杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地の地下実験室は、静かな緊張に包まれていた。
雪の降る外の寒さを忘れるほど、室内は魔力の淡い光で温かく照らされていた。
トオルは小さな机に座り、古びた小説を閉じた。
表紙には「安倍晴明と十二天将」というタイトルが、ぼんやりと浮かんでいる。
少年は目を輝かせ、杖くんを握りしめた。
「杖くん……この小説、面白かったよ。
安倍晴明さんが使っていた十二天将……僕も召喚してみたい。
きっと、すごい力でみんなを守ってくれるよね」
杖くん――レディ・アヴァロンは人の姿でトオルの隣に立ち、銀髪を優しく揺らしながら微笑んだ。
いたずらっぽい緑の瞳が、少年の純粋な好奇心を愛おしげに見つめる。
『ふふ、トオルちゃんったら。
小説に夢中ね。
安倍晴明の十二天将……確かに、伝説の式神だわ。
あなたが召喚するなら、きっと素敵な子たちが来るでしょう。
でも、慎重にね。
式神は意志を持つ存在よ』
トオルは頷き、両手を広げた。
掌の中心に青白い光の渦が生まれる。
魔力が奔流となって空間を裂き、十二の光の柱が立ち上がった。
「来て……安倍晴明さんの十二天将!」
光が爆ぜ、十二人の少女が現れた。
皆、年齢はトオルとほぼ同じか、少し上に見える少女たちだった。
白い着物に淡い色の帯を締め、長い髪を優雅に流した者、短い髪で凛々しい者、穏やかな笑みを浮かべる者……それぞれが異なる表情と佇まいを持ちながら、トオルの前に静かに跪いた。
トオルは目を丸くした。
「え……?
僕、十二体の人型の式神を召喚したはずなのに……どうして、みんな普通の少女さんに見えるの?」
少女たちの代表らしい、黒髪を長く伸ばした落ち着いた少女が、優しく微笑みながら答えた。
「トオル様……私たちは、こことは違う並列同位体の地球で、安倍晴明に使役されていた十二天将です。
本来は大人の女性ですが、あなたの年齢に合わせて、この姿で現れました。
あなたの純粋な呼び声が、私たちをこの世界に導いたのです」
他の少女たちも、次々と頭を下げた。
「私は子(ね)の青龍を司る者です。
どうぞ、よろしくお願いします」
「丑(うし)の白虎です。
あなたの守護となります」
「寅(とら)の朱雀……」
十二人の少女は、それぞれに十二支の名を名乗り、トオルを見つめた。
その瞳には、忠誠と優しさが宿っている。
トオルは少し驚きながらも、すぐに笑顔になった。
「みんな……ありがとう。
僕、トオルだよ。
これから、よろしくね。
一緒に、みんなを守ろう」
杖くんが、トオルの肩に手を置き、くすくすと笑った。
『あらあら……可愛い子たちね。
トオルちゃんの純粋な心が、彼女たちを少女の姿に変えたのよ。
きっと、いい仲間になるわ』
基地の外では、雪が静かに降り続いていた。
ガンダムとザクが広場に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
十二天将の少女たちは、トオルの周りに集まり、優しく微笑んだ。
「トオル様……私たちも、あなたの力になります」
トオルはみんなの手を握り、胸がいっぱいになった。
「うん……みんな、ありがとう。
これで、もっと強くなれるね」
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、新たな仲間たちを迎え入れていた。
霧の港町は、少年の優しさと、十二の守護の光に包まれながら、静かに輝き続けていた。