杖くんと七歳の魔法使い ~深淵から帰還した少年は、今日もみんなの笑顔を守る~ 作:redhot
岩内自衛隊基地のトオルの研究室は、静かな光と紙の匂いに満ちていた。
トオルは机に向かい、十二天将の少女たちとソロモンの七十二の魔神たちから教わった膨大な知識を、一冊ずつ丁寧にまとめていた。
杖くんがそっと横に立ち、コッコロがページをめくりながら手伝う。
「これ……みんなに知ってもらったら、幸せになれるかな」
トオルは呟きながら、ペンを走らせる。
十二天将の陰陽術、ソロモンの魔神たちの秘儀……。
どれもが強力で、危険なものも多かった。
だが、トオルは「人が知っても大丈夫な物だけ」を選んだ。
病を癒す術、作物を豊かにする方術、災いを避ける護符の作り方、穏やかな精霊との対話法……。
人を傷つける呪いや、強制的な支配の術は、決して書かなかった。
「これなら……みんなが、少しでも笑顔になれるよね」
完成した本は三冊。
一冊は『陰陽護持録』――十二天将の教えを基にした、守りと癒しの術。
一冊は『魔神の叡智抄』――ソロモンの魔神たちが語った、知識と調和の術。
一冊は『トオルの魔法集成』――トオル自身が応用し、発展させた魔法の総集編。
これら三冊は、日本政府に渡された。
防衛省、外務省、文部省……。
政府は即座にコピーを取り、信頼できる研究機関、大学、医学部、工学部に配布した。
本が届いた研究室では、学者たちが息を飲んだ。
「これは……失われた陰陽道の奥義が、こんな形で……」
「ソロモンの魔神の知識……詐欺だと言っていたものが、こんなに体系的に……」
「トオルくんの魔法集成……これ、理論が完璧すぎる。
中世の錬金術書より、はるかに論理的だ」
「詐欺だと言っていた学者たちが、沈黙せざるを得ない……。
これほどの説得力を持った本は、歴史上、初めてかもしれない」
新しい学科が生まれた。
「ダンジョン学」「異界生物学」「魔力工学」「陰陽応用科学」……。
大学のカリキュラムが変わり、研究室が次々と設立された。
散逸した技術、歴史から消えた知識が、トオルの手によって蘇ったのだ。
東京の大学では、老教授が本を手に震えていた。
「これが……八歳の少年が書いたものか。
私が一生かけて追い求めた術が、こんな形で……」
京都の陰陽道研究者は、涙を浮かべてページをめくった。
「失われた晴明の秘伝……ここにあった。
トオルくん……ありがとう」
トオルは、そんな動きを知らずに、基地の広場でみんなと遊んでいた。
七歳の少年は、杖くんを抱きしめながら、優しく笑う。
「本、みんなに渡せたみたい……よかった」
杖くんが耳元で優しく囁いた。
『トオルちゃん……あなたがまとめた本が、世界を変え始めたわ。
失われた知識が蘇って、みんなが幸せになる……あなたの優しさが、歴史を繋いだのよ』
コッコロがトオルの手を握り、穏やかに言った。
「トオル様……あなたは、本当に素晴らしい方です。
私たちも、誇りに思います」
基地の外では、雪が溶け、春の風が吹き始めていた。
ガンダムとザクが丘の上に立ち、犬型ゴーレムたちが山を守り、エルフの戦士たちが訓練を続ける。
トオルの本は、大学や研究機関で読み継がれ、新しい時代を切り開いていた。
人類史上最大の魔法使いは、七歳の心で、失われた知識を、静かに蘇らせ続けていた。
霧の港町は、少年の図鑑と、世界の新たな学びに包まれながら、輝き続けていた。