杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

111 / 241
杖くんと家族のクリスマス3

佐藤家は雪に覆われた小さな港町の家で、異様な賑わいに包まれていた。

居間は普段の三倍近い人数で埋まっていた。祖父母、父の漁師仲間とその家族たち、近所の顔見知りまでが集まり、ちゃぶ台を何枚も繋げて大宴会。中央には老竜の肉が山盛り、ダンジョンサーモンの刺身、ダンジョンボアの煮込み、あばれうしどりのステーキ、軍隊ガニの甲羅割り……どれもが湯気を立て、部屋中に途方もない香りを漂わせている。

最初に一口食べた瞬間、居間が静まり返った。

誰も言葉を発しない。

箸が止まり、目を見開いたまま固まる者、ゆっくりと咀嚼しながら涙を浮かべる者……。

最初に口を開いたのは、祖母だった。

普段は「最近は肉が重くてねぇ」と控えめにしか食べない彼女が、老竜の薄切りを口に運び、ゆっくりと噛んでから、震える声で言った。

「……こんな、美味しいお肉……生まれて初めてだよ」

祖父もまた、軍隊ガニの身を箸でつまみ、目を閉じて味わう。

「うまい……。こんな味、知らなかった。トオルが採ってきたのか……」

父の漁師仲間の一人、田中さんがビールをぐいっと飲み干し、目を潤ませながら言った。

「クリスマスにこんな美味いもんが食えるなんて……思わなかったよ、健一。

俺ら漁師はいつも魚ばっかりだけど、これは……魚も肉も超えてる。

トオル、ありがとうな」

健一は酒を注ぎながら、静かに頷いた。

「ああ……あいつ、きっと『みんなで食べると美味しいね』って言うだろうな」

みゆきはぬいぐるみを抱きながら、ダンジョンサーモンの刺身を頰張り、目を輝かせた。

「おいしー! お兄ちゃんの魚、すっごく甘い!」

あかりはあばれうしどりのステーキを切り分け、祖父母に取り分ける。

「おじいちゃん、おばあちゃんも食べて。

トオルが頑張って採ってきたんだから」

大人たちはお酒を、子供たちはジュースを手に、トオルの話を始めた。

漁師仲間の子供が、肉を頰張りながら言った。

「お兄ちゃん、基地で毎日こんな美味しいもん食べてるのかな?」

別の子が頷く。

「きっとそうだよ。

新聞に載ってたもん。トオルお兄ちゃんが採ってきた食材、基地の市場で高値で売れてるって」

健一が静かに言った。

「そうだな。

あいつの肉や魚が、町を変えた。

昔は静かな港町だったのに、今じゃレストランがいっぱいできて、外国の人もたくさん来る」

田中さんがビールを飲み干し、感慨深げに言った。

「一度でいいから、基地近くのレストランで食べてみたいよな。

トオルが採ってきた食材を、その場で調理したやつを……」

一同が頷く。

「そうだな」「いつか、みんなでな」

肉は大量にあった。

老竜の五十キロは、切り分けて全員が満足する量を食べても、まだまだ残る。

結局、みんなで持ち帰れるように分け合った。

ラップに包み、クーラーボックスに詰め、漁師仲間たちは「家族にも食わせてやるよ」と笑顔で帰っていった。

祖父母は、老竜の肉を小さな包みに分けてもらいながら、美恵子に言った。

「トオルに……ありがとうって伝えておくれ。

こんな美味しいお正月、久しぶりだよ」

美恵子は涙を拭い、頷いた。

「はい……必ず」

雪の降る夜、佐藤家は静かになった。

残った食材を冷蔵庫にしまい、家族はちゃぶ台を囲んで座る。

健一が、老竜の肉を指さしながら言った。

「トオル……来年は、絶対に一緒に食べよう」

美恵子が頷き、

「うん。

お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、みゆきも……みんなで」

みゆきがぬいぐるみを抱きしめ、

「お兄ちゃん、早く帰ってきてね」

あかりが静かに、

「トオル……おかえりって、待ってるよ」

家族の祈りは、雪に乗って、遠く基地のトオルへ届く。

食堂で、トオルはみんなと一緒に食事を終え、窓から雪を見上げていた。

「お父さん、お母さん、お姉ちゃん、みゆき……クリスマス、楽しんでくれたかな」

杖くんが耳元で優しく囁いた。

『トオルちゃん……きっと、みんな笑顔で食べてるわ。

あなたの贈り物が、家族の心を温かくしてるのよ』

雪の降る岩内は、トオルの優しさと、家族の絆に包まれながら、静かに輝き続けていた。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、遠く離れた家族に、静かにクリスマスの温もりを届け続けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。