類未踏の領域を一人で切り開いている。
どれほど恵まれた才能を持っていようとも、まだ八歳だ。
天皇は側近を呼び、静かに言った。
「政府に相談せよ。何かできないか、と」
その言葉はすぐに宮内庁を通じて内閣に伝えられた。
総理大臣は即座に応じ、特別会議を開いた。
一方、皇室にはすでに献上が届いていた。
ロールアウトしたばかりのミスリル製自動車――皇室専用車。
軽量で衝突に強く、燃費も桁違い。
車体にはトオルと杖くんが幾重にも防御結界を張り巡らせ、何かあれば即座にトオルと杖くんにわかる防犯魔法もエンチャントされていた。
ミスリル刀も一本献上された。
老竜の鱗と肉の一部も、皇室の食卓に供された。
すべては「まずは皇室へ」と、政府と企業が話し合った結果だった。
天皇はミスリル刀を手に取り、静かに目を細めた。
「この刀……トオルが作ったものか。
子供が、これほどのものを……」
皇室の側近が、静かに答えた。
「はい。トオル殿下は、献上する際『陛下のお役に立てれば』と、ただそれだけを言ったそうです」
天皇は刀を鞘に収め、深く息を吐いた。
「彼はまだ八歳だ。
我が国が守るべきは、国民だけではない。あの少年も……守らねばならぬ」
政府は、天皇の言葉を受け、トオル支援特別基金の拡充と、皇室との連携をさらに強化した。
ミスリル車は皇室専用として運用され、老竜の鱗は宮内庁の宝物庫に、肉の一部は天皇の食卓に供された。
トオルは基地で、そんな動きを知らずに、みんなと一緒に食事をしていた。
七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「みんな、元気だね……僕、もっと採ってくるよ」
胡蝶しのぶが微笑みながら、
「ふふ……皇室にも献上されたそうですわ。
トオルくん、あなたはもう日本の宝ですのよ」
胡蝶カナエが穏やかに、
「あらあら、天皇陛下もトオルくんのことを心配してくださってるみたい。
嬉しいわね」
トオルは少し驚いた顔で、
「陛下が……僕のことを?」
煉獄が大きく頷き、
「うむ! お前はもう、日本を守る希望だ。
陛下も、心を痛めておられるぞ!」
トオルは目を丸くした後、静かに微笑んだ。
「僕、もっとがんばるよ。
陛下やみんなが安心できるように……」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……天皇陛下も、あなたのことを想ってくださってるわ。
あなたの優しさが、皇室まで届いてるのよ』
皇居では、天皇が窓の外の庭を見つめながら、静かに祈っていた。
「あの少年が、無事に……」
ミスリル車は皇室の車庫に静かに収められ、刀は宝物庫に、老竜の鱗は大切に保管された。
すべてが、トオルの優しさから生まれた贈り物だった。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、日本という国を、静かに守り続けていた。
霧の港町は、少年の光と、皇室の祈りに包まれながら、輝き続けていた。