杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~   作:redhot

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杖くんと竜の錬金術

基地の地下研究棟は暖房の音だけが静かに響いていた。

メフィスト北海道病院の奥、厳重に施錠された錬金室。

赤い瞳の魔界医師は、白衣ではなく黒いコートを羽織ったまま、トオルの前に立っていた。

テーブルの上には老竜の心臓が、特殊な保存液の中で脈打つように輝いている。

血の一滴すら、ガラス瓶の中で青白く光を放っていた。

メフィストは低く、しかし楽しげに笑った。

「ふふ……ドラゴンという存在は、錬金術から見ても最高の素材だよ、トオルくん。

血からは病魔を消すポーション、高性能回復ポーション、万能薬……どれもが、現代医学の常識を覆す。

内臓からは難病治療薬、癌の進行を抑える薬……そして、心臓に至っては」

彼は心臓の瓶に指を這わせ、赤い瞳を細めた。

「魔術儀式に用いれば、本来呼び出せない上位存在を召喚できるほどの力がある。

あるいは、この心臓を魔力炉心にすれば……大魔法を一瞬で発動させることも可能だろうね」

トオルは瓶を見つめ、静かに頷いた。

「マシュから聞いたことあるよ。

英霊の中に、心臓が竜の魔力炉心になってる人がいるって。

その人は、英霊の中でも上位に入るくらい強い人なんだって」

メフィストの笑みが深くなった。

「ほう……マシュ・キリエライトが話したか。

ああ、彼女の記憶にある英霊……おそらくジークフリートやジークムントのような竜殺しの英雄たちだろう。

彼らの心臓は、竜の魔力炉心を宿している。

だからこそ、あれほどの力を発揮できるんだ」

トオルは心臓をじっと見つめ、ぽつりと呟いた。

「僕……これを、みんなの為に使いたい。

病気を治したり、みんなを助けたり……」

メフィストは満足げに頷き、トオルの肩に手を置いた。

「その心が、君をここまで強くしたんだろうね。

さあ、始めようか。

今日は心臓の魔力炉心としての応用と、血から万能薬を精製する方法を教えるよ」

二人は作業台に向かい、瓶から一滴の血を採取した。

メフィストが指先で血を操りながら、静かに説明する。

「この血は、ただの血液じゃない。

竜の生命力そのものだ。

これを正しく精製すれば、どんな病魔も消し去り、瀕死の傷も瞬時に癒す。

だが、量が少ない。

一滴で、一人の命を救えるかもしれない……だからこそ、慎重に」

トオルは真剣に聞きながら、小さなフラスコに魔力を注ぎ始めた。

「うん……僕、ちゃんと覚えるよ。

みんなが、元気になれるように」

メフィストはくすくすと笑い、トオルの頭を軽く叩いた。

「君は本当に面白い子だ。

他の医師や医学者たちが、どれだけ私に『教えてくれ』とすがってきたことか。

でも、課題を出したら誰も解けなかった。

難解すぎる、と泣き言を言うばかりさ」

トオルは首を傾げた。

「課題……?」

メフィストは楽しげに目を細めた。

「そうだよ。

『老竜の血を、万能薬に変える方法を三日以内に示せ』という課題を出したんだ。

世界中の医者たちが挑んだけど……誰も解けなかった。

ところが、君は昨日、私が何気なく話しただけで、すぐに答えを出したよね」

トオルは少し照れくさそうに笑った。

「えへへ……メフィストさんが教えてくれたから、なんとなくわかっただけだよ」

メフィストは大きく笑い、トオルの肩を抱いた。

「それが凄いんだよ、トオルくん。

君は、私の課題を一瞬で解いてしまった。

世界中の医学者が十年かけても辿り着けない境地を、八歳の君が軽々と超える。

だからこそ……私は、君にすべてを教えたい」

二人は作業を続けた。

血を精製し、臓器のエキスを抽出し、心臓の魔力炉心としての可能性を探る。

部屋は魔力と薬品の匂いで満たされ、静かな興奮に包まれていた。

トオルはフラスコを眺めながら、静かに言った。

「僕……この薬で、みんなが元気になってほしい。

病気の人が、笑顔になれるように」

メフィストは優しく頷き、赤い瞳を細めた。

「その心が、君の錬金術を最も強くするんだよ。

さあ、続けよう。

今日はまだ、まだ始まったばかりだ」

地下研究棟の灯りは、夜通し消えることはなかった。

トオルは、竜の遺産を、ただ「みんなの為に」と精製し続けていた。

人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、命を繋ぐ薬を、静かに作り続けていた。

霧の港町は、少年の錬金術と、世界の希望に包まれながら、輝き続けていた。

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